表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/191

第16話 暗躍と別れ


 カジノの管理室に男が一人、鼻唄を歌いながら机の下を漁っている。

 ゴソゴソと取り出したのは肖像画、サンジェルマン卿の肖像画だ。

 それを壁に掛けると、満足そうに頷いた。

 

 頷いた男、キューダ・ゲス・ネカジャノ子爵は機嫌が良かった。


 敬愛する、憧れの英雄が、自分を訪ねてきたのだ。

 都市会議などで顔を合わせる事は何度かあったが、自分に会いにわざわざ足を運んでいただけるとは。


 幼いころより聞かされた、英雄譚に登場する生きた伝説。


 亡き父に連れられた食事会で姿を目にし、その涼やかな佇まいに心の臓が締め付けられたのを覚えている。

 父が他の貴族に混じって挨拶に赴いた際、頭を撫でられた。

 この方のようになりたいと、貴族としての目標になった。

 もう40年以上も前の事だ。

 

「肖像画など飾っていては、気味悪がられてしまうやもしれんからな」


「気にし過ぎでは?」


 ガン!


 驚いた拍子に、肖像画に背を打ち付けてしまう。

 ネカジャノ子爵は慌ててずり落ちたそれを立てかけ直す。


「ブヨークン殿か、驚かさんでくれ。なぜ毎回音もなく現れるのだ」


「くっふっふ。感知を逃れる方法を他に知らぬものでして」


 いつものやりとりを経て、子爵は執務椅子にギシリと体重をかけた。


「ブヨークン殿の言っていた通り、サンジェルマン卿は大聖王国の姫を連れてこられましたぞ」


 凹凸のない白い仮面が、愉快そうに震える。


「くっふっふ、それは重畳。して、シソーヌ姫に触れる事は叶いましたかな?」


 握手をしたことを思い出す。


「うむ、問題ない。ただ触れただけであるが、よろしかったか?」


「ええ、ネカジャノ子爵の魔素がシソーヌ姫に移ったでしょう。ワタクシはそれで位置を特定する術を持っております。これで人員を使うことなく、居場所を知ることが出来まする……くっふっふ」


 ネカジャノ子爵はあの時、鋭い視線を向けた護衛の女が頭をよぎる。


「怪しまれてはいないだろうか?」


「問題ありませぬ。サンジェルマン卿の知識の膨大さは恐ろしいものがありまする。しかし知恵を巡らせる方ではありませぬ。永き時を生きる事の弊害ですな、悠揚たる御方ですから……くっふっふ」


 そう言い切るブヨークンの言葉に、胸を撫で下ろす。

 この男が言うならば大丈夫だろう。


「それで、この後の予定を聞かせて頂けるか? ブヨークン殿」


 基本的に、この男の助言・・に沿って動けば問題はない。

 しかし主君である自分が、計画の全容を把握していないのは問題だ。

 サインを書くだけの書類にも、しっかりと目を通す。

 自分は責任感のある、誇りある貴族なのだ。


「シソーヌ姫を攫います」


 ゴン!!


 驚いた拍子で、ヒザを執務机に打ち付けた。


「何故だ!!」


「問題ですかな?」


「大問題であろう! サンジェルマン卿の庇護下にある! しかも大聖王国の姫君なのだぞ! そんな事をすればワシは失脚してしまうではないか!」


 ブヨークンは仮面を震わせる。


「ネカジャノ子爵ではありませぬ。攫うのは原種主義の過激派たちでございます」


 子爵は引き出しから蒸留酒の瓶を出し、そのままあおる。


「続きを聞かせてもらおうか」


「筋書きはこうです。シソーヌ姫の一団を夜襲いたしまする。攫えればそれでよし、失敗しても賊共は大共和国の刺客であることが判明いたします。恐らく魔皇国で大聖王国の姫君が死ねば争いになると、大共和国は企んだのでしょうなぁ。だがそうはいきませぬ。魔皇国の重鎮、サンジェルマン卿の賓客を襲った事実に魔皇国は激怒! 以前から不穏な動きをしている大共和国と魔皇国の衝突が始まる……というわけです。くっふっふ」


 瓶を机にドンと置くネカジャノ子爵。


「なるほど。戦争を起こす、と言っていたな。しかし大共和国の刺客だと信じ込ませる事ができるかどうか」


「くっふっふ。信じ込ませるも何も、事実そうなのですから」


「……どういう事か?」


「大共和国の密偵の一団は、既に過激派が押さえておりまする。伊達に数百年暗躍してはおりませぬぞ。くふふ」


「……恐ろしいな。それで、ワシはどう動く?」


「顔を合わせ、既にネカジャノ子爵とシソーヌ姫は懇意の間柄。他国の麗しい姫君を襲った、不届きな大共和国を打ち滅ぼす正義の軍を指揮するのは……誰でしょうか?」


 愉快さがこみ上げてくる。


 財力はある!

 人脈も増え!

 名誉も手に入れ!

 武力も我が手中に!



 ネカジャノ子爵は、比類なき英雄になる。



「ふぅあっはっは! いいぞいいぞ! あの偉大なるサンジェルマン卿も! ワシを認めて下さるだろう!」


「くっふっふ、何をおっしゃいます。目標は目指す為ではなく、超える為にあるのです。偉大なるネカジャノ子爵……」

 


◇◆◇◆



 俺はベッドの上でまどろんでいた。


 サジーさんの邸宅から《友人の幸せ亭》に戻り、挨拶周りを終えたメイ姫たちと夕飯を食べ、翌朝早くにメイ姫一行を見送って別れを惜しんだ。


 大変だったよ。

 泣くは喚くはで、

 主にシソーヌ姫が。


 若い魔人族の2人はマキマキに、

 中年の魔人族2人はソレガシの旦那とアルセーヌさんに、

 ソマリさんはアグーに、

 メイ姫はアルマにそれぞれ握手していた。


 アグーは握手じゃないね、手を添えられてた。

 あとアルマとメイ姫はなかなか握手を解かなったな。

 仲良くなって良かったね。


 シソーヌ姫とメイ姫はその後に抱き合って泣きわめいていた。

 ゼッタイ会いに行くからねぇぇ!!

 ってなもんだ。


 俺は腕を組んで、微笑ましくみんなの様子を見てたんだけどさ、メイ姫が去り際にコソっと渡してきた物がある。

 

「対の通信魔導具です……必ず連絡いたしますわ」


 とか言いつつ、握手のふりして渡されたそれをスッと腰の袋に入れた。

 いや、違うよ?

 いつ連絡が入るか分かんない電話を、アグーに渡すのも良くないじゃん?

 それで他のみんなに見られたら、またなんか冷たくされるじゃん?

 捨てるのも失礼じゃん?


 しょうがないじゃん?


 でも朝から疲れたなぁ、気疲れした。

 ユウゲンさんがカジノで無理しないように付き合って、なんやかんやで一日が終わった。


 今日を振り返りつつベッドでゴロンとする。

 アグーがスピースピーうるさい。

 あと鼻提灯がデカい。

 ソレガシの旦那は逆に静かすぎる。

 ……死んでないよな?


 まあいいか。

 俺も夢の中に入っちゃおうかな……。


 って時に、ガイアセンサーに見慣れない反応が複数上がってくる。


 お客さんかな?

 敵意があるけど。




さあ戦いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クリックして応援してね↓
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ