第10話 サンジェルマン邸
止まった馬車から降りると、金属の柵に囲まれた邸宅の前だった。
ここがサンジェルマンさんの家なんだろう。
柵の間から見える庭は草花が綺麗に剪定されている。
敷地はまあまあ広いけど、平屋建てでちょっと拍子抜けした。
だってスゲー偉いって話だからどんな豪邸に住んでんのかと思うじゃん。
ザ・貴族って感じかと思ったら周りの建物に比べてだいぶこじんまりとしている。
つーか周りの建物デカイね。
それに街に入ってすぐは賑やかだったけど、この周辺はシンとしてる。
鳥のさえずりくらいしか聞こえない。
不自然だ。
「えらい静かだな」
俺が思ったことを口に出す。
「一等地区は外の音を遮断しておりますので。お忙しい方々が政務に集中できるように配慮されております」
馬車を引いてたおじいちゃんが疑問に答えてくれた。
「へぇ、ありがとう……」
「ありがとうございます。フリードリッヒ殿」
アルマが割ってお礼を言う。
ナイスフォロー。
俺が名前とかスッと覚えらんないのをよく分かってる。
今度アメを買ってやろう。
ガシャンという音に目をやると、門のカンヌキが外れていた。
キィっとひとりでに開く門に戸惑っていると、いつの間にか柵の手前に女性が立っている。
燕尾服を着て、おっとりとした空気をまとった垂れ目の女性。
20代後半くらいかな?
「お待ちしておりました。ここからはわたくし、エカテリーナがご案内いたします」
そう言ってキレイにお辞儀すると、門の先に進んでいく。
アルセーヌさんを先頭に俺たちはエカテリーナさんに付いて歩く。
門をくぐると庭の先に地平線が見えた。
外から見えた庭の先には小川が流れて花畑が広がっている。
魔法ね、ハイハイ。
俺は隣を歩くマキマキにコソっと聞く。
「なあ、あのエカテリーナさんもヴァンパイアってやつなのかな?」
ジロリと横目で見られる。
「……カブラギさん、女の人の名前はすぐ覚えるんですね」
「マキナさん? そうじゃないよ?」
「カブラギ殿お静かに、これから偉大な方にお目通りするのですから。失礼ですよ」
姫さまモードのシソーヌ姫に怒られた。
ぞろぞろと小道を歩き、屋敷に着くとバンと扉が開いて紫の服を着た巻き髪の偉大な方が――
「や、や。待ってたよ。よく来たねぇ、うん。お菓子もあるよ。さ、さ。お上がりなさいな」
――低姿勢で現れた。。
垂れ目で人当たりの良さそうな顔がニコニコ笑う。
青年と中年の間くらいの印象だ。
あと肌がキレイ。
「ご無沙汰しております、サンジェルマン卿。シソーお嬢様をお連れ致しました」
「うん、うん。ご苦労様だったねアル。ご無沙汰なんて言っちゃって、念話でしょっちゅう喋っていたじゃないの」
この人がサンジェルマンさんか。
高級そうな服は着ているけど、偉い人特有の威圧感もないし感じいいね。
エネルギーもガイアセンサーで見る限りほとんどない。
メイ姫の護衛の方が強いくらいだ。
それが不気味っちゃ不気味だな……。
何千年も生きてるヴァンパイアが弱いわけないよな。
じゃあ強さを隠してるって事だ。
理由はなんだ?
敵意はないけど警戒しておくか。
「おー、君がスーパーヒーローかぁ! カッコいいねぇ! 真紅の仮面に白い襟巻きが映えて、上から下まで全部ステキだよ! うん!」
……警戒は必要なさそうだな。
さすが何千年も生きてるだけあって、人を見る目がある。
ガシャンと音を鳴らしてソレガシの旦那が一歩前に出た。
「もしや、仙人殿か?」
「やっぱり! 陳将軍だよねぇ? 懐かしいじゃない! 永安の地で会って以来だね。白帝の鎧でしょソレ? 身体はどうしたんだい?」
「まさかこの地で知己に出会えるとは! 身体は悪神トウコツにくれてやったのだ。今はソレガシと名乗っておる」
「なんだか明るくなったねぇ陳将軍、いや、ソレガシさんか。良い事だよ、うん。ま、ま。みんなこちらへおいでなさいな、テラスでお茶でも飲みながらお話しよう」
そそくさと奥に引っ込むサンジェルマンさんへ付いていく。
邸宅内はカントリーな作りでロココ調の家具が並んでいた。
壁には鏡がかけられ、暖炉にソファ、天井には照明がぶら下がっている。
全面ガラスの先にはオープンテラスが広がって、庭園が一望できた。
促されるままみんなでテラスへ出ると、いくつか置かれた丸テーブルに座る。
庭園には花がたくさん。
バラ、アジサイ、ツバキ、チューリップ……名前は知らないけど見た事ある花もいっぱい。
カキツバタも咲いてるわ。
ん? なんだこの違和感。
「あれ? 時期が違う花が同時に咲いてる」
マキマキの声に納得。
そうだよおかしいじゃん。
「わぁ、気が付いてくれたんだね。そ、そ。大変だったよここまで。魔術のさ、魔素配列をコンマ数ミリで調整してさ、季節の花を集めて庭の色彩を最高の状態にしてあるんだ。自慢の花園だよ。嬉しいなぁ、こだわりに気が付いてもらえてさ」
サンジェルマンさんが自分で椅子を引いて座る。
「みんなも座って座って。ほら」
いくつかのテーブルにおずおずと座る俺たちを見て、サンジェルマンさんは満足そうに頷くと右腕をスッと上げた。各テーブルの中央に丸皿が一つと人数分のカップが音も無く現れる。
サンジェルマンさんがさらに左手を上げると、丸皿にはクッキーと洋菓子がカランと乗り、カップの上に人数分のポットが現れて宙に浮いたままお茶を注いでいく。
「主様、わたくしのお仕事を奪わないでくださいませ」
「うふふ、エカテリーナ。久しぶりのお客さんではしゃいじゃったよ」
いたずらが成功した子供みたいに笑うサンジェルマンさんに、ソレガシの旦那が溜息を出した。
「相変わらずだな、仙人殿」
「いやだよソレガシさん、サジーって呼んでって昔から言ってるじゃない。あ、そうだ。ちょっとごめんなさいね《時間停止》」
サンジェルマンさんが鼻歌交じりに指をクルクルすると、魔人族組の動きが止まった。
まばたきもしてない。
「内緒の話をするからね、マルマリ家の人たちには止まってもらったよ。うん、うん。じゃあ改めて、ミーはサンジェルマン、サジーって気軽に呼んでおくれよ。聖王国第一王女シソーヌ姫さん」




