第9話 望郷の想い
誤字報告ありがとうございます。
とても助かっております。感謝です。
――カブラギくん。もう君の命は君だけのものじゃあないんだ。
――帰って来てよカブラギ兄ちゃん。また面白い話、聞かせてくれよ。
――待ってる人間がいるんだ。必ず生きて帰るんだよ。
「カブラギ起きろー!!」
……なんか乗ってきた。
朝は少し冷える。
布団から出るのは気合がいるよね。
ガイアスーツはバトルモードとかだと外気をシャットアウトしてくれるんだけどさ、ノーマルモードだと普通にタイツ着てんのとそんな変わんないのよ。
「なによぅ……あと20分くらいで起きるって……」
掛け布団に潜る俺に、少女の両拳が振り下ろされる。
「お! き! て! サンジェルマン卿のトコに行くよ! ほ! ら!」
痛ってぇ!
「全力じゃん! 加減って知ってる!?」
ガバッと起きる俺の上にはシソーヌ姫がいる。
「やっと起きた。みんなもう支度してるよ?」
ウソ!?
「なんで!? おいおい早く起こしてよ!」
ソレガシの旦那がガシャンと鎧を動かす。
「あまりにも気持ちが良さそうに寝るものでな」
確かに。季節の変わり目、特に秋口は布団が気持ちいい。
シーツもパリッとしていて心地よかった。
……いい夢も見れたしな。
俺は身体を起こす。
「メイさんたちは?」
「食堂で待ってます、よ」
マキマキが答えるけど、なんか暗いな。
「そっか、支度するから先に降りて待っといてよ」
「早くねー」
シソーヌ姫とアルマ、ソレガシの旦那とアグーが部屋を出る。
……マキマキが残ってるけど。
「どしたマキマキ」
支度するって言っても、布団畳んだりするだけで着替えたりするわけじゃないから別にいいけど。
「カブラギさん、寝言言ってましたよ……小声だったけど」
恥ずかし!
「うそ! なんて言ってた?」
「……マチ子……って」
「……そっか」
俺は腰に小さいカバンを結び、簡単に布団を畳んで大きく伸びをする。
「行こうかマキマキ」
「……はい」
宿から出ると馬車が2台止まってて、昨日馬車を引いてたおじいちゃんが頭を下げて待っていた。
「皆さま。こちらはサンジェルマン卿の使者、フリードリッヒ殿でございます。」
アルセーヌさんがおじいちゃんを紹介してくれた。
「私とフリードリッヒ殿が本日も馬車を引かせていただきます。どうぞお乗りください」
みんなが馬車に乗り込む中で俺はふと、メイ姫を見た。
震えてる。
聖王国組のみんなが乗ったのを確認して、馬車に顔を入れる。
「俺ちょっと向こうに乗るわ」
「「「なんで!?」」」
声を合わせるマキマキ達に両手を合わせる。
「悪い。もうすぐメイ姫さんたちと別れちまうじゃんか? 最後に親睦深めとこうと思って」
「カブラギ殿はメイ姫のような娘が好みなのですか!?」
鬼気迫るアルマに気圧されるが、まぁなだめる。
アルマってこんなテンション高かったっけ?
「おぉ……ちがうちがう。変な意味じゃねえよ? でもあのコらって今が正念場だろ? 緊張してると思ってさ」
それだけ伝えると隣の馬車に乗り込んだ。
現れた俺に、魔人族のみんなが意外そうな顔をする。
「よ!」
「カブラギ様! どうされたんですの?」
「ごめんごめん、ちょっと詰めて……。いや、気分変えようと思ってさ。メイさんちょっと緊張してない?」
「……そう見えましたか?」
「まあそうね。だってサンジェルマンさんって偉いんだろ? 俺も会った事ないけどさ。偉い人に会うって緊張するじゃん?」
メイ姫が力なく笑う。
隣のソマリさんが顔を出した。
「カブラギ様はお気づきでしょうか? 最初の料理店の魔人族はヴァンパイアでした。サンジェルマン卿の所有する店ですから、そういうモノだと我らは考えました。しかし、宿に到着するまでに見た店の軒先に立つ、ほとんどの者がヴァンパイアだったのです。つまり魔防都市メサルテの三等地区は、ほぼサンジェルマン卿の息がかかっているのです。ならば二等地区も一等地区もそうでしょう」
顔を引きつらせて一気に喋る。
「我らがサンジェルマン卿に対して交渉など、分不相応な事を考えているのではないでしょうか? 要らぬ干渉で機嫌を損ねれば領地拡大どころではなく、領地没収もあり得るのではないでしょうか?」
なるほどねぇ。
これから喋る相手の偉さを実感してビビっちまってんのね。
俺はその辺の人がヴァンパイアかどうかなんて分かんね。
ガイアセンサーの反応でエネルギーの強い人が結構いるなぁとは思ったけどさ。
判別方法とかあんのかな?
今聞くのは空気読めねえヤツみたいだから聞かないけど。
触らぬ神に祟りなしって言うもんな。
でもさ、虎穴に入らずんば虎子を得ずって言葉もあるよね。
もう行くって伝わってるみたいだし。
「サンジェルマンさんの協力があった方が上手くいくんだろ?」
「それはそうですわ……。周りの領主の協力も取り付けやすくなりますし」
「こういう事をしようとしてます。利益が出ればお礼をしますので見守って下さいじゃダメなのか?」
「そんな単純な……」
俺は頭を捻って思ったことを伝える。
「いや、まあ不安だろうけどさ。最初の予定にないダメで元々の話なんだし、今回は顔合わせるだけで良いんだよ。今回は、だけど。全く知らねぇ相手には何もしようとは思わねえけどさ、喋った事ある相手ってだけでちょっと親近感が沸くもんだろ?」
メイ姫がふうっと息を吐いて、胸元のネックレスをギュッと握る。
「そうですわね。楽観的な考えは禁物ですが、言葉を交わすだけでもゼロよりはマシですわね。せめて悪い印象を持たれないように気を配りましょう」
吹っ切れたかな?
「悪い人じゃねえって聞いてるしさ、肩のチカラ抜いて行こうや。なんかあったらまぁ、頼ってくれていいよ」
頭でも何でも下げるさ。
代わりの雑用でも引き受けるし。
「カブラギ様……」
「ソマリさんも自信もって、今のソマリさんなら慎重にやれるだろ?」
過激派の連中の件でヘタ打ったけどさ、失敗は人を成長させるってアグーも言ってたもんな。
「みんなも頼りにしてるだろ?」
魔人族のみんなが強く頷く。
付き合いは短いけど、ここ数日の魔人族組を見てるとなんとなく分かるよ。
他の面子は従者兼、護衛だ。
交渉事はソマリさんが引き受けてる。
酒の席を見てる限り信頼関係もありそうだ。
「お任せください。マルマリ子爵家は私がお守りします」
メガネの奥の瞳は揺れずに俺を見る。
ふいにメイ姫が俺の手を握った。
「頼ってくれというのは……つまりプロポーズでしょうか!?」
「違うよ?」




