第8話 再会
一時間過ぎたくらいかな?
料理も食べ終わり、会話も一区切りという辺りで個室の扉がノックされた。
入ってきたのは最初に案内してくれた紳士さん。
お迎えの方がお見えですってさ、アルセーヌさんだな。
ソマリさんとアルマがチップを渡し、俺たちはお礼を伝えて個室を出る。
アグーは人の残した分も食べたから動けないらしく、シソーヌ姫に抱えてもらってた。
店を出たとこで「サンジェルマン卿へもよろしくお伝えくださいませ」って言われた。
さすが偉いだけあって顔が広いね。
通りには車輪付きの二頭馬車が2台止めてある。
その前にはアルセーヌさんが。
「馬車を手配いたしました。マルマリ子爵家の皆さまもどうぞご利用ください」
「感謝いたしますわアルセーヌ様。ではお言葉に甘えて」
俺たちが乗る馬車はアルセーヌさんが手綱を引き、魔人族組の方は燕尾服を着たおじいちゃんが馬を引く。
乗り込んだ馬車の中は外から見たよりも広かった。
魔法ね。
ソレガシの旦那がデカいから大丈夫かなって思ったけど、これなら安心。
「いやぁ! 美味かったな!」
「そうですね。太っちゃう……。あれ? お金払いました?」
「断られました。サンジェルマン卿の所有する店だそうです」
「へー! お金持ちなんだねぇ! 初めて見る料理ばっかりで美味しかったー! 魔王との戦争も終わったし、ガドニア侯国も平和になったし。聖王国でも食べられるようになるかな!?」
「姫! 引っ張らないで! 引っ張らないで!」
「あの壁飾りも美しかったな。音楽も。またゆるりと聞きたいものだ」
ガラガラと進む馬車に揺られて雑談する。
聞こえてくる賑やかな街の声。
栄えてるねぇ。
しばらくすると馬車が止まった。
扉が開く。
「宿に到着いたしました」
アルセーヌさんから声をかけられて、お礼を言いながら降りた。
目の前には木造二階建ての建物がある。
《友人の幸せ亭》と書かれた看板がぶら下がってた。
高級感はないね。意外と庶民派な宿だな。
「意外と庶民派な宿だな」
「カブラギさんすぐ口に出す……失礼でしょ、アルセーヌさんが取ってくれたのに」
声に出てた!
「いやいや! 嫌いじゃねえよ? むしろ安心する」
「お気になさらず。こう見えて湯にも浸かれますし、料理の腕も一級の店でございます。ご安心ください」
俺の失言にもにこやかに答えるアルセーヌさん。
好き。
「わたしこういう所好きよ? 店主さんに挨拶して部屋に行こうよ」
アグーを抱えてわしゃわしゃしながらシソーヌ姫が先に入っていき、俺たちもそれに続く。
店内は入ってすぐに受付があり、その後ろに二階への折れ階段が延びている。
受付の横は食堂みたいだ。
厨房への入り口も見える。
ごちゃごちゃしてなくていいね。
「いらっしゃい! アルさんのお連れさんだね? よく来たねぇ!」
ガタイのいい女将さんがエプロンで手を拭きながら出迎えてくれた。
「旦那は仕入れに出てるから手が足りなくてね、悪いけど荷物は自分たちで運んでもらえるかい?」
フレンドリーな女将さんだね。
俺たちの荷物はアグーに全部預けてるし、メイ姫たちも魔法カバンを持ってるから身軽だし、問題ない。
貴族って特別扱いされるモンだと思ってたけどそうでもないのね。
挨拶を済ませて丸い石を受け取る。
これが鍵になっていて、扉にかざすと開くんだって。
初めて見るタイプ。
さすがは魔術先進国だ。
二階に上がろうと階段に向かうと、上から誰か降りてきた。
「あれ? カブラギさんですか?」
名前を呼ばれて顔を上げると、辛子色の服をきた人がいた。
あれ?
「ユウゲンさんだよな?」
「ユウゲンさんですよね?」
「ユウゲン殿ぢゃな」
ユウゲンさんだ。
聖王国で異界人の情報を教えてくれた商人さん。
「こんなトコで会えるなんて! 奇遇ですね!」
「こんなトコで悪かったね!」
ガハハと笑いながら女将さんがチャチャを入れる。
「ヤダな、言葉の綾ですよ」
「わかってるよ!」
そんで笑いながら厨房へ引っ込んでいった。
「みなさんどうしたんですか? ゼギアス大皇国にどんな御用事で?」
ユウゲンさんの質問に答えあぐねる。
聖王様が石になったのを治すため、とは言えない。
内緒だから。
「えっと……」
「お初にお目にかかります。彼らに護衛をお願いしている商会のシソーと申します」
「あ、これはご丁寧に……え? 貴女が?」
子供のシソーヌ姫に意表を突かれたみたいだ。
「サンジェルマン卿ならば彼らを元の世界へ返す手立てを知るのではないかと、尋ねに伺った次第です。それをもって報酬にしようかと考えておりまして」
「あー……なるほど。そうですね、サンジェルマンさんは物知りですからね」
ん? 面識があるような言い方。
「ツテはありますか? 自分で良ければ話を持っていきますが」
面識あるのね。
「お気遣いありがとうございます。ですが明日に約束は頂いておりますので」
ニコリとシソーヌ姫が丁重に返答する。
このコは外面いいね……。
「そうでしたか。ではご希望が叶う事を祈っております。申し遅れました、私こういうモノです」
ユウゲンさんがシソーヌ姫に何か差し出してきた。
名刺だ。
名刺なんかこの世界にもあるのね。
「これはご丁寧に。変わったご挨拶ですね、小さなお手紙ですか」
「名前を覚えて頂く工夫です。以後お見知りおきを」
シソーヌ姫の手元を覗き込むと《有限会社ユウゲン 代表取締役ユウゲン》と書いてある。
話の流れだと名刺はユウゲンさんの発明か。
どの世界でもアイディアは似通るものなのかな?
「では私は失礼いたします。カブラギさん、海崎さん、アグーさん。異界人の情報がありましたら大聖王国王城へ連絡いたしますね」
「ああ、助かるよ。でもちょっと待って、ユウゲンさんまだ宿に戻ってくる?」
「ええまぁ……」
「明日サンジェルマンさんのトコから戻ったら一緒にメシでも食べようよ。せっかく再会できたんだし、奢るよ」
「そんな悪いですよ……ふふ、そうですね。この広い大陸でまた会えたことも何かの縁ですね。では明日またここで」
「よっしゃ」




