第2話 突然の救出劇
アルセーヌさんが手綱を握ったまま、荷台を振り返る。
「いかがされますか? 面倒事かもしれませんが」
あまり目立たないようにって旅の決まり事がある。
俺たちが目立ちやすい討伐の依頼なんか受けてるのは小銭稼ぎとマキマキのエネルギー補充の意味もあるけど、一番の理由はサンジェルマンさんからのお願いである【魔物の間引き】だ。
戦闘派の冒険者や傭兵なんかは仕事が多い大陸東部へ移動してるそうだから、西部は人に害を成す魔物が増えやすくなってる。
それらをゼギアス大皇国へ着くまでに、なるべく《サンジェルマン》の名前で討伐してこいって言われてんだ。
ついでに恩を売って回ろうって魂胆らしい。
ちゃっかりしてるんだね、サンジェルマンさんって。
俺たちが旅のリーダー、シソーヌ姫の顔色を窺う。
「異界の英雄がこんだけ揃ってるのよ。正義は我らにアリ!」
姫さまが拳を突き上げる。
「みんなやっちゃえ!」
「「「「おー!」」」」
俺とマキマキ、アルマとソレガシの旦那が手を上げて応じる。
俺たちを召喚したのがこのコで良かった。
「しょうがないのう、しかし襲ってる方が悪人とは限らんからの。しっかり見極めて、なるべく無力化するだけにするんぢゃぞ」
アグーの言葉にみんな頷く。
それができるのが俺たちだ。
アルセーヌさんがニコリと笑う。
「では南西に約1キロの地点です。少々急ぎますので皆さまお気をつけ下さい」
手綱をピシリと鳴らすと馬車が走り出す。
馬が駆けてスピードを出すと、少しして街道から離れた平原の中に小高い丘が見えてきた。
ガイアセンサーで確認すると、倒れた二台の馬車の周りで複数人が戦っている。
円陣で追い詰めているのが大勢の爬虫類っぽい人間たち。
追い詰められているのが少数の頭に角の生えた人間たち。
もう何人か怪我人が出てるみたいだ。
「囲んでいるのはリザードマンですね。先ずは声をかけてみましょう」
アルセーヌさんがそう言うと、魔力を乗せた声で集団に叫ぶ。
「待たれよ! 待たれよ! 各々方!」
こちらに気が付いたリザードマンたちが手をこちらにかざし、氷の刃を飛ばしてくる。
アルセーヌさんはベルトをシュルリと抜くと、それを振り回して全て叩き落とした。
「聞く耳を持たれないようですね」
手綱を引いて馬車を止める。
馬車からシソーヌ姫とアルマを除いた4人で飛び出した。
「呼ばれなくても現れる! 救世戦士アスガイアー推参!」
「義を見てせざるは勇無きなり! ソレガシ見参!」
「魔法少女ジュエリール……、これやんなきゃダメですかぁ……」
「ノリが悪いぞいマキマキ」
俺たちがポーズをキメると、リザードマンの一人が声を荒げる。
「邪魔立てするなら容赦せぬぞ! かかれ!」
20人くらいのうち、8人が三又の槍を構えて襲ってくる。
俺は突き出された穂先を掴んで両手で握り、相手を一回転させてもう一人目掛けて投げつけた。
マキマキは蒼の弓にサファイアローを三本番えると、一度に放って三人痺れさせた。
ソレガシの旦那は向かってきた二人の突きを鎧で弾くと、そのままジャンピングダブルラリアットした。
アグーは向かってきた最後の一人から上空に逃げて、ベロベロバーした。
アグーに槍を振り回すリザードマンはマキマキの矢に沈む。
「ぬぅ! 手練れか! アレをやるぞ!」
「「ハッ!」」
リザードマンの三人が杖を振ると、それぞれからうねった水が上がる。
「三重水渦!!」
うねった水が混ざり、渦を巻いて襲い掛かってきた。
甘いぜ。
「アスガイぁタイフーンストームぅ!!」
渦は弾き飛ばされて、そのまま俺の竜巻に三人のリザードマンが吹っ飛ぶ。
狼狽えている残りのリザードマンに、マキマキが光の矢を当てていく。
慌てた残りの二人が角の生えた人たち、そのうちの女の子に襲い掛かった。
ヤバイ。
ドン!!
俺は女の子に突き出された槍を掴む。
我ながらいいダッシュだ。
「女に乱暴なのは良くないぜ」
腹を打って昏倒させた。
ガイアコアがキィンと鳴る。
もう立っているリザードマンはいない。
「大丈夫か?」
俺が角の生えた女の子に声をかける。
「……ステキ」
呟くその子の横から、メガネの若い男が割って入る。
「危ないところをありがとう存じます! 冒険者の方々でしょうか!?」
「ああ……、いや、そこのお嬢さんの護衛ですよ」
商会のお嬢さんの護衛って事になってるからな。
意気揚々と、お嬢さん役のシソーヌ姫が馬車に乗って丘へ来る。
「ご無事でなによりですわ。アルセーヌ、倒れている方々に回復薬を。アルマは賊の捕縛をお願い」
アルセーヌさんが倒れている角の生えた人達へ回復薬を飲ませる。
ソレガシの旦那がリザードマンたちを一か所にまとめて、アルマが後ろ手で縛っていく。
「貴女方は魔人族ですね? 相対していた彼らとの関係は?」
シソーヌ姫の質問にメガネさんが答える。
「このリザードマンたちは原種主義の過激派です。案内役を冒険者組合へ依頼したのですが、紹介されたのが彼らでした。私たちの旅の目的を聞きつけて始末しようと罠に嵌めてきたのです」
原種主義? なんか聞いたな。
「原種主義? なんか聞いたな」
「アベイル隊長が言っておったろ? 種族は種族で纏まって自分たちの領域から出ず、文化的交流をなるべくしないように生活するという考えの者達ぢゃと」
そうだっけ? あんま覚えてねぇな。
「そうだったな。よく覚えてる」
キリッと答える。
「……嘘だよマキマキ、カブラギ嘘ついてる」
「うん、声で分かるよね」
なんかシソーヌ姫とマキマキがコソコソ喋ってるけど無視だ。
「その原種主義がなんでアンタらを襲うんだ?」
「そうぢゃな。大陸では種族同士の確執は少ないと聞いておったが、過激派とは?」
魔人族のメガネさんが一歩前に出る。
「大陸東部ではあまり知られていないようですね。原種主義の方々は他種族との交流を好みませんが、作物の貿易など最低限のやり取りはあります。決して敵対しているわけではないのです」
メガネさんが眼鏡を上げる。
「しかし過激派と呼ばれる者たちは他種族と交流するなど許されない。そういった不届きものは滅ぼすべしという考えの集団です。《自分たちがそうだから他の者もそうするべき、力づくでもそうさせる》という偏った思想を持っているのです」
へー。
色んな人がいるもんだ。
それで悪い事したわけでもないのに殺されちゃかなわねぇな。
いや、過激派にとっちゃ悪い事してるって事になるのか?
……こういう難しい思想やら主義やらの話はニガテだなぁ。
「貴女方の旅の目的が襲撃の理由と言っていましたね。詳しく伺っても差し支えないでしょうか?」
シソーヌ姫の言葉にメガネさんが片膝をついて顔を伏せる。
「それをアナタ方が望むならば。先ずはご同道をお願いしても宜しいでしょうか? コチラはゼギアス大皇国、マルマリ子爵が公女メインクーン・アメト・マルマリ様です。恩人の方々へ感謝の意を示さねばなりませんゆえ……」




