アスガイアーの⑥
「ハルイチのアニキ! 無事でいてくれよ!」
ハイエナ男が首都高速を駆ける。
「ダイコガネは補給中! ガイアスクランブラーも故障中! ハル兄はいつも一人で無茶するんだから!」
ガイアシューターを片手に携えてハイエナ男の背中に乗るのは、ハンチング帽を手で押さえた桜井マチ子だ。
「お出ましだぜマチ子!!」
「がってん!!」
前方には道路を封鎖している、鉄仮面の一団が。
最前列はプレーリードッグ男だ。
ガイアシューターを両手で構え、ピュン! ピュン! と放たれたレーザー光線が、プレーリードッグ男の両ひざを貫く。
駆け抜けるハイエナ男はすれ違いざまに、狼狽える有象無象を切り裂いた。
「仕方ねぇんだマチ子。こないだアニキと相打ちした、終世騎士ダルダムダークはアニキの兄ちゃんだったんだ。そんで三大幹部ヒキョーン大参謀も、アニキの父ちゃんだって言うじゃねえか」
「なんだって!? ホントかいハイエナ!」
「正確には! 二人の脳みそ使った怪人だってよ! 許せねえ! 許せねえよなアニキ!! だから! 一人で決着つける気なんだ!!」
「ハル兄……」
黄昏の中、2人が向かう超高層の電波塔が、燃える街に照らされていた。
◇◆◇◆
救世戦士アスガイアー。
ハルイチは、燃える瓦礫の中でマフラーを揺らし、腕を組む。
瓦礫の中から、怪人ハクビシン男が牙を剥いて飛び掛かってくる。
事も無げに、裏拳で殴り飛ばす。
それを合図に、ヤモリ男が、フラミンゴ男が、イノシシ男が、アリクイ男が、ハト男が、カミキリムシ男が、マンドリル男が一斉に強襲する。
ハルイチは右拳で殴り、左手刀で弾き、右つま先で蹴り上げ、右かかとで叩き落とし、左回し蹴りで砕き、返す右手で投げ飛ばし、左掌底で貫いた。
「過ぎたる悪に! 明日を生きる資格なし!」
返り血を怒りで蒸発させて、倒すべき《敵》に踏み出す。
「ヌハハ! 強い! 強くなったなハルイチ! 父さんは! ウレシイ!!」
複雑に曲がる突起を幾つも伸ばした鉄仮面。
ワザとらしい黒いマントに、髑髏をかたどった強靭な鎧。
三大幹部、ヒキョーン大参謀が両手を掲げる。
「……だぁぁぁまあぁぁれえええええ!!!!」
憤怒の、悪を憎むヒーローエネルギーが、ガイアスーツを禍々しく変形させた。
巻き起こる激風にマフラーは逆立つ。
瓦礫は吹き飛び、周囲の火災は鎮火した。
「その声で喋るな……その声で笑うな!!」
両拳を燃え上がらせ、歩を進める。
「お前は父さんじゃない。脳みそがそうだとしても、父さんじゃない。父さんは……」
胸を叩く。
「ここにいる!!!!」
「……父さんカナシイ」
ドン!!!!
ハルイチは大地を蹴り、拳を振り上げる。
だが、地面が割れて飛び出した巨大なアゴに飲み込まれた。
改造ワニ男だ。
「イェッヒヒヒ! ざまあみろアスガイアァ! このままスナック感覚で美味しくいただいてやるぅあ!!」
すぐさま改造ワニ男の体表は沸騰し、悲鳴を上げる暇もなく爆散する。
血しぶきの向こうでヒキョーン大参謀が、人間を羽交い絞めにして、刃物を突き付けていた。
平凡な男は涙を浮かべ、恐怖に顔を引き付けさせている。
「……助けて」
ハルイチは両腕をダランと垂らす。
それを見て、ヒキョーン大参謀の、鉄仮面から覗く口元がニヤリと歪んだ。
刹那、ヒキョーン大参謀は背中で建造物を幾つも砕き、瓦礫に埋まる。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
拳を突き出したハルイチに、男は泣きながら感謝する。
飛んで行ったヒキョーン大参謀を警戒するハルイチは、腹部に熱を感じ、視線を落とす。
鋭利な爪が、腹を貫通していた。
人質の男は、改造ハヤブサ男に姿を変えていた。
「ウァッハハハ! 流石ヒィロォオ! カァッコいい! でも長生きは出来――」
改造ハヤブサ男の頭部はもう無かった。
ハルイチの拳がまた、血に染まる。
「出来ないしするつもりもない」
何事もないように進む。
腹から血がトポトポと流れるが、燃える拳で傷口をジュウと焼く。
「ケリつけようぜ! ヒキョーン大参謀!!」
積まれた瓦礫が盛り上がり、無骨なガラクタが幾つも重なった巨大ロボが姿を現した。
拡声器で割れた声が響く。
『ヌハハハハァ! ハァァルゥゥゥイィィチィィィ!!』
ガシャン! ガシャン! と距離が縮まる。
『ワシのムスコォ! ワシのダイジなムゥスコォ! アイシテイルぅぅ! トウサンのぉぉ……ガンバリをぉぉ……見てクレぇぇ!!!!』
ガシャンガシャンガシャンガシャン
「……さよなら父さん」
あの時言えなかった言葉。
振りぬく拳。
ハルイチの、全力必殺。
コレ・デラスト・ナックル。
一拍の時を置いて、粉々に砕ける巨大ロボ。
舞うガラクタの一つ一つが、カッと光る。
爆発に次ぐ爆発。
ハルイチの姿は霞み、一帯はキノコ雲に飲まれた。
「アニキぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
爆風に逆らい、襲う瓦礫を払いのけてハイエナ男が叫ぶ。
遅かった。
空気が荒れ狂い、やがて、風が凪いだ。
ゆっくりと、ハイエナ男とマチ子がソレに近づく。
両足はひしゃげ、左手が千切れている。
片目に尖った瓦礫が突き刺さる、煤けた生身の男。
「なんで……なんでだよ。アニキが死んだら! 誰が戦うんだよ!!」
膝をつくハイエナ男に、瀕死のハルイチが掠れた声を出す。
「おまえが……いるじゃねえか……」
ハイエナ男は、ハッと目を見開く。
「今なら……タチバナのおやっさんが、救世戦士なんて名付けた意味が分かる……。俺は、俺の為にしか……戦ってなかった。そうならないように、しなけりゃいけなかった……」
ぐぐっとハルイチは顔を、ハイエナ男に向ける。
「お前なら……やれる。守るスーパーヒーローに、なれる。ガイアコア……受けとってくれ……」
ハルイチが意識を失う。
ハイエナ男は両手で、すくい上げるように、ハルイチからガイアコアを取り外した。
瓦礫の山を押しのけて、自衛隊の警務車と1トン半救急車が複数台到着する。
「ちくしょう! 遅いじゃないかぁ!」
ボロボロと涙を流して叫ぶマチ子に、ハイエナ男がハルイチを覆いかぶせる。
「マチ子。アニキを頼む」
ハルイチを背負わせて、向き直る。
その先には、ダルダム団の怪人たちと、三大幹部アクラツ将軍が。
「……ハイエナ。死ぬんじゃないよ」
マチ子の言葉に、ハイエナ男――いや、
二代目救世戦士アスガイアーが背中で答える。
「俺はもうハイエナじゃねえ……」
ガイアコアを腰に当てると、フゥオンという音を上げてガイアスーツに身を包んだ。
「救世戦士アスガイアー!! 鏑木恭司だ!!!!」




