第42話 事の真相、悪意の根源
場が静まり返り、やがて侯国軍の方からざわめきが聞こえてきた。
チョーロクがふわりと宙に浮き、候王とボーニア伯爵の位置まで下がる。
すると、候王が一人、馬にまたがったまま近づいてきた。
「シュクシ殿。ここまで事を起こして、退けと申すか」
白騎士のおっさんが前に出る。
「ご覧になられたであろう。この壁は厚い、抜けぬ。無理を通すは不可能」
おっさんが俺とマキナを見て、さらに後ろに目をやる。
足音を立てながらアベイル隊長が歩いてきた。
「父上。引いては下さいませんか。まだ軍の衝突は起きていない、和解の道は、閉ざされておりません」
俺とマキマキは話の流れを見守る。
「国に安寧を、民を飢えさせぬ政治をと、おっしゃっていたではありませんか。聖王様は名君です。争う理由はないはず。あったとしても、そこに正義はありません」
「過去の考えを今日も持っているとは限らん。そして正義は、必ず優先されるものでもない。物事は、あるべき形に戻さねばならんのだ。ゆがみはいずれ全てを崩す」
「殺すからには殺されるのです! 奪うからには奪われるのです! その対象は父上や父上の近しい者とは限らない! だが貴方の民です! 貴方が統べる国の! 貴方の民です! 国とは場所ですか? 違うと私に教えたのは父上ではありませんか!? 民が傷つけ合わぬよう! 法を厳しく制定されたのは父上! 貴方ではありませんか!?」
……アツいねアベイル隊長。
向こうからボーニア伯爵も近づいてきた。
「候王陛下。今我々が戦闘を強行したところで、最早この関所は突破できませぬ。幸い殿下のおっしゃる通り、軍の衝突はまだです。我らが責を取れば候国は存続できましょう。……泡沫の夢であったのです」
「……そうか」
目を閉じる候王。
俺とマキマキに顔を向けて、馬から降りるボーニア伯爵。
「言葉にするのも憚られますが……申し訳ございませんでした仮面の戦士殿、異界の天使殿。責任の多くは私にあります。ただ、あなた方と過ごしたあの一夜は、本当に楽しかった。そこに嘘はありませぬ。皆さまの信頼を裏切った事、お許し願おうとは思いませぬがどうか、どうか謝罪の意だけでもくみ取って頂きたく……」
ボーニア伯爵はそういって頭を下げ、膝をついて両手を組んだ。
俺とマキマキ、アグーは顔を見合わせる。
「ボーニア伯爵さんの気持ちはわかりましたよ。アベイル隊長のお兄さんにも、聖王様に宜しく言っといてくれって言われてるし、まあどうなるかはわかんないですけど」
俺は最終フォームを解いて、ボーニア伯爵に手を伸ばす。
「反省してたって言うだけ言ってみますから、とりあえず頭上げてくだ――」
「ィヒヒ。ぬるい男よ」
ボーニア伯爵の口からイカみたいな触手がグワッと伸びて、俺の身体に巻き付いてくる。
「カブラギさん!」
うおぉぉ! 気持ち悪!
振り払おうとすると、両腕を枯れ木のような黒い手で掴まれた。
ボーニア伯爵だ!
人間じゃなかったのかよ!
白騎士のおっさんが俺に手を伸ばす。
が、透明な魔術障壁にガキンと防がれた。
「手出し無用ですぞぉ」
チョーロクがいつの間にか、ボーニア伯爵の後ろにいる。
首に触手が巻き付く。
ボーニア伯爵の両腕、その下からもう二本腕が生えた。
ベルトのガイアコアをガシっと掴んでくる。
「何しやがる!!」
叫ぶ俺に、チョーロクが答える。
「おっほっほ。その黒い水晶がチカラの根源と見ました。引きはがさせていただきます」
グッとガイアコアを引っ張られる。
そりゃ無理だ。
バチバチと火花が飛んで、バケモンみたいになったボーニア伯爵に紫電が走り、ガクガク震える。
「能力向上。能力向上。能力向上。能力向上。能力向上。能力向上。能力向上。能力向上。能力向上。能力向上。能力向上。能力向上。能力向上。能力向上」
チョーロクが魔術を唱えるたびに、ボーニア伯爵のチカラが強くなる。
「おいやめろって! 死んじまうぞ!」
俺の制止に、チョーロクが冷たく答えた。
「やめられるはずがありますまい。ボーニア伯、いや、ガドニア候王二世はこの時を、数百年待ったのでする。父の愚かな選択を恨み、ずっとずっと牙を研いできたのでする。ワタクシのチカラを借り、人を辞めてまで」
なんだって?
「叔父上がガドニア候王二世だと!?」
アベイル隊長が声を上げ、現ガドニア候王は虚ろな目で、どこともなく前を見ている。
「自分こそが大聖王国を治め、世界に覇を唱える。その機を待ち続けたのでする」
腕を上げ、感極まったようにチョーロクは叫んだ。
「創世神の加護を受けて!!」
ボーニア伯だったソイツは、その皮膚を脱ぎ捨てた。
タコのような頭、
枯れ木のような四本の尖った腕、二本の足、
鱗に包まれた身体、
蝙蝠のような羽、
口からはヌラヌラとした触手を生やしている。
身体は俺の二回り以上デカい。
バケモンだ。
バケモンは体中から煙を上げて、俺のガイアコアを引きはがした。
それを、焦げた四本の腕で掲げる。
「ぉオオ! これガ有れバ! 私はヨリ! 強大なチカラを得るデあろぉぉ!!」
解放された俺は後ずさり、片膝をつく。
「おーっほっほ! そうです! そうです! もはや十分な戦果が得られました! 後はこの場の者共を全て屠り! 魔素へと還してしまいましょうぞぉ!」
俺の周りには、チョーロクの魔術障壁がある。
アルマが斧を振るうけど、破れない。
白騎士のおっさんも両手を突くが、破れない。
アベイル隊長も剣を叩きつけるが、破れない。
マキマキはジュエリールのチカラが空になった。破れない。
アグーは毛だ。破れない。
誰も俺を救えない。
ガイアコアが離れるって事は、俺の変身が解けるって事だ。
ガイアエネルギーから解き放たれた身体が、鈍く瞬く。
俺の、真の姿が、衆目の元に晒される。




