第41話 決着
俺は膝をつく。
アスガイアー・ガードを、出す間も、なかった。
流石に、スーツのおかげで、貫通はしなかった、けど……。
キツいな。かなり、効いた。
息が荒くなる。
「カブラギ殿!! なんで!!」
アルマが目線を合わせてくる。
「守るって……言ったろうが。はぁ、しんど」
「チョーロク殿!」
白騎士のおっさんが、声を荒げてんのが聞こえる。
「おっほっほ。やはり庇いましたなぁ。シュクシ殿、これで決着も早期に付くでしょう」
「庇うと知っておなごを撃ったのか」
「囲魏救趙の故事をご存知か? 敵に損害を与えるには、直接的でない行動も必要ですぞぉ」
「卑劣」
「目的の為でする」
「そうだな……理解しよう」
膝を震わせる俺に向け、白騎士のおっさんが槍を構える。
アルマも俺の隣に立って、デカい両刃斧を構えた。
「カブラギ殿、加勢しましょう。もう油断はありえません。マキナ殿と三人なら」
俺は、その提案に首を振る。
「いや……いいや。それより……はぁ、はぁ。頼みがあんだけど」
「なんなりと」
俺は拳をグッと握って、敵二人に向かい合う。
「応援、して、くれねえかな」
アルマから間の抜けた空気を感じる。
「お、応援?」
「そ、がんばれーってな」
アルマが斧を下す。
「手を、出すなということですか?」
不満げな声を出すアルマに、しおらしくお願いしてみる。
「……頼むよ」
黙り込むアルマ。
機嫌悪くさせたかと思ったが、小声で呟く声が聞こえた。
「頑張れ……」
隣を伺うと、アルマが伏していた顔を上げた。
「頑張れカブラギ殿!!」
バックルのガイアコアが、キィンと鳴く。
「頑張れカブラギさん! がんばれアスガイアー!!」
マキマキが宙に浮いたまま、叫ぶ。
「頑張れカブラギーー!!」
あの声はシソーヌ姫か。
「負けんなカブラギー!!」
カンミっちの声だ。
そこから関を切ったように、声援が飛んだ。
アベイル隊長の、ゴリンさんの、ウインスさんの、レスタさんの、マログさんの、カオッツさんの、ロナックさんの、特使団のみんな、関所のみんな。
みんなの、張り上げた声が届く。
来た。
来た! 来た! 来た来た来た!!!!
ガイアコアがキィィンと叫ぶ!
チカラがみなぎる!!
本気の声援が、無限のエネルギーに変わる。
身体から光が溢れる。
俺は腰を落として、渦巻くチカラを受け止めた。
「おほ! シュクシ殿!」
「ぬぅぅぅうん!!!!」
おっさんの姿がブレる。
空間を無視したような踏み込み。
額に突き出された槍の、その穂先を、俺は片手で掴む。
「変身ポーズは、攻撃すんなって言ったろ」
赤色のボディーとマスク、黒色のベルト、輝く黄金のバックルに白銀のグローブとブーツ。
最終フォームに変わった俺に敵はねえ。
「最終フォームに変わった俺に敵はねえ!!!!」
掴んだ槍を強く引っ張り、引き寄せられたおっさんのガードした左手を殴って砕く。
砕けた左手の鎧は、中身がなかった。
おっさんは槍を掴んだまま吹っ飛んで、肩で地面を削る。
「地球の人間じゃねえかもって思ってたけど、鎧のバケモンだったんかよ」
おっさんは転がりながら距離をとり、ヒザを付いて顔を上げた。
「……いつの間にやらな。だが、中身は武人ぞ」
立ち上がり、残った片手で槍を構える。
「漢帝国が精鋭!! 白耳の兵を率いた陳叔至であるぞ!!!!」
腰を落とし、さらに槍を深く構える。
「わが友より預かりし《黄龍天牙槍》。その全身全霊をもって……お主を、穿つ」
槍が輝き、穂先に光が集まる。
兜の奥の目元が赤く燃え上がった。
来る!!!!
一閃。
俺たちは背を向けあっていた。
一拍遅れて、二人を中心に突風が吹き荒れる。
槍はパキンと乾いた音を立て、ひび割れ、砕けた。
鎧の腹に大穴を開けた白騎士のおっさんが、背中からドスンと倒れる。
俺はゆっくり歩いて、寝転がったおっさんに近づいていく。
「預かりもんの槍、壊しちまった。ごめんなおっさん」
「なに……気にするな。返す予定は……ゴホッ、無かった」
天を仰いだまま答えるおっさん。
そんでうわ言のように、ブツブツと口を開く。
「あぁシリュウ。済まぬ、済まぬ。某は、リュウ皇帝を守れなかった。漢帝国は滅びただろう。だが、元凶の悪神トウコツは滅びたぞ。お前の槍だ、お前の槍で、だ。あぁ、あぁ。今行く、今行くぞ。……カンさん。チョウさん。シュクシは精一杯やりました。コウメイよ、すまなかった。すまな、かった……」
おっさんの、目の炎が小さくなって……消えた。
ズザァァ!!!!
地面を削りながらマキマキが着地して、おっさんに駆け寄る。
「死なせません! まだ話を聞いてない! それに! この人はまだ! まだ死んじゃいけない!! そんな気がするんです!!」
マキマキが両手を重ね、白騎士のおっさんの胸に当てる。
「プリズムパワぁぁあ!!!!」
マキナが虹色に、虹色に瞬いて、関所一帯が光に包まれる。
「デウス!! エクス!! マキナぁぁぁぁぁ!!!!」
マキマキの光が、そのまま白騎士のおっさんに移る。
「なんだこりゃ!」
叫ぶ俺に、いつの間にか隣にいるアグーが、冷静な声で語りかけてくる。
「白騎士を、死なせぬ技ぢゃ」
「生き返らせれるってのか!?」
「……いや、正確でないの。不幸な事実をなかった事にする技、とでも言うか」
「そりゃどういう――」
俺が疑問を言い終わる前に、白騎士を包んだ虹色の光は収束していく。
マキマキは膝をついて、肩をだらんと落とした。
姿は制服のブレザーに戻ってる。
「……某はいったい。死は受け入れたはずだが……」
白騎士のおっさんは手を掲げ、兜を動かして自分の身体を確認している。
ふと、俺の方に目線を向けて止まる。
もう敵意は感じない。
「負けたのだな。そうか。ならば、某に出来る事はもう、何もない」
よろめきながら、白騎士のおっさんが立ち上がる。
もうその身体、鎧には傷ひとつない。
「候王陛下! 某は破れた! 救世戦士アスガイアーに対し勝ち目はない! ここは無益な被害を防ぐため! 撤退を進言致す!!!!」
補足
陳到
姓は陳 名は到 字は叔至
中華三国時代の一角、蜀漢に所属し勲功を上げた猛将。
忠節勇武な家臣として称えられた。
精鋭部隊、白耳兵を率いたとされている。
生没年不詳。
正史三国志、蜀書より抜粋。




