第33話 ガドニア侯国
大理石であつらえた床に、石造りの高い天井。
金糸で刺繍を施された真紅の絨毯は、百人は入ろうかという大広間一杯に敷き詰められ、壁面には悪魔を象った幾つもの彫刻が玉座を見下ろしている。
豪華さよりも、圧迫感を感じさせる寒々しいここは謁見の間。
入り口の巨大な両開きの門には、ガドニア侯国の紋章である盾と獅子が刻まれている。
薄暗い空間に、三つの人影が見える。
玉座に座る者。
背丈の低い、深藍色の衣をすっぽりと被った者。
純白で翠色の装飾が施され、一風変わった、地球で言う中華風の全身鎧をまとった者。
「おっほっほ……、特使の方々がそろそろ到着されるようですなぁ」
「チョーロク先生。首尾はいかがか?」
「おほほ、細工は流々といった所……程なく念願叶いますぞぉ陛下」
「うむ……シュクシ殿。其方が追い払われた、赤龍を討伐したという異界人。任せても?」
シュクシと呼ばれた全身鎧の男は、口元を覆った翠色の布で表情は伺い知れない。しかし、了承したかのように暗い目元が赤く光った。
◇◆◇◆
いくつかの村に立ち寄りつつ街道を進み、目的地である首都ガドニアが見えてきた。
川から水路が引かれ、城壁の周りは大きな堀に囲まれている。
街の入り口には跳ね橋が下りていて、東西北の三か所に同じ大きさの大門が設けられてるそうだ。
俺たちが向かっている東門は、入城者よりも貿易都市ボーニアに向かう馬車の方が多い。
大陸西側の商人たちが補給を済ませて、聖王国へ商売に向かっているんだろう。
首都に近づくにつれて魔導車がスピードを落とす。
門の近くで馬車を引く商人たちは、浮かない顔をしてた。
「なんかすれ違う人ら暗くね? 街で休んでねえのかな」
「そんなはずはないよ。魔導車と違って馬車だと何日もかかる道のりだし、途中に村があるとはいえ何があるかわからないんだ。休める時に休むのが旅の鉄則だよ」
俺の疑問にアベイル隊長が答える。
釈然としないまま、城門に着いた。
「おっきい城壁だね! 聖王国のより大きいんじゃない?」
城門を見上げたシソーヌ姫が、感嘆の声を出す。
「そうですな。聖王国は宰相様の聖結界がありますが、ガドニアは違いますからな。大陸西三国の、貿易の要所である首都は防衛にも力を入れているのでしょうな」
ハンカチで汗を拭きながら文官のおっちゃん、カオッツさんが解説してくれる。
色んな国から立ち寄りやすいって事は、色んな国から攻められやすいって事か。
国から攻められなくても、あんな龍なんて魔獣がいる世界だもんな。
入城側の列に魔導車を並ばせるが、空いてるおかげでもう俺たちの番になった。
「さて」
アベイル隊長が立ち上がる。
「ちょっと手続きに言ってくるよ。姫様は魔導車に、カオッツさんとレスタは一緒に付いてきてもらおうかな」
そう言ってアベイル隊長と文官のカオッツさん、騎士の一人、ナイスミドルのレスタさんの3人が魔導車を降りて城門の詰め所に向かう。
「あー……緊張してきた。ちゃんと交渉出来るかな……」
シソーヌ姫が太ももを擦る。
「大丈夫ですわよ姫様。他国ならともかくガドニア侯国は身内ですし、アベイル隊長もいらっしゃいますわ。それに、色んなやり取りを想定して練習も重ねましたでしょう?」
「んー……」
文官のおばさん、マログさんに優しく励まされて唸るシソーヌ姫。
そこにアルマがさらにフォローする。
「姫さまはやれば出来る方です。例え1万人中9999人が期待してなくても、私は信じていますよ」
「それどうなの?」
そうこうしてるうちに、アベイル隊長たちが戻ってきた。
なんでも魔導車は目立つから、ここからはあちらさんが用意してくれた馬車で移動するそうだ。
二頭引きの立派な馬車が3台。
シソーヌ姫とアルマは文官の2人のカオッツさん、マログさんと馬車で最後の詰め。
アベイル隊長は魔術師ゴリンさん、騎士の側近レスタさんと移動中スケジュール調整で、他の騎士さんらは馬車の周りを借り馬に乗って護衛だ。
俺たち異界人組はカンミっちとドウブっちゃんと一緒になった。
馬車に乗り込んで座りながら、二人に質問する。
「カンミっちとドウブっちゃんはガドニアに来た事あんの?」
「あるよー。8年くらい前かなぁ? 技術交流でバラック老師に連れられて他の魔術師連中と一緒に」
「7年前だ馬鹿。魔王軍もその頃は北方で食い止められていたからな。国民により高度な魔術・法術を教授する為に、積極的な技術向上が図られていたのだ」
「へー。なんか美味いモンある? 名物とか」
「この土地のってのはないけど、ガドニアは色んな国と取引してるからなぁ。大陸の西側は東側と気候が違うから変わった農作物がとれるよ。あと、砂糖と胡椒が多く使われる料理が多いかな、確か」
「そりゃいいな。甘いもんなんか持って帰ったらみんな喜ぶだろ……ん?」
ふと気づくと、マキマキがポカンとしてた。
「どうしたマキマキ」
「いつの間にそんな仲良くなったんですか?」
「途中の村で」
「……コミュ力高いんですね」
「なんだコミュ力って?」
「なんでもないです!」
プイッとするマキマキの横顔を見てると、外から怒鳴り声がした。
「通行税はもう払ったではありませんか!」
マキマキ、アグーと顔を見合わせて馬車の引窓を開けてみる。
すると、城門兵に詰め寄っている商人が見えた。
「貴様が払ったのは入城税だろう。退城税は別だ」
「そんな! その入城税も以前の通行税の倍ではありませんか! そのうえ同額を払えなど横暴です!」
「嫌ならば無理に通ることはない。ガドニアにて商売に励め」
そのやり取りを聞いて、アグーが息を吐く。
「途中の商人たちが暗い顔をしていたのは、コレが原因のようぢゃな」
商人たちが聖王国に集まってるのをいいことに、随分アコギな徴税してるみてぇだな。
「ガドニアの王様ってすごいケチなのかな? それか商売上手? アベイル隊長の親父さんにしちゃイメージが違うな」
俺の感想に、ドウブっちゃんとカンミっちが答える。
「ガドニア侯王といえば厳格で法に厳しい方だと記憶している。一時的だとしても、金の為に法を曲げるとは信じがたいな」
「オイラもそう思うね。まあ人間考えが変わることもあるだろうけどさ……こりゃ交渉の雲行きが怪しくなってきたかな」
馬車が動き出して大通りを進む。
あんなやり取り見た後だからか、窓から見える街行く人たちも何かギスギスしてるように感じる。
「大丈夫かなシソーヌ姫。多分アレ見てたよな」
「大丈夫ですよ! アルマさんに文官のカオッツさんとマログさんもいるし! アベイル隊長だって! ね!」
俺の不安に、マキマキが声を大きくする。
そうだな。
ここは信じるトコロだな。
ファイト! 俺以外のみんな!
カブラギさんはちょっと古い時代の人なんで《コミュ力》って言葉にピンときません。




