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第34話 緊張と緩和


 城に到着した。

 

 聖王国の王城は大嶮山を背にして建てられ、無骨さもありつつ、聖王国っていう名前に合う華美じゃない程度の外観をしていた。


 でもガドニア侯国の城は無骨。

 無骨そのもの。

 石を切り出して重ねたような作りで、灰色ばっかり。

 植物の一つも植えた方が良いと思うんだけどね。

 

 来る途中に立ち寄った貿易都市ボーニアのボーニア伯爵邸は、下品でない程度に華やかでオシャレだったなぁ。

 あんま俺、そういうのに詳しくねえけど。

 服も一張羅いっちょうらだし。


 城主のガドニア候王が立てたわけじゃないだろうけど、こんなところに住む人ってなんか気難しそうだな。

 シソーヌ姫ホントに大丈夫か?


 門を抜けて中庭まで入る。

 俺たちが馬車から降りると、別の馬車からアルマと文官さん2人に敬礼されて、シソーヌ姫もしゃなりしゃなりと降りてきた。


「なんだ。シソーヌ姫、大丈夫そうですね」


 マキマキの言葉に俺も頷く。

 と、建物の方から出迎えの人たちが歩いてきた。

 品の良い服装の集団で、先頭は深い藍色のローブを頭から被った140センチくらいの人。

 顔が見えねえけど、腰が曲がってるみたいだからご年配様かな?


「おっほっほ。お待ちしておりましたぞぉ、大聖王国が特使の方々。ワタクシは宰相の任を仰せつかっております、チョーロクと申すもの」


「これはお初にお目にかかります。私は今回の特使団の代表、アベイル・ミツ・ガドニア。貴国に所縁ゆかりのあるものです」


「おっほっほ……貴国などと他人行儀な。殿下、里帰りのおつもりでどうぞごゆるりとなさいませ。ささ、皆々様もどうぞぉこちらへ」


 そう言って頭を上げたチョーロクさんの顔には、真っ白のお面が付けられてた。

 凹凸のない、目と鼻の部分にも穴が開いてないお面だ。

 でも声はこもってないし、俺たちを促して歩く様子はしっかりしてる。

 何で前が見えるんだろ? 魔法かな?


「何で前が見えるんだろ? 魔法かな?」


「おっほほ、不思議ですかな?」


 声に出てた!


「カブラギさん……」


 マキマキに頭を抱えられた。スマン。


「いかにも、魔法ですなぁ。感知系の術で聞き、放出系の術で話しております。おっほっほ……、素顔は勘弁してくだされ、人魔大戦にて激しく焼けただれております故……」


 くっくと笑いながら話すチョーロクさん。

 

「身内が失礼を。しかし失礼を重ねて申し訳ないが、私がガドニアを離れたころには貴公はまだこちらにいらっしゃらなかったと記憶しております。いかような経緯で?」


 アベイル隊長が俺の無礼を謝罪してくれながら質問する。


「ワタクシはシュウ大帝国の出身でしてなぁ。人魔大戦の折、こちらに流れてきた際に殿下の御父上と出会い、三年ほど前に召し抱えられたのですよ。恥ずかしながら小利口なところがありますものでして……おっほっほ」


 シュウ大帝国の出身か。

 めっちゃ怪しいカッコだと思ったけど、苦労してんだろうなぁ。


 ちなみに俺たちはほとんど手ぶらだ。

 荷物は魔導車の荷台に置いてきてあるし、《拒絶リジェクション》とかいう魔法をかけて防犯対策もバッチリだそうだ。


 俺たち特使団はチョーロクさん達に先導されて、大きな両開きの門から城にお邪魔する。


「おほほ。皆さま長旅でお疲れでしょう、部屋を用意しておりますが、いかがされますかな?」


「いえ、城内に立ち入っておきながら、特使が城主に挨拶しないなど有り得ません。是非ガドニア候王陛下へお目通りをお願い致します」


 シソーヌ姫がチョーロクさんの提案を丁重に辞退する。

 まあ遊びに来てるわけじゃないんだもんな。

 

「さようですか。では、皆さまこちらへ。武器の類はこの者たちへお預けくださいませ。おっほっほ」


 騎士のみんながガチャガチャと、出迎えてくれた人たちに武器を渡していく。

 まあ魔法がある世界だから形式的なもんかな。

 あ、謁見の間なんかだと魔法が使えないような仕組みとかもあんのか?

 流石に俺のバックルとマキマキのペンダントは持っていかれなかった。


 その後はみんなで代わり映えのない、石造りの通路を進む。

 天井は高くて通路も広いけど、装飾や調度品が一切なくて複数の足跡がカツカツと響く様子はどこか寂しい。

 俺が後ろの方でみんなの背中を見ながら歩いてると……。

 シソーヌ姫の右手と右足が、左手と左足が同時に出てた。

 

 ……そんなベタな緊張ある?

 

 やれやれ……。

 俺は歩調を速めてシソーヌ姫の横に並ぶ。

 ビクっと身体を揺らしたその肩に片手を置いて、俺は顔をシソーヌ姫の頬に並べた。


「息吸ってー」

 

「え? え?」


「はい、吸ってー」


 すーっと空気を吸うシソーヌ姫。


「吐いてー」


 歩きながら、ハーっと息を吐く。


「また吸ってー」


 吸う。


「吐いて―」


 吐く。


 背中をポンと強めに叩いてやる。


「よし、もう大丈夫」


 俺はそう言ってシソーヌ姫の顔を見る。


「……ホントに?」


「マジマジ、気分変わったろ?」


「……アリガト」


 まだ表情は硬いが、肩のチカラは抜けたみたいだ。

 ふと姫の横を歩くアルマと目が合った。


「そういうことは私の役目です」


 面白くなさそうな顔で言われた。


「だな、後は頼んだぜ」


 俺はまた後ろのマキマキとアグーに並ぶ。

 シソーヌ姫とアルマが手を繋いでるのが見えた。

 もう大丈夫そうだな。

 カンミっちが俺を振り向いて、ニヤニヤしながら親指を立てる。

 俺もそれに答えて親指を立て返す。


 通路の先に大きな両開きの門が見えた。

 盾と獅子が彫られた、天井に届くような門だ。

 チョーロクさんが立ち止まってこちらを振り向いた。


「候王陛下はこの先におわします。皆さまの目的は存じ上げております故、どうか気負うことなく交渉なさってくださいませ。おっほっほ……」


 そういうと頭を深々と下げてまた前を向き、両手を上げると、門がゴゴゴと開いた。




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