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第30話 大陸西部を見渡す。


 関所の人たちに見送られながら、魔導車が出発する。


 あの水魔法をかけてくれた兵隊さんから、「英雄さんの手伝いをしたって、息子たちに自慢できますよ」なんて言われた。

 ロナックさんって名前らしく、シソーヌ姫とも顔見知りだったようだ。

 専属ってわけじゃないけど、時々王城の庭の草木を剪定したり、薬草を都合したりしてたらしい。


 俺なんかが英雄なんて、ただのスーパーヒーローなんだけどね。


 赤龍の亡骸は、国都から人員が派遣されて解体される。

 身体の何から何まで貴重らしく、鱗、爪、肉、髭、などなど、余すところなくだ。

 特に赤龍の魔石は凄い価値があるそうで、たいそう喜ばれた。

 国費の足しになるって。

 赤龍の攻撃で通信魔道具が壊れちまったらしいけど、嬉々として伝言役の人が走ってった。


 ちなみに、マウントスコーピオンの魔石は砕けてたモノも多かったけど、必要でしょうってマキマキがいっぱいもらってた。

 おかげでジュエルパワーがかなり回復できるって、アグーがぴょんぴょんしてた。


 もっと言うと、《魔獣》とフツーの《獣》の違いは魔石がとれるかどうかで区別されてるんだって。

 それ以外は毛皮が取れたり肉が食用になったり、特に違いがないそうだ。

 でも危険性は魔法を使ったり体内魔素が多い魔獣の方が高いし、攻撃性も強いから、一般人が狩りをする場合は獣を狙うのが普通なんだと。

 パッと見でわかるもんなのかな?

 って聞いたら聖王国じゃ学校で見分け方を習うんだってさ。


 普通の獣でも体内に魔素が溜まっていくと結晶化して魔石になり、《魔獣化》することもある。

 魔石の魔素がさらに濃くなると、今度は《進化》して形態が変わる。

 理論上進化に制限はないけど、身体が魔石の魔素量に耐えきれなくなると破裂して、大爆発しちゃうと言われている。

 なんで言われているだけなのかって言うと、実際にそうなったのを見たって記録が残ってないから。

 じゃあ誰が言ってたの? というと昔、大陸の北の方にある大雪山ってトコで冒険者が知恵ある龍と出会った時に聞いたそうだ。


 その話を聞いて実際に検証しようとした小国があったけど、滅びた。

 進化させ過ぎた魔獣を制御しきれなくなったそうだ。

 よく物語とかで聞くような話だけど、記録もあるから国が滅びたのはホントの事。


 だから進化しすぎると大爆発ってのは俗説だけど、話を聞いてきた当時の冒険者は実績のある人だったから結構信じられてる話なんだと。


 というような事を文官のおばさんに雑談がてら聞きながら、魔導車のドライブを楽しんでいた。

 山道なのに揺れないってサイコー。


「見えてきましたよ」


 運転してるひょうきんな方の魔導師、カンミさんがそう言うと、尾根を越えて大嶮山から西側が見えた。


 視界一面に広がる平野に、ポツポツ城塞に囲まれた都市や街が点在してる。

 彼方には鬱蒼とした森といくつかの山々も見え、霞んで見える広い湖からは堤防が整備された河川が複数伸びていた。

 大嶮山の山道はかなり岩を削って開いてあるから、斜面もなだらか。

 だけど、元々が切り立った高い岩山だから、かなり遠くまで見渡せる。


 晴天と相まって、絶景だった。


「おぉ……」


「大パノラマですねぇ」


「こりゃあ美しいのぅ」


「すごいすごい! こんなに世界って広いんだ!」


 圧倒される俺たち異界人組と、はしゃぐシソーヌ姫。


「大陸の西部は元々原種主義の種族が多い土地だったから、東部に比べて未開拓地が沢山あるんだ。七国同盟以降は交流も盛んになったけど、純粋な人族も東部よりはかなり少ないね」


「原種主義って何ですか?」


 アベイル隊長が西部の説明をしてくれた事に対して、マキマキが質問する。


「種族は種族で纏まって自分たちの領域から出ず、文化的交流をなるべくしないように生活するって考え方さ。亜人種と一言で言っても沢山の種族がいるからね。伝統や他の種族の血が混ざるのを、昔の人たちは嫌がったんだ」


「亜人の人たちは何でそう呼ばれるのかっていうと、神話に出てくる世界の守護者たちの筆頭が人族の姿だったからなの」


 シソーヌ姫が補足する。


「ならば種族同士で確執はないのかの? 例えば、守護者と同じ人族が優れた種族だと主張するものがおったりだとか、力の弱い種族を差別対象にしたりだとか」


「無い事もないけど、差別はオウゴン教の定める大罪のひとつ《傲慢》だしね。そんなことを口に出す方が大陸では軽蔑されるさ」


 神話ってのは、三千年くらい前に地上と魔界の神様たちが争った《大聖戦》の事だ。

 地上の神様たちは魔界の神様、邪神をやっつけると、大陸の各地に散らばって暮らした。

 その時の神様たちの中には「神様」って呼ばれるのを嫌がったヒト? もいたから、通称で《世界の守護者》と呼ばれるそうだ。


 《世界の守護者》のリーダーの教えを各地で神様たちが触れ回ったのがオウゴン教の前身で、長い時間をかけて世界中に広まったという言い伝え。


 もう執事のアルセーヌさんに聞いた話だけど、得意そうにシソーヌ姫が喋るから、みんなもニコニコしながら聞いていた。


 アルマが目を細めてシソーヌ姫を見ながら、


「ああ、ほんとにかわいい……」


 ってつぶやいていた。

 ガイアイヤーじゃないと聞き取れないくらいの小声で。


 山を下る道程は何事もなかった。

 まあまあ急な下り坂だから、上るとき馬車じゃ大変だなぁ。なんて口に出したんだけど、アベイル隊長が言うには登り口にあるガドニア侯国が管理する関門で貸出・販売してる風の魔石を馬車の背中に取り付けると、追い風が吹いて苦じゃないそうだ。


 創意工夫ってヤツね。


「それにしても災難でしたな。結果的に国益にはなりましたが、皆さんお疲れでしょう。向こうに着いたら少しゆっくりと出来ればいいんですけどな」


 文官のおじさんが手ぬぐいで頬を拭きながら言う。


「怪我人がでなかったのは幸いでしたわ。日も暮れますし、ふもとに降りたら侯国の首都の前に大きな街があります。一旦そこで休息をとりましょう。お風呂もありますわよ」


「風呂ですか! それはありがたいですぢゃ」


「みんなでお泊り!? やった! トランプしよ!」


 文官のおばさんの言葉にアグーとシソーヌ姫が喜ぶなか、騎士さん達も名物の魚や料理の話で盛り上がってる。

 運転席のカンミさんも鼻歌を歌いだした。

 ふと気づくと、マキマキが俺を見てる。


「何よ?」


「ふふ。頑張って良かったですね。今日のカブラギさん、ちょっとカッコよかったですよ」


「よせやい」


「いえ、謙遜することはありません。皆が無事なのは貴方の功績が大きいです。感謝しています」


 アルマまで褒めちぎってきた。


「俺だけじゃ無理だったろ。みんなで頑張ったからみんなで笑えてる、そういう事。この話もう終わり」


 俺は腕を組んで景色に目を向けた。

 褒められてちょっと頬が緩んでる。

 仮面被ってて良かったわ。



この世界にもなんやかんや歴史があるって事が伝われば良いなと思ってます。

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