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第26話 いざガドニア侯国へ


 次の日の明け方、俺たちは城壁の外にいた。

 目の前には大型トラックばりにデカい乗り物がある。

 白を基調としながら、金と黒の装飾が王家の乗り物感をかもしだしてた。

 このサイズだと地球じゃ20トンは乗るな。


「聖王国内でも3台しかない、儀礼用の魔導車だよ。バラック宮廷魔術師長が最新の土魔術でガチガチに外部を固めて、純度の高い風魔石をふんだんに使っている大陸でも一級のモノさ。アダマンタイト鋼まで使われてるんだ」


 アベイル隊長が説明してくれた。

 てっきり街中でも使われてるような馬車で移動するもんだと思ってたよ。


 喋ってる俺らの後ろで、立派な鎧を着た騎士さん達が馬車から小型の箱を魔導車に積みかえてる。

 騎士さんは偉い階級の人らだけど一応は極秘任務だから、御付きの人……いわゆる従騎士を連れていない。

 だから自分達だけで作業してんだ。


 こういうのって手伝いたくなるけど、アベイル隊長からはすでに断られてる。

 プライドだけで騎士やってるような底の浅い者は自分の部下にはいないから、安心してほしいってさ。


 気遣いってむずかしいね。


 ちなみに積んでる小型の箱は全部、魔法カバンならぬ魔法箱だそうだ。

 一個一個に結構入るらしい。

 アグーが運ぼうか提案したら、予定より援助を引き出せたらお願いしましょうかって笑ってた。


 面子は全員で20人いる。

 俺たちチーム異界人が3人。

 シソーヌ姫と護衛騎士アルマの2人。

 アベイル隊長と精鋭騎士男女合わせて10人

 交渉の補佐をする文官さん男女2人。

 バラックおじいちゃんの弟子魔術師の男3人。

 少数精鋭の特使団だ。


 騎士さんが荷入れしてる間に、シソーヌ姫とアルマは文官さんと4人で紙を広げながらなんか喋ってる。

 魔術師の若い2人は魔導車の運転席で調整中だが、なんかアグーも参加してる。

 もう1人の中年魔術師さんは上部にある一人用の席でゴソゴソなんか弄くってる。

 席に付いてるのは大砲かな?


 俺は腕を組んでみんなの様子を観察しつつ、マキマキと雑談する。


「すげえよな。この魔導車っての浮いて進むんだってさ」


「スピードも普通の馬車よりよっぽど早いそうですよ」


「なんか最初は中世のヨーロッパっぽい世界かと思ったけど、地球とは違う方向に文明が進んでるよな」


「魔法がある世界ですもんね。でも制作に手間とお金がかかりすぎて一般には全く普及してないそうですよ。開発されたのもごく最近ですって」


「カブラギ殿! マキナ殿! 準備が出来た! 乗ってくれ!」


「お! 行こうぜマキマキ」


 アベイル隊長に呼ばれて、魔導車の横っ腹から出っ張ったスロープから乗り込む。

 魔導車の中は左右が長椅子みたいになってて、空いてる手前奥側のアベイル隊長の横に俺、マキマキ、アグーの順に座った。

 向かい席の奥にシソーヌ姫とアルマ、文官さん2人。

 あとは騎士の人たちが座ってる。

 流石に窓はないけど、前の運転席側と後ろの荷台側が開いてるから圧迫感はない。


「では出発いたします」


 運転席の魔導師さんがそう言うと、スロープがウゥーンと音を出して上がり、入り口が閉まる。

 そして、ゆっくりスピードを出し始めた。

 景色が見えねえのは頂けないけど、浮いてるだけあって乗り心地はかなり良いね。

 一応ガイアセンサーはオンにしとこ。

 気が付くと、シソーヌ姫がニヤニヤを押し殺したような顔で俯いてる。


「シソーヌ姫、どうした?」


 俺が聞くと、


「ええ、この度の大任を果たせる事に喜びを感じているのです」


 顔を上げて、少し興奮したように胸に手を当てる。


「本当は?」


「わたしこれに乗るの初めて!」


 アルマの言葉に、シソーヌ姫が立ち上がる。

 シンとした車内。


「あ」


 顔を真っ赤にして座り込むシソーヌ姫。

 和やかな空気が広がって、みんな温かく笑いだす。


「姫さま、今から気を張っていては持ちません。ここにいるのは皆身内なんですからもう少し肩の力を抜いて、初めての旅を楽しみましょう」


 アルマが言うと、他からも同意の声が出る。


「姫様がそういう方だと皆知っております」


「そうですよ。我慢なさらないでください」


「快適な旅をお約束しますよ」


 運転席の若い魔術師さんも振り向きながら参加する。

 俺とマキマキも顔を見合わせて笑う。


「うん! みんなありがと!」


 はしゃぐシソーヌ姫。


「えーご乗車中の皆さま、間もなく大嶮山に入ります。立ち上がられますと大変危険ですので、お席にお座りになり、心ゆくまで景色をお楽しみくださいませ」


 若い魔術師さんが魔法で声を大きくしてそう言うと、いくつかの柱を残して横の壁がウゥーンと下がって周りが見えるようになった。


「相変わらず、バカな事言ってら」


 騎士さんの一人が苦笑いしながら言う。

 見える景色は険しい岩山が広がっていた。

 でも所々には草花が生えていて、青く澄んだ空と相まって趣がある。

 大自然って感じ。


「山道って聞いてたけど、結構広く整備されてるんだな」


 俺が感心していると、アベイル隊長が解説してくれる。


「戦前は貿易の要所だったからね。たくさんの馬車がすれ違うし、魔獣も少なからず出るからさ、かなり広く幅をとったんだ。物資を運ぶのも魔法箱に入る量には限度があるから、通る荷台はどうしても大きくなるしね」


「へえ」


「魔獣が出るって言っても、ほとんど対策が確立されてるよ。暴虐龍が棲むなんて話もあるけど、大嶮山は広大だ。この山道で確認されたことはないね」


 暴虐龍かぁ。

 王様も言ってたけど、


「その暴虐龍ってのは――」


「あ! 見て見て!」


 シソーヌ姫が空を指さす。


「あれは野生の偽竜ワイバーンですな。いや、ワイバーンストロンガーか。珍しいですなあ」


「わあ」


 のんきな声を出す男の文官さんとマキマキ。

 シソーヌ姫が指さす先には、羽の生えたトカゲが飛んでいた。

 アレがワイバーンか。

 知ってるぞ、ドラゴンみたいなヤツだ。

 結構強いエネルギーを感じるけど。


「隊長、アレ大丈夫?」


「大丈夫だよ。この辺のワイバーン種はこっちから手を出さない限り、何もしてこないさ」


 いや、敵意がある。

 不味い。


「警戒してくれ!!」


 俺が叫ぶと、騎士の人たちが怪訝な顔をする。

 マキマキとアグー、アルマが柱に捕まって立ち上がる。

 マキマキは立ち上がると同時に、胸のペンダントがキラリと光ってジュエリールの衣装に変わった。


 ゴウッ!


 ワイバーンの口から魔法陣が現れて、炎の玉が排出される。


「ブルーボウ! サファイアロー!」


 マキマキの打った蒼い矢が炎の玉を四散させる。


「なんだあれは!」


 アベイル隊長が空を見上げて立ち上がる。

 切り立った岩山の間から、ギャアギャアと鳴きながら数十匹のワイバーンが現れた。


「加速!!」


「加速します!!」


 アベイル隊長の指示に、運転してる魔術師さんが反応する。

 みんなが柱に掴まり、アルマがシソーヌ姫を片手で抱く。

 魔導車がキュィィンと音を立てて加速。

 ワイバーン達が火の玉を放つ。

 車体が左右に揺れ、見える景色に火柱が上がった。

 それも複数。

 上部に乗ってる中年の魔術師さんの手から魔法陣が現れる。


三重魔術盾トリプルマジックシールド!」


 着弾して車体が揺れる。

 でも、炎は中年魔術師さんの出した魔法陣の壁を越えない。


「決して攻撃するな! やり過ごすぞ!」


「国都が! みんなが!」


 不安そうに叫ぶシソーヌ姫。


「大丈夫です! 飛んでいく方角が違います!」


 アルマが揺れる車体の中で、身体を維持しながらフォローする。

 確かに国都は北東、ワイバーンの進路は北西の方だ。


「撒いた! これ以上は追って来ないようだ!」


 魔術師さんが後方を確認する。

 ギャアギャアと遠ざかっていくワイバーン達。


「何だったんだ……」


 アベイル隊長が呟くと、また運転手の魔術師さんが魔力のこもった声で叫んだ。


「前方に関所を確認! 様子がおかしい!」


 俺は柱を持ったまま、その前方に身体を向ける。


「アスガイアーアイ!」


 見えた景色は、立派な関所に数えきれない、地面を埋め尽くすほどの大型のサソリが群がってる様子だった。





さぁ大変

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