第17話 復興会議 終了
「気に入らない……と申しますと?」
アグーが身体を向けると、ゴラモコーさんが太い腕を組んで言葉を続ける。
「世事が過ぎる。この場の者たちにそのような……少なくとも儂は、妖精殿のように考えてはおらん。おべんちゃらで機嫌を取って、己らを売り込んでいるようにしか思えんな」
「これは手厳しいですな侯爵閣下。北の国境で自ら指揮を執り、魔王軍を相手取っていた気骨が伺えますぢゃ。ただ先ほどまで述べた私の言葉に対し、この場にいらっしゃる貴族領主様方の考えは意味がありませぬ」
「どういう事だ?」
「国は民心によって維持されるものだからですぢゃ。皆々様方、国家の首脳陣は言わば進路を定め舵を取る事が務め。実際に船を漕ぐのは下々の民たちです。私の言葉は個人のものではありません。城下で聞きとった大多数の生の声ですぢゃ」
「ふむ。それでも耳障りが良すぎる。国民でない妖精殿があまりにも儂たちを敬い過ぎて、いらん詮索を招いてしまう」
「国家の……いや、世界の為に務めを果たした方々に敬意を払う。そこに国の所属が関係ありましょうか。敬うべきは敬う。当然かと思いますぢゃ」
「……儂は先の国都防衛において増援を出さなかった」
「出せなかったと考えます。ゴラモ侯爵閣下が治める国境城塞都市イチガドは、魔王4将軍デストロールの《剛腕》を牽制しておられたと伺っております。増援は戦力を分散させ、城塞都市イチガドは壊滅して国都では魔王4将軍を二席も相手どらなくてはならなくなるところでした」
みんな二人の問答に聞き入ってる。
任せとけって言うだけあるけど、いつの間にアグーはこんなに情報を集めたんだ?
ふと気づくと、サイロスさんが俺を見てニコリと笑った。
……そういや二人でコソコソ話してたな。
こっちの歴史を詳しく聞いてたってアグーは言ってたけど、こんな直近の出来事は歴史って言わねえぞオイ。
サイロスさんは曲者だと思ってたけど、アグーも大概だな。
「お待ちを! 要らぬ詮索かと思われますが明言していただきたい! アグー様方はご自身たちを売り込んで、聖王国アークガドの国政に携わる気はないのですか!?」
「なんと恥知らずな! そのような事を口に出すとは!」
アベイル隊長が若い貴族の言葉に激高するが、アグーが言葉でそれを制す。
「良いのですアベイル様。ブルント子爵閣下も名誉の戦死を遂げられた先代様の後を継がれたばかり。地盤が固まられておりません故、御心内お察し致しますぢゃ。もちろん、我々異界人は故郷に戻る以外に目的はございません」
場がどよめく。
「……それが無理だった場合は?」
ブルント子爵がスゲー嫌な事を言うが、アグーが一喝する。
「無理などありませぬ!!!! 儂は海崎 真希菜の保護者! この命に代えても彼女を家族の元に帰す!」
気押されるブルント子爵と何人かの貴族。
「アグー……」
マキマキが切なそうに声を絞り出す。
そんなマキマキの頭をクシャリと撫でて、俺も前に出る。
「俺は……」
口を開くと、この場にいる全員が俺を見た。
「シソーヌ姫に助けられた……ました。死ぬとこだったんだ。そして今も世話になって……ます」
全員固唾を飲んで俺に注目する。
「わたしの方こ! そ……」
叫ぶシソーヌ姫をアルマが手で制す。
「恩には恩だろう。……この世界じゃ違うのか?」
「違いませぬ!!」
ラムーベ卿が声を上げる。
「そして、俺はこの国の人たちが好きになった。好きな人たちに嫌われるようなことはしねえさ、安心してくれよ。家族がいるんだ。大事なヤツ等が向こうに……帰りてえ。協力してほしい……下さい」
俺がそこまで言って頭を下げようとすると、
「よい!! ……これ以上儂らに背負わせるな」
ゴラモ候によくわからねえ理由で止められた。
場を見渡すと、サイロスさんが椅子を鳴らす。
「本題に戻りましょうか、復興への道筋ですが……」
そこで王様が立ち上がった。
「陛下が会議の結果その方針を決められました。皆さま傾聴を」
立ってる俺たちも含めて、みんなが姿勢を正して王様に身体を向ける。
「諸侯にアークガド聖王国君主として命ずる。北方六都市はゴラモ侯爵を元帥として国土防衛、ならびに周辺庇護国の軍事支援をせよ。隣国七大国が2国、大商国と大連邦国との交渉は国都より外交官四名選出後に常駐させる」
ゴラモ候が上体を半身に仰け反る。
「ジャラミ伯爵はその兵站能力を鑑みて大司農に任ずる。北方への補給線を確保しつつ商業都市、農耕都市とその周辺村々の生産力を上げよ。ブルント子爵以下工業都市を治める5名の領主はジャラミ大司農の指揮下に入り、生産物の優先度を決めよ」
ジャラミ伯が目を見開く。
「ラムーベ辺境伯は国都を拠点に庇護国を周り視察。我が名代として現状を聞き取り、支援の計画を練ってほしい。譲歩案については宰相と通信魔導具で連絡を密にして決めるように。交流都市はラムーベ辺境伯の指揮下に入れ」
ラムーベ辺境伯が身を乗り出す。
「この三名に加えて、国都防衛の指揮を執ったマルク将軍を大将軍に任ず。以上四名を聖王国四功臣として国史に刻み、復興の旗印とする」
「儂が元帥?」
「自分が大司農……」
「私が陛下の名代なんて……」
王様が掌を前に突き出す。
「各自連絡は密に行うように! 定期報告を怠るな! 失態があれば周囲が補助せよ! 四功臣の相談役はショーディル宰相が、諸侯の相談役はバラック宮廷魔術師長が担うものとする! 以上! 励め!!」
領主貴族が立ち上がり、控えていた護衛も含めて全員が一斉に拳を握り胸を叩いた。
 




