第16話 復興会議、アグーの介入
ラムーベ卿が質問する。
「アグー殿は我々が認識する妖精とは違いますな。この世界の妖精は感覚的な生き方や喋り方を致します。いやそれも当然、あなた方は別の世界から来られたのですから。ですが敢えて伺いたい。……そのお姿は偽り無きものですか? アグー殿は本当に、妖精でいらっしゃるのか?」
「ちがいますぢゃ」
そうなの!?
場もざわめく。
「厳密には……という意味ですが。わが祖国ジュエルランドは邪悪なる者どもに滅ぼされ、私はここにいる海崎真希菜とその友を頼りましたぢゃ。その際、彼女らに受け入れられやすいよう、姿を変えて妖精を名乗ったまで」
へー。
そこまで突っ込んだ話してねーもんなぁ。
俺がマスクつけっぱだし、こっちからヤイヤイ聞くのも気が引けんのよね。
「祖国以外で自分の姿を保てない私は、自分を形作るジュエルパワー。こちらでいう魔素のようなものですな。それの消費を最小限に留める為にこの姿をとっており、本来の姿は皆さまとそう変わりませぬ。まあ長らく妖精を名乗っておりますので今後もそのようにお呼び頂ければ幸いですぢゃ」
「偽りのお姿ということですか。そちらの異界人である……、救世戦士アスガイアー殿でしたな。貴方も覆面を着けていらっしゃる。これは信用を損なう行為ではありませんかな?」
ですよねー。
俺だってこういう場だと、素顔を見せねえのは失礼だって事ぐらいわかるよ。
「確かに、ご言い分はもっともでありますぢゃ。ですが申し訳ございません。私は元の姿には戻れませぬ。この世界にはジュエルパワーがありませぬし、魔素をジュエルパワーに変換しても形を維持するには莫大な量が必要で、実質不可能なのです。それに……」
アグーが俺を見る。
「救世戦士アスガイアーであるカブラギ殿は我々の前はおろか、姫君であらせられるシソーヌ様や陛下の前ですら素顔をさらしておりませぬ。しかし、それは人間性を否定するものでしょうか? 私はそうは思いませぬぢゃ。こちらの世界のことわざでも《虹鳥の求愛を見て賢者を知る》とあります。そのものを知りたければ、成した事柄で判断するべきですぢゃ。彼はこの国の為に命を懸け、態度と言葉で多くの人々から信用を得ております。それは先ほど戦場を共にされた方々のお言葉でお分かりいただけるかと存じます。覆面を脱がぬは余程の事情があるとご理解頂きたいですぢゃ」
おいおい、いつの間にことわざまで……。
と思ってると、右手に引っ張られる感触があった。
フッと見るとシソーヌ姫が手袋をギュッと握り、俺を見上げて
「……ごめんなさい」
あやまってきた。
「全然いいよ」
俺が鼻血を出すアルマを無視してシソーヌ姫の背中をポンポンすると、さっき喋ってた神経質そうなチョビ髭さんが声を上げる。
「ラムーベ辺境伯は魔王軍の間者にしてやられましたからな。妖精殿がいかようにおっしゃろうとも平静ではおれぬでしょうて」
薄く笑いながらそう言うチョビ髭さんに、ラムーベ卿が悔しそうに歯を食いしばる。
「ジャラミ伯、ロクに戦いもせず都市を明け渡した貴方に言われたくはない……」
「むっ!」
喧嘩になりそうだと思った時、アグーが大きめに声を出す。
「お話は聞いておりますぢゃ! ラムーベ辺境伯閣下が治める都市に瀕死の冒険者たちがほうぼうの体でたどり着き、固く閉ざした城門を閣下が直々に開けて庇護されたそうですな。しかし、その者たちは幻影魔法で化けた闇骸骨だった。内側から敵の軍勢を招きよせられ、あえなく都市は壊滅したと」
ラムーベ卿とその後ろにいる騎士が悔しそうに唸る。
「過ぎた事ですぢゃ」
「なっ!」
ラムーベ卿が驚いて顔を上げ、アグーを見る。
「私たちがいた世界に《弘法も筆の誤り》という言葉があります。これはその道に優れたものでも時には失敗するという意味ですぢゃ。むしろ今の話を伺って、ラムーベ辺境伯閣下の慈悲深さを感じました。そしてそのような状況で国都までたどり着いたという事は、しんがりを務めた精強な兵がいて、彼らが命を懸けてお守りしたという事が分かります」
ラムーベ卿が俯き震える。
「貴方様は共に逃げる民に声をかけ、ずっと励まされていたそうですな。先の決戦でも皆ラムーベ様の無念を晴らすと戦っていたそうです。貴方様が如何に善政を敷いて、民に慕われていたかが伺い知れますぢゃ。仁徳の領主が失敗から学び、慎重さを身につけられたのです。必ず国の復興に不可欠な方となられるでしょう」
「……当然です。我が身命を賭して」
そう言ったラムーベ卿は、拳を握り胸を叩いた。
後ろの騎士もアグーに向き直り、腰の剣を叩く。
ありがとう的な感じ?
「……ふん」
面白くなさそうに、チョビ髭のジャラミ伯(覚えた)が鼻を鳴らす。
「ジャラミ伯爵閣下のお話も、城下の者たちから伺っておりますぢゃ」
話を振られて不愉快そうにするジャラミ伯。
「なんですかな? 早々に逃げ出した臆病者とでも言っておりましたかな?」
「とんでもございませんぢゃ。商業都市を治めていらっしゃったジャラミ伯爵閣下は敵の軍勢が遠方に現れるや、すぐに物資をまとめて国都に向かわれたと聞きました。魔導具や聖水を惜しげも無く使った撤退は犠牲も少なく、防衛に不向きな商業都市でなく国都で敵を迎え撃てたのです。その物資がなければ国都の籠城戦もうまくいかなかったでしょう。皆感謝しておりましたですぢゃ」
それを聞いたジャラミ伯が驚いたように口を開け、目を見開く。
すると上座の方にいる口髭の立派な……えっと、ゴラモコーさんが腕を組んでジロリとアグーに鋭い視線を向けた。
「……気に入らんな」




