第14話 労働の足音
俺たち3人がメシを食い終わって今日の勉強の話をしていると、食堂の扉が開いた。
周りの人達がざわつく。
何事かと俺たちも扉に目を向けると、シソーヌ姫と護衛騎士アルマが立っていた。
「おお!」
俺たちが手を上げると、
「カブラギーーーーーー!!」
「ぐぁっっ!!」
シソーヌ姫が走って、俺に頭頂部から飛び込んで来る。
下っ腹に響く衝撃を椅子に座ったまま、かかとで踏ん張って受け止めた。
「元気!?」
「……ギリギリな」
エライなつかれたもんだ。
五日間でシソーヌ姫とはかなり打ち解けた。
勉強の終わった後に、サイロスさんやマルク将軍、この国の偉いさんに地球の文化や技術の話をする時間があったが、そこにシソーヌ姫とアルマもいた。
話が終わった後は俺の部屋で、シソーヌ姫とアルマも入れた5人でアグーが持っていたトランプで遊んだ。
まあマキマキ達との交流も兼ねてってところだったが、シソーヌ姫はめちゃくちゃ楽しんでくれた。
アルマは表情があんまりねえからわかんね。
「ねえーカブラギー、マスク外して見せてよー。友達でしょー」
しがみついたままシソーヌ姫が俺の顔を見て、何度目かのおねだりをしてくる。
「ヤーダね。俺スゲー毛深くてコンプレックスなんだよ」
俺が言い訳すると、アルマが助け舟を出してくれる。
「姫さま、余計な詮索をしないのが立派な淑女というものです」
「だぁってー」
「だっても何もありません。見るに堪えませんよ」
「はーい……言い過ぎじゃない!?」
シソーヌ姫を膝から下してふと気がつくと、マキマキがモジモジと動きながらうつむいてる。
「姫さま、あの、アタシもあの、友達ですかね……?」
シソーヌ姫がきょとんとする。
「……そりゃそうでしょ」
それを聞いたマキマキが、うつむいたまま隣のアグーをバシバシと叩いた。
「痛い痛い! カブラギ殿やめさせて!」
アグーを無視して、俺はシソーヌ姫たちに話を振る。
「なんで二人が食堂に? メシ?」
シソーヌ姫とアルマはいつも自分の部屋でメシ食ってる。
まあ、たまには気分を変えてって事かな?
「んーん。えっとね……、今から大事な会議するんだけど、カブラギ達にも同席してほしいんだって。お父様が」
それを聞いて、マキマキとアグーと3人で顔を見合わせる。
「……こりゃ頼まれ事ぢゃな」
「んー。タダメシ食ってんのも気が引けてたしな」
「ですね」
アルマが鎧をカシャリと鳴らして、一歩前にでる。
「ご案内します。皆さんこちらへ」
食堂を出てからまあまあ歩き、訓練で賑わう中庭を見下ろしつつ、渡り廊下から別の棟へ入る。
訓練は一度見学させてもらったが、俺とマキマキは参加の誘いを丁重に断った。
体は動かしたかったけど、今はガイアエネルギーを少しでも回復させたかったから。
この世界でも自然エネルギーはガイアコアに溜まるから安心した。
マキマキは単に人見知りが激しいだけみたいだけどな。
俺より先にこっち来たわりに遠慮がちに周りと接してるし。
なんで俺にはズケズケ言うんだ?
そっちの方がやりやすいけど。
シソーヌ姫も最初は姫っぽく振る舞ってたけど、最近は素が出てきたのかかなり砕けて接してくるようになった。
今もアグーを抱きかかえて、
「アグーは触り心地いいねー。中身が説教ジジイじゃなかったらもっといいのにねー」
なんて言いながらワシャワシャ撫で繰り回してる。
「やさしく! 姫! もっとやさしく!」
……魔王軍との戦争で気を張ってたんだろうな。
聞けばまだ10歳かそこららしいのに。
これから生まれて初めての平和がやってくるんだ。
良かったなあ。
「でも大事な会議ってなんでしょうね?」
マキマキが俺に聞いてくる。
答えるのはアルマだ。
「長い戦火で国土は荒廃しています。復興計画の話し合い、及び各国への支援を要請する特使の選出でしょう。滅ぼされた都市や街から落ち延びてきた方々も国都には多くいらっしゃいますし、その中の有力者も会議には参加されるでしょう」
へー、領地を持ってるようなお貴族様もいるんだろうな。
20の都市を20の領主が治めてたって言ってたか。
その半分以上が滅ぼされたんだから……。
「そりゃ揉めそうだな」
「うむ。誰しも自分の領地を優先的に復興させたいぢゃろうし、領民を思うならばそれは間違っておらんからの。国都から近い場所ほど優先的になるぢゃろうが、他国の動向次第ではそれもわからん。人員も不足しておる中、複数の都市をいっぺんにとはいかんしのう」
「でもなんで俺らが会議に呼ばれるんだ? 後で言ってくれりゃ瓦礫の撤去でも炊き出しの手伝いでもやるのにな」
シソーヌ姫が振り返る。
「私達も来て欲しいとしか聞いてないのよね。会ったことない人達に紹介でもしたいんじゃない?」
「そう単純な話ではないでしょう。爵位を持つ方々の幾人かは、異界人の皆さんを訝しんでいらっしゃるという話も聞いております。そういった方々に皆さんの境遇や、ここに至る経緯を公式の場で宰相様がご説明されると思われます」
アルマの説明で自分の考えのなさに気づいた。
故郷を滅ぼされ、無念のまま国都に逃げてきた人達からしたらまだ戦争は終わってないんだ。
自分でいうのもなんだが、得体のしれない奴等が国の中枢にいきなり入り込んで王様から重用されてたら気が気じゃねえわな。
もしかしたらスパイなんかが原因でやられちまった都市もあったかもしれねえし。
どうも久しぶりに何でもねえ日が続いて、ボケてたみてえだ。
アニキに叱られちまうな。
「そうか、どうも後手に回っちまってたみてえだな。すまねえ、王様にまた面倒かけちまう」
俺が反省すると、マキマキも状況に気付いたのか同意する。
「そうですね……。少し浮かれてたみたいです」
俺たちが落ち込むと、アグーがぴょんとシソーヌ姫の手から飛び、浮きながら俺たちに向き直る。
「お主らは今まで厳しい環境に身を置いておったんぢゃ、気にするな。わしに任せておけ」




