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ライフワーク  作者: 風音沙矢
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ライフワーク 01

木村大輔 32歳

昨年10月に離婚

息子が一人 拓海たくみ 3歳

親権は、妻だった吉川理恵が持っている。

月一回の面会が離婚調停で決まった。

養育費 20歳まで月5万

離婚原因 ? 納得がいっていない。


 結婚して5年 理恵の希望は、すべて聞いてきた。最近でもなかなか理解してもらえていないだろう育休もとった。残業も周りの白い眼に晒されながら断って帰宅。イクメンをしながら、家事もこなした。その間、出産明けすぐに職場復帰した理恵はキャリアを伸ばし、昨年4月に独立した。独立したことで時間の使い方は自由になって、やっと、俺のイクメン時間は短縮してほっとしていた矢先だ。

 俺は、理恵とは逆に職場での立場は小さいものになって、後輩のサブで使われていたんだから、イクメン卒業でも、なかなか良い仕事は回ってこないままだった。それが、

「大輔、昔は輝いていたけど、今は全然ダメみたいね。」

だって!それを言うか?おれは、拓海が生まれて1年、育休を取り、その後も残業もしないで直帰。どれだけ会社に迷惑をかけていたか。信用は急降下だ。今現在、魅力的な仕事をしていないからと言って、それは俺のせいなのか?でも、つまらないそうな。魅力がないそうな。

「男として魅力がなくなってしまったんだから、いっしょにいる意味がないじゃない。」

と宣う(のたまう)。言いたいことは、いっぱいあったが、夫婦でも恋人でも友人でも、プライベートな関係は、一緒にいたいか、いたくないかだけがその理由になるんだと思っていたから、納得するしかないと諦めた。

 離婚調停で争う気力も失せ、月一回の面会権だけで、離婚を成立させた。

「ただ、家族はもっと違うもので繋がっていけると思っていたけどね。」


 5月GWも終わった第2週の週末金曜日の午後6時、拓海を保育園へ向かえに行った。毎月第2週の週末金曜日から日曜日までが僕と拓海との面会日と言うことで、これで、7回目となった。保育園の玄関で

「吉川拓海をお願いしま-す。」

にっこり笑って保育士さんへ伝えながら

「苗字も変えやがって!」

と、心で毒づく。

 拓海が、着替えの入ったバッグを引きずりながら走ってきた。

「パパ!」

「今日は、パパなの?」

「うれしいな。バスに乗る?」

「お帰り。たーくん、クックが無いよ。下駄箱から持っておいで.」

「はーい。」

元気よく下駄箱のところへ走っていった。

走って戻ってきながらまた、同じ質問をしてる。

「ねえ、ねえ、バスに乗る?」

「うん、バスに乗って帰ろうね。」


 彼は、最近乗り物に興味があるようで、僕の家に帰るときは、バスに乗れるのでそれがうれしくてたまらないらしい。ちなみに理恵は、自家用車で迎えに来ている。

バス停で待っていると、

「たーくんとパパが手をつないでいると、幸せだね。」

くー!泣けてくる!

 拓海との時間がうれしくて「幸せだね」を思わず口にしていたら最近覚えて、なんにでも「幸せだね」を連発してくるのだが、判ってはいても、うれしい。毎日世話をしていたころは当たり前すぎて、彼の可愛さをないがしろにしていたことを、今になって実感する。


 1か月に一度のこの2日間を一分一秒無駄にしないように、拓海との逢瀬を楽しみたい。

 バスが来て、一番後ろの席に座った。拓海を膝の上に乗せると、拓海も外の景色を見ることができた。

「あっ、クレーン車だよ」

「おんぶブーブー!」

彼は、カーキャリアーをこう呼ぶ。いつまでそう呼んでくれるのか分からないが、この呼び名さえも愛おしい。

「パパ、今日は何作ろうか?」

「今日は、ハンバーグにしようと思うんだけど?」

「そうだね。ハンガーグが良いね。」

「パパ、明日は、ピザが良いな。」


 俺のところへ来たときは、一緒に夕飯を作ることになっている。拓海の好物を作るのだが、少しお手伝いしているので、いかにも自分が作っているように得意そうに話をするところも可愛い。

 ハンバーグの種は、昨日のうちに下ごしらえしておいた。あとはみんなまぜて、こねて焼くだけになっている。「ピザか?」まあ、明日の朝、少し早起きしてピザ生地の下ごしらえだけしておけば、夕方、焼くだけだな。俺はイクメンだから、料理もうまい。

「お・か・げ・さ・ま・で!」


 1LDKのマンションに帰宅。すばやく着替えて、着替えさせて、早速ハンバーグを作る。拓海は、ハンバーグを粘土がわりにして、ヘビ、ちょうちょ。なんて作ってくれるが、焼くのは大変だ。ホットプレートにそっとのせて、ふたをして焼き上がりを待つ。その間にサラダを作って、ご飯をよそって、テーブルに着いた。ようやく購入した彼ようの椅子に拓海が座って、ご機嫌だ。焼きあがって、ふたを開けると、拓海が歓声を上げた。

「パパ、出来たよ。美味しそうだね。残さずに食べるんだよ.」

生意気なことを言っても、可愛い。みんな大人の口真似なのだが、おもわず、

「はーい。残さずにたべまーす!」


 食事の後は、一緒に風呂に入った。体を洗う時に、石鹸でシャボン玉を作ってやると、嬉々として全部つぶすのだ。「やれやれ」作る先からつぶされて、

「えー!つぶしちゃいや!」

なんて、なげいてやると、「キャッキャ」と大はしゃぎ。なかなか、シャンプーまでたどり着かないのだ。最後に数字を100まで数えて、風呂を出る。着替えてドライヤーで乾かすころには、目がトローンとしてきて、おねむの時間となる。

 寝室のベッドに入り、

「パパ、明日は早起きして、公園に行って、キックボードやりたい」

半分、夢の中のようだが、しっかり希望だけは言って寝てしまった。


 僕は、元妻から、

「つまらない、魅力がない」

と、三下り半を突きつけられたけど、育休中に公認会計士の資格を取っていたんだよ。実際の仕事に役立つかどうかわからないけど、僕には僕なりのライフプランがあった。もう少し、育休中迷惑をかけた今の税理士事務所で頑張って、いつか君のように独立できる時には、事務所の先生に笑って送り出してもらいたい。そう、思っていた。


 今は、独立出来たら、拓海との時間も、もう少し増やしていける環境を作って、理恵にも頼んでみたいし、頼まなくたって、拓海自身から僕と一緒にいたいと言ってもらえるように頑張りたい。

「イケてると思っていたんだけどなあ。」

ふっと、つぶやいていたら、拓海が、

「頑張って!」

「えっ?」

「アキちゃん、残さないで食べて…」

「たーくんだって、ちゃんと食べたよ…」

だってさ。僕を応援してくれたんだと思ってびっくりした。

「寝言かよ。」

そっと、拓海の頭を撫でた。


「おやすみ。」


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