ライフワーク 02
次の日も、たくさん遊んだ。公園に行って、家でパズルをして。ピザも粘土のようにこねたけど、うさぎさんとカメさんの形になった。できあがったピザのピーマンを「うーん」と眺めていたが、目をつぶってがぶっと食べた。
「えらいなあ、拓海。ピーマンも食べられるんだね。」
「パパ、えらくないよ。食べるのは当たり前なんだよ。栄養があるんだから。」
言葉が出ません。やっぱり、すべてが可愛い。
そうして、あっという間に、2日間は過ぎてしまった。元妻の家までバスで送る。拓海はうれしそうに、窓の外を眺めている。バスで20分。結構近くに住んでいる。それでも、遠い。
拓海が、
「ねえ、パパ。またパパのおうちにお泊りできる?」
「いい子にしてたら、お泊りできる?」
と、尋ねてきた。
「拓海、ママが一緒だから、さびしくないだろ。」
「拓海は、ママと一緒にいることが一番幸せなんだよ。」
「うん。ママと一緒で、しあわせだよ。」
「じゃあ、安心だね。あと30回ねんねしたら、保育園に迎えに行くよ。」
「待っててね。」
「うん、良い子にして待ってる。」
「そうしたら、パパといっしょに遊べるね。」
「パパも、良い子にして待っているんだよ。」
「うん。パパもお仕事頑張って、良い子にして待ってるよ。」
最寄りのバス停で降りて5分ほど歩くと理恵のマンションに着く。さっきLINEしたからマンションのアプローチのところまで来ているはずだ。理恵の姿が見えた。心なしか繋いでいる拓海の手が強く握り返した気がした。
「じゃあね。パパ。またね」
後ろも振り返らずに、理恵の手を取って玄関へ走っていった。あんなにいっぱい遊んでも、僕は理恵には勝てないのか。がっくりと疲れが出て、とぼとぼと、バス停へ向かった。
泣きそうだ。僕はこんなに、拓海を愛していたのか。あのちっちゃな手が、しっかりと僕の手を握っていた。その感触を思い出していたら、携帯がなった。理恵だ。
「私だけど」
「何? なんか忘れてきたかな」
拓海の持ち物が足りなかったのかと聞いた。
「拓海のこと、ありがとうございました。」
「いいよ。礼なんか。君の為じゃないよ。僕の為の時間だからね。」
「拓海が、さっさと戻って来たから、言いそびれちゃって。」
「だから、いいんだよ。拓海といるための時間なんだから。」
少し沈黙が流れた。そして
「私ね。この半年、いろんなこと考えた。貴方のこと何も考えなかったなあとかさ。」
なんだよ。今更。心の中で突っ込みいれたけど黙っていた。
「強引に離婚に持って行っちゃって、ごめんね。」
「実は、少し反省してる。貴方が育休取ってくれて、その後も家事も育児も頑張ってくれたこと、何にもわかってなかった。」
「今更って思っているでしょうけど、でも、ちゃんとそのことにお礼を言っておかないといけないと思って。ほんとうにありがとうございました。」
何か、不思議な気がした。あのまま結婚していたら、一生聞けない言葉だったと判る。理恵はそんな女だ。自信家で、周りにいる人間をすべて利用してのし上がっていくタイプなのだ。でもかなりの美人で、笑うと八重歯が可愛いから、僕も含めてころっと騙されてる。得だよなあと感心していたが、まさか捨てられるとは。」
そんなことを考えていたら、
「拓海がね。パパとママと一緒にご飯が食べたいって泣いてるの。貴方とさよならするの辛かったのね。もう一度、家に来てくれるかしら。どう?」
離婚することになって、大変だったのは大人だけではなかった。拓海も小さくて、うまく言葉にできなかっただけで、両親と一緒にいられないことを辛く感じていたんだ。かわいそうな拓海。でも、ごめん。
「悪い。今日はこのまま帰るよ。君に感謝された後、のこのこと君の家に行きたくないのが本音。」
「拓海は、君からうまくいってくれ。」
電話を切って、歩き出した。理恵も今、大変なんだろう。でも、彼女のことは彼女が頑張るしかない。僕は、もう、旦那ではないんだ。いつか、拓海の親として、応援しないといけない時が来るかもしれないけど、パートナーではない。あの時は、泣きたかった。つらかった。たった一人の家に帰っていくことにも、なかなかなじめなかった。僕だって、色々なことを考えた。でもさ、
「離婚して半年以上たっているんだよ。理恵。」
そう言って気づいた。そう、僕は、離婚について、吹っ切れていたらしい。
僕は、この半年、拓海に、恋い焦がれている。
寝ても覚めても、拓海のことを思っている。
永遠に両想いにならないだろう君に恋いしている。
君はどんどん大人になって、君の世界を作っていくんだ。
あと、何年一緒に風呂に入ってくれるんだろう。
君が少し大人になって、僕との距離を考えるようになるまで、
どのくらい時間があるか判らないけど、大切にして
いっしょにワクワクドキドキしていこう。
キャンプにも行こう。
自転車旅行も良いな。
山登りもやるか。
どこまでも親は親だから友達にはなれないけど、君の興味をひけるような、
そして、君の興味のあることにもついて行けるような大人でいられるように、
パパはパパで頑張るよ。当然、仕事もね。
「そうだ、ジムに行って身体鍛えるか!」
最後まで、お読みいただきまして ありがとうございました。
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涼音色 ~言ノ葉 音ノ葉~ 第12回 ライフワーク と検索してください。
声優 岡部涼音が朗読しています。
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