09:めでたしめでたし
ハインリヒ様が正式にゼルニケ家の当主となって1年が過ぎた。クルノフ城の城主であられる大貴族、リヒテンシュタイン侯からは、ハインリヒ様の予想に反して引き続きゼルニケ家が代官職を命ぜられたようだ。流石のインキュバスも、侯爵様の元までは噂が届かなかったのかもしれないな。
前伯爵の喪が明け、晴れて今日ハインリヒ様とコルネーリラは夫婦となる。2人が出会ってちょうど2年が過ぎていた。
前伯爵亡き後のハインリヒ様は、それは頻繁にボルスフェルト家へと足をお運び下さった。長年禁じられていた乗馬も早々に訓練を始めたそうで、当主になり僅か数ヵ月後にはおひとりで駆けてこられた。いつ雪が積もっても不思議はない季節に、である。まあそんな姿も愛らしいと思えたが、もう少しご自分のお立場を理解していただきたいとも思う。しかしこの辺りはこれから私が手綱を握ってやろうではないか。
かつて母が袖を通した白い婚礼衣装に身を包む。結婚するのが何度目か聞くのはやめておくれ。コルネーリラにとっては生涯一度きりの経験だ。
馬車に乗り込む前に、一度邸を振り返った。ボルスフェルト、良い家だった。この邸で暮らした思い出は、この先にも温かな記憶として残り続けるだろう。あと何年コルネーリラとして生きるかはわからぬが、悔いの残らぬよう精一杯生きてみるよ。
家族と共に教会へ向かう。ゼルニケ家の邸、そしてクルノフの城からもほど近い場所に建つ、荘厳な聖マルティン教会だ。遠くからでも目立つ2本の塔が、この国に暮らす人々の縁となっていることを思わせた。400年を超える由緒正しき教会だからな。
規模はまるで違うものの、ボルスフェルト家が毎週通い続けている領地内の教会とどこか同じ匂いがする。
ハインリヒ様は、ハレの日にかつて私が贈ったクラヴァットを結んで望まれた。領主の婚礼の場にも恥ずかしくない出来であるとは思っているが、なんとも可愛らしいことをしてくれる。ハインリヒ様、この薄暗く、重々しさのある教会の中でもわかるほど、陽に焼けて健康そうに見えるようになったな。以前よりも少し肩幅も広くなったように見えるよ。9番目の夫人の子であることが恥ずかしいとかつてあなたは言ったが、今日のあなたを見ると9番目でよかったのではないかと私は思うよ。窮屈な人生が20年で済んだのだからね。長すぎたと思うかい?20年などこれから先の人生を思えば、そう長くもないさ。多分ね。
ボルスフェルトの家族とゼルニケ家の家臣らが見守る中、私たちは神に永遠の愛を誓った。
お読みいただきありがとうございました。
この話は18世紀(1720年代)のクルノフ公国(現チェコ)をイメージした創作です。
次の転生先でお会いできましたら幸いです。(9/25の午前7時に転生予定です)




