第52話 それぞれの思惑
――学園・教官室前
学園内は、いつもより慌ただしかった。
廊下を行き交う教官たち。
原因は、数日前の特別科二年の任務報告。
王家監察局の介入。
その影響は、学園にも及んでいた。
「まさか、監察局が直接出てくるとはなぁ……」
一人の教官が、廊下の隅でため息を吐く。
「生徒たちも頑張ったんだがな」
「現場を知らない人間に評価されるってのは、厳しいものだ」
その話を聞いている青年がいた。
「教官も大変な立場ですね」
柔らかな声。
振り返る。
「……セドリックか」
三年生。
そして特別観測員。
成績、魔法能力、判断力。
全てにおいて優秀。
学園内でも評判の高い生徒。
「王家監察局が学園のことに興味を持つなんて思わなかったよ」
教官が苦笑する。
セドリックは笑う。
「まあ、監察局はエリート集団ですから」
「この学園を卒業した後、さらに上の環境で学んでいる人たちですし」
「だよなぁ……」
教官は肩を落とす。
セドリックは少し間を置いて言う。
「でも、教官」
「学歴や所属より」
「生徒から信頼される大人の方が、価値があると思いますよ」
教官が顔を上げる。
「……セドリック」
「僕にできることは限られています」
「ですが」
「僕にできることがあったらなんでもしますよ」
そう言って、机の上の資料を見る。
「よかったらこの資料、僕が運んでおきますよ」
「悪いな」
「助かる」
教官は安心したように笑った。
「やっぱり君は頼りになるな」
「いえ、そんなことは」
セドリックは笑顔で頭を下げる。
そして。
教官の姿が見えなくなった瞬間。
表情が変わった。
「……こんな重要資料を学生に預けるなんて」
「学園側も随分と甘いな」
資料を持つ手。
その目には、先ほどまでの優しい色はなかった。
――
――進級発表の日まで遡る
エルフィナは、静かな廊下を歩いていた。
驚きはなかった。
前日に、教官から話をされていたから。
『特別科への編入を考えてみないか』
正直、迷った。
危険度の高い場所。
普通科とは違う環境。
効率だけを考えるなら。
「合理的ではありません」
そう答えることもできた。
でも。
祖母の言葉を思い出した。
『若いうちの苦労は買ってでもしなさい』
母は心配していた。
「無理はしなくていいのよ」
父は静かに言った。
「決めるのはお前だ」
だから。
選んだ。
やらずに後悔するより。
経験して得るものを選ぶ。
そして――
今。
エルフィナは五人の背中を見る。
ガルド。
感情で動く。
ノア。
責任を背負う。
セレス。
人を繋ぐ。
ミラベル。
まだ未知数。
だから。
(私が支えなければ)
(このチームは強くならない)
その時。
ふと、思い出す。
『君は優秀だね』
『特別科に選ばれるだけの理由がある』
進級発表の日。
人気の少ない廊下で声をかけてきた人物。
セドリック先輩。
『期待しているよ』
その言葉。
優秀な先輩から認められた。
それは、エルフィナにとって大きかった。
(私は選ばれた)
(なら、応えなければならない)
エルフィナは前を見る。
それが正しいと信じて。




