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地獄の毎日から目覚めた少女は、元王家の生き残りでした 〜新しい運命の扉を開く〜  作者: 白椿(しろつばき)


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第50話 歪な五角形

――国境任務から帰還して数日。


特別科二年の空気は、重かった。


監査官から告げられた言葉。


『連携不足』


『判断基準の不一致』


『このままなら班編成の見直しも検討する』


それ以来。


誰も、あの日の話を口にしなかった。


訓練は続いている。


だが。


以前のような自然な会話は減っていた。


団体訓練をしても、どこか噛み合わない。


互いの考えを探りながら動くせいで、一瞬の遅れが生まれる。


結果。


ここ数日は個別訓練ばかりになっていた。


――そんなある日。


――学園・特別科実習棟


朝。


掲示板の前にミラベルは立っていた。


貼り出されていたのは一枚の通達。


『模擬防衛任務』


『市街防衛演習』


突発的な魔物災害を想定。


市街地を守りながら敵を排除する、集団戦形式の訓練。


ミラベルは掲示を見上げる。


(……もう一度)


(ちゃんと向き合わないと)


隣でエルフィナが紙を見る。


「合理的な訓練ですね」


淡々とした声。


だが、その表情は少し硬かった。


後ろからガルドが言う。


「また訓練かよ」


「現場じゃねぇのに意味あるのか?」


ノアが返す。


「実戦で失敗してから直すよりいい」


セレスも頷く。


「前回の反省を踏まえて、まず役割を決めよう」


「誰が指示を出すか、どう動くか」


だが。


ガルドは首を振った。


「そういうの苦手なんだよな」


「やりながら合わせればいいだろ」


セレスが困った顔をする。


「でも、事前に決めておいた方が……」


するとガルドは胸を張った。


「言っとくけど、俺の方が歳は上だからな」


「こういう時は年長者を立てるもんだろ」


セレスは言葉を失う。


ノアは少し考えた。


そして。


「分かった」


「じゃあ今回はガルドに任せる」


「え?」


セレスが驚く。


ノアは小さく笑った。


「ただし」


「まとめ役をやれ」


「指示を出して、全員を動かせ」


試すような目。


ガルドは一瞬黙る。


だが。


「……任せろ」


「俺についてこい!」


その言葉に。


エルフィナが静かに言う。


「分かりました」


「今回は貴方の判断を見ます」


――


市街演習場。


開始の合図。


崩れた建物。


逃げ惑う人型標的。


複数の魔物。


本番に近い状況。


「行くぞ!」


ガルドが前へ出る。


「正面突破だ!」


ノアが叫ぶ。


「待て、配置は――」


しかし。


ガルドは止まらない。


巨大魔物へ向かって走る。


「また……!」


エルフィナが眉を寄せる。


だが。


次の瞬間。


魔物の視線がガルドへ向いた。


巨大な腕が振り下ろされる。


ガルドは笑う。


「ほらな」


「こっち見ただろ」


その隙に。


後衛が動ける。


セレスが気づく。


「……囮になった?」


ガルドは無茶をしている。


でも。


完全な無謀ではない。


問題は――


それを誰にも伝えていないこと。


「エルフィナ!」


ガルドが叫ぶ。


「今だ!」


エルフィナは反射的に魔法を放つ。


直撃。


魔物がよろめく。


「……」


エルフィナが一瞬黙る。


「今の判断は悪くありません」


「なら最初から共有してください」


「細かいことはいいだろ!」


ガルドが笑う。


その瞬間。


別方向から魔物が迫る。


「右!」


ノアが叫ぶ。


「俺が行く!」


ガルドが振り返る。


「私が援護します!」


エルフィナも同時に動く。


――ぶつかる。


「きゃっ」


「うわっ」


二人が体勢を崩す。


「危ない!」


ミラベルが咄嗟に魔法を放つ。


攻撃を防ぐ。


セレスが声を上げる。


「二人とも下がって!」


「今は僕たちで片付ける!」


ミラベル。


ノア。


セレス。


三人の連携。


魔物を倒した。


――


訓練終了後。


ガルドは満足そうだった。


「な?」


「結果、勝っただろ」


エルフィナは淡々と言う。


「結果だけなら、です」


ガルドの笑顔が消える。


「貴方の判断で助かった場面はありました」


「ですが」


「共有がなければ、次も成功する保証はありません」


「指示する者は、自分だけ分かっていてはいけない」


ガルドは黙る。


「……じゃあ」


低い声。


「お前がやればいいだろ」


「お前なら完璧なんだろ?」


エルフィナは少しだけ目を伏せる。


「少なくとも、今よりは整理できます」


「……」


ガルドの拳が握られる。


ノアが口を挟む。


「二人とも」


「どっちが正しいかじゃない」


「どっちも足りないんだ」


静かになる。


ミラベルが口を開いた。


「私は……」


少し考える。


「ガルドは、間違ってなかったと思う」


全員が見る。


「前に出たことで、魔物の意識を集めた」


「だから私たちも動けた」


ガルドが少し驚く。


「でも」


ミラベルは続ける。


「私たちはまだ、ガルドが何を考えて動いているか分からない」


「だから怖かったんだと思う」


ガルドは何も言わない。


「エルフィナのいうように先に伝達してくれたなら、みんなが同じ方向を見られる」


「でも、ガルドの強さも必要だと思う」


「だから」


ミラベルは笑う。


「どっちかじゃなくて、合わせられたらいいんじゃないかな」


ノアが頷く。


「次はエルフィナのやり方で試す」


「その後、ガルドの強みを組み込む」


セレスも笑う。


「僕たちはまだ途中なんだよ」


「改善できるところはある」


ミラベルは少し安心した。


(少しずつ)


(変われるかもしれない)


その横で。


ガルドは俯いていた。


(……結果は出た)


(それでいいだろ)


なのに。


胸の奥が妙に引っ掛かる。


認められなかった悔しさ。


否定されたような痛み。


その瞬間。


足元の影が。


ほんの一瞬だけ。


不自然に揺れた。


誰も気づかなかった。


ただ一人を除いて。

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