表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地獄の毎日から目覚めた少女は、元王家の生き残りでした 〜新しい運命の扉を開く〜  作者: 白椿(しろつばき)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/3

第3話:森で芽生える覚悟

朝の光が、森をやわらかく染めていた。


葉の隙間から差し込む光が、揺れるたびに形を変える。

静かで、穏やかで——けれど、まだ“知らない場所”の空気。


昨晩、老人の家で過ごしたことで、身体は少し休まっていた。

それでも胸の奥には、小さな緊張が残っている。


(……ここでも、生きていかなきゃ)


ぽつりと呟き、胸元のペンダントに触れる。

かすかな温もり。握ると、少しだけ呼吸が楽になる。


でも——


(……頼りすぎちゃ、だめ)


その安心に身を任せそうになる自分を、そっと止める。

助けは、いつか裏切りに変わる。前世で刻み込まれた感覚は、簡単には消えない。


それでも、私は足を前に出した。



朝食を済ませたあと、私は昨日の約束どおり、お爺さんの手伝いを片付けた。

洗い物を終え、薪を整え、庭を掃く。考えるより先に身体が動く。


手を動かしていると、不思議と心が静かになった。


「ありがとう、助かったよ」


振り返ったお爺さんに、小さく頷く。

それだけで十分だった。


支度を整え、私は森へ向かう。


ざわ、と茂みが揺れる。ぴたりと足が止まる。


(……なに?)


視線だけを動かす。音のした方を見る。

何かがいる。でも、姿は見えない。喉がひりつく。


「……だれか、いるの?」


声は思ったより小さかった。返事はない。

ただ、風が葉を揺らす音だけが、やけに大きく聞こえる。


逃げるべきか——

そう考えた瞬間、胸元にかすかな温かさを感じた。


ペンダントがそっと手に馴染む。


(……え?)


自然に、足が進む。怖い。

でも——前に進む力が、胸の奥に生まれていた。



森の奥へ進むと、空気が変わった。

静かで、少しだけ重い。


やがて、それは現れた。

苔むした、大きな石。人の背丈より高い灰色の石碑。


長い年月を経ているはずなのに、刻まれた紋様だけは、はっきりと残っていた。


(……これ……)


胸がざわつく。知っている——はずがないのに。

ペンダントがわずかに光る。石碑も、かすかに反応している。


足が自然と近づく。手を伸ばす。


触れた瞬間——


――あたたかい。


石の冷たさではなく、懐かしいぬくもり。

胸の奥に、幼い頃の感覚がよみがえる——母の優しい手のぬくもり。


(……おかあ、さま……?)


視界に断片が浮かぶ——白い部屋、高い天井、光の差し込む窓。

そして、優しく微笑む女性。長い髪、同じ色の瞳。


涙が出そうになるのを、必死でこらえる。

前世の記憶ではない、今の“私”の中にあるもの。


手を離すと、光はゆっくり消えた。

でも、ぬくもりだけは残っている。

まるで——見守られているみたいに。



夜、老人の家に戻る。

暖炉の火が静かに揺れていた。

差し出された湯を両手で包む。指先の震えはまだ残る。


「……何か、あったか」

不意に、老人が言った。顔を上げる。相変わらず穏やかな目。


「……森の奥で、石を……見つけました」

少し迷ってから言う。


老人はゆっくり頷く。


「……そうか」

火のはぜる音だけが、静かに響く。


「この森にはな、昔から“守る者”がおった」

視線は炎を見つめたまま。

「王に仕え、あるいは——王を守るために、在り続けたものじゃ」


心臓がどくんと鳴る。


「お前さんの持つそれも……」

一瞬だけペンダントに視線が落ちる。

「……その一つ、かもしれんな」


曖昧さが逆に胸に残る。


(……私は)

ただの迷い人じゃない。その感覚だけが、はっきり残った。



夜は深くなる。

与えられた寝床で天井を見つめる。


(……助けてくれる人がいても)

目を閉じる。

(……信じすぎちゃ、いけない)


前世の記憶——拒絶、無視、存在を否定される感覚。胸がきゅっと痛む。


でも——

今日、石に触れた時、確かに温かかった。

見捨てられていないと、思えた。


ゆっくりペンダントを握る。かすかな光。小さな温もり。


(……この世界で、生きる)

逃げるためじゃない。


(……そして、いつか)

誰かに与えられる側じゃなく——


(……守れるようになりたい)


夜の闇が、すべてを包み込む。

恐怖だけじゃない。

その奥に——確かに、小さな光が芽生えていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

来週から10話辺りまで試験的に週2回投稿します。

月曜日と金曜日を予定しております。

どうぞ宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ