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第139話 記憶の中の形

「おーい!セレス!いるのか?無事か?エルフィナ!」


「ちっ、霧で何も見えねえ!」


「ガルド?」


懐かしい声に、ガルドは振り返った。


真っ白な霧の中そこにいたのは、一人の女性だった。


「……母ちゃん?」


女性は優しく微笑んだ。


「ガルド、あんたは偉いね。よく頑張ってる」


「……っ」


ガルドの顔がくしゃりと歪んだ。


「……そうかな?俺、ちゃんとやれてる?」


「うん。よく頑張ってるよ」


「……へへっ」


涙がこぼれた。


進級できなかったことも、仲間に置いていかれた気がしたことも。


本当は、ずっと悔しかった。


「……俺さ、今は新しい仲間もできたんだ。変な奴ばっかりだけどよ。結構、楽しくやってるんだぜ」


ガルドは手を伸ばした。


けれど、その手は途中で止まった。


「……あれ?」


母親が首を傾げる。


「どうしたの?」


「いや……」


ガルドは母親の顔をじっと見つめた。


母親が亡くなったのは、自分が五歳のときだ。


目の前にいる母親は、あの頃と何も変わっていない。


「……あれ?」


ガルドは首を傾げた。


「母ちゃん、あの頃と変わってねえな」


母親は優しく微笑んだまま、何も答えない。


「俺だけ年取るのはおかしいだろ?」


ガルドは伸ばしかけた手を止めた。


「なあ、母ちゃん……いや」


ゆっくりと剣に手をかける。


「お前、誰だ?」


母親の笑顔が止まった。


次の瞬間、その顔がぐにゃりと歪む。


白い霧が渦巻き、女性の姿が異形へと変わった。


「悪ぃな」


ガルドは剣を構えた。


「もうちょっとだけ、会ってたかったけどよ」


涙を拭う。


「母ちゃんは、こんなとこにいねえもんな」


怪物が飛びかかってきた。


ガルドは一歩踏み込み、剣を振り抜いた。


     *


霧が晴れた。


木々の間から、青空が覗いている。


ガルドは袖で顔を拭った。


「……ありがとよ」


それから、空を見上げる。


「久しぶりに母ちゃんに会えたわ!」


そう言って、ガルドは歩き出した。


目元はまだ赤かった。




「何よ、この霧……!」


「ガルド!セレス!フェリクス!カイン!誰かいないの?」


返事はない。


霧の中を進んでいると、前方に人影が見えた。


見慣れた制服の少女だった。


「……リナ?」


少女が振り返る。


その顔を見た瞬間、エルフィナの胸が締めつけられた。


「久しぶりね、エルフィナ」


「……リナ。ごめんなさい。私、あなたに何もできなかった」


「ううん。あなたは悪くないよ」


「……本当に?」


「うん。だから気にしないで」


リナは優しく微笑んだ。


「それに、あなたは今もミラベルと一緒にいるんでしょう?」


「……ええ」


「よかった。あなたは何も失わずに済んだんだね」


「違う、私は……」


「私がいなくなっても、あなたは平気だったんだね」


「そんなことない!」


思わず声が大きくなる。


リナは悲しそうに目を伏せた。


「本当は、私に嫌われていると思っているんでしょう?」


「……っ」


「だから、謝りたいんだよね。私に許してもらいたいんでしょう?」


エルフィナは答えられなかった。


「ミラベルなら、きっとあなたを責めないよ」


「……」


「ミラベルは優しいものね。あなたも、あの子みたいになりたいんでしょう?」


エルフィナは俯いた。


ミラベルなら、どうするだろう。


リナが自分をどう思っているかなんて考えるより先に、リナのことを考えるのだろうか。


自分が許されるかどうかではなく、ただ相手を見捨てないことを選ぶのだろうか。


「あなたは、私を助けたいんじゃない」


リナが一歩近づいた。


「自分を許したいだけでしょう?」


「……っ」


胸の奥を抉られたようだった。


否定したい。そんなつもりじゃないと叫びたい。


けれど、何も言えなかった。


「あなたはリナじゃない」


エルフィナは顔を上げた。


「リナの気持ちを知りもしないくせに、勝手に決めつけないで!」


少女の笑顔が消えた。


その顔がぐにゃりと歪み、腕が異形のものへと変わっていく。


怪物が叫び声を上げた。


エルフィナは、目を逸らさなかった。


「……ごめんね、リナ」


小さく呟く。


「でも、あなたの気持ちを、勝手に決めさせたりしない」


怪物が飛びかかる。


エルフィナは一歩踏み込み、魔法を放った。

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