第1話:絶望の果てに、そして森へ
毎日、働かされ、叱られ、踏みつけられるだけの人生――。
そんな絶望の果てで、少女は目を覚ます。
気づけば、見知らぬ森の中。
胸には母の形見のペンダント。
周りには、やさしい風と木々のざわめきだけ。
彼女はまだ知らない。
自分が元王家の生き残りであることを。
そして、これから歩む新しい運命を。
絶望の毎日から逃れた少女が、静かに最初の一歩を踏み出す物語――。
「働け」
その一言で、私の一日は始まり、終わる。
田舎町の片隅、古びた木造の家。
“家族”と呼ばれる人たちと、私は暮らしていた。
——母は、もういない。
幼い頃、病で死んだ。
父はすぐ再婚し、新しい母と弟ができた。
けれど——変わったのは形だけだった。
「ぼさっとしてないで動きなさい」
継母の冷たい声が、今日も響く。
食事の支度、掃除、洗濯、畑仕事。
朝から晩まで、休む時間はない。
父は仕事に夢中で、私を見ない。
継母は、少しでも手を止めれば舌打ちをする。
街で働いても、報酬はすべて取り上げられる。
守られることはない。
ただ、大人の責任だけを押し付けられる。
(……なんのために生きてるんだろう)
答えはない。
ただ、毎日をやり過ごすだけ。
⸻
——その日、体は熱に侵されていた。
立っているのも辛い。視界が揺れる。
それでも、休むことは許されない。
扉の向こうから、苛立ちを含んだ声が落ちてくる。
「お前……私に移したらどうするつもり?」
「私には持病があるの。迷惑かける気?」
返す言葉はなかった。
息をするだけで、精一杯だった。
父と弟の声も重なる。
「なんで何もしてないの?」
「役立たずだな」
「本当に使えない」
胸の奥が、じわじわと冷えていく。
(……もう、いい)
力が抜ける。
視界が暗くなり、床に倒れ込む。
(助けて……)
——そう思った瞬間、胸の奥が強く拒絶した。
(やめて)
(助けなんてどうせ、来ない)
(来たとしても——)
(また、裏切られる)
期待するだけ無駄…
だから——
「こんな人生、もう二度と繰り返したくない……」
⸻
風の音がした。
木々を揺らす、やわらかな音。
遠くで、小川のせせらぎが混じる。
ゆっくりと目を開ける。
そこにあったのは——見たことのない景色だった。
青く広がる空。
木々の隙間から差し込む光。
(……ここは、どこ?)
私は——確か、死んだはずなのに。
⸻
視線の先。
森の奥に、苔むした石碑が立っていた。
長い年月を経たはずなのに、どこか異様な存在感を放っている。
その瞬間——
胸の奥が、わずかに痛んだ。
(……なに、これ)
懐かしいような、怖いような感覚。
⸻
手を胸元にやる。
母の形見のペンダント。
かすかに温かい。
まるで——何かを伝えようとするように。
⸻
深く息を吸う。
森の空気は、驚くほど澄んでいた。
(……ここでも、生きていくしかない)
そう思った、その時。
ペンダントが、微かに光った。
一瞬だけ。
けれど確かに——“何か”が応えたように。
⸻
私はゆっくり立ち上がり、森の中へと歩き出した。
読んでくださり、ありがとうございます。主人公の成長を一緒に楽しんでもらえたら嬉しいです。




