のんびり屋なツウナは、星を見る
素敵な場所。ツウナはそれを探して旅をしていました。
生まれた場所の近くにあった中で一番お気に入りだったのは、生まれた小惑星にあった、自分の体がちょうど良く収まる穴。恒星の声もほど良く聞こえる、良い場所でした。
なんとなく、どことなく。理由はそんなものでいい。
兄弟たちといたころにはできなかった、もう一つの好きなこと。「うごくものに乗ること」も旅立ってからは好きなだけできるようになりました。
親の脚に掴まって飛んだときに、初めて気づいたことです。
ある時は生き物ではないほうの彗星に乗ってみたり、またある時は惑星に乗って恒星を眺めてみたり。
ツウナは気ままに旅をしながら、見つけた場所の良さや嬉しさを歌います。
ある時見つけた素敵な場所、それはある衛星にあった浅い穴。この衛星が周囲を回っている惑星には生き物がいて、穴は惑星を眺めるのにちょうど良い位置にあります。
ツウナは、イチマほど星の上で生きるものに興味はありません。進んで観察するほどではありませんが、賑やかさがなんとなく好き、というくらいです。
ライカから教わった『冬眠』は、本来なら食べられるものが無い場所に行ってしまった時に使う技です。食べ物にぶつかるまで体を丸めて、エネルギーを使わない状態にすることで命をつなぐためのもの。
ツウナは、気に入った場所にいる時も『冬眠』を使います。
『彗星』は何でも、それこそ岩でも炎でも食べられる生きものですが、何も食べずにはいられません。お気に入りの場所で長くゆっくりするには、「意識はある」というくらいの浅い『冬眠』がちょうどいい。
星の上の生きものたちに意識を向けて、ツウナは眠りにつきました。
ツウナの耳は『彗星』の中でも良いほうで、まどろみの中にいながら惑星で起こったことを知ることができます。
より力の強いものが勝つ、巨大な生きものの時代の終わり。道具を使う生きものの誕生。道具は複雑さを増していき、弱く小さな生きものは数を増やしていきます。
少しずつ、惑星の上から声が聞こえ始めます。
何もない場所でも伝わる、遠くまで素早く届く、『彗星』の使うものと同じ電磁波の声。惑星に住む生きものたちがより速く、より遠くを目指すようになったという兆しです。
惑星から飛んでくるものに気がついて、少しだけツウナの意識ははっきりしました。
惑星と声でやり取りをしながら、大気の層を突き抜け衛星へ向かってくるものがあります。中に生きもののいる気配はありません。惑星に住む生きものが作った道具、機械だけが出てきたのでしょう。
衛星の上に、機械は降り立ちました。ツウナの眠る場所からは大分離れたところにいます。
『彗星』の感覚で言えばしばらく、星の上の生きものの感覚でいうなら途方もなく長い時間を、ツウナは動くことなく過ごしてきました。体には塵が積もり、小さな山にしか見えません。
『冬眠』状態にある今のツウナに近づいたとしても、生きものであると気づくことはできないでしょう。
降りてきた機械は、ほんの少しだけ衛星に留まり帰っていきました。何をしたのかまでは分かりません。けれど次に何が起こるかは、予想できます。
また少し時間が経った後、惑星から飛び立つものが再び現れました。今度は、生きものを乗せています。
衛星の上に降り立ったそれの中から、生きものが降りてきます。宇宙へ踏み出す新たな一歩、その足跡が衛星に刻まれました。
まだ、ツウナの正体を知られることはないでしょう。ほんの少し『隠れ身』を使うことで、その時が来るまでの時間はさらに延びるはずです。
『彗星』は、星の上の生きものの近くにいられません。いつか、この場所を離れる日が来ます。けれどその日がくるまでは、次の一歩をツウナは見つめ続けます。