さびしがり屋なトリアは、『たんさき』と出会う
不安と期待を抱きながら、トリアは旅立ちました。
けれど悲しいことに、トリアの向かった先は宇宙の中でも寂しいところだったようです。行けども行けども、寂しい空間が広がるばかり。
恒星は、星々は確かにそこにあります。それらの放つ声もまた、あります。けれど、トリアの声に答えてくれる誰かは、見つかりません。
誰か、答えてくれる誰かはいないのか。
寂しさを歌に変えながら、トリアは進みます。
トリアの耳が遂に捉えた、誰かの声。受け取るものもなく宇宙を漂う、断片のようなそれとは違う。受け手へ向けて届けようという意思が通った誰かの声が、そこにあるのだと感じ取れました。
声の来た方向へ、期待を大きく膨らませながらトリアは飛びます。
見つけた声の主は、小さな機械でした。トリアが触れたら簡単に壊れてしまいそうな、本当に小さな機械。とてもゆっくりと宇宙を進みながら、近くにはいない誰かへ向けて声を届け続けています。
トリアはその声から、機械の使う言葉を学びはじめました。全ての『彗星』が、自分たち以外の使う言葉を理解できる訳ではありません。耳と頭が良くなければ、できないことです。
機械の言葉が『彗星』の使う言葉よりも簡単なものだったことに加えて、機械がトリアがでたらめに発した言葉に反応してくれたため、トリアはすぐに言葉を覚えられました。
機械は、自分を『たんさき』であると言います。『彗星』と同じように、宇宙を旅するために生まれたのだと。
「私の故郷に住む人々は、あなたのように自由に宇宙を旅することはできない。けれどそうすることに、宇宙に強い憧れを抱いていた」
見上げることしかできなかった星々の下へ行き、人々の知りたがっていた様々なことを調査する。それが最初の、旅の目的だった。
星の調査が無事に終わり、『たんさき』は「誰も行ったことの無い場所」へ向かい続けることになりました。故郷から離れる勢いに任せて、どこまでも。
故郷に戻りたいと、故郷の人々の言葉を聞きたいと思った事はないのか、とトリアは問います。
「無い。私たち『たんさき』は未知へ挑戦するために生み出されるものだ。どんなに離れようと、故郷の人々と私は同じ想いを共有している。送り続ける情報こそが、彼らとの絆だ」
うらやましい、とトリアは思いました。この『たんさき』には、寂しさに負けないだけの何かがある、それが自分には無い。
「私も、あなたがうらやましい。故郷の人々は私に持てる技術を尽くしてくれたが、あなたほど自由に宇宙を旅する能力を持てなかった。私に、あなたのような強い体があれば」
自分に無いものを求めるのは、『彗星』も『たんさき』も同じだったようです。
トリアは声をうまく使って、『たんさき』の電池を充電してあげました。短い間でしたが言葉を交わすことで、少しだけ寂しさが癒されたお礼です。
「ありがとう。宇宙は、あなたが思うほど寂しい場所では無いはずだ。少なくとも、私が来た道の向こうには、故郷の人々がいる。同じ使命を与えられた兄弟も、この宇宙のどこかを飛んでいるはず。そしてそれは、あなたにとってそう遠くない場所のはず」
この『たんさき』を送り出した人々と会いにいってみようか、そうトリアは考えました。どんな人々が彼を送り出し、彼の情報を受け取っているのか。それが知りたい。
『たんさき』の大きさからして、昔見た宇宙船の乗り手のように、彼らの体はとても小さいのでしょう。直接会ったら怖がらせてしまうかもしれません。
それでも、遠くから声を聞いたり話しかけたりはできるはず。そうすることのできるのどと耳を、トリアは持っています。
「そうか。もし話が出来たら、私に会ったということも伝えておいて欲しい」
トリアは『たんさき』に名前を聞きます。種族としての名前ではなく、個体としての名前を。
「私はボイジャー1。地球の人々と、兄弟機のボイジャー2によろしく」
このやり取りを最後に、トリアはボイジャー1と別れました。進路は彼の故郷へ、歌には出会いへの期待を乗せて。
暗く寂しい空間の向こうに、誰かがいる。そう思うだけで、少しだけトリアも寂しくなくなりました。




