第11章
レイワマンションの新規ご契約ありがとうございます?~第11章 (最終章)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
Scene. 34 さらば姫百合島
コンシェルジュ☆ヤソキチの横顔が豊島のほうに振り向くと、先ほどよりも真剣な眼差しに変わっていることに気付く。
「豊島君、そろそろ本来の目的についてご説明しようか。私の家族には黙っているように言ってあるので誰にも伝わっては居ない筈だが・・・」
と、そこへ一台の装甲車風のバスが家の前に到着する。
「お、着いたな。」
ヤソキチはそう言うと、玄関に出迎える。
それは原田シンクタンク局長だった。いつかの警視総監も居る。
豊島の驚いている様子にかまう事もなくヤソキチは二人をリビングへと案内する。
豊島も黙って着いていく。
「ヤソキチさん、例のこともう告げられましたか?」
「それがね、なかなか言い出しずらくて・・・とりあえず豊島君に話そうとしていたところだから君達の登場はまさに渡りに船という感じで・・・」
「こまったお方ですね、相変わらず。では私からご説明しましょう。」
そういうと原田が立ち上がる。部屋のカーテンを閉めるとモニターに何やら持参したデータを映し出す。映し出される表題に豊島が飛び上がらんばかりに驚愕する〜〜〜
「人類移転計画~実は〜〜〜、火星なのだよね~」
原田は姫百合島警視総監とヤソキチを見やると覚悟を決めたように説明を始める。
「先ずね、私共日本政府の意向により戦後より計画を進めてきた「人類移転計画」についてご説明しましょう。
これは来る地球環境の劇的な変動により人類が滅亡する可能性から派生した案件でして、その中でも先鋭的に地球外への人類の移転先として火星を選択、滅亡前に火星環境を人工的に生命の住める環境へと進化するための壮大なプロジェクトであります。
浮谷総理の時代に水面下で遂行してきましたが、批判的反体制に移行してゆく中、このプロジェクトの実質的なリーダーが此処に居られるヤソキチさんとなります。」
原田がヤソキチに眼を向けると、まるでご氏名に預かったようにヤソキチが今までにないキリッとした風貌に様変わる。
「そこで、科学的見地から徹底調査を国際宇宙局と連携し行った結果に基づき研究を日夜実施してまいりました。その拠点としてここ「姫百合島」で遂行し始めました。同時進行的に他分野で開発中の「次元移転装置」の開発とも連携し、やがて完成を見たわけです。ところが海外でこの情報が漏洩したため、スパイがここに潜入するとの情報が入りまして、更に秘密裏に開発を進行せざるをえない状況に陥りました。そのためこの姫百合島に開発の昨日を凝縮し漏洩防止に努めた次第であったのです。」
豊島は気難しい面持ちで事の次第を見張る。
原田が続ける。
「そして国際ロケットパイロットである我が国の代表的宇宙飛行士、エミさんのお父さんに移住のための段取りを現地火星に滞在の際に着手し始めたのです。そこで「レイワマンション」に関係のある者を人選した上で居住していただき、監視下の元で移住に対応する生活適正をリサーチし続けました。それぞれの使命に適任であると理解したうえで人選していたのです。豊島さんには商社マンとして物資供給のエキスパートの手腕を既に生かしていただいたお陰で無事「次元移転装置」の完成を見たわけです。装置を取り付けたリニアを運行し完成度を高めた上で研究を重ね、リニアごと宇宙空間へと移転する方向へと実現することに至ったのであります。既に火星への往復が可能となっており、シェルター建設は着手されています。そこで、人選された「レイワマンション」の住人の方々にはこれより移住に関わるレクチャーを実施していただくことになります。」
「ですが、私はそんなことは・・・会社も在るし、何も準備が・・・」
豊島が引きつったような表情へと変わる。
「大丈夫ですよ、豊島さん。いいですか、これは「国家プロジェクト」なのですよ!あなたはどこの国の住民ですか?そうですね日本人です。この国におけるあなたに課せられた義務でもあるのです。もう逃げることなど出来ません。もっとも、この話の説明をあなたにするのが最初でよかったかもしれませんが。政治絡みの案件もすでに手馴れていらっしゃる。このような現実を理解するのも容易いと思いますからね。しかし問題は他の方々、そう、サトル君と恵美さんです。彼らは未だ若い。このような国家権力による縛りは二人の未来にとって重大なことの筈。当然パニックも想定されます。そこで、あなたにリーダーシップを取っていただいて・・・二人を火星に無事送り出して欲しいのです!」
ナンデストゥ~!とかつてのヤソキチのように言わんばかりに顔面が高揚する。
居てもたっても居られぬ様子の豊島はよろよろと立ち上がるとトイレへと向かう。
豊島は個室の中でこれまでのレイワマンションでの住民との出来事、それぞれの行く末などに思いをめぐらす。彼らに伝える前に既にオレがパニックだ。
これは・・・・・何かの罠か?だが・・・これからの人生に関わる大きな転機になることに違いない。そして・・・私がリーダーシップを取るべきなのだろうか。私には、そう今の私には理解しがたい事案である。どうしたものか・・・
浮かない様子の豊島がトイレを出て再びリビングへと向かう。
何故か行く先のリビングから先ほどの3人の談笑が聞こえる。これは・・・
窓の外には夏の日差しが眩しい。
この地球環境が果たして激変するというのか。
疑念は後を絶たない。
すると窓外からレミママとサトルたちが現れた。
咄嗟に居てもたっても居られぬ面持ちで豊島は玄関へと向かう。
「あら、豊島さん!二日酔いは抜けた?」
「レミさん、それから君達!早く乗って!」
思いがけず出た言葉に自分でも驚く。
玄関前に鎮座している装甲車の運転席に豊島が飛び乗った!
幸いにもエンジンキーは付いたままである。
エンジンをかけると怪訝な面持ちの面々も乗り込む。
と、豊島は装甲車を急発進させる。
4人の逃亡に気付いたウメ子がスリッパをパタ付かせながらリビングへと駆け込む。
ひしゃげたその形相のウメ子はリビングのヤソキチに向かって口火を切る。
「アナタ大変よ!アイツラ逃げたわ!」
その形相におののく3人。慌てて屋外へと駆け出す。
ウメ子がガレージから旧車のシトロエンを引っ張り出すと皆が乗り込む。
どうしたことかあの落ち着いた態度のウメ子の形相に亭主のヤソキチもおののく。
するとマニュアルギヤをローへとぶち込むや、ウメ子がシトロエンで暴走を始めた!
「お、お前、気は確かか?」
「何よ、アナタがグズグズしているからこんなことになったんじゃないのよ!そもそもアイツラをとっくに火星に送り返していればこんなことにはならなかったのよ!」
「そんなこと言ったって、アイツラだって自分たちが火星人だなんて気付いていないんだ。」
「へぇ~そんなこといって、そもそもエミのお父さんが火星からこの星に来た際に処分して置けばよかったのよ!
まったくアナタ達先祖代々は皆んな昔から変な欲をおこして、挙げ句に火星を乗っ取ろうなんて考えるからこんなことになっちまうのよ!
私達家族だって一家離散にするし、もう、どういう頭の構造しているのよ!」
「な、ナンダトゥッ!そもそもお前みたいなブスでマヌケでデベソと結婚しなければ良かったな!」
「何よ、じゃああのブスで火星人のレミママと一緒になってひなびたスナックでもやってれば良かったじゃないの!」
「ああそうさ、そのほうが良かったさ!大体レミママのほうが・・・」
「え、何よ」
「カワユイ」
「あなたパカね」
「ナニィ!パカッて何事だ!」
「だからパッパカパカパッパッパ~~~~」
「それを言うなら「ぱっぱらぱっぱっぱっ~、ダロ?」」
「パカの一つ覚えねっ」
「パカパカパカ・・・お前がアルパ~カ」
同乗の原田と警視総監がとめどなく続く二人のやりとりにあきれ果てる。
☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~
「豊島さん、一体どうしたって言うのよ!」
「いいですか、皆さん驚かないでください。今、以前この島に到着したときに会った原田女史の亭主と警視総監が来まして、そしてこの島から私達を火星へ移住させる計画を告げられました・・・」
「は、アナタ未だ酔っているの?豊島さんたらフフフッ!面白い人!」
レミママの言葉にサトルとエミも微笑む。
「いいえ、違うんですよ・・・そう、ヤソキチさんが夕べ語った「国家プロジェクト」の真相が明らかになったんだ!」
その言葉にレミママが動揺する。
「と、いうことは・・・本当だったのね、火星の話。」
その言葉に豊島が慌てて急ブレーキを踏む。
「え、レミさん、何かご存知で?」
「ええ、実は私、「レイワマンション」のことについて以前から調査していたのよ。それも彼氏が国際宇宙ステーション開発に絡んでいて、スパイみたいなことをやっていたから・・・酔った勢いで私にへんな夢物語のようなことを言っていたのよ。もちろん最初は私だって信じては居なかったけど。でもね、ヤソキチさんが「スナック☆南国」に通うようになって、その真相を突き止めたくて酔ったところでカマをかけてみたのよ。そうしたらどういう訳か火星移住計画の話を始めてね。つい最近のことよ。それも最近あの人もボケが始まっていたようだから、どうやらゲロっちゃったのね。でも信じられなくて・・・」
「そうですか、そう、そのことなんですが。どうやら僕達レイワマンションの住民を火星へ移住させる計画で、いよいよそのためのレクチャーが始まるということで・・・僕をリーダーとして火星開発に携わらせる計画のようです。それも将来的に火星に人類を移住させるための第一陣のようで・・・」
3人は事の重大さに引きつる。
豊島が装甲車を先へと進める。
すると、ヒッチハイカーなのかこちらに手を振る男性が見えてきた。
エミはその男性のシルエットを見るや身を乗り出す。
「あ、お父さん?」
そう、そこには宇宙飛行士のエミの父の姿。
「エミ、無事でよかった。俺も乗せてくれ。」
エミの父はハンケチで額の汗を拭うと5人は先へと目差す。
「お父さん・・・なんで此処に?」
「ああ、君達を迎えに来たんだよ。サトル君、エミを守ってくれてありがとう。私も秘密裏に国家プロジェクトに関わってきたのだが、そう、皆もご存知かな?これは私達人類にとって大きな役割を成すということで始まってはいたが、どうやら胡散臭いことで調査した結果、ヤソキチが火星で独裁者になろうとしていることが判明したのだ。それにしてもここのメンバーは君達だけか?」
「あ、しまった!」
豊島は夏子を忘れてきたことに気付く。
「ナッチャン、連れて来ないと。」
「でも、ヤソキチが追ってくるはず。しかし困ったな。人質になっちゃうな。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
Scene. 35 夏子の気持ち
夏子は一部始終を見ていた。
私も歳をとったものね。何のために此処にきたのかしら。
それにしてもおかしな住民達。
そしてこの不思議な「姫百合島」
今度はこの家から皆出て行ってしまった。
今朝のコーヒーの残りをダイニングですする。
すると、傍らに原田女史が現れる。
「夏子さん、置いてかれちゃったんだぁ。かわいそうに!」
「え、それってどういうこと?」
「ほら、昨日お父さんが言っていた「国家プロジェクト」のこと、未だご存知じゃない?」
「そうね、何のことかしらね。」
「あら、意外に落ち着いているのね。」
「うん、ある意味予想はしていたわ。そもそも私が「レイワマンション」の住民として選ばれたことと私が作る宇宙モノの小説になにか因果関係がありそうなことは想像していたの。」
「じゃ、話は早いわね。父の計画でもある「国家プロジェクト」とは、マンションの住民を火星へとお引越しさせるための計画なのよ。そして父が住民を奴隷として開発に当たらせて、その暁には火星の征服者となり独裁政権を引いて牛耳ろうと企てているのよ。」
「へぇ、ヤソキチさんらしいわね。何だかチープなネタね。」
「ふふふ、そうよね!さすがに女流作家さんとは違いますね。」
「と、すると私は置いてかれて言った始末で、まるで人質ね。」
「あら、嗅覚が優れていますね。でもね、私は昔から父のことなんてこれぽっちの信用もしていないのよ。そして厳しく育てた母のことも。だから、あなたを逃がしてあげる。」
「原田さん、此処に来て変わったようね。」
「いいえ、ちっとも。女って怖い生き物ね。」
「そうね、お互いに。」
二人は妙な連帯感で微笑む。
「じゃ、行きましょうか。」
「え、どちらへ。」
「レイワマンションへ!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
尚もぶつぶつと夫婦喧嘩ともいえぬやり取りを交わしているヤソキチ夫婦。
やはり似たもの夫婦である。
もうウンザリ顔のバックシートの原田と警視総監は居眠りを決め込む。
「やや!」
夫婦の言葉を遮ったのは、シトロエンの目の前に突如として現れて走り去るリニアだった。
「えい、あ~のバカ娘め。夏子を逃がしおったか!」
「何言ってんのよ、あなたの子でもあるのよ!」
「そもそもワシのDNAには無い行動だがね、パカDNAは!ケッ!」
「なんですって!」
どうしたことか、ウメ子は急ブレーキを踏むとヤソキチの頬にビンタを食らわす。
その様子にバックシートの二人がたまらず噴出す。
「もうっ、あなたとは離婚よ!さぁ降りな!」
そしてヤソキチは車を降ろされた。
力なく立ち尽くすヤソキチ。
足元にはご丁寧に印鑑までつかれた離婚証書が落ちている。
拾い上げると涙ぐむ元コンシェルジュ☆ヤソキチ。
「ウメ子チュワア~ン~ンンッムムゥ・・・」
夏の光にハゲ頭だけがキラリとハレーションを上空へと放射してゆく。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
豊島は汗ばむ手でしっかりとハンドルを握り続ける。
夏子との短かったが楽しい近所づきあいを回想してみる。
すると、変な自信がみなぎってきた。
「エミちゃん、夏子さんなら大丈夫。」
「え、どういうこと?」
「彼女は鼻がいい。」
「え、意味わかんないし・・・」
「きっと無事帰ってくるさ!」
すると装甲車の横に突如としてリニアが現れる。
突然のことでハンドルを切り損ねそうになる豊島は急ブレーキでかわす。
ハッチが開くと夏子が降り立つ。
「ハロー、エミちゃん。」
エミはやっとのことで胸を撫で下ろす。
そして一同は装甲車を乗り捨ててリニアへと乗り込む。
「え?原田女史?」
エミの父は怪訝な表情。
「で、君は家族を裏切ったというのかい?」
「そうよ、女って怖いのよ~!」
「ならば、いざ出発だな。エミ、マンションまで帰ろう!」
サトルがエミにウィンクする。
「ちょっと待って!ちょっと寄る所があるの。」
原田女史はそういうとスマホで何かを入力し始める。
一同は急に怪訝な表情に変貌する。
さては、嵌められたか?
入力を終えると静かにリニアは走り出す。
前面のモニターの表示が「火星」と表示される!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
Scene. 36 リアル火星って?
いつの間に眠りに付いたのであろうか。
エミが気付くとリニアの中で一人ぼっちとなっていた。
ハッチは開いている。
不信にも外の様子を伺う。
そこは真っ白なリニア駅のプラットホーム、何とも幻想的に浮かぶ。
誰一人いないホームへと降り立つ。
壁に点々と表示された矢印に従って先へと進む。
かなり大きな駅のようだ。
遥か先に出口のような階段が現れる。
登ってゆくエミ。
上階から日の光がまばゆく差し込む。
明順応した頃、不思議な錯覚を覚える。
あれ、ここは・・・
目の前には普段の生活拠点である見慣れた景色。
錯覚かしら・・・
しかし、「レイワマンション」と看板が掲げられている。
どこかが違うのは、入り口に草が茂っていること。
出かけている間にこんなにも・・・
振り返るとリニアの駅の入り口が見当たらない。
不思議な面持ちでマンションの入り口の扉を押す。
鍵が掛かっている。開かない。
「おい、何してるんだ?」
振り返るとサトルが佇む。
「帰ってきたのかしら?」
サトルに問いかけるエミ。
怪訝な表情のサトル。
エミは駆け出す。
その先の角を曲がると・・・
ない。
そう、いつものレイワ不動産。
こちらは看板すらない。
着いてきたサトルに問いかける。
「ねぇ、どういうこと?」
「は、お前こそ何言ってるんだ?会社早退したと聞いたから探したぞ。」
「え、早退?」
と、スマホにメールが入る。
エミは覗き込む。
内容はこうだ。
「エミちゃん、長旅お疲れ様。いろいろとお世話になりました。このメールをもって領収書とさせていただきます。 By/コンシェルジュ☆ヤソキチ レイワマンション家賃及び雑費(リニア旅行代含む 金:10億円 )」
「え、ウッソゥ~」
「え、何て?」
「うんう、ナンデもない・・・てか、いつのまにここが火星?」
~ Fin ~




