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島津又一郎、宗家嫡男となる

番外編です。

今までマルっと触れて来なかった島津久保と亀寿の話を書きます。

本編第一章二話「ビザンツ帝国の憂鬱」の辺りの話となります。

 あれは嫌な女子じゃ。

 後に島津家家督を継ぎ、名を島津忠恒→家久と改める米菊丸は、従姉の亀寿姫をそう思っていた。

 亀寿は本家の娘である。

 本家当主・島津義久には男子がいない。

 長女・御平と次女・新城が早々に同族に輿入れした時は、まさかここまで男子が生まれないとは思っていなかったのだろう。

 五十歳を過ぎても一向に男子が産まれず、義久は焦りと共に、次善の手を打ち始めた。

 それが三女・亀寿に婿養子を迎え、その者に家督を継がせる事である。

 言うなれば亀寿は、長女・次女を差し置いて「島津の嫡女」という立場になったのである。


 一般論だが、女子は男子よりも健康で、壮健で、成長が早い。

 男子は案外病弱だし、思春期を迎えるまでは女子より身体が小さい事もある。

 本家の跡取りで、かつ年上の従姉。

 こういう女性はかなり気が強く、小さい従弟をイジメたりする傾向があった。

 米菊丸は島津の男子には珍しく、文弱な感じがあった。

 絵巻物を好み、蹴鞠を嗜む。

 そんなナヨっとした従弟を、亀寿はいじりまくった。


「なんなの?

 そげな書物ばかり読んどって?

 こいは亀が没収すっとな」

 そう言って読んでいる源氏物語を取り上げる意地悪をする。

「何をすっとじゃ、こん醜女(ブス)が!」

 男の子とは大概馬鹿である。

 将来自分の嫁になるかもしれない女性に対しても、心の底から思ってなくても、悪態をつく。

 そして悪口の語彙は大概貧弱だ。

 バーカ、ブース、デーブとこんな感じだ。

 そう言われて泣く子もいれば、自分の方が体が大きいから、生意気な男子を攻撃する子もいる。

 島津の女は後者だ。

 亀寿は米菊丸の足を掴むと、股を開き、その下帯の部分に足を当てると、全力でグリグリし始めた。

「やめーい! やめーや! うぎゃぁぁぁぁ」

 屈辱に悶える米菊丸を見下ろしながら

円信院殿(ははうえ)直伝、男子三年殺(でんきあんま)

 参ったか、こんヤッセンボが!」

 そう言いながら小さい米菊丸の米菊丸をいじり倒していた。


「おう、亀寿、相変わらずクセラシか女子じゃな」

 そう言いながら島津忠豊(後の豊久)が入って来た。

 亀寿は(嫌な奴が来た)と思うも、続いて入室した男性を見て顔を赤らめ、居住まいを改める。

「又一郎殿もご一緒ごわしたか」

 悶絶する米菊丸の足を放り投げると、正座してこの男を出迎えた。


 島津又一郎久保、米菊丸の兄で、島津義弘の次男である。

 横にいる島津忠豊が、言ってみれば少女マンガの彼氏のような中性的美少年なのに対し、久保は少年漫画の主人公系な、太い眉、細マッチョな体つき、光の強い目を持つ美武士であった。

 それでいて極めて紳士的。

 兄に男子がいない事を憂いた義弘が、義久との話し合いの後、万が一の時は当主となるべく教育を施したせいである。

 少年漫画主人公系な容姿とは裏腹に、大声で喚く事もなく、所作振る舞い一つ一つに微妙な色気を漂わせつつも、礼に適ったものをしていた。

 米菊丸は思う。

(どっからどう見ても、兄上にベタ惚れしよっとが!)

 男らしさと紳士らしさ、それでいて少年らしいあどけなさもあり、箱入り娘の亀寿には理想そのものの男性と言えた。


 なお、その横の忠豊を亀寿は全力で無視している。

 この少女漫画の彼氏風な男は、その見た目とは真逆で粗野なのだ。

 後に徹底的に礼法を叩き込まれ、(薩摩比較で)上品な中務(なかつかさ)(サア)と呼ばれるこの男は、少年期は悪ガキそのものであった。

 ある時、亀寿はこの従兄・忠豊と喧嘩になった。

 忠豊は女子に対して、手加減はしても容赦はしない。

 亀寿の顔面に頭突きを食らわすと、そのまま頭を肩に乗せて亀寿を担ぎ上げ、

「首折り、背骨折り、股裂き!、両足極め!

 奥義・五所蹂躙絡み!」

 と恐ろしい技を使ったのだ。

 これの最大の問題は「股裂き」である。

 この時代の女性は、下帯を着けていない。

 逆さまに担ぎ上げられ、恥部を晒された姿で股裂きをされたのだ。

 これ以上ない屈辱である。


 なお忠豊はその後、彼の父親である島津家久と、亀寿の父親である島津義久によって制裁された。

「女子に何チナ技使っとじゃ!」

 激怒した家久は、忠豊の両腕を逆さ羽交い締めに極めた後、回転して遠心力で高く放り投げ、逆さまに落ちて来る忠豊の首に自らの膝を当てて地面に叩きつける

「薩摩の断頭台」

 と後にフランス人に名付けられる技を使った。

 忠豊の頭が地面に叩き付けられる刹那、島津義久が下段蹴(ローキック)を頭部にぶち込む。

「こいは本当は、関節を逆に曲げ、折りながら投げて、頭を蹴る技じゃっど」

 というのが真の姿だが、とにかく家久・義久のツープラトンで忠豊は丸一日寝込む重傷を負った。

 

 このようにケジメこそ取らされたものの、亀寿は忠豊が苦手であり、忠豊もまた全く反省等していない。

(あん時、俺いは親父(おやっど)に何をされたんじゃったかな?)

 と記憶障害になっているせいかもしれないが。


 そうこうしている内に、親父たちが入って来る。

 亀寿の父親で、島津家当主義久。

 久保と米菊丸の父親、島津義弘。

 忠豊の父親、島津家久。

 他に、義弘と家久の間の叔父である島津歳久も居並んでいる。

 歳久にも男子はなく、養子を迎えていた為、この席ではやや重要度が低い。

 だがその歳久が議事進行役であるのは、義弘と家久では脳筋過ぎるからかもしれない。


「おはんらも知っちょお通り、我が薩摩はよお分からん事になった。

 どうやら日ノ本には居らんようじゃ。

 こいは実に危うい事じゃ。

 島津家存亡の危機ゆうても良か」


 そう、ここ薩摩国は桜島の謎の発光の後、よく分からない世界に転移してしまったのだ。

 父親たちが取った首を見ても、どの首もどの首も南蛮人ばかり。

 蛮族の中に放り込まれたと言っても良い。

 周囲皆蛮族の中、島津家は滅亡の危機にあるという認識である。

 無論彼等は、自分たちの方が蛮族と恐れられているとは露程も思っていない。

 訳の分からぬ言葉を話す敵を、問答をちょっとしてから「耳障り」だから首にしただけで、それが蛮行とは微塵も思っていない。

 後には、もう言葉が通じないのを理解したから、問答とか尋問とかまだるっこし中間段階を省略して首に直結させるのだが。


「こん事態において、一族の結束を固めるは大事な事ぞ。

 そいゆえ、おはんらに伝える事がある」

 重苦しい雰囲気の歳久。

 一つ咳払いをし、当主・義久が口を開いた。

「又一郎、おはんを我が養子とし、嫡男と致す。

 それに当たり、おはんは我が娘・亀寿と夫婦になって貰う。

 異存有りや?」

 ある程度予測していたのか、久保は涼し気な所作で

「異存御座いませぬ。

 謹んでお受けいたし候」

 と頭を下げた。

 そして正座のまま体の向きを亀寿の方に改めると

「斯様な運びとなり申した。

 姫君には某のような若輩では勿体無いかと存ずるが、決まった以上夫婦の契りを交わしていただく。

 どうかよろしくお願いいたし申す」

 と面と向かって言ってのける。

 内容な遜ったものだが、口調も表情も決して卑屈ではない。

 父親たちは亀寿の方を見るが、ポオっとして顔を赤らめて、心ここに無い感じであった。


(俺いたちは何の茶番を見せられちょっど?)

 米菊丸からすれば、気に食わん従姉が、兄の又一郎にベタ惚れしてるのは分かり切っている。

 あのクソ意地悪な女子が、又一郎を目の前にすると、急にナヨナヨし始めて気持ち悪い。

 それに又一郎は前々から「京に上っても恥ずかしくない」よう教育され、父親たちからもそのように見られていたのだ。

(又一郎兄者が亀寿を娶るんは、前から決まっておったんじゃなかか?

 今更何じゃ?)

 他に候補者等いない。

 年齢的には忠豊の方が上なのだが、正室腹の義久・義弘・歳久兄弟に比べ、側室腹の家久の子である為、順位としては下の方になる。

 何より亀寿は忠豊を嫌っていた。

 米菊丸は、つい最近も敵の首を上げて来た忠豊を好んでいて、ちょっと完璧過ぎて引いている兄・久保よりも懐いている。

 だから大好きな忠豊に、あの憎らしい亀寿が嫁がなくて良かったと思っていた。

(じゃで、又一郎兄者しかおらん中、改めて俺いたち従兄弟全員を集めて何がしたかったとじゃ?)

 後に悪魔的な政治力を持つ米菊丸も、この時期は全く「儀式」「形式」の意味を理解していない。

 ただただ退屈な茶番を見せられ、飽き飽きしていた。

 故に、彼の身に起こる事も上の空でほとんど聞いていなかった。


「……という事で、又四郎兄上(義弘)の後継ぎは米菊丸になっど」

「そいしか無か。

 じゃっど、俺いの家は(ゆっさ)の先駆けを務める習い。

 最早稚児ンままでは置けん。

 すぐ元服じゃ」

「待ちやい、兄上。

 米菊はまだ十歳、元服には早かど」

「議バ言うな!

 こん事態に稚児でいられる幸せなど許されぬ。

 早かれ遅かれ鬼でん修羅でんになって貰うでな。

 又七郎(家久)、おはんは気に入らんが、おはんの倅は良か!

 あのように育てねばならん!」

忠豊(アレ)はただの戦馬鹿じゃど!

 アレの如く育ててはならん」

「じゃあ、おはんはどうしてあげなボッケモンに育てた?」

「勝手に育ったとじゃ!

 俺いは又一郎と同じ様に、京土産の茶や作法を教えておるというに……」

「何で俺いに流れ矢が降らねばならん?」

 ドカッ、バキッ……

「黙れ青二歳! 大人の会話に口を挟むな!」

「……注意する前に左右往復拳打デンプシーロール上下同時拳打ホワイトファング同時炸裂は、流石に可哀想じゃ。

 又四郎兄サァも、又七郎も、考えるより先に手を出すのはいい加減にせんか!」

「いや又六(歳久)、おはんも人の事とやかく言えんからな」


 このような大人の会話の後、父親に新しく覚えた蹴鞠の技を見せようとした米菊丸は、羽交い絞めにされた後、強引に前髪を落とされ、強制元服をさせられる。


「おはんは今日から島津又八郎忠恒と名を改める!

 最早、心に潤いは望めぬでな」


 米菊丸は、この言葉通りの人生を歩まされる事になるのだが、今はまだ分からない。

おまけ

又一郎久保のイメージ:

剣桃〇郎、鳳凰座の〇輝、幕ノ内〇歩、前田慶次、ジョナサン・ジョー〇ター。

これの15歳くらいバージョン。


19時に次話アップします。

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[良い点] おお! 番外編ありがとうございます! 薩摩隼人達の新たなエピソードを読めて、嬉しいです!
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