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サツマニアに転生してしまった男の悲劇

サツマン・パレオロゴス朝:

(島津家とパレオロゴス家による迭立)

初代 島津家久

二代 コンスタンティノス12世ヨハネス

三代 島津近久

四代 コンスタンティノス13世ミカエル

五代 島津満久

六代 コンスタンティノス14世テオドール

六代 島津輝久

七代 島津忠輝

八代 コンスタンティノス15世ルキウス

九代 島津瑠久

十代 ヘレネ(パレオロゴス家断絶)

以降サツマン・ドラクレシュティ朝に。

 令和二年、鹿児島県在住の俺、大山雄太(42歳)は結婚を前提としていた女性にフラれた。

「あなたは一緒に居てつまらないし、あなたも本当は結婚したいって思ってないんじゃない?

 私と一緒に居るより、趣味やって遊んでいた方が楽しいんじゃないの?」

 そう言われた。

 俺からしたら、どう接したらいいか分からず、凄く気を使ってた筈なんだが……。

 まあ、終わってしまったのは仕方ない。

 やけ白くまといこう。


 こうして大山雄太は寝る前に白くまを4杯食べるという自殺行為をする。

 結果、寝てる最中に粘度の高い液体が逆流し、気道を塞いでしまった。

(く……苦しい……、い、息が……)

 彼の意識は遠くなっていった……。




------------------------------




 彼は突然、胃に膝落しを食らって、悶絶と共に目覚める。

 そこには、数年前に死んだ父親が、若い姿で立っていた。

 そのまま二発目の膝落し。

 そして馬乗りになって殴りつける。

「朝じゃ! 起きんか!!」

 起こしたいのか、永眠させたいのか、どっちだ? と思いつつ、違和感を感じずにはいられなかった。

 彼は42歳の男の大厄年を迎えていた筈だが、鏡を見ると、中学生くらいにしか見えない。

 不思議がっていると、今度は木刀で殴打される。

「男が鏡で見栄えを気にすっとは、女々しか!!」

 父親が木刀? いや、棒っきれというべき太い木材を持って怒鳴りつける。

(おかしい、俺の父さんは話が分かる、インテリな人だった。

 こんな口より先に手が出る人じゃない。

 この人、誰なんだ?

 つーか、ここ何所よ?)


 家の中も彼の記憶と違う。

 テレビが有った筈だ。

 朝食を摂りながら聞いてみた。

「テレビはど……ぶおふぉ!」

「食事の時に喋るな!」

 朝から何発目だ?

 とにかく自宅は危険だ。

 早く学校に行かないと。


……間違っていた。

 学校?

 なんか、少年漫画の番長漫画の世界じゃないか!

 俺は一号生らしい。

 靴どころか靴下も許されていない。

 裸足で通学する事になっている。

 二号生は草鞋が許される。

 三号生は高下駄である。


 ここには校内暴力とか教師による暴行といった「問題」は無い。

 それは学舎内の秩序を作る為の「普通の事」なのだ。

 教官は刃引きの指導刀を持ち歩き、特に理由が無くても暴力は許される。

 だが、俺がいた日本の中学校と違うのは、反撃の自由が有る事だった。

 三号生辺りになると教官よりも強いのがいたりする。

「おい、大山の。

 酒持って来んか」

 どこの十代の学生だよ!

 だが、強いか、賢いか、美しければ、十代でヒゲを生やし、下駄で学舎を歩き回り、他人をこき使う事が許される。

 一体日本はどうなってしまったんだ??




 どうも俺は、この世界では賢い部類だ。

 この世界に来る前、中学校どころか大学まで卒業しているし、中学レベルでは上の方だ。

 どうもそういう賢い者は、座学には出ずに好きな本を読んでいる。

 俺もそれに倣って図書室に行き、調べてみた。


 とんでも無い事が分かった。

 ここ、鹿児島だけど日本じゃねえ!!

 なんで鹿児島がギリシャの隣に在るんだ??




------------------------------




 西暦1503年、島津近久が島津家家督を継ぐ。

 二年後、大山の知る北アメリカ大陸、この世界のサツマーニュ大陸で独立宣言が発せられた。

 直ちに統制回復の戦争が準備されるが、この戦争は起こらなかった。

 フランス王ルイ12世とヴェネツィア共和国が手を組み、ミラノ公国を占領した。

 第三次イタリア戦争の始まりである。

 恐るべき武将で、しかも情け容赦無い謀略家であった島津家久死亡に伴い、サツマン朝東ローマ帝国は甘く見られたらしい。

 フランスは大軍を動員し、フィレンツェを占領し、そのままナポリに向かう。

 ナポリにも島津家が居た!

 この島津家に、黒海沿岸の鹿児島から援軍が到着する。


……島津家をナメてかかった代償は大きかった。


 援軍の大将・家老新納忠清は苛烈である。

 実は援軍でなく、それは督戦隊であった。

 まずフランス軍とスイス傭兵に敗れた味方のある部隊を皆殺しにする。

「誰も彼も役には立たなかった。

 役に立たん軍は今宵潰す……」

 恐怖に支配されたナポリ島津軍は、被害を顧みずにフランス軍に突貫し、撃退に成功する。

 捕らえられた捕虜を、新納は皆殺しにする。

「何の天罰も下っていない。

 何百何千という人間を殺しても俺いは許されちょる。

 この数十年、神も仏も見たことがなか」

 批難に対する新納の返事であった。


 フランス軍はこの後、ダルマチア及びスパルタ島津軍によって壊滅させられる。

 ヴァネツィア、ジェノヴァも戦火に見舞われ、その繁栄は終わりを告げる。

 この敗北がヨーロッパに新しい枠組みを産む。

 フランス、イングランド、イスパニアが同盟を組んだのだ。

 これとフランドル、レオン・ナバラ、ナポリが同盟を組み、薩摩はこちら陣営となる。

 この同盟間の対決の為、サツマーニュ大陸の新国家は放置せざるを得なかった。


 イタリア戦争の影響は、南のアメリゴ大陸(大山の世界では南アメリカ大陸)にも及ぶ。

 本国フィレンツェが没落し、有力者はテラ・ディ・アメリゴ(ベネズエラ北部)に本拠地を移す。

 フィレンツェだけではない。

 イタリア戦争で戦場となったミラノ、ジェノヴァ、ヴェネツィア、ローマの商人がテラ・ディ・アメリゴを拠点にした新大陸事業に活路を見い出す。

 新大陸に参入して来たポルトガル植民地パウ・ブラジルとの間でアメリゴ大陸の取得競争が起こる。

 資本で勝るものの、軍事力や人口で劣るフィレンツェ系テラ・ディ・アメリゴは、神聖サツマーニュ王国及び超合衆国、そしてアステカ王国と同盟を結ぶ。

 ヨーロッパ系住民が入った事で、疫病が原住民を悩ませたりする中、ついに運命の発見があった。

 ポトシ銀山が発見されたのだ。

 新大陸は莫大な富を産む地となる。

 一方でヨーロッパの掃き溜めである事に変わりはない。


 既に本拠地を移したイタリア商人はポトシの銀を独占したい。

 一方で旧大陸勢力は、少数のテラ・ディ・アメリゴを潰して銀を奪い取りたい。

 サツマーニュ大陸、アメリゴ大陸共に自分たちの富をヨーロッパに奪われる事に反発、神聖サツマーニュ王国とポルトガル王国に軍事面を委ね、対立に至る。

 旧大陸ではとりあえずの対立を乗り越えた大連合が成立(ポルトガル、フランドルを除く)。

 こうして1582年、第一次世界大戦が勃発する。

(ポルトガルはインドと戦争を行っていて、戦火は東アジア以外に拡がる)

 この時、同時に宗教戦争も重なって、ヨーロッパは悲惨な事になってしまった。




 イグナトゥスの主導した宗教改革は、結局骨抜きとなった。

 確かにピウス3世在任時は、清貧、寛大、聖書への回帰、民衆への浸透という四本柱の改革は進んだ。

 だがイタリア戦争の結果、教皇引退後に裕福な生活を保証するルネサンス都市国家が軒並み没落する。

 引退して富貴になれないなら、やはり教皇在任中に豊かになる他ない。

 その為の縁故も必要だし、権威を示す建築も必要、寄付も必要。

 ピウス3世は清貧な教皇で、カトリックの権威を復活させた。

 だがピウス3世は急死する。

 謎の死だ。

 彼が復活させたカトリックの権威の上に、新しい世俗的な教皇レオ10世が即位する。

 レオ10世、俗名ジョヴァンニ・デ・メディチ、あのロレンツォ・デ・メディチの次男である。

 レオ10世は没落しつつあるイタリア諸国家から献金を出させる一方、メディチ銀行最後の巨大業務・菱刈銀の取り扱いに干渉し自分の収入とし、更に禁止された免罪符の販売を、「罪を消すのではなく、救いに至る神への奉仕を数値で表したもの」として復活させてしまった。

 かくして、マルティン・ルターとジャン・カルヴァンでは無い違う名前で「抵抗運動(プロテスタント)」は発生した。

 その理論付にイグナトゥスの改革時の言説が使われ、彼は素性の怪しさもあって失脚、「異端を作り出した大罪人」として処刑されてしまった。

 カトリックの正しい形への回帰を夢見ていた彼は、自分が産まれる前の時代において、自分の裁量を遥かに超える悪意の前に滅びた。


 こうして復活したカトリックと「抵抗運動(プロテスタント)」、再度離反した異端とされた諸派による自立と異端審問という、家久がそれらを潰す以前よりも更に酷いキリスト教暗黒世界が発現した。

 各地でキリスト教徒同士の殺し合いが起こる。




 この頃サツマン朝東ローマ帝国は何をしていたか?

 オスマン帝国と戦っていたのだった。

 バヤズィト2世の代でこそ蜜月関係のサツマン・オスマンであったが、代替わりすると薩摩は

「メフメト2世を殺し、コンスタンティノープル征服を邪魔した異教徒」

 となってしまう。

 薩摩がキリスト教世界の力を削ぐ事に専念していた為、当時宗教的に「キリスト教よりマシだな」と警戒されなかったイスラム世界は力を回復する。

 バヤズィト2世の後を継いだセリム1世はまだサツマンとの関係を維持したが、その子、第10代皇帝スレイマン1世はヨーロッパ征服の野心を持ち、最大の障害となるサツマン朝に戦争を仕掛ける。

 兵力に劣るも、海軍力に勝り、狂戦士(バーサーカー)じみた戦闘力を維持していた薩摩は、数十年に渡りイスラム勢力のヨーロッパ侵入を阻止し続ける。


 歴史はサツマン朝東ローマ帝国をこう呼ぶようになった。


”欧亜の絶縁体”と。


 後にイスラム勢力からは「キリスト教徒の侵略を防いだ壁」として感謝されるが、この時期は逆に「ヨーロッパへの侵攻を阻止する最大の障壁」として忌み嫌われていた。

 イスラム勢力がヨーロッパに入れない事で、ヨーロッパはかえって凄惨な事になる。

 大山の知っている歴史では、ヨーロッパに侵攻したオスマン帝国の脅威の前に、いがみ合っていたキリスト教諸国は時に戦争を中断、団結して異教徒の脅威に立ち向かっていた。

 しかし「欧亜の絶縁体」がウォール・サツマとして進撃のオスマンを食い止めている為、キリスト教徒は心置きなくお互い殺し合った。


 この中の負け組がヨーロッパに居場所を失い、宗教に寛大なサツマーニュ大陸に逃れてコミュニティを作り始める。

 これによって増加した人口は、神聖サツマーニュ王国の意思決定にも影響を与えるようになる。

 第一次世界大戦、別名ポトシ戦争において新大陸側が富の持ち出しを嫌い、内部完結型社会を望んだ裏には、逃げ延びて来た異端各派が「カトリック勢力による十字軍」を恐れたのも理由であった。




------------------------------




 大山は歴史教科書を閉じた。

 知らない内容に時を忘れて読みふけっていたが、もう帰らねばならない時刻だ。

 サツマン・オスマン蜜月時に生まれた機械式時計、航海に必要なこの機械が帰宅時間を告げる。

 遅れると、また説教より先に棒での殴打が来る。


 帰宅した彼は、絹製の和服に着替えさせられた。

(何だ?)

 と思ったが、黙って座ってろと言われる。

 しばらくしたら来客があった。

(え? マジ? 嘘だ!!)

 来客は、彼の前の世界での中学生時代、片思いだった子とその父親であった。

「おはんの嫁じゃ」

「へ?」

 殴られる。

 客の手前、かなり手加減された。

「男子十二歳になれば、嫁を持つもんじゃ。

 そいを、へ?等と気の抜けた事言うて……。

 覚悟を決めんか!」


 この世界では結婚は若い内にするものらしい、しかも親同士が勝手に決めて逆らえない。

(ラッキーじゃん!

 俺、元の世界じゃ陰キャで、結婚無理っぽかったしな。

……結婚出来ないのが元で死んだんだった、嫌な事思い出した)


 それがこの世界では、昔好きでたまらなかった相手と強制的に結婚だと!

 なんて素晴らしい世界なんだ!

 転生、最高!!


……だが、そうそう上手くいくものでも無かった。

 あの子の父親が語る。

「我が娘はじゃじゃ馬ごわしてな。

 結婚は良かじゃっどん、自分より弱か男は好かん言うてな。

 雄太郎殿は聞くに、頭は良かども武技は苦手とか」

「恥ずかしか。

 愚息は頭でっかちのやっせんぼうごわして」

「毎月立ち合いし、勝てるようになったら嫁入りする。

 そいまでは嫁にはなっどん、嫁入り床入りは断るチ言うちょお」

「まあ薩摩はジャンヌ(サァ)、カテリーナ(サァ)、ルクレツィア(サァ)と女傑歓迎の国。

 弱い女子は兎も角、うちのやっせんぼうな倅には、そんくらいの女子が丁度良か」

「ありがたか。

 こん猛々しさで嫁の貰い手が無く、大山サァが引き受けてくれた時は有り難かったど」


 ん? なんか俺の記憶と違う。

 あの子、活発ではあったけど、テニス部とかだったよな。

 なに、ラケットじゃなく木刀持ってんの?

「では雄太郎殿、いざ勝負!」


 違う! 君は俺の好きだった子じゃない!

 外側はそっくりだけど、中の人は雌ゴリラじゃないか!!!!


 転生者のその日は、中学時代の思い出のあの子にボコボコのズタズタにされ、気を失って終わった。

おまけ:

神聖サツマーニュ王国及び超合衆国成立後、薩摩人はサツマーニュ大陸を探検する。

彼等はある時、恐ろしい儀式を目撃する。

仮面を被った者が、生贄に刃物マクアフティルを突き立て、心臓を取り出していた。

群衆は酔ったように盛り上がっている。


「あいつ等アステカ族。

 怖い部族。

 早く帰る、そうしよう」


だが、見つかってしまう。

群衆は儀式を穢したと、激怒していた。


蛮人は蛮人に通じる。

「祭りを邪魔して悪かった」

そう言うと一人の薩摩人は、その場で腹を切る。

内臓を取り出し

「こいで許してたもんせ」

と言って事切れる。

興奮したアステカ族は、やはり誰か一人が自ら胸に刃物マクアフティルを刺し、心臓を取り出す。

「おお、此奴等許してくれたようじゃ」


切腹と心臓摘出の血溜まりの中、薩摩人とアステカ族は分かり合った。

世に言う「血の盟約」締結の瞬間であった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。 最後の血の盟約に笑ってしまいました。
[良い点] これはひどい!(最高!) アステカ示現流誕生の予感w
[良い点] 余章はサツマニアによって大改編されてしまったトンデモナイ世界が楽しめそうですねw [気になる点] 西欧はもはや原形を留めない有様のようですが、東亜はどうなってるんでしょうね? 大航海時代の…
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