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『魔の森の人形館は恐ろしい』
シンシアをメティスで見かけた冒険者があちこちで噂をしていた様で、道具屋巡りしている時によくその話を耳にした
人形館の主は幼く見えるが魔族であり、数多のゴーレムを従えている
そして大きな三階建ての洋館の内部はまるで迷宮の様だと言う
館の中には様々なゴーレムが徘徊し、侵入した者はあっと言う間に排除されるそうだ
逃げようとすると追ってこないので命までは取られないが、そのゴーレム達の強さはブロンズ級冒険者ではまるで歯が立たないと言う
そもそもここはダンジョンでも何でもなく、シンシア個人の家である
王国では魔族の権利も保証されていて、ここにシンシアの家がある事も法的に認められていた
ただ公的には平等でも多くの人々にとって魔族は畏怖や蔑みの対象であるらしい
メティスで絡んでいた者達も冒険者としては真っ当なものでは無かった様だが、そう言った不届き者の侵入が跡を立たないそうだ
シンシアとしてはただ犯罪者から自衛しているだけであったのだが
そんなメティスで名の知れた恐怖の人形館は………
跡形も無く焼け落ちていた
「儂の家が…ゴーレム達が…」
焼け跡を前にシンシアは放心している
そんな状態のシンシアにかける言葉も思いつかず、なんとなく焼け跡を見て回る
(なんて言うか、まるで爆発が起きたかの様な壊れ方だな)
よく見ると焼けた様子の無い破片も多く、
あちこちに飛び散っていた
(しかしまあこれだけの広さの建物が全壊とは、一体何があった?暴走ゴーレムが規格外の強さだとは言え、ここまでできるとは思えないが…)
人形館だったと思われる範囲は相当な広さだ
話によると三階建てだったらしいし、その全てを壊すのはかなり困難だろう
(シンシアに聞いていた話では遠距離攻撃や魔法の類は使えない筈だったが…ん?)
フィーが何かを見つけたらしく、瓦礫の上でクルクル回っていた
敵でもアイテムでもないのはマップに表示が無いので判明している
(まあフィーが要らん事するワケがない、言う通りにあの瓦礫の下を探すか…)
俺は近くに転がっていた木切れを手にフィーの元へ向かった
瓦礫の下から掘り出したのはゴーレムの残骸だった
上半身の一部と右腕しか無く、顔も大半が砕けている
無機物とは言え元は人型だったからか割りとグロい
「…マスター…ですか?いえ…違うようですね…」
(この状態で喋れるのか…)
俺の知る限りでは、ゴーレムはいくら核が無事でも体の大半が損傷した場合は機能停止するものだった
「…どなたか存じませんが…近くにマスター…シンシア様は…」
「ああ、すぐそこにいるから、今連れて行く」
一部しか無いとは言えゴーレムは重い、シンシアの所まで運ぶのも一苦労だった
「シンシア!このゴーレムは核が無事らしいぞ!まだ話ができる!」
「…!なんじゃと!」
我に帰ったシンシアがこっちに走ってくる
「マリア!」
さすがに一部分だけでも認識できたようだ
「…マスター…申し訳ありません…工房を守る事が…出来ませんでした。多くの者たちも…破壊されてしまった様です」
「よいのじゃ、元は儂の不始末が原因。マリアだけでも無事でよかった」
「…あの者は…どうなりました?」
「このタツキの助力により無力化したぞ。今はもう核だけじゃ」
「そうですか…マスターが…ご無事でよかった…」
「マリアよ、何故こんな事になったのじゃ?奴を結界に封じた後に何が起こった?」
「はい…あの後は…」
マリアの話によると、シンシアの結界はすぐに突破されたらしい
そして人形館の戦闘ゴーレムだけでなく採取用や建築用のゴーレムも総出で暴走ゴーレムと大立ち回りを演じた
しかし奮戦虚しく全てのゴーレムは破壊されてしまったらしい
メイド型ゴーレムであるマリアにはほとんど戦闘能力が無いので、自我が弱いゴーレムに指示を出しながら戦っていたが、遂に追い詰められ体の大半を破壊されてしまった
核が無事とは言え行動不能なので見逃されたのかも知れない
それからしばらく後に連続してあちこちから爆発が起きたらしい
「私は…もう動けなかったので…詳細は解りかねますが…恐らくあれは…70番達では無いかと…」
「70番…そうか、あやつらはそうだったな…」
「はい…」
「…説明して貰ってもいいか?」
空気的に聞きにくかったが、さすがにスルーできなかった
「70番シリーズはな、当時流行った禁忌の自爆機能付きなのじゃ」
「………は?禁忌が流行る?」
ツッコミどころが多すぎる
(お前ら本当は禁忌とか適当に言ってるだけだろ)
「自我を備えたゴーレムが自らの力が及ばぬ侵入者と対峙した時、主の為に身を挺して自爆するというのが泣かせる、と流行っての。儂はさすがに自我を持たせるのは忍びなくて自爆機能だけにしたのじゃ」
(まあ、それならまだマシか…?)
「しかし連鎖で爆発しないように離して配置してあったはずじゃが…」
「緊急時でしたので…集結しつつあったようで…10体全てが誘爆した…ようです」
「そんな物騒なもん10体も作ったのかよ…」
「やはり後継機は研究して性能が向上するのでな。最終ロットの79番はゴーレムとしての機能を損なわずに大きな爆発力を備えた力作じゃった」
「はい…配置場所と暴走した…ゴーレムの進行方向から察するに…最初の爆発が79番と思われます…私はその時既に瓦礫の下だったので…衝撃から守られたようですが」
「なんと言う事じゃ…」
シンシアは大仰にかぶりを振る
「しかしそれにしては暴走ゴーレムは大した損傷が無い様だったが…」
「自己修復機能で回復したのじゃろう。おそらく儂らが来る直前まで修復してたに違いない。ふむ、結界を破る攻撃力だけではなく、防御力と修復力も儂の想定を超えている様じゃな」
(実はこいつ反省してないな?)
その後しばらく探索してみたが核が無事なゴーレムは見つけられなかった
工房のあった場所は特に破壊されていて金貨を見つけるどころでは無い
日が落ちてきたので野営の準備をする
(まさかここで野営する事になるとはな…)
買ったばかりのテントを張り、焚き火を起こす
料理ができないので、テーベ村で貰っていた獣肉を串焼きにするくらいしかない
その間に、シンシアはマリアの核を取り出して休眠状態にした
「マリアは世話焼きだからの、何もせずにいるのは苦手なのじゃ。体を作るまではこの方が良い」
そう言って自分の鞄に大事そうにしまった
「焼けたぞ」
シンシアに串焼きを渡す
「うむ、すまんの。…うまいのう」
シンシアは串焼きを食べながら泣いている
マリアに心配させたくなくて、休眠状態にするまで堪えていたのかも知れない
「グスッ…うまいのう」
「…もう一つ食うか?」
「うむ、頂こう…グスッ」
シンシアの涙に気づかない振りをしながら、俺はこれからどうするか考えていた




