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となりの世界は魔法世界  作者: きの
暗殺者が守るもの
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第63話 戦闘と、今度の影響

 鋭い一閃が空間を切り裂く。真春が半歩身を捻り、横に斬撃を躱しながら、ノールックで回し蹴りを放った。その様子は、まるで羽のように軽やかであると同時に、閃光のように強烈な一撃だ。

 仮面の人物を捉えたと思った真春の攻撃だったが、黒い刀により威力を殺されて防御された。それどころか、返す刀で横薙ぎの一閃が真春を襲う。その攻撃を悟った真春が瞬時に回し蹴りの軌道を修正した。あろうことか、刀を叩き落とそうとしている。


「へえ、なかなかやるじゃない」


 距離を取ったのは、仮面の人物だった。真春が相手を称賛する。一切の無駄がない動きからは、機械を相手にしているのかと錯覚しそうになるほどだ。

 対する仮面の人物は、何の言葉も発さない。構えも取らず、刀を握って真春を見ている。


「だんまり? いいけど、それ魔法剣よね」


 真春の問いに答える代わりに、仮面の人物が刀を構え――殺気を爆発させた。

だが、それも一瞬で殺気は消える。消えたというよりも、収束した殺気が刀に乗ったと言った方が適切だ。


(こいつ、わたしを本気で殺す気か。それなら……)


 真春が腰を低く落とし戦闘の体制をとる。

 両者が同時に動き火花を散らした。白昼の住宅街の中で激しい攻防が繰り広げられる。

 仮面の人物の剣捌きは卓越していた。動き自体は柔らかいのに、襲ってくるのは正確無比な必殺の剣技である。何よりも、その一撃が重い。


(このパワー、魔法を使っているとしか思えない!)


 真春は攻撃を見切りながら、相手の急所へとカウンターを繰り出していたが、まるで手足のように動く刀によって防がれていた。

 両者が攻め手を欠く中、互いの距離がふと開く。それは図ったかのようなタイミングであった。

 静かに仮面の人物が刀を構え直す。あるのは刀に込められた殺気だけだ。何を考えているのか、不気味な仮面の奥からは読み取れない。

 その時、仮面の人物が初めて喋った。


「……壱の型、雪月花」


 酷く機械的な声で性別の判断が付かない。だが、それよりも真春は直感的に、


(来る!)


 幾多もの修羅場を潜り抜けてきた真春だからこそ分かる。

 刹那――神速の暗殺剣が真春を襲った。



「亜紗さん、何か気になることでも?」


 診察を終え、院長先生とも別れての帰り道、歩はずっと口数の少なかった亜紗に疑問を投げかけた。と言っても、亜紗自体あまり普段から会話が多い方ではないが。


「……そうだね、少し話そうか」


 時刻はもう夕方を回っている。市場に通じる大通りには、買い物客が行き交いしていた。夕陽は人々の影をくっきりと浮かび上がらせて、実際より人が多いように錯覚する。その中を亜紗が、傍目にはいつもと変わらない表情で話し始めた。


「まず、今から言うことは推測だ。最終的なナターリアさんの診断結果は、今日採取した血液検査を待ってから判断したい。その上で……」


 言葉を続けようとするが、少し躊躇う。あの亜紗が珍しく歯切れが悪い。歩は嫌な予感がした。それは、亜紗の次の言葉で決定的になる。


「ナターリアさんは……おそらく癌だ。それも、余命幾ばくもない末期の」


 隣で静かに話を聞いていたエルが息を飲むのが聞こえた。目を見開き、思わず足を止めそうになる。その反応を予想していたかのように亜紗が、


「あくまで推測だ。詳しい結果は明日にでも分かる。少し気になることもあるからね」



 夜、歩はグレッグの店で今日あったことを伝えていた。亜紗は検査でいないため、この場にいたのは、グレッグとエル、ソフィアである。報告もある程度済んだ頃、エルがふと聞いた。


「そういえば、真春さんは?」


「ここにいるわよ」


 入口のドアを開けて、真春がちょうど入って来るところだった。声を掛けようとしたエルが、その姿を見て驚く。


「ど、どうしたんですか? その恰好!」


 現れた真春はいつものスーツであったが、所々何かに斬られたような跡があり、自慢の髪の毛も少し乱れていた。真春は椅子に腰を下ろすと、大きく腕を上に伸ばしてストレッチをしながら、


「ちょっと、昼間襲われてね。腹が立ったから、追いかけたけど、逃げられたわ」


 軽く運動してきたとばかりに話す真春に対し、ソフィアが真顔で疑問を投げる。


「何者なの?」


「仮面を付けた奴よ。しかも、黒い刀を持った」


 真春の言葉に歩とエルが顔を互いに見合わせる。グレッグとソフィアも闘技場の話は聞いていたので、何か考えこんでいた。歩が皆を代表して質問する。


「真春さん的には、闘技場のチャンピオンと襲撃者は同じ人物だと思う?」


 真春が視線を天井に向ける。数秒の沈黙の後、慎重に自分の考えを述べた。


「そうね、あの刀と太刀筋は闘技場で見たものと同じだった。それに……」


 真春が言いにくそうに、


「仮面越しだったけど、戦っている時に嗤ってるように感じたわ」



――元の世界

 目覚ましと共に、歩の目が開いた。少し寝ぼけ眼のまま、手元の時計で時間を確認した後、ベッド脇に置いてあったペットボトルを飲んだ。『ピリッと炭酸水』とラベルに書かれた飲料を飲むと、急激に脳が覚醒する。この商店街で売っているオリジナル炭酸水だ。


(今日は麗羽さんと仕事の後、会う予定だったな)


 やることを頭に思い描き、いつものように、トイレと顔を洗い、朝ご飯を食べようとキッチンへ行く。既に食卓にいた養父母に挨拶をしながら、椅子に座り、用意されていた朝食を食べ始めようとした。

すると、養父から注意が入る。


「歩、もう真春が来るから少し待つんだ」


 歩は言葉の意味に疑問を持ち、対面にいる養父を思わず見る。皺が目立つが、精悍な顔つきは普段通りで特に変わった様子はない。次に食卓を見ると、養父母はまだ口を付けていない様子だった。少なくとも、朝食はいつも各々食べていたはずだと歩は訝しむが、何か重要な話でもあるのかと思い、大人しく真春を待つことにする。

 程なくして、真春が寝巻のまま入り、歩の隣に着席した。いただきますとの掛け声と共に、一条家の朝食がスタートする。そして、何事もなく皆が食べ終えて、解散した。


(たまたま一緒に食べたかっただけかな……)


 歩が洗い物をしながら考えていると、真春が隣に来る。すると、何の前触れもなく、背中に抱きついてきた。凶器じみた柔らかさを背中に感じ、歩は一瞬手が止まる。


「どしたの、姉ちゃん?」


 昨日色々あったから、その反動だろうかと思い、なすがままに手だけ動きを再開する。歩の問いに真春は、


「ん~、なんでもない」


 その顔は心底幸せそうな表情だった。



(おかしい)


 歩は仕事中ずっと疑問を浮かべていた。真春との距離が近いのだ。接客を除いて、ほぼ隣にいる。不思議なことに、誰もそのことについて言及しない。ヒアックでさえもだ。

 どうしようかと思案しているところで、交代の昼休憩になる。歩は真春と一緒の休憩だと気付き、嫌な予感を感じた。案の定、真春が歩の腕に抱きついてくる。

 歩の働いている洋菓子店は、店内に小さいながらも喫茶室が併設してしてあり、お茶も提供していた。今も、お客さんが何組かケーキを食べながら談笑しているのだが、真春の行動に対して全く驚く素振りを見せない。むしろ、いつもの光景とばかりにスルーされている気がしてならない。

まるで恋人のように腕を組んでいることに頭痛を覚えながらも、店を出た歩は真春に真面目な顔をして言う。


「姉ちゃん、昨日のことについて飯食べながら話そう」


「そうね、私もそう思っていた所よ。取り逃がしたのが悔やまれるわ」


 歩に返答した真春は、いつもの真春そのものだった。ただ、歩に対する距離感を除いては。


「今日は何食べようかな」


 疑問と不安が歩の中で渦巻くが、あえて触れずに足を進める。すると、真緒の店の前を通りかかった。


「あれ? 閉まってる?」


 歩の記憶では定休日ではい。もしや、何かあったのかと思い、シャッターの前に来ると張り紙がしてあった。そこには、

『本日、娘の誕生日まで後100日記念のため、お店を休みます』

 この張り紙を見た時、歩は初め目を疑った。疲れているのかと目を揉み、再度張り紙を見て現実だと気付く。


「あら、今日お休みなのね」


 歩の横から張り紙を覗き込んだ真春が、特に驚いた様子もせずに感想を言う。


「姉ちゃん、これって普通なんだっけ?」


「そうね、うちもしてるでしょ」


 真春の答えに、歩の背中を冷や汗が流れる。先程から商店街にいる知り合いにすれ違うが、誰も彼もが何も言ってこない。


(これは多分……)


 その時、向かいのラーメン豚骨屋から人が出てくる。それは、凛と父親の姿だった。自分たちと同じように腕を組んでいる光景を見て、歩は確信する――魔法による影響がまた及んでいるのだと。


(魔法世界で誰かが魔力粒に侵されているんだ! きっと、それは……)

またまた遅れてしまいました、、、。

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