通学路にて。@珊瑚
ジャンル:恋愛
「だーかーら! 俺はチョコとか興味無いしむしろ嫌いなの! もう回りくどいことせずに堂々と自分にリボンでもかけて『食・べ・て♡』とかって言ってくれれぐはっ」
「気色悪い」
「……痛いよ悠奈…………いくらなんでも突然鳩尾パンチはないでしょ……」
「当然でしょそんな堂々とド変態発言して。いい加減その癖直したら?」
「無理。女の子が正義である限り、いや女の子が存在する限り絶対無理ぐふぉっ…………」
ざく、ざく、ざく。
凍てつく冬の雪道に、二人の足跡が刻まれていく。
「てかさー。リアルな話、俺マジでチョコ食べられないんだよ」
「……そーなの? なんで?」
「まあ、食わず嫌いっていうか、トラウマみたいなやつなんだけどさ」
「うん」
「俺小学校の時、クラスの友達家に呼んで遊んでたのね」
「はいはい」
「んで、その日がたまたまバレンタインだったわけ。うち姉ちゃんいるからさー、姉ちゃんが好きな男の子の為にチョコ作るとかいって張り切っちゃってて。溶かしたチョコレートがボールに入ってたわけですよ」
「ふむ」
「その時俺はすごいいたずらっ子だったからさ」
「今もでしょ」
「そこはいいの! ……それで、友達をちょっと驚かそうと思ってチョコレートをとあるものにかけておやつの時間に出したんだよね」
「ほう。そのとあるものって」
「鮭フレークとツナ缶を混ぜたやつ」
「…………」
こいつの頭の構造を解剖してみたい。
「え、なんか変なこと言った?」
「言ったでしょ。どうやったらそんなものにチョコレートをぶっかけようなんて発想が出てくるわけ? ていうかツナ缶と鮭フレークを混ぜなきゃいけない理由が見当たらないし」
「小学生の悪戯なんだから理由なんてないに決まってんじゃん」
「…………」
「まー細かいことはどーでもいいの! とりあえず、俺は自分用にはシリアルにチョコかけたやつを用意して二つの皿をリビングまで持ってった」
「はあ……うん」
「そこまでは良かったんだ、だけどうっかり姉ちゃんにその創作料理の現場を見られててさ……ちょっと目を離した隙に取り替えられてたんだよね」
「……器を?」
「うん」
「気付かなかったの?」
「うん」
「見た目でわかりそうなもんだけど」
「わかんなかったんだもん」
バカだ救いようのないバカだ。
「……と、いうわけで。あの時以来チョコには手を出したことがないんだよねー」
「……なるほどね」
私は無意識のうちにポケットへと手を入れた。
「それで今日も貰わなかったのね」
「うん。嫌いって言って全部断った」
一体何個のチョコレートを、恋心を、こいつは踏みにじったのだろう。
「じゃーあたしからのも、いらないね?」
きょとん、なんて目を丸くしたって、知るもんか。
「え、嘘、悠奈作ったの?!」
「まーね。今年はよくわかんないけど気が向いたから」
「え、まじか! 男っぽい性格の悠奈がチョコ作るなんてどういう風の吹き回し!? やべー明日槍でも降るんじゃぐふぉっ」
「失礼なこのどあほ」
「いや……珍しいこともあるもんだなっていう例えだよ」
「だから失礼って言ってるじゃん!」
バカだ。
本当に、救いようのないバカだ。
主に、私が。
「え、悠奈が作ったのは興味あるかも。欲しいそれ」
「いいよ嫌いなものわざわざ食べたりしなくて」
「えー欲しいー!」
「やらん」
「えー欲しい欲しい欲しいねえ! いいじゃんくれても俺の食わず嫌いを治すいいチャンスじゃんねえちょーだい欲しいんだけどねえ」
「あーもーうるさいなー」
私は先ほどからコートのポケット底で指先にふれていたそれを取り出した。
「不味くても責任はとらないからね」
「わ、ハートのカップにピンクのリボンとか可愛いなやばい悠奈の女子力なめてたわ」
「食中毒起こしてあの世送りになっても責任とらないよ」
「うわーこれはレアだまじありがとう」
「聞いてる?」
「さっそくいただこう」
「聞いてないよね!?」
私のドキドキなんて知らずに、こいつは。
「んっ」
「……」
「美味いわこれ」
「そりゃ良かったね」
「やばいめっちゃ美味しい!! 悠奈天才!!」
「……溶かして固めただけだけどね」
「だって確かチョコレートって温度管理が難しいんじゃなかった? トッピングとかも綺麗だしこれ売れるって真面目に!」
「…………どーも」
心臓がきゅっと音をたてて熱くなって。
でもそれを素直に表現できるほど、私は無垢じゃない。
「これ、俺用?」
「は?」
「いや、俺のために特別に作ってくれたのかなーって」
私は少し、言葉に詰まった。
普段の私なら、「ばーか。んなわけないでしょ」と蹴り飛ばすのだけど。
だけど、今日くらいは。
「…………好きな人に特別にチョコ作って、なんか悪い?」
精一杯の、告白を。
「そんなに顔真っ赤になるなら言わなきゃいいのに」
「うるさい絶賛後悔中だ」
「いやまあそんな悠奈も可愛くて好きだけどさ?」
「貴様はほんとに軽々しく可愛いだの好きだのと言うよなありえん」
「え、悠奈以外にはそんな軽々しく使ったことないよ?」
「…………はい?」
「何度も言わせんな! つまり、俺にとっても悠奈はずっと特別だったってこと」
珍しく赤くなった頬が少し可愛くて、先ほど繋がれた危なっかしい手を私はそっと握りなおした。
ありきたりすぎてもどかしい通学路に少しの彩りを与えてくれたのは、紛れもなく、不器用なラッピングを施されたハート型のチョコレートだった。
地の文をほとんど省略する、という新たな書き方にチャレンジしてみました。
かなり時間を頂いたにも関わらずやや完成度低めになってしまいお恥ずかしいかぎりですorz
引き続き二月企画をおたのしみください!




