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鬼は外、チョコは内  作者: チョコレート・オーガ~めいど いん なろう~
節分編
13/47

赤鬼夜叉丸の愚直な奮起@赤井瀬 戸草

ジャンル:その他

 とある日の午後三時。小さな子供たちが一人もいない、とある運動広場にて。

 たたずみ、向かい合う二人。

「さあ、一年間待ちに待った因縁の対決だ。禍根も後悔も、未練も失意も。何も残さずスッキリ終わらせてやるよ」

 そう言って彼は、自分の手に持つ〝得物〟を振りかざすようにして構えた。眼光には、純粋な戦意だけが宿っている。

「言ってて恥ずかしくならないの?」

 そう言う少年は何も持っていない。ただただ武器を携える〝彼〟の目の前にたたずんでいるだけだった。

 その姿に、その佇まいに。

 戦意や敵意など、微塵もなかった。

「抜かすな! 今までの俺とは違うぞっ!」

 彼は肉薄して、携えていた獲物──金棒を振り下ろした。

 少年はひらりと避けて、いつの間にやら握っていた拳銃を取り出し、彼の眉間にその弾丸を撃ち込んだ。――否。

 銃口から放たれたのは、直径十五ミリほどの大豆だった。放たれたそれが、振り回される金棒を嘲笑うかのようにすり抜けて、直撃した。明らかに大豆が衝突したのではない、ばちいん、という音が辺りの空間に響き渡る。

「痛ってぇ!」

 金棒を捨てて彼はもだえて転がった。豆を額に喰らっただけで。

「お前毎年毎年懲りねえよなあ……しかも半裸で。勝てる訳ねえだろ」

「この下着は……俺たちの誇りだ。代々受け継がれてきた、俺たちの決意の印だ。何人たりとも、愚弄することは許さん!」

「まだプロローグだって」

 乾いた台詞を吐いてから、少年は悶える彼に無慈悲に豆を叩き込んだ。

 今日は節分だった。



      ***



 彼が攻め込んできたのは六年前の二月三日。少年が家で暢気のんきにポータブルゲーム機を楽しんでいたときのことだった。

 いきなり玄関の扉が強く叩かれた。とても乱暴な叩き方だった。

「誰かおらぬか!」

 加速するノック。

 がたがたと揺れるドア。

 募るいらいら。

「……面倒くさい」

 少年は気だるそうに体を起こし、ゲームをソファに投げ捨てて玄関に向かった。

 ドアを開けると、ヒョウ柄のパンツを履いた、身長が二メートルはありそうな、真っ赤な大男が立っていた。文字通り、全身が血にまみれたように赤かった。

 彼はそれが体の色だとは、最初は思いもしなかったのだけれど。

 頭を覆う明るい緑の髪は、パンチパーマのようにもじゃもじゃと絡まっていた。そこから突き出た角のようなものが見える。手には金棒を持っている。

 第一級の不審者だった。少年の家はセコムもALSOKもしていなかったので、不審者はいとも簡単に玄関まで進入してきたようだった。少年は刹那、心底後悔した。

「お尋ね申すのだが、篝火かがりび家というのはここであろうか?」

「いえ、篝火さんの家ならここから西へ二百メートル歩いたところにありますよ」

 篝火少年はそんなふうに堂々と嘘をついた。別にこんな赤鬼みたいな奴に通す正直など何もなかった。

「そうでござったか! 進言感謝いたす!」

 そう言って赤鬼っぽい奴は去っていった。半裸で。

 ちょっと面白かったので少年はうっすら笑った。

 実際は少年の居るここが篝火家である。

 少年はその名前を篝火(かがりび)灯籠(とうろう)といい、これまでの展開を見ても分かるとおり、かなり悪どい人間である。嘘は平気でつくし、意見はころころ変えるし、人のことなどまるで考えずに行動する人間だった。だからこそ彼は誰よりも人間的であったし、誰よりも人間らしい人間だったと言えるだろう。

 灯籠は赤鬼を適当なところに追いやった後、部屋に戻って、遊んでいたゲームにまた移っていったのだった。彼は蜜柑みかんを食べて、炬燵こたつでうたた寝をする間に、すっかり彼は鬼のことなど忘れていた。

 そんな出来事から、しばらくして。

 再びドアが叩かれた。

「誰かおらぬか!」

 加速するノック。

 がたがたと揺れるドア。

 また募るいらいら。

「……何なんだ」

 少年は身を震わせながら炬燵から抜け、玄関へと向かった。

 ドアを開けると、ヒョウ柄のパンツを履いた、身長が二メートルはありそうな真っ青な男が立っていた。文字通り、全身がブルーハワイにまみれたように青かった。

 気持ち悪い。青い。

 灯籠は少し吐き気を催した。

 少し目を逸らして、また正面を見る。やっぱり、ブルーハワイを塗ったような体色の巨人が、目の前に佇んでいる。

 頭を覆う明るい黄色の髪は、パンチパーマのようにもじゃもじゃと絡まっていた。そこから突き出た角のようなものが見える。手には金棒を持っている。

 本日二人目の第一級不審者だった。今度は青鬼か。

「忙しい夕方にすまぬ。兄者がこの家に来なかっただろうか」

「兄者?」

「赤鬼だ。私と人探しをしていたのだが、いつの間にやらはぐれてしまってな。何か知らぬだろうか?」

「赤鬼さんなら、ここから西へ二百メートルほど先にある篝火さんの家に行きましたよ」

「おいおい、ふざけたことをぬかすでない。お主が篝火灯籠だろう?」

 気づかれていた。

「その通りですけれど、ウチなんぞに何の用があるんですか」

 少しいらいらしながら、灯籠は開き直ることにした。バレてることをひたすら隠し通そうとするのは馬鹿のやることだと、彼はよく理解しているのだった。

「お主の家にある、豹柄ひょうがらふんどしを返していただきたく参った次第だ」

 いたって真面目な顔で、青鬼は灯籠に告げた。

 ……ふんどし?

 灯籠は疑問しか浮かばなかった。

「褌なんて僕は知りませんよ。知ってるなら多分骨董好きのおじいちゃんの方かと。……もう少ししたら帰ってくると思いますから、お茶でもいかがですか?」

「ふむ、ならば遠慮なく頂こう」

 そんな奇妙なやりとりの直後、灯籠の背後から何かが散弾の如くまき散らされた。彼と青鬼は、大量の飛んできた〝なにか〟をもろに喰らう。

「痛たたたっ!」

 地味な痛みを少年に与えてから、落ちた〝豆〟。

 否。青鬼の方は“地味”で済んではいなかったようだ。

「あだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだ!」

 「だ」を連呼する青鬼は、両手で顔面を押さえながらもんどりうって転げ回っている。ギャグとかじゃなく本気で痛いようだった。

「そやつに褌はまだ渡しとらんな?」

 開きっぱなしの玄関ドアの向こうで、白い髭が怪しい笑いを浮かべて立っていた。

「……何してんの爺ちゃん」

「こいつを清めて、炒ってたんじゃ」

 そう言う灯籠の祖父――松明たいまつは手に持つますを掲げて見せた。大豆がいっぱいに盛られている。

「……節分?」

「その通り。ちなみにそいつはお前の見たとおりの〝鬼〟じゃよ」

「本気で言ってる?」

 目の前で豆の痛みから未だに立ち直れていない青い彼。

 信じられるはずもない。胡散臭すぎる。

「まあ、確かに信じられんじゃろうな。じゃが、そこの青いのがこの豆でここまでのダメージを被ることが、まごうことのない鬼の証なのじゃよ」

 そう言って松明は大豆を一つ、転がった鬼に向けて弾くように当てた。叫んで青鬼が再び転がり回って痛がる。

「松明! 我らが祖の褌を返せ!」

「〝あれ〟が貴様等の手に渡ればどうなるかは想像がつく。だから、こうしてわしがせっせと貴様等の撃退に、このくたびれきった老体を駆り出しておるのじゃよ」

 松明はそういって肩をわざとらしく叩く。

 行動の全てが鬼への皮肉だった。灯籠ですら、少し不快な気分になった。

 青鬼が、ずるずると体を起こした。既に大豆によるダメージで、疲労困憊といった様子だった。

「……今年は、大人しく退いておこう。来年は、総力をもってお主等を叩き潰す。覚悟していろ」

 青鬼は、恨めしそうに松明を睨んだ。その眼光は鋭い。

「豆を沢山用意して待っておこう」

 松明はただシニカルに笑うだけだった。

 これが、鬼どもの初襲撃の一部始終である。



      ***


 

 時間は再びおやつ時、場所は広場。

 赤鬼は、ずるずるとその体を起こした。まるで、六年前の青鬼と同じだった。

「君らキャラ以外は本当に何も変わらないよねえ……せめて上着ぐらい着ればいいのに。いっつも半裸で『これが我らの戦闘装束だ!』みたいな」

「この格好が、俺たちの信念そのものだ。信念に、妥協はいらない」

 これではどちらが悪役か分かったものではない。しかも灯籠が使っているのは遠距離武器だ。

 秒間三十個の大豆を発射できる、その名も『鳩も吃驚(まめでっぽう)』。松明がこの六年で開発した、対鬼専用の節分兵器である。ネーミングはともかく、鬼たちへの効果は抜群だった。

「いい加減仲間連れて来なよ……毎度毎度ボコボコにしてるこっちが虚しくなってくるよ」

「島の者は……、まだ、桃太郎の撃退のために奮闘しているはずだ」

「アンタ何でウチに来てるの」

 明らかにそっちの方が危機的じゃん。

 灯籠は呆れ果てる。

「しかし赤鬼さんもよくもまあ、飽きずにこんな所に毎年毎年くるよね。この六年で、赤鬼さんが変わったのキャラぐらいじゃね?」

 そう、赤鬼は六年前から、ずっと戦闘スタイルを変えていない。

 灯籠に豆で射抜かれることを認識しておきながら、パンツ一丁に金棒で襲いかかる。赤鬼の肌は射抜かれまくっているうちに、体の色ではなく血で赤く染まっていく。

 明らかな出血多量だ。鉄分がどうとか、貧血がどうとかいう問題ではない。

「赤鬼さん、まだやるの?」

「当たり前田のクラッカー……力尽きるまで、何度でも俺はお前と戦うぞ」

 赤鬼は笑った。うっすら狂気的だった。

「はぁ……勝手にしな」

 古い。発想も流行語も。

 戦い方も。

 灯籠は松明に言われていた対応方法に乗っ取って、赤鬼に容赦ない射撃を加え続ける。

 向かってくる限りは、這い上がれなくなるまで叩き潰して、這い上がれなくなったら手当でもしてやれ。戦う意志を、戦いをもって潰してやるんだ。

 それが、戦う者に対する最大の敬意の払い方だと、松明は言った。

 灯籠には全く分からなかった。松明の言い分も、赤鬼が立ち上がる理由も。

 戦い?

 この一方的に豆をぶち込むだけのやり取りが?

 意味が分からない。もっと、効率的に生きようよ。勝ち目だけを狙って向かおうよ。冷静に、冷淡に考えてよ。

 冷めきった表情の灯籠。それはもう、氷のように冷たい。

「赤鬼さん、名前はなんて言うのかな?」

「……夜叉丸という。鬼の夜叉に丸と書く」

「なかなかイカしてるね」

 六年間で、名前を初めて訊いた。

 もうよく戦ったよ、アンタは。

 だから、ゆっくり休みな。

 とてもとても、大豆を発射するだけの機械とは思えない、無骨な銃を灯籠は構える。

 多分、あと数発夜叉丸に豆をぶち込めば、間違いなく意識は失うだろう。

 通算成績、六勝零敗。

 今回も篝火家の勝ち。

 おやすみなさい。

 灯籠は表情を変えることなく、うずくまって悶えている夜叉丸に、豆を撃ち放った。

 そして、豆はまっすぐに飛んで。

 弾かれた。否。阻まれた。

 降り注ぎ、地面に突き刺さった無数の金棒によって。

「!?」

 夜叉丸と灯籠の前に壁を作るように、降り注いだ十数本の金棒。

 まさか……。

 灯籠は少し悪寒を感じながら、夜叉丸の後方に、〝それら〟を見つけた。

 目がチカチカするぐらい、それぞれの体色は鮮やかだった。全員が全員、パンツ一丁である。ある者は拳を鳴らしながら、ある者は金棒を担ぎ上げて、こちらに向かって歩いてくる。

 夜叉丸一体を相手取っていったときとは、比べものにならない、圧倒的で絶対的である風格。威圧感。

 鬼ヶ島とこの広場とをつなぐ小さな門のような穴。そのこじんまりとしたゲートから、鬼の軍勢が今にも出てこようとしているのだ。

 奴らは、金棒をブーメランのようにでも投げたのだろうか。そうでもないと、降り注ぐ金棒の説明が付かない。

 とんでもない。

 化け物だ。

「おいおい夜叉丸何へたばってんだあ!?」「うずくまってねえで立ち上がれ!」「まだ負けてねえぞ!」「踏ん張れ赤いの!」

 鬼たちから続々と飛び出す夜叉丸への応援。

 夜叉丸が、ゆっくりと、しかし確実に体を起こしていく。

 彼の目に、何かが灯った。

 意志。

 希望。

 自らの歩む道を、照らしていく為の炎。

 篝火。

 冷めきった少年に足りない、確固たる心の炎である。

「……今までとは、違うって、言っただろ――」

 夜叉丸は立ちながら、ただただ笑う。

 灯籠は不機嫌になっていく。

「……本当に、アンタたちはよく頑張ったよ。熱血なスポ根ものだとか、王道のバトル漫画なら一番格好いいシーンだ。……だけど、忘れないでね」

 夜叉丸の背後で、無数の断末魔が響きわたる。

「そんな簡単に、ご都合主義は適用されないよ」

 灯籠はいきなり、よく分からないことを言い出した。松明のように悪い、笑みを浮かべてている。

「貴っ様……何をしたあ!」

 夜叉丸が吠えた。灯籠はヘラヘラと答えた。

 そんな夜叉丸の立つ後ろ――鬼の軍勢が歩みを止めて中にいるゲートの前には、大きく真っ暗で真っ黒な、落とし穴があった。

「別に? ただの落とし穴だよ。君らの出てくるゲートはいちいち小さいからねえ……深い落とし穴掘って、そこに豆を敷き詰めれば、即席の鬼殺しトラップかんせーいってね。ゲートの出現位置も毎年ご丁寧に同じだったから、場所を選んで仕掛けるのは簡単だったよ」

 そういって、ケタケタと笑う彼。

 唇を噛みしめる赤鬼。

 ゲートの前で足踏みを続けるしかない鬼の軍勢。

「で、仕上げがまだ残ってる」

「何?」

 夜叉丸が疑問を浮かべたあとに、再開した悲鳴。その中に、驚きが幾つも混じっている。

「馬鹿な、なぜコイツがここにいるんだ!?」

「手足縛って檻にぶち込んどいたはずだぞ! ――ぐあぁっ!」

 鬼たちが、みるみるゲートから〝押し出されて〟いく。

「……やっと来てくれた。お帰りなさい」

 ゲートに残っていた鬼どもは全員が穴に落とされ、うめき声を上げたり失神したりしている。

 そして、現れた影。

 かついでいるのは『日本一』と書かれた旗。赤っぽい、武士の着ていそうな着物の上には白い陣羽織を羽織っている。凛々しいまげと白いはちまき。腰から下げられた刀と何かの入った巾着袋。

 袋に入っているのは、おそらくきび団子だろう。灯籠はそう予想した。

「ったく、独房ぶち破ってこっち来んのも苦労したんだぜ? ねぎらいに飯は腹一杯食えるだけ用意してくれてんだろうな?」

「――ああ、ばっちりだよ。任務お疲れ様、桃太郎」



      ***



 灯籠と桃太郎は鬼たちを全員引っ張りあげ、一人一人に手当を施していった。自分たちでボコボコにした相手を、いちいち看病するのは面倒なものがあったが、松明の言う〝戦った者〟への敬意だというので仕方がない。

 鬼たちは目立った外傷まみれだったが、治療の際、痛みに悶える者はほとんどいなかった。やはり昔の鬼にせよ人にせよ、〝ブシドー〟という奴が存在するのだろうか。

 包帯でぐるぐる巻きになった鬼たちが、ぞろぞろとゲートに歩いて消えていく。

 シュールだった。

「おい、赤いの!」

 桃太郎が夜叉丸を呼び止めた。

「……なんだ?」

「ほれ」

 桃太郎は腰から提げていた巾着袋を、乱暴に夜叉丸に投げた。それは危なげなく、赤鬼の手に渡った。

「……なんの真似だ」

「お前等鬼どもの人数分、残しといた。家帰って、大人しく食っとけ」

「……我々をも餌付けしようと言うのか。そこの、いぬさるきじのように」

「お友達の証だって言ってんだよ。いいから食え」

 そう言って、桃太郎は夜叉丸の尻を蹴り、ゲートの奥へと、追いやった。そして、ゲートはどんどん閉じていく。夜叉丸が、桃太郎を鋭く睨みつける。

「じゃあな、また来年やりあおうや」

 音もなく、ゲートは閉じた。

「相変わらず意味の分からないことするよね、君」

「頑張って戦ったバカどもへの餞別だよ。いいやつだろ俺?」

「いいやつを自称するやつに本当にいいやつなんか一人もいないよ」

 二人を除いて誰もいなくなった、子供の運動広場。戦いによって荒れ果てたグランド。桃太郎の馬鹿力によって埋められた大きな落とし穴の跡。

「……いっつも思うんだけど、君って本当に人間なのかい? 桃から生まれたってだけでも突飛なのに、本気出せば人一人ぐらい粉々にできるようなパワーじゃないか」

「知らねえよ。あのジジイなら何か知ってるんじゃねえ? さ、飯いくぞ飯」

 そう言って桃太郎はさっさと篝火家に向かう。

 灯籠は桃太郎のことをよく知らない。毎年のように彼らは節分の時期に会っているが、詳しいことを知っている松明は、灯籠に「桃太郎は味方だ」と言って他には何も話さないのだった。

 それに、来襲する鬼達が、何故ここまでボコボコにされてまで、褌を取り返そうとするのかだって知らない。

 結局のところ、灯篭自身はこの戦いのことを何も知らないのだ。

「……何なんだろうな、本当に」

 世の中謎ばっかりだ。

 灯籠はゆっくりと、桃太郎の後をついていった。

 某県某所の片隅で、節分の日に起きた小さな戦いは、今年も終わりを迎えたのだった。



      ***



 鬼ヶ島に着いた鬼一行。

 誰も彼も、怪我まみれで疲れきった表情をしている。

「お帰り兄者。今年も散々だったんだな」

 夜叉丸に話しかけてきたのは弟の青鬼、愚浪ぐろう丸だった。

「ああ、来年こそは取り返すさ」

 そう言って、夜叉丸は持っている巾着袋を見つめた。

 桃太郎に渡されたものだ。

「……兄者、それは?」

「桃太郎からの、餞別らしい。きび団子の詰め合わせだ」

「なんだってまたそんなものを……」

「…………」

 夜叉丸は袋の中から団子を一つ取り出すと、それをひょいっと口の中に投げ込んだ。

「……美味いなこれ」

 来年、鬼達はまた立ち向かう。



 【鬼たちと少年の奇妙な闘争  終】

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