第1話 不思議な布団をかぶって、凡人の勇者が転生しました!
【女神の本体は、しゃべる布団。】
【勇者は、赤ちゃん。】
「布団の寝心地」だけカンストした勇者と、くっついて離れない布団の女神の異世界生活(?)。
こんな奇妙なコンビですが、よろしくお願いします。
「人生ってつまらないなあ……」
そう思いながら、俺は帰り道を歩いていた。重い教科書の入った鞄を背負って、両肩が少し痺れている。
「先生が言ってたっけ、お前は学校で人と関わりなさすぎるって、どういうことだ——」
俺はただ一人でいたかっただけなのに……
そう考えているうちに、俺はなぜか馬鹿げた妄想を膨らませていた。異世界に転生できたら、どんなにいいだろう。そうすれば、この世界で他人の悪口に傷つくこともないし、卒業後も何も成し遂げられないなんてこともないだろう。
俯いて歩いていると、頭上から物音が聞こえた。顔を上げると、落ちてきたのはなんと布団だった。
「なんだこれ?!」
布団を頭からかぶってしまった俺は何が何だかわからないまま、その重さで地面に突っ伏した。まるで膏薬のように地面に張り付いている。
もがこうとしても体が動かない。声を出そうとしても出ない。諦めかけたその時、暗闇の中に一筋の光が浮かび上がった。
「勇者様、勇者様~目を開けてください」
そこで俺はゆっくりと目を開ける。朦朧とする視界の中に、次第に現れてきたのは俺の上に覆いかぶさっている金髪の美少女だった。
「あの、本当にごめんなさい!」彼女は両手を合わせて俺に謝った。「私はフランルーティス、あなたをこの世界に召喚した女神です!」
「女神?」俺は一瞬呆けた。つまり、異世界に転生したってことか?
「そうです~私の世界にはあなたの救いが必要なんです。魔王が人々の暮らしの拠り所を呑み込んでいて、人間帝国、獣人王国、そしてエルフの森、すべてあなたが救わなければならないんです!」
なんてありふれた説明なんだろう。でも、日夜勉強に追われる高校生にとって、勇者になれるなんて信じられない話だ。
「あなた、私の心が読めるのか?」
「もちろんですよ、なんたって私はあなたと結びついているんですから~」白いふわふわの服を着た金髪の美女が手を振って、余裕たっぷりにそう言った。「勇者の『後見人』として、あなたのことは何もかも知っているんです!」
後見人?その言葉はちょっと大げさすぎるだろう……でも今の俺は、運命に身を任せたい気分だ。どうせあの世界には戻りたくない。
「さっきの布団は何だったんだ?あれがお前の、俺をこの世界に召喚するための道具か?」
「実はですね……空を飛んでいたら勇者様を見つけてしまって、それで上から落ちちゃったんです~」
「つまり、お前があの布団だったのか?!」
「ビンゴ~」
なるほどな。でも、なぜ俺なんだ?その理由は後でちゃんと聞かないといけない。
「じゃあ女神様、まず俺の上から降りてくれないか?」
「あっ、ごめんなさいごめんなさい……」
彼女が俺の上からどく時、俺は思わず彼女のレースの下着をちらりと見てしまった。もちろん決してじっくり見たわけではない。ただゆっくり起き上がってから、横を向いただけだ。
「勇者様、もしかして——そこを見ていました?」
「ち、違う!」俺はすぐに顔を上げた。幸い顔は赤くなっていなかった。赤くなっていたら、もっと疑われていただろう。
「わかりますよ、思春期の男の子ですから、好色なのは普通ですよね~」
どう見ても完全に誤解されている気がする。
「誤解するなよ、お前が起きるのが遅すぎただけだ……」
俺は周りを見渡した。もういつもの道路のあのアスファルトの匂いはしない。歩行者もいない、街もない。足元は白い大地で、まるで広げた布団のように、白い空の果てまでずっと続いている。ここは彼女が作った空間だろう。あるいは、俺はまだ布団の中で白昼夢を見ているのかもしれない。
「ここは私のお布団領域です。そちらの言葉で言えば、勇者の手続きをする場所——もちろん、手数料はかかりませんよ」
「でも何か代償はあるんだろ?勇者になるなら、何か背負わないといけないはずだ」
「代償?女神として、勇者に隠し事はできませんよ~でも、受け入れられるかどうかは別ですけどね」
「言ってみろ。学校より辛くなければいい」
「それは——毎日朝から晩まで、あなたは私をまとうか、かぶっていなければならないんです」
「その要求、おかしすぎるだろ?」
何はともあれ、彼女が布団になった時のあの重さは身をもって体験済みだ。毎日朝から晩までまとうなんて、砂袋を背負って登下校するのと何が違う?
「誰が砂袋ですって?!」
突然一発殴られて、俺はまた地面に倒れた。幸い地面は綿でできていたので、後頭部を打たずに済んだ。
「心を読むなよ、女神様!」
「ふん~」彼女は鼻で軽く笑って、両手を腰に当てた。それから何か思いついたように、ゆっくり起き上がる俺に向かって言った。
「矢口途冬?その名前、暗すぎません?私がいい名前を考えてあげます。そうだ……トゥエン・ドレイクにしましょう!」
「それって余計に冷たい感じがしないか?」俺は地理上のドレイク海峡を思い浮かべながらそう言った。
「勇者様ったら~」彼女は嫌そうに俺を一瞥してから、目を閉じて少し考え込み、続けた。「名前が決まったなら、属性も決めないとですね~」
次の瞬間、フランルーティスのそばに透明な電子スクリーンが現れ、そこに俺の読める日本語の単語が浮かび上がった。
「わざわざ俺の元の世界の身分に合わせて電子スクリーンの外観にしたのか?」
よく見てみると、「力」や「速さ」の属性を上げられると思っていたのに、よく観察するとおかしな点に気づいた。
「この『布団の暖かさアップ』って何だよ……?」
「ああ、それはあなたが私を抱きしめた時に、もっと暖かくなるやつですよ~」
疑問をこらえながら、さらに下へスクロールする。「羽毛布団の柔らかさ」、「かぶった時の通気性」、「寝返りの静音効果」………もう彼女の性格には慣れたつもりだったが、これはさすがに予想外すぎるぞ!
「なんで全部布団のパラメータなんだよ?女神様、まさか俺をからかってるのか?」
「絶対に違いますよ! 私もあなたについていくんですから。私が柔らかくなれば、勇者様も安心して眠れて、元気いっぱいになれるんです!」
「俺は魔王を討伐しに行くのか、それとも睡眠大会に参加するのか……」
適当に押しておこう。もう期待していない。俺は指で布団に関する属性を適当にタップし、すぐに右下の「確認」を押した。
「待って、勇者様!」彼女が手を伸ばして止めようとした。何をしようとしているのかわからない。
「どうした?」
「あなた、下にスクロールして見ませんでしたよね?」
「ん?」
下にスクロールしてみると、まだ次のページがあって、そこには俺のステータスパネルが表示されていた。
属性ポテンシャル:
力:E 速さ:E 体:E 魔:C 運:F
とても勇者のパネルとは呼べないパネル!そしてさっき俺が押したのは全部布団に関する——
「ええっ?!!」
俺はスクロールを戻して、その属性ポイントをキャンセルしようとした。しかし次の瞬間、白いスクリーンは「能力」画面に切り替わった。
「勇者様は不可能に挑戦したいんですか? かっこいいですけど、無理しすぎないでくださいね——」
「下にページが隠れてるなんて知るわけないだろ!フランルーティス、戻せないのか?」
「本当にごめんなさい、一度確認すると変更できないんです~」
無垢な顔でそう言う彼女を見て、俺はため息をついた。これが異世界転生の代償なのかもしれない。でもまあ、元の世界よりはマシだろう?
「魔法と剣術、それに弓術……この[全能]って、聞くからに強そうだな?」
「[全能]ですか? 実は、多くの転生した勇者がこの能力を選ばなかったんですよ。普通は大魔法使い、剣聖、そして弓王が主流ですから~この能力が出たのは、あなたが自分の属性にポイントを振るのを忘れたことへの補償でしょうね」
「多く? つまり異世界には他にも勇者がいるってことか? しかも誰も[全能]を選んだことがない?」
「実は……前代の勇者と女神が犠牲になった後、神様が新しい女神を遣わして、勇者にふさわしい人を探すんです」
彼女は途中まで言って、声が小さくなった。
前代の勇者と女神が、犠牲になった?
彼女の顔に少し後ろめたさのようなものを感じ取った。
「じゃあ、この[全能]にする。最後にもう一つ聞くけど、俺が転生したら、お前はいつどこに現れるんだ?」
「心配しないでください~あなたが生まれた瞬間、私はあなたのそばに現れますから!」
「俺のそばに?」
「後でわかりますよ~それじゃ、下で会いましょう~」
俺は下を見ると、足元のふわふわした地面が突然雲に変わった。突然の浮遊感に思わず手足をばたつかせ、顔を上げると、フランルーティスは布団の角のように真っ白な翼を広げて、雲霧の中へ消えていった。
「女神様——」俺はゆっくりと目を閉じた。周りの風も次第に弱まっていく。
……
どれくらい経っただろうか、俺は目を開けた。自分が教会の中にいることに気づく。体には暖かいふわふわの布団がかけられていて、そこには何とも言えない懐かしい匂いがした。
起き上がろうとしても、手足がおかしいほど短くて、布団すら押しのけられない——やはり、転生したんだ。
「神父様、この子が目を開けました」
俺は努力して目を上げると、美しい顔立ちの修道女が俺をしっかりと抱きしめていた。彼女の体の香りと布団の熱気が混ざり合う。俺は赤ん坊のはずなのに、鼻が異常に利く——この匂いがなぜか妙に安心させてくれて、しかも安心しすぎてちょっと恥ずかしい。
「そうか?」
黒い金十字の法衣を着た神父が修道女の前に歩み寄り、俺を見る目には好奇心と興味が満ちていた。
「神様に選ばれた子だけあって、やはりただならぬ雰囲気だ……エフィナ、両親に知らせてくれ。勇者の迎生儀式を執り行える」
儀式はこの世界の午後に行われた。俺は修道女から面識のない両親に引き渡された——二人の農民で、普通に言えば異世界では最底辺の存在だ。
しかし彼らの浮かべる笑顔を見た時、俺の心は不思議と温かくなった。
「なあ、母ちゃん。名前はトゥエン・ドレイクにしよう」
「うん、お父さんは名前をつけるのが上手ね~」
この名前、間違いなくあの奴が密かに俺の父さんの思考を操ったんだろうな? まあ、この名前も受け入れられなくはない。
どうやら俺は穏やかな家庭で暮らすことになりそうだ。前世のあの冷たい奴と比べて、これは本当にいいことだ。
「一生自分の世界に閉じこもってろ——」
「うわあ~」
昔の経験を思い出して、俺は思わずこの赤ん坊の体で泣いてしまった。しかし茶色い髪を腰まで伸ばした母親が俺をあやしてくれて、布団の中の安らぎもあって、すぐに落ち着いた。
「どうやら転生成功みたいですね~」
「フランルーティス? どこにいる?」
周りを見渡しても、女神は現れない。胸のあたりがむずむずするので下を見ると、俺を包んでいる毛布の布団に目が生えていた。
「布団に目が生えてるのは気持ち悪すぎるだろ?!」
「あなたの方が気持ち悪いですよ!」
短い呆然の後、俺はこの布切れが俺の女神だと受け入れるしかなかった。まさか生まれた時から、彼女を連れていなければならないなんて?
「あるいは人間の姿に変わることもできますけど、そうしたらあなた、丸見えになりますよ~」
「変身するな! 急に現れたら、どうやって親に説明するんだ——『これは俺の布団から生えてきた女神です』って?」
「とにかく今のままが楽なので、しばらくは変わりたくないですね~」
布団がよりきつく巻きついてくるのがわかる。この女神がなぜ布団の姿になったのか、俺には知る由もない。でも彼女に巻かれている俺は、より暖かく感じた。
そして俺は、そのまま眠りに落ちた。
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とある布団になった女神からのこっそりメッセージ:「勇者様は今のところミルクを飲んで寝るだけですけど、くるまった時の肌触りはなかなかですよ~。でも、早く大きくならないと、私の神力が錆びついちゃいますからね」
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