第8话 交差する運命線
頭の中で何度目か分からないほど、星野 源が道場であの顔のない剣士と戦った光景を再生しながら、清水 優の表情は興奮と苦悶が入り混じっていた。簡単に言えば、ずっと待ち望んでいた概念製品がついに量産販売されたのに、その価格が自分の予算をはるかに超えていた時のような顔だ。
あるいは――
「その顔、どういう意味? 便秘でもしてるの?」鈴木 沢美が奇妙な顔で言う。
「あんたが便秘でしょ!」清水 優は友達を恨めしそうに一瞥し、それから力なく頭を垂れた。「別に何でもないよ、ただちょっと……退屈だなって」
「退屈?」鈴木 沢美は信じられないといった様子で親友を見る。「私といて退屈だなんて?」そう言うと、今にも泣き出しそうな顔をする。「この感情をもてあそぶ人でなし! 別れましょう!」
清水 優は死んだ魚のような目でおどける親友を見つめるが、その余光の中で、傘を差しながら体育館の方向へ走っていく人々の群れに目を奪われた。
彼女は鈴木 沢美の袖を引っ張り、好奇心いっぱいに遠くの人だかりができている体育館の建物を指差す。「あっち、すごい人だね。今日は何か大事な試合でもあるの?」
鈴木 沢美は泣き真似の表情をあっさりとしまい、清水 優が指差した方向をちらりと見て、何気なく言う。「知らないの? 今日TKY02が新宿国立体育館でライブをやるんだよ」
「TKY02?」清水 優は少し考え、それから驚いた。「それって星野 凛がいるアイドルグループじゃない!」
「そう、うちのクラスの星野 源の妹だよ。超売れてる」鈴木 沢美は羨ましそうに言う。「入学式の日以外、学校で一度も見たことないんだよね。アイドルって本当にいいなあ、授業サボりたい放題じゃん」
「……」清水 優はあきれて鈴木 沢美を一瞥し、それから思わずぼんやりと考えた。あのアイドルは、自分の兄が“超能力”を使えることを知っているのだろうか……
「ほら、行こう。まさか今から人のライブを見に行くつもり? チケットなんてとっくに売り切れてるよ!」鈴木 沢美は清水 優の手を引き、より賑やかな街並みへと向かっていった。
……
夕方になり、雨が止んだ。空を覆っていた黒い雲も、白い端切れのように切り分けられて空の端に掛かっている。
雨上がりの夕日はいつも格外に心を打つ。地平線に注ぐ赤紫色が、街全体を曖昧な微酔の色に染め上げる。
清水 優は、ヘアゴムをくわえた黒い野良猫を追って、人通りの少ない路地へと走り込んだ。あのヘアゴムは今日買ったばかりの新品なのだ! 母からもらった服代のお釣りで買ったけれど、本当に安くはなかった!
野良猫は路地の中の一軒の店の扉にぶつかって中へ入っていった。清水 優は何も考えずに全力で走り、その店の扉の前にたどり着く。
扉を押し開けて飛び込もうとしたが、その扉の精巧で古典的な美しさに思わず足が止まった。とはいえ、高級な場所は見慣れている。なぜこんな場所に店を構えて、こんなに美しい扉を作ったのかは不思議だが、それでも中へ飛び込んで、あのずる賢い悪猫からヘアゴムを取り戻すのを妨げるものではない!
扉が押し開けられ、澄んだ風鈴の音が響く。
扉の向こうの光景が目に飛び込んできて、清水 優は上げかけた足を宙で止め、その表情は完全に凍りついた。
中世の古典的な雰囲気が漂う応接間で、やや長めの黒髪の少年が毛足の長い絨毯にしゃがみ込み、片手にキャットフードを少し持って、黒い野良猫の口元へ差し出している。
夕方の日差しが窓を通して彼の上に流れ、その光景はまるで癒しの油彩画のようだった。
絵の中の人は、扉が開いた物音に驚いたのか、扉の外の“招かれざる客”へ視線を向ける。青い左目は海のように澄み渡り、黒い右目は淵のように深い。
清水 優ははっと我に返った。「星野くん?!」
そう叫んだ後、清水 優はなおも信じられないといった様子で後ろに下がり、扉の枠にある小さな立て看板を確認する。これが骨董品店だと分かると、再びあの信じられないような目で星野 源を見つめた。「あなた……ここに骨董品を買いに?」
「違うよ、この店は僕のものなんだ」星野 源は首を少し傾げ、同じく好奇心の目で清水 優を見つめる。だが彼の反応は速く、すぐに何かに気づいたように、黒猫が脇に捨ててすっかり汚れてしまったヘアゴムを拾い上げる。「これ……君の?」
「あっ!!」清水 優は大声を上げて飛び込もうとしたが、星野 源に手を上げて制止される。「悪いけど、まず靴を履き替えて。君の右手の棚に使い捨てのがあるから」
清水 優は部屋の中のほこり一つない床と、広がる毛足の長い絨毯を眺め、さらに自分が履いている、雨上がりの地面を走ったために汚れてしまった靴を見て、すぐに文句なくスニーカーを脱ぎ捨て、白い靴下のまま使い捨てスリッパを履いた。
星野 源のそばへ来て、数分前まで新品だったヘアゴムを受け取り、痛恨の極みといった顔をする。
「ヘアゴム、いくらだった? 弁償するよ」星野 源が突然言う。
「え?」清水 優は一瞬止まり、すぐに首を振る。「いいよ、帰って洗えば大丈夫だから」
そう言うと、彼女はまた、星野 源の手のキャットフードに夢中で食べている黒猫へ目を落とし、確かめるように尋ねる。「この猫、あなたが飼ってるの?」
「違うよ」星野 源は少し回想し、言う。「僕も二ヶ月前に知り合ったんだ。その時、もうすぐ死にそうなくらい腹を空かせてたから、少し食べ物をあげた。それから、よく何か物をくわえてきては、ここで食べ物と交換するようになった。ある時は奴がいいものだと思ったゴミだったり、ある時は誰かの落とし物だったり……」
「賢い奴だろ?」星野 源は清水 優へ笑いかける。
清水 優は確かにこの野良猫の知恵に少し驚いた。多くの人間さえ理解していない道理を分かっているなんて。だが、自分はヘアゴムの包装を開ける時にうっかり力を入れすぎて、ヘアゴムを地面に落としてしまっただけなのに、こいつが直接飛び込んできてくわえて逃げたことを思い出すと、もう物を拾って食べ物と交換するレベルではない。これは強奪だろう!
綺麗な顔が少し曇り、清水 優は口を尖らせて黙り込んだ。
小さな一掴みのキャットフードはすぐに食べ終わり、黒猫は星野 源に向かって二声鳴くと、爪を舐めて、振り返らずに颯爽と去っていった。
その小さな姿が扉の外へ消えるのを見送り、星野 源は再び清水 優へ視線を戻し、微笑みながら尋ねる。「清水さん、まだ何か用?」
自分が立っていて星野 源がしゃがんでいるのは、人と話すのに失礼だと思ったのか、清水 優はそのまま絨毯の上にあぐらをかいて座った。彼女は少し気まずそうに頬をかく。「あの、あなたの超能力……」
「ごめん、僕は超能力なんてものは使わないよ」星野 源は立ち上がり、カウンターの後ろへ向かう。「コーヒー? それともジュース?」
「あ……いらない」清水 優は手を振るが、星野 源は聞こえなかったふりをして、勝手にジュースを注ぎ、戻って清水 優へ差し出した。
仕方なくジュースを受け取り、清水 優は諦めきれずに再び声を上げる。「昨日の道場にいた、あの顔のない剣士……」
「鬼、なの?」彼女は小さな声で自分の推測を口にした。
「……」星野 源は黙って彼女の顔を見つめ、しばらくしてからため息をつく。「どうしてそこまで根掘り葉掘り聞きたがるんだ? それとも君は自分の過去の生活に何か不満でもあるのか、なぜそんな危険な変数をわざわざ探ろうとする?」
「ただ興味があるだけだもん! これまで小説やアニメにしかないと思ってたものが、急に現実に現れたら、誰だって確かめたくなるでしょ!」清水 優はむっとして反論する。
第8章 交差する運命線




