第7话 幻想と現実
土曜日の朝、灰色の空からしとしとと小雨が降り始めた。
星野 凛は早々にマネージャーとアシスタントに迎えに来られ、星野 源も朝食を済ませた後、家を出た。
ただし彼の目的地は、同年代が週末に好んで向かう繁華街ではない。町区近くの、奥まった路地にある一軒の店だった。
一週間来なかったために埃を被った大きなシャッターを巻き上げると、中には埃一つないガラスショーウィンドウが現れる。ショーウィンドウの隣には、ヨーロッパ中世風のクラシックな木の扉があり、扉の枠からは鉄製の小さな立て看板が突き出ている。その看板には、美しい飾り文字で「骨董店」と書かれていた。
この店に使われている建物は、星野 源がずっと前に父親に頼んで買ってもらったものだった。だが相手は一度もここへ来たことはなく、星野 源がこの家で何をしているかなど気にもしていない。彼は自分名義の不動産がまだこんな一つあることさえ、とっくに忘れているだろう。店の営業許可証さえ、星野 源が祖父の家の執事に頼んで取得してもらったものだ。
つまりこの「骨董店」は、星野 源の秘密基地と言っても過言ではない。
普段、星野 源はこの店を使って普通の骨董品を売買している。ただし場所が辺鄙で、しかも星野 源も休日しか来ないため、基本的に客はほとんどいない。
星野 源は鍵を取り出して店の扉を開けると、そのまま一枚の符紙を中へ放り投げた。たちまち、屋内に一陣の清風が巻き起こり、すぐに数少ない埃を巻き込んで、星野 源の脇を通り抜け、扉の外の世界へと消えていく。
安心して靴を履き替え、中へ入る。迎面してくるのは、ショーウィンドウと木の扉に相応しい古典的な雰囲気だ。ほとんどが無垢材の内装も、趣のある配置も、まるで時を超えた空間を演出しているかのようだった。
雨粒が打ちつけるホワイトノイズの中、星野 源は広々とした応接間を通り抜け、さらに奥にある、より広い展示室へと足を踏み入れた。
店の名前が「骨董店」である以上、ここに骨董品がないはずがない。明るい展示室には、数十の精巧な石膏の台座が整然と並んでいる。だが残念なことに、ほとんどの台座の上は空っぽで、点在する十数基にだけ、色彩の暗い骨董品が置かれていた。しかもそれらの骨董品には、すべて一枚どころか何枚もの明黄色の符紙が貼られている。
展示室の気温は、元々なぜか他の場所よりずっと低い。それに加えて、猩紅の文字と記号がびっしり描かれた符紙の数々。ここに立っているだけで、心の底から不安が湧き上がってくる。
これも当然のことだ。なにせここの骨董品の一つ一つが、本物の怨霊を意味しているのだから。
人は死ぬと魂が肉体から離れ、現実と断絶した霊体となる。一般的に、霊体は成仏する以外に、魂が消滅するしかない。
だが、この世に対する強い執念を持つ霊体の中には、成仏を拒み、消滅することにも甘んじない者たちがいる。こうした執念の極めて深い霊体は、たいてい第三の選択肢を見つけ、選び取る――陰気の極めて重い物品を依り代とし、それに寄生することで、霊体として現実に干渉するのだ。
通俗的に言えば、人々が口にする「怨霊」になるということだ。
執念が深ければ深いほど、依り代に必要な陰気も重くなる。そして世の中の万物の中で、最も陰気を帯びた物品といえば、当然、骨董品――
怨霊狩り、除霊は、疑いようもなく極めて危険な仕事だ。星野 源は自己認識が十分にある。自分を人助けの正義漢などと思ったことは一度もないし、魔を祓い道を守るなどというものにも興味はない。彼が老道士の死後もなお、この危険な道を歩き続けられる最大の理由は、その危険に見合う収益だった。
おそらく前世の子供時代に貧しさに怯えたせいだろう。実は星野 源はかなり金に貪欲な人間だ。後に老道士についてから金に困ることはなくなったが、この「金への貪欲」は次第に、魂に刻まれた「宝物」への執着へと変わっていった。
百年に一度しか出会えない南海の走盤珠だとか、千年に一度しか出土しない極上のピンクダイヤだとか。名前を聞いただけで、よだれが出そうになる。
宝物と呼ばれるものは稀少だが、骨董品は間違いなく宝物界の半壁を占めている。つまり、ほとんどすべての怨霊が、一件の宝物を意味している。しかも怨霊が凶暴であればあるほど、宝物も一般的に貴重になる。
今、あの林の中の道場にいる怨霊剣士が手にした、猩紅の妖刀のことを考えるだけで……星野 源はまたよだれが出そうになった。だが、何度も門を叩いて挑みかかり、そのたびに危険を冒しては惨めに逃げ帰った結果を思い出すと、彼の気分はたちまち、外の陰鬱な雨空のように悪くなった。
無表情のまま、頭の中でN度目となる怨霊剣士との戦いを振り返りながら、展示室の骨董品を一つ一つ確認する。
すべてが正常だと確認すると、星野 源は振り返って展示室の扉を再び固く閉ざした。
古風で趣のあるカウンターの後ろでコーヒーを淹れ、星野 源は応接間の反対側にある出窓のそばへ座った。頭をひんやりとしたガラスにそっと預け、静かに外の雨音に耳を傾ける。古典的な室内に、また別の静けさが広がっていく。
あの刀、欲しい、欲しい、欲しい……
その思いが一刻となく頭の中で発酵していく。まるで狂った声がヒステリックに叫んでいるかのようだ。星野 源の額角が微かに跳ねる。彼は苦いコーヒーを大きく一口含んで飲み下し、それでようやく心の底の落ち着かない躁動を抑え込んだ。
ざあざあ――
密集した雨粒が体育館の屋根を打つ。膝を抱えて楽屋の控室に座る星野 凛は、スマホを手に、さっき検索した「楽しいオンラインゲームのおすすめ」のページを眺めていた。
「凛ちゃん~!」
極めて甘ったるい呼び声が星野 凛の耳に飛び込んできて、次いで彼女の華奢な背中に、香ばしく柔らかな体が圧し掛かった。
「どうしよう凛ちゃん! もうすぐ舞台なのに、私すごく緊張してるの!」
星野 凛は振り返らない。声だけで、背中に乗っているのが誰か分かるからだ。早川 雪奈。二ヶ月前にTKY02へ加入した二期生で、今回の新宿公演に選ばれたメンバーの中で唯一の二期生だった。
彼女はスマホの画面をスクロールしながら、適当に慰める。
「大丈夫だよ、普段の練習みたいにやればいいんだから」
「そうは言ってもね」早川 雪奈の甘ったるい声には、力なさが滲んでいる。「公演は公演だもん。八千枚以上のチケットが一瞬で完売したんでしょ? 舞台上であんなにたくさんの観客に見られて見つめられたら……うう、考えるだけで怖い!」
「安心して。そんなにたくさんの人があなたを見つめることはないよ。どうせみんな凛ちゃんと小薫を目当てに来てるんだから」
別の声が突然横から割り込み、早川 雪奈と星野 凛は同時にそちらを見る。話していたのは、いつの間にか二人のそばに立っていた隊長、早見 聖子だった。
早見 聖子は早川 雪奈に向かってにっと笑う。
「冗談だよ、気にしないで」
そう言うと、彼女は視線を広げ、星野 凛も含め、口元の笑みをさらに深くする。
「もうすぐ舞台だよ。準備はいい? お嬢様たち?」
……
緩やかな音楽が次第に遠ざかり、耳元の主旋律は雨音と街の喧騒に取って代わられる。清水 優は買い物袋を提げ、親友の鈴木 沢美と一緒に傘を差しながら、後ろの服屋を後にする。
「どう? 私の言った通り、この店超いいでしょ!」
鈴木 沢美は清水 優と同じ買い物袋を振り回し、興奮した顔で言う。
「同じブランドの専門店なのに、ここは他の場所より十パーセント安いんだよ!」
「それでもやっぱり高いけどね――」
「ああ! どうして学校では制服を着なきゃいけないの! せっかく可愛い服を買ったのに~」
「そうだ優ちゃん、昨日他のクラスの人から聞いたんだけど、月曜にテストがあるんだって。帰ったら勉強会でも開かない? ちょうど新しく買った服を見せびらかせるし~」
「優ちゃん……」
話しているうちに、鈴木 沢美の声は次第に小さくなる。彼女は清水 優の顔を見て、少し眉をひそめた。
「優ちゃん?」
「優ちゃん!」
「あ……あ?」清水 優は夢から覚めたように友人へ顔を向け、ぼんやりと瞬く。「どうしたの?」
鈴木 沢美は額に手を当て、呆れた顔をする。
「『どうしたの』って聞くのは私の方だよ! 今日一体どうしたの、外に出た時からずっと上の空で。昨夜ちゃんと眠れなかったの?」
友人の言葉に、清水 優の表情が一瞬止まる。彼女は昨夜、確かにあまり眠れなかった。正確に言えば、ほとんど眠っていない。
だがこれも仕方ないだろう! なにせ世界観が完全に崩壊した衝撃は、そう簡単に消化できるものではない。彼女は昨日、あの廃道場で、ほとんど幻想が現実に移り変わったような光景を、この目で見たのだから!
第7章 幻想と現実




