第2话 あの男に一発お仕置き
愚痴をこぼしたことになるのかは分からないけれど、とにかく朝の出来事を友達に話したあと、清水 優はむしろ少し気が抜けてしまった。
彼女はしおれた様子で自分の机に突っ伏し、退屈そうに親友へ尋ねる。
「それで……どうやって復讐するつもり?」
鈴木 沢美は口元を吊り上げ、目を三日月のように細くして、狡猾さを滲ませた。彼女は身をかがめ、小声で言う。
「優ちゃん、昨日部活休んだから知らないでしょうけど、あの男、昨日うちの剣道部に入ったんだよ」
「どうせ新入部員はみんな、先輩相手に一試合やって実力チェックされるんだよ」
鈴木 沢美はいたずらっぽく続ける。
「だったらその時、中学全国剣道大会準優勝の優ちゃんが、彼のテスト先輩になってあげればいいんだよ。ふふふ……」
清水 優は思わず、友達が描いた光景を想像してしまった。竹刀であの泥除け野郎の頭を叩くところを想像する……彼女の表情はだんだんうっとりとしたものになっていく。もともと勉強が好きではない彼女は、一日の時間を期待に浸りながらあっさり無駄に過ごした。
やがて、放課後の心地よいチャイムが耳に響く。
清水 優は条件反射のように星野 源の席を見る。すると、あの男は彼女よりも早く鞄をまとめ終え、片手で提げて立ち上がり、教室の外へ向かって歩き出していた。
清水 優は鈴木 沢美へ視線を送る。親友もまた彼女を見ていた。二人は顔を見合わせて笑う。すべては言葉にしなくても分かり合えた。
瀬川私立学園は、東京江東区で偏差値が最も高い高校の一つだ。先頭に立つ存在として、入学基準も当然ながら非常に高い。ここに通える生徒は、自分自身が良い成績を持っているだけでなく、高額な学費を払える家庭環境も必要とされる。
もちろん、その代わりに、背後に財団を持つ瀬川私立高校は、生徒たちに最高品質の教育資源を提供している。それは教師の質だけでなく、さまざまな先進的な教材や、生徒が活動するための施設にも表れていた。
敷地面積が千平方メートル近い剣道場には、桐油を塗った無垢の木の床が敷き詰められている。その輝きは、スカートを穿いた女子生徒が入るのを躊躇してしまうほどだった。
立派なのは場所だけではない。部員たちが身につけているものも、すべて一目で高級品と分かる装備ばかりだ。新品同様で清潔で、道場内には嫌な匂いなど一切ない。よく嗅げば、ほのかに良い香りのするラベンダーの匂いさえ漂っている。
もちろん、これは部員全員が掃除好きだからではない。部活終了後、学校専属の清掃員が道場を掃除し、部員の装備を洗ってくれるからだ。
だからこそ、剣道に興味はあるけれど、共用の装備が不衛生なのは怖いという生徒たちも、余計な心配をせずに済む。その分かりやすい結果として、瀬川私立学園の剣道部は百人を超える部員を抱える、指折りの大所帯となっていた。
今日の剣道部は、いつも以上に賑わっていた。なぜなら今、道場中央に白線で描かれた試合場で、一組の対抗戦が行われているからだ。
もちろん、この道場に試合が絶えないわけではない。大事なのは、対戦する二人の立場だった。
一方は、中学時代に所属中学を代表して全国中学生大会の団体三位、個人準優勝を飾った剣道美少女。もう一方も反則級にイケメンで、しかも超人気アイドルの兄。
そんな試合なら、面白半分に見に来る者が多いのも当然だった。
だが、期待に反して、想像していた激しい攻防は起こらなかった。場面はただ一方的に圧倒されているだけだった。
試合場では、清水 優と同じく真っ白な剣道着に青い防具を身につけた星野 源が、両手で竹刀の柄を握り、刀身を横にして必死に清水 優の猛攻を防いでいる。
密集した打ち合いの音が、人声で沸く剣道場に響き渡る。星野 源はほとんど後退を重ね、今にも試合場のラインの外へ出そうになっていた。
そんな時、清水 優が突然、攻め方を変えた。払いから突きへと変え、星野 源を横へ回避させる。しかし、突きを半分まで出した清水 優は口元を吊り上げると、竹刀を瞬時に振り上げ、急に振り下ろした。
「面!」
竹刀は風切り音を伴って星野 源の頭頂へ落ちていく。その勢いからすれば、防具をつけていても、まともに食らえばただでは済まなそうだった。
だが、気のせいだったのか。この瞬間、清水 優は星野 源の異色の瞳に、わずかな苦笑のようなものが浮かんだように見えた。しかも近くで見ると、この男は五官が整いすぎている。睫毛も長い……
竹刀が防具にぶつかる直前、清水 優は突然止まった。しかし、先ほど力を入れすぎたせいで、慣性で竹刀は星野 源の頭頂へぶつかり、防具と一緒に小さな「こん」という音を立てる。
「面、有効!」
道場内が一瞬静まり返った。だがすぐに、大きな歓声が爆発する。
「おおっ! さすが全国大会準優勝!」
「女の子にすら勝てないなんて、情けな~い!」
「おいおい、今から星野を慰めに行ったら、友達になって凛ちゃんの連絡先を教えてもらえたりしないかな――へへへ……」
さまざまな声が耳を満たす。けれど、星野 源も清水 優も気にしていなかった。
今、清水 優の視線は完全に星野 源の顔へ注がれている。そして、ツンとした表情で言う。
「あなたの負けよ」
星野 源は笑い、素直に頷いた。
「それで……謝って」
清水 優は突然、顔を引き締めて言う。
「……」
少し間を置いて、星野 源は笑った。
「もう欲しがってた本を謝罪の品としてあげたと思うんだけど……まあ、ごめん」
朝は怒りすぎて気づかなかったからだろうか。こうしてもう一度この男の声を聞いて、清水 優は突然気づく。この人の声、すごくいい。とても澄んでいて、それどころか少し空霊な響きさえある。
その顔に、あの目……ちっ、こんな条件が男子にあるなんてもったいなさすぎる! この野郎!
「ふん……その本の分だけ許してあげる」
清水 優は口を尖らせ、視線を逸らす。もうこれ以上、この男の反則的な顔を見ていたくなかった。
……
「どういうことなの、優ちゃん。最後の一撃、なんで急に止めたの?」
試合後の自由練習の途中、鈴木 沢美は隅っこで一人素振りをしている清水 優を見つけ、とても不思議そうに尋ねた。
清水 優は素振りを止め、何度か息を吐く。そして人混みの向こう、別の隅で片手で適当に竹刀を振っている星野 源へ視線を送った。彼女は少し間を置いてから、小さな声で言う。
「気のせいかもしれないけど……最後の一撃、わざと私に隙をくれたような気がしたの」
「は?」
鈴木 沢美は奇妙な顔をした。試合は彼女も最初から最後まで見ていた。あの星野 源は、明らかに親友に終始圧倒されていたではないか。そんな中でわざと隙をくれた? 気のせいでなければ、勝てないと分かって自暴自棄になったとしか思えない。
鈴木 沢美もあまり深く悩まなかった。親友の「仇」はすでに討ったし、彼女の星野 源への興味もそこまで大きくない。すぐにこの話題を流し、女子高生らしい普通の話題へ移る。
「そうだ、優ちゃん。週末一緒に新宿へ遊びに行かない? 友達がすごくいい服屋さんがあるって言ってたの……」
第2章 あの男に一発お仕置き




