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第一話 物語が始まった日

青く澄み渡った空には、白い雲海がうねるように広がっている。ピンク色の桜はまるで大雪のように街路を埋め尽くし、四月の東京は一幅の鮮やかな水彩画のようだった。ほんの少し目を向けただけでも、心が自然と明るくなる。


けれど、ここで生まれ育った清水 優にとって、そんな景色はもう見飽きている。しかも、今の彼女の心はかなり暗かった。


学校へ向かう道すがら、清水 優はしおれた小白菜のように大きなため息をついた。さっき家で母にお小遣いの前借りを頼んだが断られ、自分の子豚の財布の中には、最後の数枚の硬貨がチャリンと音を立てて残っているだけだった。


最近『霊探ノート』にハマっている彼女は、最新刊を買うお金すらない。


もちろん、母を恨むつもりはない。ただ、昔の自分がなぜあんなに金遣いが荒かったのかと、少しだけ恨めしく思うだけだ……


幸い、清水 優は生まれつき楽観的だった。少しの間だけ自分を責めたが、すぐに立ち直り、問題を解決する方法を考え始めた。


高校生が金を得る方法は、一般的にはいくつかしかない。お小遣い以外なら、奨学金かバイトだ。まず奨学金の選択肢は、清水 優によって真っ先に除外された。自己認識はある。自分には九十五点をつけられる超高い美貌があり、九十点以上のかなりすごい剣道の実力もある。だが、それでも彼女が実は勉強ができないという本質は変わらない。


つまり、清水 優の前に残された選択肢は、ただ一つだけ。


白く小さな拳をぎゅっと握り、清水 優は意気揚々と顔を上げた。美しい杏の形をした瞳には、決意の光がきらめいている。決めた! 今学期は部活に入らない。放課後はバイトに行く!


決意したのはついさっき。だが、揺らぎ始めたのはその次の瞬間だった。顔を上げた瞬間、清水 優の視界に、見覚えのあるものが飛び込んできたからだ。


それは一冊の本だった。ぼんやりと見えた表紙にも覚えがある。清水 優の脳裏に、ぴかっと閃きが走る。あ……あれって『霊探ノート』じゃない! 清水 優は急いで、本を持ちながら歩き読みしている人物へと視線を移した。


相手は自分と同じ学校の制服を着ていて、背筋がすっと伸びている。斜め後ろから横顔が少しだけ見えて、肌は白く、輪郭もとても整っていた。清水 優の心の中に、すぐにその名前が浮かぶ。


星野 源。自分のクラスメイトだ!


まだ新学期が始まったばかりなのに、清水 優はこのクラスメイトの男子に対して非常に強い印象を抱いていた。といっても、こいつの行動のせいではない。なにせこの男は、普段クラスでいつも一人静かに席に座って本を読んでいる。静かすぎて、清水 優はこいつが話すところさえ聞いたことがなかった!


何人もの女子が、彼のその英日ハーフという反則気味の顔立ちに惹かれて積極的に話しかけても、彼はただ相手をじっと見つめて微笑むだけ。そして相手が逃げるように去るまで見つめ続ける、かなり変わっていて目立たない人物だった。


だが、そんな彼には、とんでもない双子の妹がいた。入学式以外、一度も学校に姿を見せていないのに、ずっと学校の話題の中心であり続ける人気アイドル、星野 凛である。


そう、こいつにはとても可愛いアイドルの妹がいるのだ! もう嫉妬で発狂しそうなくらいだ!


だが、重要なのはそこじゃない! こいつがまさか『霊探ノート』を読んでいるなんて、まさかの同好の士なのか?! だったら、同じクラスメイトである自分は、少し仲良くなるだけで、ただで本を借りられるのでは? そしてバイトの苦労から逃れ、親友の鈴木 沢美と一緒に剣道部を続けて、中学の時みたいに夏休みに全国大会へ出場できる……


そこまで考えて、清水 優の目はもうきらきらと輝いていた。彼女は小走りに二、三歩進み、前方へ向かって大きな声で呼びかけた。


「星野くん!」


前を歩く少年は足を止め、少しだけ振り返る。その人形のように精巧で整った顔が、清水 優の眼前に完全に晒された。特に、澄んだサファイアを眼窩にはめ込んだような左目は、今の青い空さえも霞んで見えるほどだった。


ああ、こいつはアイドルの妹と同じで、かなり珍しいオッドアイなんだ。清水 優は心の中で少し羨ましくなった。こんなにかっこいい目、自分も欲しい。


そのオッドアイの視線を迎え、清水 優は気合を入れ直す。元気いっぱいに星野 源の隣へ小走りで近づき、とても熱心に言った。


「星野くん、学校へ来るとき、この道を通ってたんだね。前は全然見かけなかったよ!」


少年は微笑みながら彼女を見つめるだけで、話す気配はない。


清水 優は心の中で冷や汗をかいた。来た来た、これがクラスの女子たちに“死の微笑み”と呼ばれている表情だ。向けられた相手は異常に気まずくなり、ただ早く離れたくなる――でも! バイトをしなくても本を読めるためなら、本日この私、絶対にあなたに口を開かせてみせる!


そっと息を吸い込み、足の指で地面を掻くような衝動を抑えながら、清水 優は星野 源と並んで歩いた。そして、さらに熱心で親しみやすい笑顔で言う。


「あなたも近くの町に住んでるの?」


少年は相変わらず微笑むだけだったが、その手に持った本はすでに閉じられていた。そしてこの瞬間、清水 優にもはっきりと見えた。こいつが手にしているのは、彼女が心から待ち望んでいた最新刊『霊探ノート』だ!


彼女の顔の表情は、すぐに不自然な驚きへと変わった。「欲しい」という二文字が、今にも顔に書かれそうだ。清水 優は興奮を堪えながら言う。


「わっ! あなたもこの本読んでるんだ。私も超好きなの! えっ――もう最新刊まで読んでるの? 私は前の号を読み終えたばかりなのに。あの大正時代のお婆さん、無事に旦那さんに会えたのかな……」


清水 優の言葉が終わらないうちに、星野 源の眉がぴくりと跳ねた。そして次の瞬間、彼はするりと並んで歩く清水 優の反対側へと回り込む。身を低くすると同時に両手で彼女の肩を押さえ、少し力を込めて自分に背を向けさせ、遮蔽物としての面積を広げた。電光石火の間に、一台の車が猛スピードで走り抜ける。昨夜の大雨で残った水たまりから、茶色い泥水が大きく飛び散り、清水 優の全身と顔面にべったりと張り付いた。


清水 優の表情は茫然自失となる。彼女はぎこちなく身体を回し、後ろにいる、全身ほこり一つ付いていない星野 源を見た。


星野 源は平然と、手に持っていた『霊探ノート』を両手で清水 優の手に差し出した。そして、とても真剣な顔で言う。


「ありがとう」


言い終えると、星野 源はすでに二、三步を一気に駆け抜け、少し先に停まっていたタクシーへと滑り込んでいた。そして瞬く間に、人も車も、清水 優のぼんやりと茫然とした視界から消え去った。


……


清水 優はもう怒り狂いそうだった。星野 源に泥水を一身に浴びせられたからだけではない。家に帰って身支度を整え、服を着替えた後、案の定遅刻したからだ! 罰として、学校の四百メートルトラックを何周も全力疾走させられ、終わった時には息が止まりそうだった!


一時間目の休み時間、清水 優は心待ちにしていた最新刊『霊探ノート』にさえ目を向けなかった。ただ自分の席に座り、前列の窓際にいる、とある無良なクソ野郎をぎろりと睨みつけていた。


あの男は毎日学校でクールぶっているが、実際は美少女を泥除けに使うような真似まで平気でやる、とんでもないクソ野郎だ!


「優ちゃん、今日どうしてこんなに遅いの……あれ? どうしたの、そんな怖い顔して」


親友の鈴木 沢美の声が、清水 優の耳元で響いた。清水 優が視線を移すと、そこには豊満な体つきで、整った顔立ちの少女が立っていた。その顔には好奇心がありありと浮かんでいる。


親友にそう問われ、清水 優の表情はたちまち崩れた。自分の恥ずかしい失敗を彼女に知られたくない。鈴木 沢美はそれを見ると、目をくるりと回し、清水 優がさっきまで見ていた方向へ視線を向けた。すると次の瞬間、可愛らしい顔に何かを考えるような表情が浮かぶ。


「彼にいじめられたの?」


清水 優は口をへの字に曲げ、話したくないという意思表示をした。


しかし鈴木 沢美は、天下が乱れるのを恐れるかのような様子で興奮し始めた。


「いったいどういうことなの、早く教えてよ」


そう言うと、さらに声を低くして小声でそそのかす。


「もし本当に極悪非道なら、ちょうど復讐する方法があるんだよ!」


その言葉を聞き、もともと話したくなかった清水 優はさらにためらった。彼女は細い眉をひそめ、小声で言う。


「そんな大したことじゃないし、復讐とかはやめとく……」


「もう、じゃあ復讐はしないで、ちょっとだけお仕置きすればいいじゃない。せっかく悔しい思いをしたのに、そのまま我慢して亀になるなんてありえないでしょ?」


鈴木 沢美は引き下がる気はなかった。親友のために不平を鳴らすのはもちろんのこと、あのイケメンで無口な男をちょっとからかうのも、かなり面白いことなのだから!


親友に亀と言われ、清水 優は少し我慢できなくなった。彼女は口を開きかけたが、最後にはため息をつき、今日の登校途中に星野 源に泥水避けに使われたこと、さらには遅刻させられたことを全部話した。


それを聞いた鈴木 沢美は、その場で机を叩き、義憤に駆られて言った。


「ひどすぎる! これでも男なの?!」


全身から正義感を漂わせ、親友のためなら何でもするという顔をしている。もちろん、彼女の目がそこまで輝いておらず、口角がそこまで上がっていなければ、もう少し信じられただろうが。


その騒ぎはクラスの多くの生徒の注目を集めたが、鈴木 沢美は気にしなかった。彼女は小さな手を振り、清水 優の肩を叩いて言う。


「安心して、この仇はこの私が討ってあげる!」


「……」


清水 優は彼女を横目で見た。


第1章 物語が始まった日

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