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デテクティ  作者: ゆう
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第6話 死んだことにされた者

紙切れを握ったまま、俺はしばらく動けなかった。


「レオン……」


 ヴァールハイトの声も、いつもの軽さがない。


「どういう意味だと思う?」


「分からない」


 正直に答えた。


 紙に書かれている文字は間違いなく王国語だ。


 読めない文字でも、古い記録でもない。


 誰かが、誰かに向けて残した文章。


『ソレイユへ送られる者は、すべて死んだことにしろ』


 ソレイユ。


 王都の名前。


 そして、さっき地下で聞いた言葉。


 研究院。


 頭の中で、いくつもの点が繋がり始めている。


「一つ、確認したいことがある」


「何?」


「この紙を書いた人間は、ここで何をしていた?」


 ヴァールハイトが首を傾げる。


「死体を集めてたんじゃないのか?」


「違う」


 俺は少女の遺体を見る。


「死体を集めるだけなら、この指輪は必要ない」


「……確かに」


「しかも、指輪を探していた奴らは、少女が死ぬ前からその存在を知っていた」


 つまり。


 少女は何かを知っていた。


 そして、それをこの指輪に隠した。


「レオン」


 ヴァールハイトが床を指差した。


「これ」


 床の隅。


 小さな泥の跡が残っている。


「誰かがさっき入ってきたときの?」


「たぶん」


「でも、これ……」


 ヴァールハイトがしゃがみ込む。


「靴の跡が普通じゃない」


「どういう意味?」


「片方だけ、泥が多い」


 俺も見る。


 確かに左右で違う。


「外から入ってきた人間じゃなくて、荷物を運んでいた?」


「そう思う」


 その瞬間。


 俺は地下室で見た木箱を思い出した。


 大量の死体。


 薬品。


 そして神官。


「……死体を運ぶための箱」


「じゃあ、あの地下室は?」


「一時的な保管場所だったのかもしれない」


 俺は立ち上がる。


「ブミからソレイユへ、死体を運ぶ仕組みがある」


「でも、なんで死んだことにする必要がある?」


「それが分からない」


 俺は紙を折りたたんだ。


「だから、確かめる」


「また危ないところへ行く気だな」


「たぶん」


「たぶんじゃなくて絶対だろ」


 ヴァールハイトが頭を抱えた。


「俺、お前の友達やめた方がいいかな」


「今さら?」


「……それもそうか」


 翌朝。


 俺たちは町の荷物運搬所へ向かった。


 ブミは小さな町だ。


 だから王都へ向かう荷馬車の数も限られている。


 ヴァールハイトは顔の広さを使って、御者たちから話を聞き始めた。


「最近、夜中に王都へ向かう荷馬車ってある?」


「夜中?」


「そう。人目を避けるみたいに出ていくやつ」


 何人かに聞いて回る。


 ほとんどは知らない。


 だが、一人の年配の御者が反応した。


「……そういや、あるな」


 俺たちは顔を見合わせた。


「どんな荷物を運んでるんです?」


「知らねえよ。俺たちには中身を見せない」


「誰が依頼してる?」


「それも知らん。ただ、教会関係だって話だ」


 また教会。


「いつ出る?」


「今日だ」


「今日?」


「ああ。日が沈んでからだ」


 御者は声を低くした。


「それと、変な決まりがある」


「決まり?」


「荷物を受け取る前に、必ず帳簿に名前を書くんだ」


「誰の名前を?」


 御者は少し黙ってから答えた。


「死んだ人間の名前を」


 背筋が冷たくなった。


「……どういうことです?」


「俺には分からん。ただ、帳簿には毎回、人の名前が書かれてる」


「その名前の人たちは?」


「知らねえよ」


「でも、なぜ死んだ人間だと?」


「紙にはそう書かれてる」


 俺は無意識に拳を握っていた。


 死んだことにされている。


 つまり。


 本当は生きている人間まで、


死者として扱われている可能性がある。


「レオン」


 ヴァールハイトが小声で言った。


「今夜、その荷馬車を見張ろう」


「俺もそう思ってた」


「じゃあ決まりだな」


 夕暮れ。


 教会の裏手に、一台の荷馬車が止まった。


 周囲には誰もいない。


 やがて、白い服を着た男たちが現れる。


 木箱をいくつも運び込んでいく。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 俺は物陰からそれを見つめる。


 そして最後の木箱が運ばれたとき――


 箱の中から、


 コン。


 と音がした。


 俺は息を止めた。


 もう一度。


 コン。


 今度は、はっきり聞こえた。


 ヴァールハイトも聞いたらしい。


「……今の、聞こえたか?」


「聞こえた」


 木箱の中から、誰かが叩いている。


 生きている。


 俺は立ち上がりかけた。


 その瞬間。


 箱の中から小さな声がした。


「……助けて」


 俺は凍りついた。


 死者の声ではない。


 これは――


生きている人間の声だった。

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