おいてけぼりの錬金術師①
念には念を入れて作成した地球への帰還魔法ないし魔道具を作成する研究所は、その危険性を考慮して各部屋に魔術的な結界と、研究所自体の周りの世界樹の柵による結界を二重に張り巡らせてある。
そしてその中の研究室の一つ一つも危険な実験を行う性質上、外に魔力を漏らさない様に作られている。女神クリア様の力を弾いた工房よりも強固な自信がある。
完全に規格外だなぁ。
「さて、まずは実際に空間に穴を開けてそこから先がどうなっているのか確認をしないといけないな」
旧ハイランド城の地下で発見された勇者召喚の魔法陣は、複数の魔法陣をそれぞれの担当者がコントロールするタイプの魔法陣だった。
一つが魔力を供給する魔法陣。
一つが勇者の素質のある人間を探索する魔法陣。
一つが空間に穴を開け、その素質ある人間をこちらに呼び出す魔法陣。
一つが空間を通過している間の勇者の素質のある者を保護する魔法陣。
これらの魔法陣を順番に稼働させていき、勇者の素質のある者を呼び出すのが旧ハイランド城の魔法陣だ。
勇者は無事に召喚された記録が残っているし、当時から生きている太陽神教のレコーズも勇者召喚が成功していると言っていた。
だからこの魔法陣自体は間違っていないとい事は確定している。
「では魔法陣を描くところからでございますか?」
オレの助手であるユーナが首を傾げつつ聞いて来た。
「いや、残っていた魔法陣は平面図で魔力回路の効率が悪い。黒竜王の息子だなんてとんでも生贄を使っていた連中と違って、こっちは人間で魔力に限界もある。そこは別の方法を取る」
「そうなんでございますか、どうするでございます?」
「もちろん、魔道具化する」
魔法陣や固定された魔法を使えない人間がそれらを使えるようにする。それが魔道具の役割だ。
そしてこれらを作るのはオレの専売特許である。
今まで見た事のない魔道具の作成であるが、この世界に来ていくつもの魔道具を作成しつづけたオレである。どういった形にするか、どういった素材がこの魔法には適しているかなどは自然と頭に浮かんできている。
「お手伝いするでございます!」
「ああ。助かるよ」
今回はこの世界の壁をこじ開ける魔道具だ。目標地点が目に見えない物だから難解ではあるが、最近そういった体験をしたのでそこに関しては自信がある。
魔道具の作成自体は恐らくそんな難易度ではないだろう。
どちらかといえば、使用する魔力量に不安がある。
月見草を温室プールの一角で量産する事にしたので、マナポーションやエーテルの素材がどれだけ必要かが鍵になる気がする。
この間大量に使ったから急いで増やさないとあかんな。
「できましたでございます!」
「ああ。これが完成形だな。まあ小さいものだけど」
出来上がったのは何も入っていない額縁のような道具。
ディメンション・アイビーフェニックスの瞳を主軸にし、【時空の水溶液】とでも言うべき新しい水溶液。これはシルドニア王国に初めて行った時に遭遇したベインの胃液と生命の水溶液、それとシャドウストーカーという影に潜むドッペルゲンガーに似た特性を持つ虫の魔物の蜜を合わせて作った水溶液だ。
それを冥界のマッドゴーレムのボディから取った泥と粉末にしたディメンション・アイビーフェニックスの木羽、毎度おなじみハクオウの鱗の粉末を混ぜ込んで固形化した物でフレームを作った。
強度面に多少不安が残るが、金属類との親和性が低そうだったので仕方がない。
オリハルコンでメッキをしてもよかったが、その分魔力抵抗値が上がりそうだったんだよね。
「よし。じゃあこれを土台に固定してだ」
フレームである。もちろん細い。
真っすぐに立てる事はできるが、実験中に倒れでもしたら問題だ。
土台には魔力タンクを内蔵させ、半透明なチューブからエーテルがフレームの内部を走る様になっている。
また、エーテルも通常の魔力を回復するものではない。オレの魔力に染められ、オレの魔力の外付けタンクとして使用する事が可能になっている。
エーテルを飲む必要もないし、魔法の発動の起動のみならず、停止信号や属性の変換などもできるようにしてある。
ぶっちゃけ世界の壁をこじ開ける魔道具より、土台側の方が大がかりだし金も素材の量もかかっていたりする。
まあディメンション・アイビーフェニックスや冥界素材といった値段のつかない素材もあるので金に関しては微妙なところではあるが。
「土台のケーブルを隣に繋ぐでございます」
「ああ。頼む」
世界の壁の突破を行う実験室は、この研究室で一番小さくて頑丈な部屋で行う。
単純な話、世界の壁の外がどうなっているのかが不明だからだ。ただ、勝手なイメージだが、宇宙空間のような物になっていると思っている。これはオレが日本で教育を受けたからかもしれないが、確証はあった。
「まあ少なくとも空気はないだろうな」
「宇宙空間、でございますね! 正直良く分からないでございますが」
「悪いな。オレがもっと詳しく教える事ができれば良かったんだけど」
まともな教育を受けているわけではなく、作成時に魔法陣に封入されている知識が基本となっているユーナの常識は、オレの知識とは違いこの世界の基準になっている。
故に映像や書物で宇宙空間というものの説明を受けた事のあるオレと違い、想像ができないのだろう。
「とんでもございませんでございます!」
「まあ実際に試してみればわかるだろう」
世界の壁の向こう側、その先がどうなっているかそれを観測する為の魔道具と隣の部屋の機材を接続する。
これらはいわゆる監視カメラのような道具だ。
この世界には存在しないので、やはりこれも手作りだ。
瞳を複数持つサウザントアイズという蛇の瞳と、光の屈折を操り空を自在に飛び回るライトスワローという燕の魔物、それらを合わせて作った監視カメラの魔道具だ。
流石に無線で映像を飛ばす技術は確立させられなかったので、ミスリルと銅を掛け合わせたものを使い有線で接続してある。
空気が流出ても問題ない様に、また横や周りの部屋に影響が出ない様に完全に密閉空間にした上で気圧の影響で部屋がつぶれない様にするのがどちらかといえば大変だった。
色んな宇宙映画で見た、宇宙空間に放出されるワンシーンを自ら体験する可能性があったので慎重に慎重を重ねて塗り固めて踏み固めて圧縮してそれでも不安になるからイドやケンブリッジさんといった風魔法の使い手に調べて貰ったりもした。
「まず映像がきちんと送られてくるか確認だな」
残念ながら液晶パネルもプラズマパネルも有機ELパネルも、なんならブラウン管もシステムが分からない。
だから魔物の瞳と視神経を利用して半透明のパネルに出力する方式を取ったのだが、画面がさかさまになったり色彩がおかしかったりと苦労をしたものだ。
何作るにしても苦労してないか? オレ。
ま、まあいい。回線をユーナがつなげたので、それに合わせて隣の部屋に備え付けておいたパネルに出す。問題ない。
念のためレンズ部分になる瞳の魔道具を手元のコントローラーで前後左右に動かしてみる。
こっちも問題なく稼働するな。
「これで準備できたな。ユーナ、回線をすべて繋げたら部屋から出て扉を密閉してくれ」
この扉も完全に密閉空間にするために作られた特別性である。
強度の問題もそうだが、自分の技術に自信がいまいち持てなかったので扉は二重にしてある。
『はいでございます』
拡張魔法の応用で、横の部屋とマイクで繋がっているので密閉状態でも会話が可能だ。
魔力の無駄な消費を防ぐため、一部の回線を遮断していた。それらをすべてユーナが繋げ、外に出ると扉を閉める。
扉の上のランプが赤から緑に変わった。完全に密閉された合図である。
「おまたせしましたでございます」
「よし、瞳のコントロールを任せるぞ」
「はいでございます!」
ユーナは言葉に頷くと、コントローラーを手に取る。
オレはモニターを確認しつつ、壁沿いに置いた長机の上におかれた機材のボタンに手を掛けた。




