奥山さん、怖がる
こんにちは、今日も監視業務に勤しんでいる奥山です。皆さんにお尋ねしたいのですが、怖い話はお好きですか?怪談や都市伝説など色々な話がありますがそれらの話って背筋が凍るほど怖いってものは中々ないですよね?
「ねぇ、奥山さん。怖い話してくれない?ここ魔界なんだからそこら辺叩けば出てくるんじゃないの?」
「いや、魔界だからって埃感覚で怖い話があるわけじゃないですよ。それに僕怖い話苦手ですし…」
「えー!つまんないわ〜。人間界のヤツならネットで殆ど見れるから飽きちゃったのよ。魔界だったら新鮮な話が聞けると思ったのにぃ。」
うーん、人間が怖がるのって幽霊とかですよね?でも僕の場合は同僚に幽霊がいたりゾンビがいたりとかなり日常的な存在なので怖いと思わないんですよ。
「おーい、奥山ぁ。実家からミカンが届いたんだけど多いからお前も食べてくれよー。」
呑気な声が聞こえてきたと思ったらゴブリンの五部原が沢山のミカンを抱えて階段を上がっています。
「あぁ、五部原いいところに。突然で悪いんだけど何か怖い話知らないか?」
「本当に突然だな。どうしたの?」
「フランソワ様が怖い話を聞きたいらしいんだけど僕そういうのに疎くてさ。それで困ってたところにお前が来たんだよ。」
「なるほどそういうことかぁ。うーん俺も別に詳しいわけじゃないしなぁ。あぁでも、魔物限定なら怖い話あるかも。」
「なにそれ気になるわ!早速聞かせて五部原さん!」
「フランソワ様がわからないかもだよ?でも魔物からすれば人間の姫様が魔王城の中で悠々自適な生活送ってることほど怖いことってないんじゃないの?」
「もう…それは通り過ぎた場所だから…」
皆さん、背筋が凍る話…ありました。
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「ねぇねぇ魔っちゃん。サタンっていないの?」
「サタン?いるけどどうしたんだい急に?」
「だって魔物といえば誰って聞かれたら一番に思い浮かぶような存在じゃない。でもここで暮らし始めてからこれといった話がないから。」
「フランソワ様、監禁ですからね!完全に暮らしてますけどその辺りの体裁は保っておきましょう!」
どうしてだろう、このセリフを言うたびに僕の心は虚無感で満たされてしまうのです…あと何で魔王様は当然のようにフランソワ様の部屋で一緒にゲームやってんの?
「もしかして魔っちゃんがそうなの?強そうだもんね!」
「いや俺は違う、実はな前の魔王だったんだよ。この魔王軍を造ったのはサタンの佐竹ってやつなんだよ。でも作ったはいいものの…堅苦しい肩書きとかいらねぇ、とか言ってすぐにどこかに雲隠れしやがってさぁ。それで俺がその地位を引き継いだんだよ。」
「身勝手な人ね!それで周りの人に迷惑がかかることが分からないのかしら!」
「はっはっは、今この時ほど鏡が欲しいと思ったことはないですよ。」
確かに佐竹さんも相当身勝手だけどフランソワ様だけには絶対言われたくないはずだ。ていうかこの二人が同時期にいたとしたら魔王城崩壊させちゃうんじゃないの?
「魔っちゃんって思ったより真面目な魔物だったのね。なんか見直しちゃったわ、5ミリくらい。」
「よせやい!照れるじゃねぇか!」
「今の言葉をそんな素直に喜べるの魔王様だけですよ…」
「すごいだろフランソワちゃん、俺らは恵まれてるんだぜ?こんないい部下達に囲まれてよ、本当に感謝してるんだ…」
「魔王様!そんなに僕たちのことを…!」
「3ミリくらいな。」
「短いな!僕の感動返せよ!あとその長さで例える流れなんなの?!」
「でもよぉそう思わねぇか奥山。ソロモン君のとこと比べたらここなんか天国だぜ?魔界だけど。」
あー、ソロモンさんですか。あの人を引き合いに出されたら首を縦に振るしか選択肢ないなぁ。最後に何か言ってましたがちょっとわからないですね。
「そんなに大変なの?魔っちゃんがその様子から見て相当な苦労人ね、ホルモン君。」
「そうなんだよ、でもあいつっていつでも一所懸命って感じでさ。俺尊敬してるんだよタウリン君のこと!」
「してないですよね?フランソワ様もですけど魔王様のなんて最早栄養素じゃないですか。」
「フランソワちゃん、バラモン君はな彼だけでも半端じゃねぇ権力持ってんのに、更にその下に72柱なんていうドチャクソ強い厨二病集団連れてるんだぜ?」
「凄まじいわね…そんな思春期の中学男児が知ったその日に興奮を抑えられず必死で徹夜して暗記しようとしたけど結局寝たら忘れてて学校で語れずに悶々とした気持ちになってしまうような集団を連れてるだなんて!ガイセンモン君…一体どんな人なの?」
「あんたら二人ソロモンさんに何かされたの?!ここにもし本人いたら自殺してますよ!」
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ソロモンさんへの謎の攻撃は止み、二人は対戦ゲームで遊び始めました。このまま何もなく平和に…
「魔っちゃん、私と格ゲーで勝負よ!負けたら罰ゲームだからね!」
ほーら来た!知ってた知ってた、知ってましたとも!この人が1日1回は爆弾投下するって!
「おいおい、いいのかよ?俺はかつて'軍艦巻きの松尾,と言われた男だぜ?」
「清々しい程関係ないよ!どこで通用するんだよその異名!」
「まさか…あなたが…?!」
「いたよ通用するやつ!てか知ってても格ゲーとは関係ないから驚くことないでしょ!」
「フフ、相手に不足はないということね…上等じゃない、滾ってきたわ!」
「血湧き肉躍るとは正にこのことだな!」
いいの?魔王様がこんな監禁部屋でマジになっちゃって大丈夫なの?!
「ちなみに罰ゲームの内容は、そうね…最近自分がやらかしたことを暴露する、でどう?割とヤバめなやつ!」
「いいぜぇ。最近マジでやらかしたから、一層負けられねぇな!」
わかる…どちらかが負けた瞬間、ここでとんでもないことが起きるぞ…
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ガチャッ!ガチャガチャガチャッ!
ファネッフー!ファネッフー!
アイグー!アイグー!
ズッ!パシッ!ドシュドシュ!
ウーワ…ウーワ…ウーワ…
「クソ、負けた!まさか魔っちゃんがこれほどの実力者だったとは!」
「おいおいフランソワちゃん、言っただろ?俺は'手巻き寿司の松尾,だとな!」
「異名変わっちゃってるよ!しかもまた寿司関連かよ!」
「ぐぅぅ…もっかい!魔っちゃんもっかいやりましょ!今のは練習ってことで!」
「はぁ〜、しゃあねぇなぁ。弱者に手を差し伸べるのも強者の務めか…」
あ、これ泥沼になるやつだ…
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ウォー…ウォー…ウォー…
「チクショウ!何なんだよそのコンボ!知らねえよ!」
「魔っちゃん、そう言えば言ってなかったわね。私が絵師のフランシーヌであるということを。」
「だから関係ないから!何の牽制になってんのそれ?!」
「違う…今のはキャラの性能に差があったんだ!だから今のはなし!」
「はぁ〜、魔王の名も地に堕ちたわね…」
いつ終わるんだよこの勝負…
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その後まるでビデオテープを巻き戻しているかのように同じやり取りが繰り返され、30戦目から数を数えなくなって幾ばくか経った後、
「もういい…俺の負けだ。いい勝負だっな、フランソワちゃん。」
「えぇ、この勝負のことを聖戦と言うのでしょうね。」
違います、人はこういう勝負を泥試合と言うんです。そしてそんな屈託のない笑顔で握手しているあなた達を変人と呼ぶんです。
「それじゃあ罰ゲームね!魔っちゃんが最近やらかしたヤバめのことって何ですか!」
「うーん、ヤバめなことねぇ。いつもやってるからどれがいいのか迷っちまうなぁ。」
「どうしよう、この人が僕が働いてる場所のトップだと思うと震えが止まらない!悪い意味で!」
魔王様は数秒考え込んだあと、あっ!と声を上げて思い出したことを話し始めました。
「この前さ、なんかとんでもなく貴重だとかいう青い魔石が届いたんだよ。なんでもうまく加工できれば優秀なエネルギー源になるんだと」
「ふーん、よかったじゃない。でもそれのどこがヤバい話なの?」
「いやー、その石がどういったもんか気になって触ってたら手が滑って落としちゃってな、割っちまったんだよ。」
「何やってんですかあんた!それって割れちゃっても大丈夫なんですか?!」
「ダメだろうな。割れた瞬間からいきなり青白く発光して魔力が膨張し始めてよ、こりゃやべぇと思って窓から投げたらそこそこデケェ爆発が起きたんだ。危なかったぜー、その衝撃で亜座美の盆栽が割れちまったんだ。」
やらかしてるなぁこの人。実は少し前に亜座美様の盆栽をうっかり割っちゃった同僚が半殺しにされてたことがあったんです。それほど大切にしてるものを…おや?
「確かにヤバい話ね。そのことって亜座美さんに言ってあるの?」
「言えるわけねぇじゃんw大切な資源とお前の盆栽仲良くオジャンにしちゃったなんてさ。まぁバレねえだろ、あいつ以外と鈍臭いから。」
「その鈍臭い奴でも直接聞けばさすがに全て把握出来るぞ松尾?」
「当たり前だろ、それで理解出来ねぇ…やつなん…て。」
「魔王様、つい先程から亜座美様がお越しになっています。」
先程まであんなにのびのびとしていた魔王様がまるで別人のように萎縮しています。「亜座美に睨まれた松尾」ということわざが作れそうです。
「出てこい…二人でゆーっくり話そうじゃないか。」
「……はい…」
亜座美様は魔王様を連れ、無言でゆっくりと階段を下って行きました。この後のことは…考えないようにしましょう。
「やっぱり魔っちゃんは只者じゃなかったわね、ちなみに私のやらかしはね…」
「やめてください!何か取り返しがつかなくなりそうな予感がします!」
昼下がりの魔王城、今日もなんとか異常…無しかな?




