7話
湖の底,魔銃の実験室の隣にはコンピュータールームがある.ここは主に,実験に関すること以外で魔銃に関することを研究するのに用いる.他には地上の隠れ家にのパソコンに来たメールをチェックを始めとして,地上の隠れ家にあるものを一方的に操作する能力を有する.
その部屋にガーディアンズと博士と助手たち,研究所内の全ての人員が集まっていた.明かりを消した部屋,ガラスの丸窓から緑色の光が部屋に入る.窓含む壁と湖の間には人が2人通れる幅の通路があり,通路の壁のほとんどはガラスとプラスチックで作られている.博士がスクリーンの横で説明し,助手の1人はPC,もう1人は箱を持って立っている.
「パーツがあるであろう地点を出した.探してきてくれ」
画面に地図を出し,ガーディアンズに場所を教えた後,予測した方法を説明し,質問に答えた.
「他に知っている人がいるという可能性は?」
「無いわけではない.私達が得たパーツから導き出せたように,導き出せるかもしれない.経路が違うが同じ場所にたどり着くこともありうる」
「そりゃそうでしょうね,でもそれを確かめるにはそいつらの持っているパーツが無いとわからないの?それとも予想がつくとか?」
「予想は現段階では不可能だ.例えるなら,質量だけ分かっている物体から構成する元素を割り出すようなものだ.膨大すぎて絞り込めない」
予測の方法の説明以降はジュードとマイだけが真剣に聞き,他の3人は知ってなくとも問題ないと気を抜いていた.
準備を済ませたガーディアンズは地上に出て目的地へ車で向かった.
「先着が居たりしてね」
「居るとしたら誰?」
「うじゃうじゃ居るCGならありうるんじゃない?ま,軽く捻ってやるわ」
「SCやSRだったら?」
「パーツだけ貰っておさらば」
「あら,ずいぶんと謙虚ね」
「謙虚…なのか…?まあともかく,あいつらは抜け目ないから余り手の内をさらしたくない」
パーツがあるという洞窟に着いた.
「どう?」
「気配はある」
「なら入りましょう」
ジュードはコバルトを出して周囲を調べさせ,周辺に人がいないことを確認した後,仲間を引きいて洞窟に入った.
洞窟の中を3人の男が歩いていた.手に懐中電灯を持ち,ゆらゆらさせながら歩く.
「なぜ俺がこんな仕事に….CGと戦うなら分かるが宝探しなら子供にでもやらせておけばいいものを」
「子供とは誰かな?」
「分かっていて聞いているだろう.言質でも取るのか?」
「なんと言おうと,これは伯爵の命令だ」
「気に入りませんね.その伯爵とやらは安全なところにいて命令するだけ.なぜ無言で従わなければならないのです?」
「伯爵は慎重な方だ.それと悪口はやめておけ.変なことを考えなければ,安全な住処と給料や手当てが出ると言うのに,謗り言でそれらを台無し,いや生命すら失ってしまうのは割りに合わない」
「勘違いしないで下さいね.私はあなたたちと行動を共にするということに文句があるのはありません.命令に文句を言おうにも一方的に命令するのみで要求を聞かないのが気に入らないのです」
「俺も同感だ.それくらいなら求めてもいいだろう」
「伯爵は我々と違って広い視野で物事を見ている.我々は目の前の状況でベストな行動をすればいいだけだ.末端の作業員と社長に求められる技能は違うのだ」
「フレイル,君は力はどちらが大きいか知っているかな?」
「物事が成り立つということは均衡しているのだ」
「どうかな,実際に動いているのは命令される側だ.それも大勢の.財はそこにある」
「それは契約を無視する場合だ.その組織の外と繋がっているのは下の連中ではない,上の指導者たちだ.外との繋がりは信用により成り立つ.そしてそれは契約として存在する.だから契約を破るものを信用するものは存在せず,孤立し何も残らない」
「難しいことを言って誤魔化す気か?」
「そう聞こえるのならそう思って結構.君らの考えの甘さの認識の足しになればと駄弁っただけだ」
「人を馬鹿にすることが忠告でしょうか.直接顔を出さずに現場の何が分かるというのです,伯爵に命令を出す資格はありません」
「バリスタ,それ以上は喋るな.これ以上は聞き捨てならない」
フレイルは立ち止まりバリスタを睨む.
「2人とも落ち着け.こいつはちょっと頭に血が上って口走っただけだ」
「パルチザン,目を覚ましなさい.伯爵やマンゴーシュなど居ない.SCは不明という恐ろしさで我々を牽制して使い潰す気です」
「ククク…」
「?」
「姿を見せないのは居ないからか,伯爵もそう最初に言いだすのはバリスタだと言っていたよ.誰でも考えはするだろうが口に出すのは君だと.伯爵は君より上手だ」
「それが何だと言うのです」
「そう考えたらどう動くかも想像済みということだ.君では追い越せない」
「フレイル,ここで争いは止めにしよう(バリスタの面子を立てればこの場は収まる.そうでなければ不毛な争いが続く.気付いてくれよ…)」
「(パルチザンに止められて戦わずに済んだ,つまり助けられた形で終わらせようとすればグダグダ続く可能性がある.少し工夫が要るな)パルチザンが何か言っているようだが…バリスタ,君と取引だ」
「なに?」
「伯爵を恐れない勇気を持つ君と取引だ」
「内容は?」
「帰ったら伯爵に会わせる.だからこの場は引いてくれ」
「(詭弁まがいだが…)
「仕方ない,そうしましょう」
パルチザンが壁にもたれるとその脆い壁は崩れ,壁の向こうに居たものがフレイルの目に映る.
「これだ!」
フレイルはガラスの円柱を持ち上げる.中には真っ白な棒が入っており,内側の円の中心に向かって3本のL字状のガラスが付いており棒を支えている.
「よし,持って帰ろう」
「待て,俺が持とう.フレイルの使い魔は何か持っていない方が扱いやすいだろう」
「ほとんど自分で動かないのに使い魔と呼ぶのもおかしなものですがね」
「いや,いい.俺が持つ」
「敵が出てきて襲われたら困るだろう?それとも,それを抱えながら片手であの剣を振り回すと言うのか?」
「危なっかしいから渡したく無い.それにあの使い魔は振り回すことしかできないわけじゃない」
「いいからそれをこちらに渡すのです.魔銃のパーツならちょっとやそっとじゃ傷一つ付かない」
「なら俺が持っていても同じことだ」
「頭で分かっていても反射神経で動く時に選択肢が減るだろう」
「あーもう!何でそんなに欲しがるんだ!」
「お前こそなんでそんなに渡したたくないんだ?俺が質にするとでも言うのか!」
「そういうことじゃない,俺は貸した漫画がへの字に開いて置かれたり,菓子のついた手で触られたり,トイレで読まれるのが嫌なんだよ」
「いや,漫画はともかくとしてパーツにそんな雑な扱いはしない.俺達同じ人間だろう?」
「同じ人間…?」
「そうとも」
「それはさておき,だ.金持ちは金持ちのエリアに住んでいる.どうしてか分かるか?」
「空気が綺麗とか職場に近いとかじゃないのか?役員の多い町なら見たことある」
「それはだな,金持ちなら近所づきあいしても盗んだり麻薬を薦められたりしないことが分かるからだよ.子供の友達を家に上げたらおもちゃが盗まれましたなんてことは起きないんだよ.良識があるからなあ.盗みや麻薬が悪いことでないと育った奴らとは住んでる世界が違うんだよ」
「でも変な奴だっているぜ」
「例外はあるものだ」
「で,結局何だ.俺達が盗人と言いたいのか?」
「違う.同じ人間だとか言っていたが,同じ人間でも環境によって考えや習慣が全く違うのだから,自分とは違う相手に,こういうデリケートな物は渡したくないということだ」
「たとえが不適切ですね,私達が悪人みたいですよ」
「もう面倒になってきた.なるべく問題が起きないようにしてきたが,ここまでだ!力ずくで取らせて貰おう.出て来い,フロスト」
パルチザンはバッジから使い魔を出した.中央に水の球体,周囲に多きな氷の塊が10以上浮遊している.
「いいだろう.掛かってくるがいい.来い,アンバー」
フレイルは肘を軽く曲げ,左手から剣の使い魔を出した.金色の目の模様が懐中電灯の光を受けて不気味に浮かび上がる.
「早く済ませてくださいよ.ここがいつまでも安全とは限りませんから.来い,スラッシャー.私達は離れてバリアでも張っておきましょう」
バリスタのバッジから使い魔が出る.黒いフード付きローブに身を包んだ人の白骨,首や腕には金銀のアクセサリが浮いており,ローブには様々な色の小さな宝石をつなげた金色の糸が両肩,背中,腰の左右にそれぞれ輪になって付いている.
スラッシャーは両手を挙げてバリアを発生させた.
「パーツを置いて戦え.危ない」
「その必要は無い.片手で十分だ」
フレイルは左手で剣を垂直に立てながら言う.剣を上下に動かすとギザギザの刃がフレイルの左目を隠したり,見せたりを繰り返す.
「何だと?」
「君が負けたときの言い訳も用意してあげよう.パーツに気になって本気を出せなかったとね」
「上等だ.そいつを盾にしてじゃないと戦えない卑怯者め」
フレイルはフロストの左側へ走り出す.
「フロスト,氷で押しつぶせ!」
フロストは氷塊を上からフレイルの前後続けて左右に飛ばす.フレイルは剣を振り下ろして前に来た氷を砕き,重心を剣に移す.そのまま勢いに乗って90度左へ曲がって踏み込む.剣を斜め右下から切っ先を前へ向けて左上に切り上げ,フロストの正面の氷塊を砕き,剣の先が一番上になった瞬間に手首を回して敵に向かって人差し指が前になる.フロストは正面を開け,左右の先端の氷塊を数珠繋ぎし,それらを核に氷の壁を作り,フレイルを挟む.
フレイルは氷漬けとなった.
「氷塊をかわさずに破壊させて推進エネルギーを奪う.それと同時に破壊された氷塊を利用して全方位からの攻撃,どうだバリスタ.いい作戦だろう?」
「避けられたらどうするのです?」
「避けそうな相手になら使わないさ.機動力の低い相手には有効だろう?」
「幻術や催眠術を使う相手だったら?」
「基本的には全方位を大気ごと凍結させればいい」
「そうですね.ではそうするべきでした」
フロストは真っ二つになり,氷が消えた.フレイルは地面に剣を刺してフロストの反撃を警戒していた.しかしすぐにフロストはバッジに戻った.
「どういうことだ?」
「私が説明しましょう.バリア越しなら催眠術は効きませんからね」
フレイルは使い魔を手のひらに戻す.
「あの剣は催眠波が出ます.フロストの左から回り込んだように見せかけて右から回り込んだのです.フロストは目も耳も無いのでパルチザンの視覚と聴覚を使って動いていますから,パルチザンが幻に包まれると影響を受けるのです」
「人にしか効かないのか?」
「さあ?どうだろうな.ここで否定も肯定もしないのが得なのは分かりきったことだろう」
「あっ…」
気を抜いたフレイルは手を滑らせた.パーツが転がっていき,段差の下へ落ちる.…しかし割れる音が聞こえない.聞こえるのは高い声.
「ラッキー,吸い寄せられて来たのかな?」
「上に行ってみよう.何かあるかもしれない」
下を見るフレイルたちと上に上ろうとするジュードたちは目が合った.
「お前はSCの…」
「(SRに演技ができるとは思えないし,ジュード相手にシラを切るのも無理か)」
「お兄さん,そいつをこっちに渡すんだ.それは俺達が見つけたものだ」
ジュードはスイッチを押す.爆発音が遠くからする.
「たった今からこれは俺達の物となった.βの力があれば爆発程度じゃ怪我一つしないが,瓦礫の下敷きにはなる.貴重な時間が無くなるぜ.余計なことを考えずにさっさと出て行け」
「馬鹿にしているのか?だったら早くそうすればいいだろう.それができないからこうしているんだろう」
バリスタとパルチザンは逃げ出した.
「悪いなフレイル,そんなパーツ1つで爆発に巻き込まれるのはお断りだ.割に合わない」
「相手が仕掛け終わってるならこの場所での勝負はやめるべきです.思いつきで対処できる程度の策のはずがない」
「あっ,おい…」
「そういうことだ.早く出て行ってくれないか?」
「そうしないとお前は困るわけだ」
「選択肢がちょっと狭まるだけさ.瓦礫の下敷きになるのは嫌だろう?」
「……」
「ジュード,私達の負けね」
マイがぼそりと言う.
「仕方ない.これで黙るか?」
ジュードはスイッチを押し,5人は走り出した.連続で爆発し,洞窟が崩れていく.
5人は外に出て,洞窟の横へ回った.爆音と爆風が洞窟から外へ流れ出た.
「終わりね」
「調査しておきたかったな…」
「あれ以上時間を掛けたらこちらの打つ手が無くなる」
「分かっているさ.黙っているとスッキリしないから」
5人は車へ向かった.突如,マイが立ち止まった.
「ん?どうした?」
「聞こえる…」
「…?」
「彼の笑い声が聞こえてくる…」
「何も聞こえないよ?マイは心配性ねえ」
「フレイルなら今頃瓦礫の下敷きだ.奴らが仲間に掘り起こされない限り動けまい」
「仮に平気だったとしても,わざわざ自分が平気ですって教えるのも変じゃない?虚勢かそれとも…」
「ん?俺達が調べるために残ろうと促せば足止めできるって魂胆じゃないか?」
「それも,そうね」
マイは釈然としないまま,車に乗り込んだ.
5人は湖底の研究所へ戻った.ジュードはパーツを持ち,実験室へ足早に向かう.4人は伸びをしたり,体を捻ったりしながらゆっくり向かう.
「フレイルの笑い声が頭から離れない」
「マイは心配性ね」
対照的にエルサは基地の中に入ったことで肩の力が抜けている.
「そういえば性格は体に反映されるというけど,そうなの?」
ジェシカはエルサに尋ねる.
「調べたことはないから分からないけど,そんな気はするね.見た目に表れるとは思うよ.ヴィヴィはどう?」
「えっ….よくわからない…」
「ま,でも決め付けは良くないね.良く見たら違うこともあるし,明るい気分にしたいから明るい服を着る,でも気分は暗いってこともあるし」
「ジュードにも聞いてみよう.敵をよく観察してるから」
4人は研究室前に着いた.ほぼ同時にジュードが部屋から出てきた.
「よし,報告も終えたしこれで解散」
「それはどうするの?」
マイはジュードの手にあるパーツを指差した.
「簡単なチェックは済んだし,ひとまず保管庫に置いてくる」
「ジュードばかり働いているし,私が運んでおこうか?」
「いや,先に休んでいてくれ.俺がやる」
話を終えると待っていたといわんばかりに笑い声が研究所内に響き渡る.
「これは…」
ジュードは耳に意識を集中させながら辺りを見渡す.廊下の長いす,天井の配線とそれらを乗せたメタルラック,閉まったドア,曲がった通路の先の机と花瓶の陰,…どこを見渡しても人の気配はない.
笑い声は止んだが,発信源は依然として不明のまま.
「散れ.密集していると身動きが取れない」
4人はジュードを軸に離れた.
「シェイド,出て来い」
バッジからシェイドが飛び出し,杖をスピーカーに向ける.スピーカーは角を残して潰れ,ただの塊となって地面に落下した.
ゴンという音と共に陸側の壁に凸凹ができる.ジュードはハンドサインで全員を研究室側に集める.
再びゴンという音がし,壁に縦の割れ目ができた.割れ目からギザギザの大剣が突き出し,左へ引き,壁が引きづられてこじ開けられる.闇の向こうから一人の男が姿を現す.
「さて,ガーディアンズ諸君.パーツを渡して貰おうか.いや,魔銃ごともらおうかな」
フレイルは強く踏み込み,シェイドに切りかかる.シェイドは衝撃波を飛ばしてフレイルを向こうへ押しやるが,フレイルはすばやく着地し,斜めに走って間合いに入ると左から斜め右上へ剣を振る.シェイドは杖で受けて上に受け流して,左手を素早く離し左足を後ろに下げる.フレイルは剣が杖に触れた瞬間に腕を捻りつつ肘を引いて剣を弾きつつ後ろに引き戻し,受け流される前に右足を踏み込んで突き刺す.シェイドは深く切り込まれてバッジに戻った.
「(手を傷めるんじゃないのか.奇襲は相手にとっての非常識であるべき,ということか)」
「お前達最強の使い魔は倒れた.諦めてパーツを渡せ」
「この距離と空間でのシェイドを相手にしたから偶然勝てただけ.図に乗らないことね」
エルサはバッジからホーリーを出した.
「すごいじゃないか.シェイドを倒すなんて.帰って飼い主に褒めて貰うんだな.ああ,でもホーリーに負けたことまでは言わなくていいぜ」
「ぬるい挑発だな.負けて動揺しているのか?」
「くっ…」
ジュードはわざとらしく悔しがった.ホーリーの槍の先に魔力が集まり始める.
フレイルは剣を両手で持ち,右後ろに構えながらホーリーに向かって走った.ホーリーが槍で突きを繰り出すが,フレイルは剣を右下から左上へ切り上げた後,半円を描くように右下へ回し,槍を外へ振り払った.剣で槍を抑えつけたまま肘を引いて前へ切り込む.ホーリーは攻撃が当たる前にバッジへ戻り,空ぶった剣がホーリーの後ろにあったボンベを破壊する.液体窒素のボンベは霧を出しつつ,フレイルは凍りつく.
「ぬるい挑発に引っかかった間抜けだ」
「βの力を持つからこの程度じゃ死なないし,溶けたら動き出すはず.外へ出しておこう」
「ナイン,出てきて」
ヴィヴィはバッジから使い魔を出す.
「彼から距離を取りつつ運んで」
ナインの周囲に気が集まり,フレイルを浮かび上げた.マイは外へ繋がるドアを開けた.地上へ向かうエレベーターのスイッチを押す.
「上に運ぶのはどうしよう?狭いから危ないし,かといって目を離すわけにも行かないし」
「車が1台悠々と乗るサイズとはいえ,全員が一箇所に居るのも危ない」
「本来なら俺が行きたいところだが,シェイドはまだ回復していない」
「じゃあ私が行こう」
「……」
ジュードはマイを見て悩む.
「私が行こう.私なら大丈夫」
「エルサ…そうだな,任せるよ.目を離すなよ.念のためヴィヴィは階段で上へ行ってくれ.階段といってもナインの力で飛んでいくことになるが」
ヴィヴィは首を縦に振った.
「マイは引き続きここで見張っていてくれ.敵が一人とは限らない」
「分かった…」
「ジェシカは俺と一緒にあいつの通ってきた場所を調べよう」
「はい」
エレベーターが来たのでナインはフレイルをエレベーターに乗せ,エルサも乗り込み地上へ向かった.ヴィヴィはそれを見た後,横の階段から地上へ向かった.ジュードとジェシカは壁の穴へ向かった.
エレベーター内,エルサはガラスの向こう側に赤い光源を見つけ,振り向いて探す.直後に氷が砕け散りフレイルが動き出す.虚を突かれたホーリーに剣が突き刺さり,エルサは胸倉を左手を添えた右手で掴まれ宙に浮く.
「離せっ」
「……」
「うっ…」
蹴ろうと足を動かすが,動くと同時に首が絞まる.
「私はガーディアンだぞ.こんなことをして仲間がどう動くか…」
「その仲間はどこかな?お前は非力なただの小娘.そのことを教えてやろうか」
フレイルはエルサをガラスに押し付ける.衝撃でエレベーターが揺れる.
「ジュードたちは穏健だけど,私は違う.死ね」
エルサの右手に槍が現れ,フレイルの胸を斜めに突き刺した.フレイルの力が弱まった瞬間にエルサは蹴り飛ばして着地した.
「これは使い魔のもの,つまりβの力だ.βの力を持つ者はβの力を以ってして殺せる」
エルサは槍を捻り,引き抜く.
「……」
「槍で人を殺すのはこれで2度目.何とも思わないのは不思議ね」
地上に着き,エルサは外に出る.
「…いや,君は一人も殺せてはいない」
後ろで聞こえるはずのない男の声がする.
「一人目は,君の兄は,君が殺したというよりは事故死さ.そして今,この俺はこの程度では死なない」
フレイルが左手の平を下に向けると周囲の血は手の平に集まり,吸収される.傷跡は巨大な瘡蓋が傷跡を一瞬で覆い,話している内に外れ,新鮮な肌が姿を現す.
ヴィヴィが階段を昇り終え,エルサの横へ走り,小さな声で話しかける.フレイルはヴィヴィの唇を注視したが,動きが小さく読み取れなかった.ヴィヴィは視線に気付き,フレイルの目を見てニヤリと笑う.フレイルは攻撃に備えて身構える.
ヴィヴィの後ろの岩が動き,小型飛行船が現れる.ヴィヴィはすぐに乗り込んで起動し,浮かび上がったところでエルサが飛び乗った.
「逃げることはないのに」
エルサは座席に壁にもたれつつ話掛ける.
「彼に対する認識を正さないといけない.しばらく様子を見るべき」
「でもあそこで放置したらまずくない?進入されるよ」
「うん,だからジュードに知らせて」
ヴィヴィは無線機を指差す.エルサは無線機を取り,一定の順にスイッチを押す.地上ではフレイルが煙幕を張り,煙が地表を覆う.
「こちらはエルサ,ジュード聞こえる?」
「……」
小さな音が聞こえる.
「何?何て言っているか分からない」
エルサは右耳のヘッドフォンを抑えて,傾聴する.両目は右腕を見て,頭を空にして耳に集中する.
「ふふふ…はははははっ…」
「いやっ」
エルサはヘッドフォンを外して前へ放り投げる.引っ張られた髪が顔に掛かる.
「虫でもいたの?」
「あいつの笑い声が…」
「えっ…」
船の底で金属音がし,直後に壁から剣の切っ先が現れる.
「振り落として!」
ヴィヴィは荒い操縦を行うと湖の上に何かが落ちる音がした.剣の切っ先は消えている.
「船に損傷がある…一旦降りよう」
2人は湖の小島に降りた.
「ようこそ,待っていたよ」
フレイルが茂みから現れた.
ヴィヴィは船から小型ミサイルをフレイルに向けて発射した.
「βの力があるのに効く訳…」
エルサが言い終わる前にフレイルは剣でミサイルを叩き切った.フレイルの後方で見ザイルの欠片が爆発する.
「ん?」
苔を吹き飛ばした跡には,コンクリートの建物が姿を現す.空いた穴からはCGのマークと書類やモデル,液晶画面に魔銃の研究をしている様子が見える.
「こうなったらパーツを中に投げ込んで,それに食いついている間に脱出する!」
エルサはヴィヴィが頷いたのを見ると,床から鍵を取り出し,小型飛行船の後ろの金庫を開け,保管してあった魔銃のパーツを掴み,穴へ放り投げた.2人は小型飛行船に乗って島を脱出し,煙幕を張って地下通路に入り,研究所に戻った」
「…というわけで,パーツを1つ渡してしまった.ごめんなさい…」
「いや,無事に戻って来れたならそれでいい.しかし…」
「?」
「エルサらしくない.ああ,非難しているわけではないんだ.いつもと様子が違うけど,どうかしたのかなと」
「相手が不死身で,あの時点でのこちらの戦力じゃ排除できないと思っただけ」
「へえ…」
ジュードは気のない返事をした後,我に返って指示を出す.
「エルサ,後で詳しく話を聞こう.とりあえず今は通路を直す必要がありそうだ.配置も少し変えなくては.博士達にも手伝って貰おう」
ジュードは全員に指示を出して,その後で研究室へ向かった.
フレイルはパーツを得ると煙幕を張り,迎えに来たカトラスと共にボートに乗って湖を渡って本部へ戻った.
「パーツは手に入れた.ガーディアンズは,まあ,元気そうだったよ」
「よくやった.おそらくこれで開くだろう」
ファルシオンがパーツを受け取り,様々な方向から眺めながら答える.
「どうだ?そろそろガーディアンズの持つパーツを取り上げてもいい頃じゃないか?」
「いや,まだ早い.あいつらがCGと殴り合ってくれていた方が楽だ」
「しかし不安要素はあの探偵」
「ヴィンセントだったか?あのアキュリスがご執心な」
「彼が魔銃の争奪戦に入ったなら我々の計算が狂う可能性がある」
「だから早めるべきだと?考慮しておく.もう少し深く調べる必要がありそうだな.ダガーを呼び戻すか」
SCは次の動きを開始した.




