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6話

 ガーディアンズの地上の休息所,協力者の屋敷.屋敷の周囲は畑が広がり,水路舗装されていない水路横ではイモリがチョロチョロと動いている.この辺りの水路の全てが舗装されていないわけではなく,屋敷の横にある急に深くなる部分にはコンクリートで屋敷側に壁が作られている.というのも,侵食されるのを嫌った家主が侵食されないように作ったためである.この壁の辺りは勾配は無く急激に深くなる.壁のコンクリートは長方形型の凹みが7つ,横から見ると正六角形の辺と中心にあり,水生生物の住みかとなっている.

 屋敷には母屋と外付けのサンルームが2つあり,サンルームの四方はガラスに覆われ,壁と床はカラミ煉瓦が敷き詰められている.1つ目のサンルームの端の窓が開いており,その風は奥の部屋へ運ばれる.その部屋のさらに先にもう1つのサンルームがあり,そこで暖められた空気は浮力によりさらに奥の煙突から抜ける.また,屋敷の上にはバードギールがあり,そこから取り込んだ風は地下水路の上を通り,母屋の端から空気が抜ける.とはいえ今はバードギールの窓は閉め,母屋の端にも蓋が閉められている.

 博士はソファに座り暖かい風の中,手紙を読んでいた.ジュードは虚空を眺めながら紅茶を飲み,ジェシカは歴史の漫画を読み,本棚に戻して次の巻を抜き出している.パーマストンの巻を読み終えて,次の巻へ手を伸ばす.

「友人に会いに行ってくる」

「え?」

 博士が声を出し,ジェシカが振り向き,ジュードは顔をゆっくり博士に向ける.

「友人?」

「大分昔,あるシンポジウムの後で知り合った友人だ.魔銃の研究を始めてからは会ってないな」

「どこへ行くんですか?」

「船だよ.5日後に出航する客船に来ないかと」

「何のために?」

「えっ…,それは景色でも見ながら話でもするんじゃないの?友達なんだから」

「そういうものですか」

 ジュードは釈然としないまま口にした.

「しかし,CGが健在の間は慎重になった方が良いのでは?」

 ジェシカが博士に尋ねる.

「君は漫画の余韻で必要以上に恐れているだけだ.大丈夫だよ」

「念のために付いて行きましょうか?」

「護衛は不要だ.要らない要らない」

「まあ,博士がそういうならそうしましょう.しかしちょうど一休みしたらCGに潜入してみようと思っていたところです.念のため,後回しにしましょうか」

「本部で待つということか?その必要は無いよ」

「ではそうします.ああ,全員じゃなくて2,3人で潜入ですから.その人員は決まった後に知らせます」


 博士の居ない部屋,ジュードはソファに横になり天井を眺めて物思いに耽っていた.ジェシカは机にうつぶせになって寝ている.

「(博士の乗った船に乗り込む必要があるな,調べたところ,気品ある服装と振る舞いを求められそうな場所だ.上手く振舞えなくとも最悪目立つだけだが….いや,それ以上に目立たないように潜入する必要がある.エルサ,マイ,ヴィヴィは目立ちそうだから,ジェシカが適任か?)」


 ジュードは起き上がり,ジェシカが寝ているのを見る.ジェシカは右手を左腕の上に乗せ,その上に左こめかみ辺りを乗せている.右側の髪は耳の後ろへ流し,口を小さく開き,鼻と口で呼吸をしている.左頬は机に付き,机に押されて頬を押し上げている.足は座布団の上で横座りなり,強い背筋により崩れることなく美しく支えている.

 ジュードは音を立てないように洗面所へ向かおうとするが,ジェシカは人の動きを察知して目を覚ました.

「ん…?」

「ああ,ジェシカは寝てていいよ」

 ジュードは洗面所に行き,顔を洗って戻るとジェシカは起き上がりぼーっとしていた.

「そろそろ帰る…?」

 寝起きで呂律が回っていない.

「そうだな.でも準備があるからすぐではないよ」

「じゃあ,顔洗ってきまーす」

「ん,…そうだ.紅茶が少し残っているが飲む?」

「ジュードにあげる.私は水にする」

「そう?遠慮しなくていいぞ」

「遠慮なんてしてないよ」

 ジェシカはぺたぺたと歩いていった.ジュードは残った紅茶をカップに注いで飲んだ.

 そして全員,湖底の研究所へ帰還した.


 ジュードはガーディアンズを集めて説明をした.

「騙して尾行か…あんまりいい気分じゃないけど」

「仕方ないよね.博士はガーディアンズに,いやこの世界にとって無くてはならない存在.守るべきだもの」

「(博士を餌にしてCGのネットワークを釣り上げようと思ってたんだけど…)メンバーは俺とジェシカで潜入する.こことの通信は原則しない方針だ」

「分かった.緊急事態を除いて通信を行わない」

「もしここの維持が不可能なら放棄して構わない.かなりの痛手だが,人がいれば立ちなおせる」

「ここの防衛は任せておいて」

「うん.…さて,次の準備に取り掛かろう」


 ジュードとジェシカは客船に乗り込んだ.眼鏡を掛けたり,帽子を被る,髪型を変えるなどして変装した2人は正規の手順で船に乗った.

「大きな船だね」

「…まあ,そうだな」

「パッと見たところ,変な船ではなさそうだね」

 ジェシカは右手で三つ編みの先を左の頬の横で弄りながら周りを眺める.

「そのようだな.とりあえず良しとしよう」

 ジェシカの顔は白い帽子で隠れて見えず,右肩から肘までがわずかに動くのが見える.

「日陰に入ろう.眩しい」

「サングラスは?」

「そうか,それがあったな.でも頭が焼ける」

 ジュードは眼鏡を外してサングラスに変えた.

「お兄ちゃんは帽子を持ってきてないから」

「要らないと思ったんだ」

 ジュードとジェシカは日陰に入り,壁にもたれた.

「来ないね…」

「うん…」

 2人は入り口を注視しているが,博士の姿が中々見つからない.

「……」

「…喋り続けてないと変だな」

「リーダーに求める資質」

「何を言い出すんだ?」

「ってなんだと思う?」

「不満があるのか…?俺が思うに3種類に大別できるかな.おれ自身まだ若いから実践でなく,歴史から学んだ範囲での結論だが」

「それは何?」

「揺れることなく導く姿勢,あるいは逆に聞き入れて調整する能力,そして有能な者を見極めて守る威光」

「前の2つは並立は無理じゃない?」

「言葉の上で矛盾しても実際には矛盾せずに行うことも可能だ.とはいえ,並立させる必要は無いだろう」

「どうしてその3つを挙げたの?」

「それは…,ちょっと待った.来たぞ」

 ジュードは博士の姿を見つけた.

「見つかったか?」

「ちょっと待って……うん,見つけた」

 2人は博士を見つけた後,わずかに移動した.

「話を続けるか,理由だったか?」

「うん」

「1つ目だが,揺れない存在があれば人は安心して付いていくものだ.そこに根ざして次へ進むためといったところか.しかし理想を通すために犠牲を厭わなくなるのもまずい.2つ目は,組織内で対立させて調停者としてコントロールするのではなく,必要な方面に必要な力を注げる方が組織として強いから.内部で衝突があっても上手く調整してかみ合わせられる力,どちらでも聞く力がいるな.3つ目は,まあ,重要だから」

「なるほどねー」

「ジェミーは何だと思う?」

 ジェミーはジェシカの今回の変装時の名前である.ちなみに,ジュードはジュリアス.

「高い判断力と実行力,包容力,タフさ,かな」

「上司にあればいいけど,リーダーのものとは限らないかな,と思う.まあ良く分からないんだけどね」

 ジュードはジェシカの頭に手を置く.ジェシカは体を上下させる.

「それもそうかもね…」

「意識が遠くを向いているとコミュ力が弱るな.ジェミーにはちょっとお堅い話だったかな」

 ジェシカは動きを止める.

「そんなことない.余り子ども扱いしないでよね.まだ子供には違いないけど,お兄ちゃんの思っているほど小さい子供じゃない」

「ああ,すまない…」

 ジュードが頭から手を離すと,ジェシカはジュードを見上げる.ジェシカはジュードの顔を見た直後に博士の方を向きなおした.

「コミュ力が弱るって具体的にはどういうこと?」

「ん?ああ,普通は相手の立場を考慮して何を知りたいのかとか,何を気にしているのかとか説得には何が聞くかとかを考えるものだが,かの力が弱ると,一方的に話たいことを話すだけになってしまう.共感を得ようとか考えずに喋りたいだけになってしまう.洒落た言い回しも考え付かなくなるし,つまらなくなる」

「ふーん,でもいつもの喋り方じゃないのも新鮮でいいかも」

「そうか,それは良かったな」

 博士は誰かと談笑している.

 ジュードたちは博士達が連れ去られたり毒殺されるのでなければ,それでいいと考えており,むしろ傾聴しすぎて不審に思われるリスクの方を重視していた.

「この際だからお兄ちゃんに気になったことを聞いておこうかな」

「うーん,意識を他に向けていると余計なことを喋りそうだ」

「私は数あわせとして,マイは冷静に見極めたり,とっさの機転が効いたりする.ヴィヴィは類稀な力を持っているし,この一連の鍵を握る.…じゃあエルサは何?」

「役割か…?その前に言っておこう.ジェミーは数あわせではない.ただ,ここで言うのは不味いから今度な.他のメンバーもだ.どこで聞き耳を立てられているか分からない」

「……帰ったら教えてね」

 ジェシカは自分の非を認めながらも,ジュードは何かと理由をつけて答えないのではないか,またはジェシカなら言いくるめられると考えているのではないかとも思った.それも,答えるのが面倒だから程度の理由でだったら納得できない.などと考えているうちに,自分の心の狭さにも腹が立ち,床を軽く蹴った.

 風が強くなり,博士達は船の中に入った.ジュードたちも上の階から入った.内部には接客用のような机とソファが4セットあり,その1つに博士達は腰掛けた.中央は吹き抜けとなっており,ジュードたちの居る場所は部屋を取り囲むような通路となっており,落ちないように柵が設けられている.下を見下ろせる場所に長いすが設けられており,ジュードたちはそこに並んで座った.ジュードは手帳を見ている振りをしながら,下の階を見ている.

 3分ほど経った後,ジェシカがジュードに耳打ちをする.

「ちょっとお手洗い…」

「分かった.気をつけてな」

 ジェシカは立ち上がって足早に歩いていった.

 ジュードは手帳を閉じて誰かを待っているような素振りで座る.肩の力を抜き,体を後ろに傾けながら右腕を後ろに立てて支える.左手の平は腰の右あたりに置き,虚空を眺めるように下を見る.

「誰かを待っているの?」

 ジュードの後ろで女性の声がする.ジュードは振り向いて声の方を見る.暇を持て余していそうな若い女性が立っていた.

「妹を待っている」

 ジュードは恥ずかしさで目を逸らす振りをして博士達に目をやった.

「あら,女性から離しかけたのにずいぶんとぶっきらぼうね」

「これは失礼した(何だその古色蒼然とした思考回路は…)」

 ジュードは立ちあがって目を見て詫びた.

「ちょっとした冗談.真に受けないで.私はエリン,よろしく」

「俺はジュリアス.よろしく」

「優しそうな響き.素敵ね」

「…ありがとう.エリンの連れは?一人旅?」

「いいえ,彼と来ているところ.いや,もう元彼ね」

「?」

「さっき喧嘩別れしたところ」

「ああ,そう」

 ジュードの興味の無さと博士達の監視に戻りたいという気持ちで,そっけなく返した.が,それが喧嘩別れをして気が静まっていないエリンを不愉快にさせたのは言うまでも無い.

「なあに冷たいじゃない?対岸の火事に興味はないと?」

「近づいたら火傷しそうだ」

「慎重なことね」

「君も似たようなものじゃないか?」

「フフ…,そのようね.私も煽るのは嫌いじゃない」

「くくく…,言葉が少なくとも通じるってのはいい…」

「エリン!話し合おうじゃないか」

 そう言いながら男がジュードたちの方へ来た.

「エジンク,私たちにもう話すことは無い」

「そいつは誰だ?」

「お兄ちゃんです.近寄らないで下さい」

 ジェシカが反対側から戻ってきた.

「失礼.妹の無礼を許して欲しい」

 ジュードはジェシカの方へ行き,この場から離れようとした.しかし回り込まれてしまった.

「悪いが今忙しい.後にしてくれ」

「本当か?」

 下の階で突然発砲音がした.ジュードとジェシカは急いで下を見る.下の階はパニックに陥り,目を離していたのもあって博士達の姿が見つけられない.

「しまった…」

「下に降りる?」

「いや,あそこに行こう.客室に繋がる通路の上の橋だ」

 ジュードとジェシカは走り出した.

 橋の上から博士達を探すが見つからない.

「(この騒ぎに乗じて連れ去られたのか…?)」


 30分後.シェイドの催眠術でカメラや監視員たちを誤魔化しながら博士の行方を調査しているジュードたちはめぼしい部屋を探していた.

「容疑者が捕まったようだよ」

 部屋の奥から廊下に戻ったジュードにジェシカが何気なく言った.

「何?誰がそう言ってた?」

「この辺を通る人がみんなそう言ってた」

「…調べる場所を変えるか.てっきり巻き込まれたものだと思っていたが,偶然の一致かもしれない」

「どうやら杞憂に終わりそうだね」

「そうだな.そろそろシェイドを休まさせないといけないし,これ以上の出番がなさそうで何よりだ」


 博士と旧友は客室で話していた.小さめの丸い机を挟むように斜めに置かれた1人用のソファ.2人はそれに座り,紅茶を飲んでいた.

「すると君は最近はその,変な,魔銃のパーツとやらを研究しているんだな」

「下手に否定して,詮索されるのは危険だ.肯定するよ.でもここだけの秘密だ.君がこっそり後をつけているところを捕まって,バレるのだけは避けたい」

「相当重要なようだな.興味がわくが,君の口から出る言葉だけで我慢しよう」

「分かってくれて嬉しいよ」

「なあに,僕も国や企業に公開禁止にされた研究成果もあるからな.公開できないものという危機感は分かるさ」

「そういえばそうだったな」

「話を戻すが,研究してどうするんだ?」

「どうする,とは?」

「人の役に立てようとか,技術を企業に売ろうとか」

「…?」

 博士は何か変な気分になったが,会話を続けた.

「私はただ,謎を解きたいだけだ.しかし,まあ強いて言うなら,人のためかな.何か問題が起きたときに,ある程度解明できていて対応できるのと,その瞬間から手探りで探すのなら前者の方が良いだろう」

「とはいえ前者は理解されがたいものだがな.理解の無い大多数から承認を得て予算を得るには,感情に訴えて騙し取るか,そもそも多数決などしないしかない」

「価値の分からない人まで含めた多数決なんて今時ないだろう.あるとすれば,古臭い理論がもてはやされるのような学会だ.フロギストンに沿った考えじゃなければ科学的でないから認めない,のような」

「アノマリが生じれば変わるさ.何が正しいかは人間には分からない」

「それを信じるならば変な力が働いて科学が停滞するのは避けたいものだな」

「研究は生産活動に余裕が生じてこそできるものだ.もし社会の影響で停滞したとしても仕方の無いことだ」

「分かっているさ.余裕が無ければできないということくらい.しかし同時に科学者として,科学をより高いものにしようという姿勢は重要じゃないか?」

「そんなことを考えながら毎日を過ごしているわけではないだろう」

「…まあ,毎日ではないな.思い出すときだけ」

「そういや研究成果を狙ってくるのはいるのか?」

「多分ね.彼らは狙っている」

「それはお前の元居た組織で,名前はCG.お前はそれらから守るためのガーディアンズを作りあげた」

「…なぜ,それを…」

「私もCGだ」

 クローゼットからペギーが飛び出し,ペギーは使い魔を呼び出した.雷を帯びた巨鳥は電気の網を吐き出し,扉と窓をふさぐ.

「大人しくするんだドラミロ博士.大人しくすれば悪く扱わない.暴れるようなら,仕方ない…殺した後に脳からデータを吸い出す」

「どうして,お前が…」

「君のやり方では世界を滅ぼしかねない.CGの持つ組織的な制約の下で活動を行うべきだ」

「CGに入って何日だ?お前は知らないはずだ.あの腐りきった組織を.手柄の奪いあい,責任の擦り付け合い,知性の乏しい私兵,各派閥の織り成す歪なバランス,賄賂まみれの監査官とそれを放置する機構,スポンサーの力が強すぎるのも問題だ.あんなところに魔銃を置く方が危険だ」

「黙れ,お前達よりましだ」

 ペギーが口を挟む.

「お前の居た頃の問題児たちは私達海外帰還組によって駆逐された」

「内通者と強力して引っくり返すんじゃ無理だ.外部から叩き潰しでもしない限り,お前達は矯正できない」

「その通りだ!」

 ウィンがドアを蹴破って,ジュードとジェシカが入ってきた.シェイドは遅れて入り,後ろに立つ.

「お前達,どうしてここに?」

「話は後です博士.脱出します」

「そう易々とできると思うか?」

 シェイドは博士を浮かせてウィンに乗せた.ウィンは走り去った.

「俺と戦って勝てると?やめたほうがいいぜ,戦わなきゃあんたは,他の連中よりも俺に負けた回数が少なくなる.CGの実力No.2で居られるぜ」

「私があいつらと拮抗していると思っているのか?」

「あれ?違うの?戦ってみたところそんな気がしたけど」

「その勘違いをここで直してやる.やれ,サンダー!」

 鳥は翼を広げ,周囲に天井と床を繋ぐ電気の柱を4本出した.シェイドは右足を下げて踵を浮かせつつ前かがみに構え,右手で杖を持ち右肘が胸の前に来るように杖を持つ手を左に構え,左手は腰に添えた.杖の先端に電気を纏い,指を使って杖を回す.サンダーは雷柱を2本ずつ左右に弧を描きつつシェイドに向けて飛ばし,中央は口から雷撃を放つ.シェイドは杖を握り,右後ろへ動かす.その反動で左へ体を傾けつつ前進し,雷撃をかわす.杖を後ろに回しつつ体を右回転させた勢いで杖を振り払い,雷柱をかき消す.直後に杖の先に風を纏わせ,重心を低く着地した後,左手で地面を掴み,右手の杖を前に勢い良く押し出し,小型の竜巻を飛ばす.小竜巻はサンダーに当たり,後ろへ浮かばせ,第二の雷撃をシェイドの上方へ逸らさせる.シェイドは右手首が上になるように杖を持ち,強く踏みこみ,杖の先に岩のハンマーを作りだし,左手に持ち替えつつ,サンダーに叩きつけた.サンダーの表面の雷の鎧で岩は砕け,溶けながらも,わずかに残った岩で押し込み,サンダーを壁に打ち付けた.姿勢を崩しながらもサンダーは雷撃を放ち,シェイドの左腕を焼き,杖を落とさせることに成功する.シェイドは左半身が麻痺し,動きが鈍る.間髪入れずにさらに一度雷撃を飛ばす.シェイドは踏みとどまって雷撃を避けると背後に作り出した三日月型のバリアで滑車のように雷撃の方向を変えて元の方向へ打ち返す.次の雷撃に備えて口を開けたサンダーはそれを食らい,感電してバッジに戻った.

「ちっ…」

「時間切れだ.じゃあな」

 ジュードの背後に円盤型の浮遊する船が現れた.中心線から上側が開き,通路が伸び,手すりが起き上がる.

 シェイドは光の壁を作るとバッジに戻り,ジュードは廊下を走って入り口に乗り込んだ.入り口付近にはエルサが立っており,エルサはジュードの手を掴むと右回転して船の奥へ投げ入れた.閉まるドアの中を博士は腰を60度ほど右に曲げ,手を振ってペギーの悔しがる顔を見ると満足して奥へ入った.

「無事ですか博士?」

「ああ,なんともない」

 ジュードは続けてジェシカを見た.

「私も何ともないよ」

「良かった….エルサもマイもヴィヴィもありがとう」

「そこは,良く来てくれた,でいいよリーダー」

「そうだな.とにかく何とも無くて良かった」

「(ペギーは勝負を受けた時点で負けていたんだ.挑発で2択と思わせて戦わせ,その隙に脱出の準備ができた.あの使い魔は音がうるさいから気付きにくい.それに力が残っていればこの船を破壊可能だった.増援を呼ぶ事だってできた.それらをジュードは封じたんだ.使い魔の強さと話術を用いて….私には同じことはできない.そもそも相手に聞き入られるかもわからない.自信の強さも全然違う.私は何ができると言うの…)」

「ジェシカ,今回は慣れない事で疲れたな」

「そうね…」

「ジェシカに手伝ってもらって助かった.じゃ,俺は一休みするから」

 ジュードはソファにもたれて夜景を眺めた.

「ゆっくり休んでね,お兄ちゃん」

「ん?」

 エルサは不思議そうにジェシカを見る.

「遠足は帰るまでが遠足」

 ジェシカはエルサの目線に気付いて答える.

「そうね,マイ,寄り道する?」

「今は危険」

「まあそうよね」

 エルサは大人しく窓の外を見た.

 ガーディアンズは基地へ帰還した.

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