最終話
「仮に1つの組織を作るとして,役に立たない地位を用意して同格に見せるとかするのか?
「(ファルシオン,いきなり制限かけるなよ…実質その手が封じられたようなものじゃないか)」
「ということは,実力主義でいいかな?」
「あくまで基本方針だ.それのみに頼らない」
「1人での実力は優先順位が低いが,サポートと持っているパイプ次第で実力不足で切るのが惜しい者も出るだろう」
「分かっている」
「誰がトップに立つかだ.組織の色が出る」
「うち(ガーディアンズ)の博士でどう?」
「駄目だ.彼は研究者でこういうことに向いていない.それにβの力を持っていないのは不味い」
「何が駄目なんだ?」
「βの力が無いと魔銃や同じβの力に対応できない」
「そうだったな.仲良しチームじゃないのだから,あった方がいい.しかし,博士の協力者がそれなりにいることを言っておこう」
「俺がリーダーだ.それでどうだ?」
「駄目だ.安心できないし,SCの色が強すぎる」
「妥協してガーディアンズからは出さない.ギルベルトでどうだ?」
「えー…何のためのガーディアンズ?」
「まあ待て.ギルベルトはCGだが,調整がメインで方向性をつけていたのはヴァランだ.…それに協力者の数は俺たちガーディアンズの方が上.無視できない存在となれる」
「んー,確かにそうだけど…」
「私達SCは認めていない」
「(彼らには後ろ盾が無いからな,どうしたものか…)」
「あ,あの私,ギルベルトがリーダーでもいい」
「何を言い出すんだアキュリス?」
「文明の破壊者は退治した.あれは目に見えて危険だったから.私はどちらかと言うとガーディアンズの思想に近かったのかも.今は目に見えるものから順に処理するのがいいと思う」
「(ファルシオン,随分と自由を認めているようだな.その甘さでよくここまでこれたものだ…)」
「(SC派を削ってみるか)フォチャード,君の彼女は理想を追い続けて苦しむよりも,幸せになる方が良いと考えていたと思う.君たちにとっての幸せは敵討ちだとか組織の方針だとか遺言だとかに必ず従うことじゃなくて,ただ2人で一緒に居られることじゃないかな?」
「要するに,君らに賛成してくれと?文明の破壊者倒して張り詰めていたものが消えた.今一度考え直すのもいいかもな」
「カトラス,君は決めなくていい.俺たちに任せておけ」
「…….ハイ」
「ダガー,君はもしかすると,忘れるのが怖いんじゃないか?思いついたり思い出したりすると忘れる前に口に出しておきたくなる.書き出すといいよ,詩や小説にしてもいい.大切なことなら安心して残せるし,そうでなかったら,書き終えたら満足して楽になれる.君とは少し近いものを感じた.ひとまずそっちに専念したらどうかな?」
「そんな方法が…くうっ…どうして気付かなかったんだろう…ひひっ…やってみる!」
「マイ,俺には君がどう考えているのか分からない.(分かってやる義理もないね)ただ,細かいことに気を配る君ならどんな舞台でも役立てるだろう」
「……」
「ファルシオン,納得してくれるか?」
「(自由にさせた…,それでついて来た仲間だ…,これ以上溝を作るくらいなら…下手に動かず機を待つ方がいい)…….認めよう.しかし椅子を要求する」
「組織の元リーダーだ.腕を見込んで採用する」
「少しの期間休憩させてもらう.休憩が終わった後で戻ってくる.高い地位で無くていい.空席で置いたままにして欲しい」
「…….最初は目まぐるしく変わるだろう.復帰できるのか?」
「出来るさ」
「(失敗した時の御旗になろうというつもりか.しかし,これ以上は望むと全てが駄目になりそうだ.ここが落としどころか…)分かった」
「これで一段落.どのような誰を雇うか,誰がどの地位に就くかは十分に情報を集めてから決めよう」
「そうだな」
「もう1つ恐れていること.組織において説得力を持たせる手段が科学的な証明のみになることは避けたい.理論は,分かっていることだけの不完全なものであるし,法則を当てはめるにしてもそれが適しているものという確証もない.自分の考えが正しいように見せかけることもある.鋭い勘にも耳を傾ける組織であって欲しい」
「理想は分かるが難しい.…しかし努力しよう」
全員は船に乗って島を後にした.
ジュードは博士達に報告して,ギルベルトたちも新組織発足に向けて動き出した.
ヴィンセントの事務所を再び老人が訪れる.ヴィンセントは玄関で出迎える.
「ようこそ,お待ちしておりました」
「連絡を受けて来た.一段落したそうじゃないか?」
「ええ,詳しい話はこちらで」
ヴィンセントは前と同じ部屋へ案内する.
「知らない女性がいるな.前の人はどうした?」
「以前の助手は療養中です.もう元気ですけどね.先ほどの女性は新しい助手です.知らない…嘘でしょう?」
「どうしてそう思う?」
「ん?フフ…ただのひっかけですよ,フフフ…」
「フン,それで,封印はできなかったと?」
「ある意味封印ですよ.制限されるのですから.依頼を達成したことになりますか?」
「ならない.が,この結末が良いとも悪いともまだ言えない.依頼料は払おう.今後も君たちとの協調関係が取れると信じての先行投資も含む」
「ありがたく頂戴いたします」
ヴィンセントは細かい説明をした後,質疑応答した.
「よく分かった.ではこれで私は帰る」
「お気をつけて.またのご利用をお待ちしております」
ヴィンセントは外へ出て見えなくなるまで見送った.
「今のは誰?」
「ライラの来る前から依頼をしていた人.秘密を守る必要があるから,ライラであっても教えられない」
「……,そうね」
ライラは余計な問題を起こしてしまわないように,そういうことにした.
大都会の中,離宮を見下ろせる高層ビルの1室.地球人とそれほど姿が変わらない宇宙人たちが集まっていた.そこへさっきの老人がやってくる.
「なんとか魔銃の問題は一段落したようだ.あの探偵も言っていたのだから間違いない」
「当たり前じゃない.ヴィヴィに半身を渡した私が言うのだから間違いない」
「もう部屋に戻っていいかな?この歳で徹夜は辛かった」
「お疲れ様です.後はお任せを」
老人は部屋を出てエレベーターで上の階へ向かった.
「バラバラにしておけば安全かと思ったら争いだすんだもんあいつら.一時はどうなることかと思ったよ」
「欲を言えばあのロストテクノロジーは俺たちが欲しかったが,所有権はもう移っているからな」
「やれやれ,完全に気は抜けないがここで一区切りだ」
「1丁が完成したものだから,大急ぎでもう1丁のパーツを集めるのが大変だったぜ.無かったら滅んでいたかもしれない」
「これまでは大きな争いが起きないようにだったが,これからは取り返しのつかないことにならないように見張らなくては」
「まあ,ちったあ欲にまみれた使い方してくれた方が気が楽だけどね.真面目すぎて怖いぜあいつら.プレッシャーで死んじゃいやしないか?」
「何とかなるだろう,きっと」
「これまでの苦労を考えると,やっぱりバラバラにしたのは間違いじゃないか…?」
「何だよ,俺が悪いっての?まだ評価を下すのは早い.今までこれで済んでたと考えることもできるだろう.第一,俺だけが懺悔なんて不平等だ,あるんだろお前達にも」
「……」
「今の気の抜けたときなら笑って許せる.言ったほうが楽だぜ?」
「俺は…使い魔を呼ぶ力が盗まれたんでばら撒いてバランス取ろうとした」
「スイッチを間違って切って殺菌できてないまま地球に持ち込んだ」
「船に動物が乗っていたのに気付かず島に下ろして絶滅させた生物がいる」
「ワープ通信機壊しちゃったの俺」
「反乱煽って,結果的に会社潰した」
「使い魔がキレて逃げ出しので偽物と入れ替えた」
「……」
「俺はある素材を流行らせてしまったくらいだよ.あの素材は地球人には残留性の毒があるけど,生殖能力が孫の代から低下するから気付かれない,咎められないはず」
次に言う人がいないのでその場は沈黙に包まれた.
「魔銃を上手く使ってくれよ.血を分けた兄弟たちよ…」
ガーディアンズの拠点.ブナの喜の幹を波打つように上から下へ雨水が流れる.樹幹流が作る美しい波紋を作っていた.ジュードは窓際に座ってそれを眺めて思慮に耽っていた.エルサが部屋に入ったのをガラスの反射で見つける.
「エルサ,これからどうする?」
「どうするって?新組織に入ってこれまで通り…」
「そうじゃなくて…」
「?」
「今までは隠れる場所が必要だから一緒に過ごしていた.でもこれからはその必要が無くなる.博士は新しい研究所に近いところに住むだろうし,ジェシカは学校に行くだろう.シャルルとヴィヴィも博士と同じような感じ.エリオットと君は…」
「あ…」
「…君と一緒にいたい.朝起きて,君がいないというのは,耐え難い…」
ジュードは目線を窓の隅に落とす.赤い頬は外からの冷気をもものともしない.
「…私も,同じ気持ち.私の家に来て….お兄ちゃんが邪魔ならどけるから」
「いや,嬉しいけど.兄は大切にね」
「大丈夫,お兄ちゃんのことだから職場から近い所に住みたいって言うに違いないから.妹と一緒に暮らすより一人で暮らす方がいいに決まってる」
「そう,かもね.喜んでいいのか良くないのか…」
ジュードは起き上がってエルサの方を向き,エルサの手を取る.
「改めてよろしくエルサ」
「こちらこそよろしくジュード」
エルサの屋敷.手入れがしていないため,草や蔓が延びていた.まずそれらを整えて.大きな庭と小さな家.家の一部をリフォームして,そこでコンパクトに生活することにした.
半年後.
庭は回遊式と部屋から眺めるものの2種類.部屋から眺められる庭は,池と鳥用の水場と餌台がある.木が箱庭をつくるように植えられている.朝は小鳥のさえずりが聞こえてくる.朝,池の水を柄杓ですくって近くの木にまき,魚に餌をまく.池は木陰の下にある.
南,西,北の庭がある.東は古い建物と繋がっているので庭は無い.
南には窪みのある岩があり,水深1cmほどの鳥の水場になる.門に繋がる道もここからある.門に繋がる道の両端に木が植えてあり,道は木陰になっている.道は曲線で,部屋が見えない.
西には家全体を覆う大高木があり,西日から守っている.低木やグランドカバーで乾燥して砂が飛ばないようになっている.
北は薄暗い庭になっており,石で階段状に仕切った地面に白や青の花が彩る.木の葉も厚い物が多く,池もある.池は全域が木陰になるようになっており,水温上昇を防ぎつつ,気の上から落ちた虫も餌になる.
回遊式の部分は小高い丘の上に木がある.通路の途中にパーゴラの部分もある.
ジュードは椅子に腰掛けて,水浴びする小鳥を眺めつつ,無人島の地図を広げて,ペンで書き込んでいる.無人島をライラから買ったので,自分好みに改造する案を出している.魚つき保安林と,鳥の水浴び場,人工漁礁,風車などを使って,土壌作りや水作りをして魚を増やそうとしている.
「ジュード,またそれ?」
エルサはジュードの後ろから抱きついた後,左耳に何かを呟く.
「そうは言っても,時間が掛かることなんだ.なるべく早く仕込みたい」
「……」
「ふふ…どっちが早いかな」
「……」
「ごめんごめん,でもエルサがいると安心感がすごくてね,つい忘れてしまう」
「嬉しいけど,良くないね」
エルサは腕を離して,部屋の時計を見る.
「そろそろ買い物に行こう」
「そうだね,今日は天気がいいし」
「仕事は昨日で終わりだけど,出かけるのが仕事と休日の節目に感じる」
「ふむ,言われて見ればそうかも.ギルベルトが休日に呼び出しかけたがらないタイプで良かった」
「まあ,そうだけどね.…さ,早く行こ」
「分かった分かった」
ジュードたちは外に出かけた.家には誰もいないが,その家はかつての誰もいない家とは違った.




