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19話

 ガーディアンズの船は無人島に着く.島の上は露出した岩と生い茂る緑の草原が広がり,積雪で曲がったであろう木が何本か生えている.砂浜に穏やかな波が打ちつける.鳥の群れが岩肌の上に立っている.

 ジュードたちは砂浜の上に船を止め,島に降りて奥へ進む.

「ん?妙だな」

「どうしたの?」

 ジュードは左手を後ろに伸ばして,エルサ,ヴィヴィ,ジェシカを止める.

「人が通った後はあるが,船がない」

「確かに変ね.さっき一周したけど船は無かった」

「私達の知らない通路を通ったのかもしれない.変な空間が直接繋がっているとか?」

「だとすると面倒だな.一から探さないといけない」

「あっ,ひょっとしたら」

 ジェシカは何か思いつく.


 ガーディアンズは再び船に乗って,島の反対側に回って岩の隙間から中に入る.岩壁は大きな影を海に落とし,周囲を暗くする.

「よし,行ってみよう」

 先導して戻ってきたコバルトの映し出す地図を頼りに,船は奥へ進む.奥に進むほどに暗くなり,トンネルを抜けた先に船の置いてある大きな空間に出た.4人は船から降り,辺りを見渡す.鉄製の開き戸の隙間から光が漏れている.ジュードは小声で指示を出す.

「大きな音を出すなよ,…まあ言うまでもないか」

 3人は首を縦に振る.

 ジュードは腰にかけたケースから熱を感知し,パチッと開けて中の魔銃のパーツを取り出す.熱さで地面に落とす.パーツは眩い光と大きな音を出し始める.

「なんだ?…ガーディアンズか」

 フレイルが扉を開けて,来訪者の姿を見つける.

「くっ,逃げるぞ」

 ジュードたちは横へ逃げる.直後にジュードの背中に魔銃が激突して倒れる.

「何だ一体…完成してる!」

「ほう,もう一丁を持ってきてくれたのか?いや,こいつが引き寄せたのかな?」

 ファルシオンは手に持った魔銃を見た後,ジュードの背中に乗った魔銃を見る.ヴィヴィは魔銃を手に取り,ジュードは右回転してから起き上がる.

「保険をかける…」

 突然の眩しい光にその場の者たちは目が眩む.海の方からもう一台の船が来た.何人かが島に降りる.

「あれは…」

「皆さん,お揃いで…ちょうどいい」

 ヴィンセントは周囲を見渡し,後ろに控えるギルベルトやヴァランを制止する.

「少しも変わってない…」

「え?」

 ヴィヴィはヴィンセントを見上げて消えそうな声で呟く.

「アキュリス,彼にここのことを教えたのか?」

「そんなことしていない!彼を巻き込むつもりはないし,私は責任を持って仕事に当たっていたから」

「その通りだ.俺が自力で導き出したのだから彼女は関係ない」

「それで,ちょうどいい,と言ったな?どういうことだ?」

「話し合おう.魔銃の扱いについて.俺たちは上手くやれるはずだ」

「上手くやれるだと…?」

「そう,魔銃はそこにあるものしかないのだから使用できるのは限られている.しかし,複数で協力して分け合えば,争ってお互いに傷ついて何もできない,という状況は回避できる」

「囚人のジレンマか?前提が間違っている.私達は限られたものを奪い合っているのではない,そうだろう,ジュード?」

「ああ,根底は思想の対立だ.お互いに,あいつらに使わせるようなことがあってはならないと考えている.あいつらに使わせると危険だ,あいつらの使い方は役に立たないと考えているんだ」

「本当にそうなのか?折り合いがつけられないとは限らない.それぞれの使い方を教えて欲しい」

「我々SCはこの力を脅威に対する対策として行使する.ただし,それは餓死を無くすだとか病死を無くすとかそういうことじゃない.それらは必要だからあるか,何かのしわ寄せで起きるものであって,魔銃を使う必要はない.文明の破壊者のような人間より遥かに巨大で,本来であれば人にはどうしようもないはずだったものへの抵抗として使用する」

「文明の破壊者?何だそれは?」

「…….巨大な生物.例えるなら,夜寝て朝起きると口の中の細菌は繁殖している.朝,歯磨きするとその細菌の多くが死ぬ.人間をその細菌に例えると,歯磨きする人間がその文明の破壊者だ.いや,これじゃまるで,邪魔者みたいだな.違う,アリクイのようなものだ.ある程度,巣が出来てから食べに来る.そういうもの」

「対抗とはどういうことだ?殺すのか?」

「そうだ」

「大丈夫なのか?」

「不治の病を治せるようになったら,人は長生きして,別の新しい病を患うようになったじゃないか?それと同じ.対策を繰り返して上に進む.それが我々の考えだ」

「なるほど.ガーディアンズは?」

「脅威に対する対策というのは同じ.しかし,そこまで急進的に使用する気はない.地球の危機に対する対策や太陽系への対策程度.何も大きなことばかりじゃなくて,仮に汚染物質で現代社会に生きる人類が子孫を作り辛くなったとする場合は,その対策を作るだとか,壊れた生態系サービスを直すとかを行う.全体的に強化しなければ脅威の原因を取り除いても意味がない.第一,そんな大きな相手なら時間の流れが違うのだから,そう焦ることもない」

「なるほど.そしてCGが…」

「今を生きる人に取って価値のあるものでなければ駄目だ.スポンサーと契約して稼げるようなものを作り出す.それで稼いで研究し,次に繋げる」

「…共存可能じゃないかな?」

「無理だね.金稼ぎに使わないなんて現実的じゃない.どうやって維持管理研究するつもりだ?」

「金稼ぎか….金を出すということは価値があると認められたということじゃないか?だったら,価値を認めてもらえば済む」

「誰に?例えば,太陽の爆発に備えて使います,って言ったところで価値が認められるか?それより,こっちに使えってなるだろう.それこそ病死を無くすためなどに」

「ヴァランの言う通り.だから思想の対立だと言っているだろう.それぞれが優先順位が違い,それぞれの道に入ると次にすることがある.そもそも,敵を倒してしまえば我慢する必要も,耳を傾ける必要もない.そして同時に相手を信用できない.危ないと思っている」

「そうだ,考えの不一致だけではない.あんな連中の胸先三寸で使用可能など恐ろしい.だからと言って規則で雁字搦めにしても無用の長物となる.上手く扱えるのは自分達と考えているわけだ」

「君らのような家族か友達づきあいのような組織じゃ上手く扱えないさ.友情を優先して叱らないとか,嫌われたくないから黙っているとか,あるんだろ?きっと.上手く行くはずがない」

「もう十分だろう?戦いで決めよう.βの力は魔銃に対抗できる力.使い魔が敗れてβの力が弱まれば,魔銃で好きなように改造できる」

「望むところだ.猿にしてやるよ」

「ここが正念場だ.行くぞ」

「ま,待て!」

「仲介者というのは,3者の中で最も利益を確保しやすい.お前は,誰かに雇われて,その依頼を実現したい.それも私達のどの考えとも違うものを…」

「ヴィンス…」

「大丈夫だ,心配要らない.何と言われようと,争いを収束さえたいという意思に変わりはない」

「いいだろう,なら次で最後の戦いだ!」

 フレイルはアンバーを呼び出す.それを皮切りにその場の全員は使い魔を呼び出した.

「ファルシオンのレッドと,ジュードのシェイドを狙え!魔銃を使わせるな!」

「いい判断だ,ギルベルト.だが思い通りにはさせない」

 エンオはレッドに向けて炎の右腕を伸ばして攻撃するが,ガイデの羽に阻まれ,パラドクスに切り込まれて後ろに吹っ飛ぶ.

 シェイドに向けてダークネスが体当たりをし,シェイドは杖の先に炎を纏ってぶつけつつ,横に跳んで距離を取る.ダークネスは尻尾でシェイドを攻撃し,シェイドは尻尾を弾いて杖を後ろに向けて持ち,後ろからの雷撃を杖に吸収する.ダークネスがシェイドの方を向き直した瞬間,横からホーリーの槍を受けて倒れる.

 ファントムの作り出した竜巻でガイデは上に吹き飛ばされ,ドラコは口からエネルギー波を放ってレッドに直撃させる.レッドの放った氷の矢はスイキョウに当たって曲がり,CGの船に突き刺さって船は沈む.

 混戦状態が続き,互いに疲弊する.

「βの力は弱まった.これで終わりだ」

 ファルシオンは魔銃を前方に向けて撃つ.周囲が光に包まれる.ジュードが目を開けると使い魔たちは消え,CGの姿も消えた.

「一体何が…」

「こ…これは…」

 ガーディアンズの姿が消えていく.

「ククッ…これで終わりだ.さらばガーディアンズ.何!この私も…」

 SCも姿を消す.放出されたβの力が奥の部屋へ導かれる.部屋の中には巨大な石版があり,ピカピカの表面には何も書かれていない.βの力はその中へ溶け込んでゆく.βの力は異空間に流れ込む.異空間は卵型の空間で,中央に巨大な何かの根のようなものが天井から地面の先まで伸び,その周囲を円状の廊下が何十層も作られていた.

 βの力は根のようなものに取り込まれた.その妙なものは,ボコボコと表面が動き出したかと思うと,天井を削りながら上の方へ抜けていった.

 ガーディアンズの拠点近くの山が動き出し,巨大な蛇が動き出す.蛇は山の一部そのもので,かつて山だった場所は抉れた平地となった.蛇は体をくねらせて顔と尻尾を地面の下から出し,地割れが起きる.1体の蛇の覚醒に反応して,世界各地で次々と覚醒し,地球は大きく揺れ出す.中には寝ている間に海の底に沈んで死んでいたものもいるようで,出現場所には偏りがある.蛇たちは地上の建造物を他の動植物ごと丸呑みしてジャンプして細かく砕きながら食べる.かつての大都市は見るも無残な姿と成り果てた.

 

 ジュードはぼーっとした状態から目を覚まして,うつぶせの状態から右回転して起き上がる.ヴィヴィが魔銃を手に持っている.すぐ横にエルサとジェシカもおり,目の前にはSCの全員がいる.

 突然の眩しい光にその場の者たちは目が眩む.海の方からもう一台の船が来た.何人かが島に降りる.

「あれは…」

「皆さん,お揃いで…ちょうどいい」

 ヴィンセントは周囲を見渡し,後ろに控えるギルベルトやヴァランを制止する.

「少しも変わってない…」

「え?」

 ヴィヴィはヴィンセントを見上げて消えそうな声で呟く.

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