1話
砂漠の端にあるCGの臨時基地では,CG幹部の一人であるペギーが指揮を執っていた.
「指揮官殿.船の用意ができました」
「了解した.E12臨時基地ペギーより,CG本部へ」
ペギーは部下の報告を聞くとCG本部への交信を始めた.
「こちらCG本部ギルベルトだ」
「魔法銃のパーツをそちらへ空中船で送ります.使う船は送った画像のものです」
「了解した.気をつけて運んで来い」
「お任せを.交信終わり」
ペギーは通信を切り,後ろを振り向き,部下に船を出すように指示した.
臨時基地の天井が開き,船を乗せた床が上昇していく.船は,床のプラグと幾つものコードでつながっており,整備士たちが点検しながらそれらを外している.船の周囲で見張る兵士2人が話している.
「しかしなぜ空路を?陸路の方が楽なのに」
「陸路じゃ取られるからだよ,情けない」
「簡単に,を頭につけるべきじゃないか」
「空路なら取られるはずがない.向こうも飛ばないと近寄ることすらできないし,この基地の警備は厳重だ」
「ううん….とはいえこのオンボロ船じゃ心許ないな.左後ろの辺りなんてこの前,飛行中に剥がれてったぞ」
「え?直してあるんだろ?」
「一応.でも弱いままだ」
「ここが基地内でよかったぜ」
「ああ,外で話して敵にこんなこと聞かれたらまずいからな」
「まあ仮に乗り込まれても操作できまい」
翼の内側が青い烏が天井に止まっていた.烏は動く天井の揺れに動じることなく,船を見ていた.天井が開ききる前に烏は飛び去って行った.
山の中でガーディアンズは機械の上に乗って木の葉を眺めていた.木漏れ日が斑模様を彼らとその辺りに描く.烏が1羽,ジュードに向かって飛んでくる.
「コバルトが戻ってきたようだ」
ガーディアンズはコバルトの情報を得た後,機械に乗り込んだ.
船は雲の上を飛び,青天の中を進む.
突然,船の左後ろで衝突音がし,機体が揺れる.モニターに映そうとするも,カメラが壊れたようで,左後ろは映らない.
「俺が見て来きます」
操縦室の後ろに立っていた兵士の一人が部屋を出て行った.
右には曲線を描くアルミの壁,天井と床の端にはほぼ等間隔に証明が鈍い光を放っている.左にはシャッターのスイッチがあり,その向こうにはって鉄の扉と部屋の壁がある.
通路の奥にはガラス窓つきの鉄の扉がある.窓の位置は少しかがむと見える位置にある.その窓を覗くとシェイドの姿が見えた.
「ガーディアンズだ!」
声を上げた直後に霧に包まれ,気絶した.霧は騎士の姿となり,剣を振り扉を切った.
「気づいて回り込まれる前に操縦室を押さえよう.回り道無しでこのまま直進して急襲する」
マイの提案にジュードは首を縦に振った.
「マイ,エルサ,先に行ってくれ.ヴィヴィとジェシカは右側から回ってくれ」
全員が走り出した後ジュードは右の扉を開けて階段から降りる.シェイドは機関室に居た人たちを催眠術で操り,ジュードは機関室内をカメラで撮影する.
ナイトが扉を破壊し,ホーリーが操縦室に入る.
「ホーリー,眠らせて」
ホーリーが歌い,船員は皆眠りに落ちた.
「あなたらしくない一風変わった能力ね」
マイは右側の通路の扉を開けながら言う.
「じゃあどんなのが似合うというの?」
「そうね,突進技とか強力な光線とか」
扉を開けた後,マイは壁にもたれかかりながら階段上のエルサを見て言う.
「相手が皆そう思っていくれてるなら不意打ちが決まりそうね」
マイは左を見てヴィヴィとジェシカが走りこんでくるのを確認すると,壁から離れ,ドアが閉まる.
2人を加えて4人は操縦席の前に向かった.
ヴィヴィは背負っていたボディバッグを下ろし,中からタブレットとコードを出した.ヴィヴィはコードの先端を乱雑にコントロール盤に突き刺すと,タブレットの黒い背景に白い英字と数字がバラバラと現れた.
「見えた.ロックを解除.通信を再開.もうジャミングを解いてもいいよ」
「了解」
マイはベルトのホルスターから端末を引き抜き,スイッチを押す.5人の乗ってきた機体から出るジャミング波が停止した.
占領の連絡を受けたジュードが操縦室に入ると,右に並べて眠っている船員とバリケードらしきものが見え,ヴィヴィが操縦をしていた.
「あれ?3人は?」
「えっ…」
ヴィヴィは急に離しかけられて驚き,後ろを見てジュードの姿を確認して肩の力を抜いた.
「皆はパーツを探しに行ったところ」
「えっ?護衛も無しに?」
ヴィヴィは目だけを右に向けた.ジュードはガラスに写ったヴィヴィの目を見て,その目線を追い,横を向いた.よく見ると背景が歪んでいる.
「なんだ,居るのか.それならいいか」
ジュードは椅子に座った.
「操作は大変か?」
「いえ….基本は自動運転なので」
「退屈な風景だな.居眠り運転しないようにラジオになろうか?」
「ラジオ…?」
「車の運転中に眠らないようにラジオを流すんだよ.意識を傾けすぎない程度にね」
「じゃあ…」
ヴィヴィはくすっと笑い,続ける.
「歌チャンネルで,かわいい歌」
「ええー」
「空中巡洋艦操縦室,ヴィヴィ様からのリクエストです」
「やれやれ,では…」
ジュードは無線の信号をキャッチした.
「すまない,ちょっと待ってくれ.どうしたエルサ?」
「パーツらしきものを見つけたんだけど,確認に来てくれない?」
「分かった.場所は?」
「第二船倉の奥」
「ん,今行く.すまない,歌はまた今度な」
CG本部基地,サボっている班があった.本部から抜け出して寮の休憩室に彼らは居る.2人を囲むように4人が見ている.
「いくぜ,俺のターン!ドロー!」
「ふん,仕留め損なったが…もはや手遅れだ」
「ジロラモも打つ手無しか?」
「まだ分からないさ.踏み込んだのに仕留められなかった時が一番危ないから」
「ロイドのメインフィールドには軍神アレス.ランクAの10属.ランクAだから同じAの効果しか効かない.ランクBやCのカードには除去があるが,ランクAには無い.10属はこれ以上変化することはないけど,パスの終着点に相応しいルール変更効果を持つ」
「と言っても,モンスターへ攻撃する側の攻撃力を2倍にする効果.攻撃表示なら攻撃しなければならない効果.場に出る際に攻撃表示になり,カード効果以外での表示形式の変更を不可能にする効果の3つ.逆転を許す可能性は高い」
「メインだけならそれでいいかもしれない.さっきのターンで消費したとはいえ,まだロイドのサブフィールドには紫卍雀シバンカラがいる.ランクAの2属.自身をコストにしてメインフィールドのカード1枚の表示形式を変える.これで攻撃を封じれるし,アレスの効果で変更できずに場に残すことになる.まあすぐに殴り倒されるだろうけど」
「サブフィールドにはもう1枚厄介なのがある.鏡花天ミレイ.ランクBの8属.自身をコストに,攻撃力が変動しているカードを破壊する.その後,変動分を他のカードに加えられる.ランクBだからアレスの強化はできないが,相手がランクB以下なら破壊できる」
「続けていい?」
ジロラモは手札と場から目を離さずに,解説で盛り上っている仲間たちに声だけ向けて呟く.
「あ,どうぞ」
「サブフィールドの栄碧の石像をコストで墓地に送り,サブフィールドの夢ノートの効果を発動.空ノートをデッキか手札からサブへ.空ノートの効果.夢ノートが場にあるとき,サブフィールドから6属を特殊召喚する.選ぶカードは熱砂に潜む者!パトロンは空ノート」
ジロラモはメインフィールドの熱砂とサブフィールドの始終雀シジュウカラの2枚のカードの上に同じ色の宝石を乗せる.サブフィールドで乗せたカードが場から離れると同じ色の宝石を乗せたメインフィールドのカードも破壊される.アレスにも同様にロイドのサブフィールドの扶郎花ガーベラと同じ色の宝石が乗っている.
「えっ?サブだとメインのカード破壊耐性を1度つける効果があるのに,メインに出すの?メインの効果だとアスファルト上に出たミミズのように干からびるのを待つだけだというのに…」
「干からびる前に使うまで.光の経路を発動!6属から繋げられるカードは7,8,9属.デッキから7属の雷鳴竜ソール・レゾナンスを特殊召喚し,熱砂に潜む者に重ねる.パトロンは変える必要はないので引き継ぐ」
「ランクA,ということはミレイの効果は効かない」
「いくぜ,ソール・レゾナンスの攻撃!ソール・レゾナンスが攻撃する時,このカード以外の全てのメインフィールドの表示形式を入れ替え,敵味方問わず全てのカードへ1度ずつ攻撃する」
「させるか!紫卍雀を墓地へ送って効果発動.ソール・レゾナンスを守備表示にする.ソールは攻撃宣言を行っていない.これでアレスは攻撃表示のまま,倒されることもない」
「だが表示形式が変更されたことで,サブフィールドの翡翠の積石にカウンターが1つ乗る.3つのカウンターの乗ったこのカードを墓地へ送る.3つのカウンターの乗ったこのカードの効果は,相手の手札にあるスペルを使用すること.さっきのターンに加えた”夜闇の襲撃”を使わせてもらう」
「今更どうする気だ?」
ロイドは人差し指と中指でカードを持ち,ジロラモにカードを投げ渡す.ジロラモはカードを人差し指と親指で掴み,手首をくいと上に曲げる.
「スペル発動.サブフィールドのカードを特殊召喚し,相手に直接攻撃を行い,その後破壊する」
「あれ?でもそれだと削りきれないよ」
「対象はミレイ」
「何?」
「ロイドのミレイで俺に攻撃,が,まだライフは残っている.ミレイは破壊される」
「ライフ調整か?」
「熱砂に潜む者の効果発動.1度だけ重ねたカードのランクを1段階変えることができる.これでランクをBにする.そしてインスタントパスを発動.このカードの効果により,サブフィールドの選択したカードと同じ属のカードをデッキから墓地に送ってその効果を得る.2属の空ノートを選択」
「2属だと?3でも6でもなく?」
「ランクBの金糸雀カナリアをデッキから墓地へ送り,効果発動.メインフィールドのカードの表示形式を変更し,その持ち主はカードを1枚引く.俺はソール・レゾナンスを選択し,表示形式を変更.1ドロー」
「ぐっ…」
「バトルだ.ソール・レゾナンスで攻撃!ランクBのため,アレスに効果は効かない.アレスの効果で攻撃力は2倍,撃破!超過ダメで勝利!」
「くぅぅ…俺の負けか」
2人は片付け始めた.
「ランクを下げなければ,守備表示にしてしまい,ダメージが通らない.しかし,ランクを下げると破壊される.それらを回避する工夫があの手順か」
「最後のターンのアドはジロラモの方が上だった.まあ,ロイドは仕留めようとして一気につぎ込んだからね.時期尚早だったか?」
「結果から言えばそうだけど,セオリーから言えばおかしくない.たまたまピン挿しの防壁引き当てたから防げた」
「よし,次は俺の番だ」
「…?」
ジロラモは人の気配に気付いて振り返った.窓越しにヴァランが見ている.
「あ…あ…」
「お前達,仕事はどうした?」
「いえ,その…」
「すぐにかかれ.その紙,燃やされたくなければ」
「はい!」
6人はロッカーに荷物を入れて走っていった.
「やれやれ.(ペギーの言う通りかもな…)」
第二船倉内で,エルサとジュードが話している.
「確かに,これみたいだな」
魔銃の弾倉を取り外し,パーツを取り付ける.
「一体いくつパーツがあるんだ?3丁はできるんじゃないか?」
「弾倉取り替えてどうするのかな?弾は無限のようなものなのに」
「バッテリー切れがあるかもしれない.質が違うのかもしれない.まあ,とにかく帰ってから試そう」
「そろそろ基地が見えてくるころね」
ジュードはマイとジェシカに操縦室に戻るように伝え,ジュードとエルサも操縦室に戻った.
「博士,どこへ行くのです?」
「もうすぐ船が到着するんだ.飛んでるところを見てみたい」
博士は研究所から出て,2人の男が後を着けていく.研究所前の崖の上で止まり,船を見る.
「望遠鏡はあるか?」
「はい」
博士はそれを受け取り,船を見る.
「ん?」
「どうしました?」
「左後ろが変だ」
一人の男は望遠鏡で覗く.機械らしきものが穴を塞いでいる.
「応急処置じゃないですか?」
もう一人に望遠鏡を渡しながら言う.
「いや,あれはガーディアンズのものだ!」
男は床の石をどけ,地下から小型迫撃砲を取り出して船目掛けて発射した.船は多少揺れたもののバリアに阻まれた.
「やはりこれではダメか」
操縦室では攻撃を受けた箇所の立体図が画面に出ていた.
「気づかれたか?」
「まだ全員に行き届いているとは思えないけど…前倒しの必要がありそうね」
「すぐに離れられる準備はできている.コントローラーの接続を切って脱出するぞ」
「エルサ,彼らの眠りを解いてくれ,この船が爆発されたら困る.残りは乗ってきた円盤に走れ」
ジュードとエルサがその場に残り,3人は部屋から出て行った.
ホーリーが槍の先から光を出し,船員を目覚めさせる.
「おはよう,CGの諸君.船が壊れないように運転してくれ.それじゃ」
ジュードとエルサは部屋から出て走っていった.CG兵たちは大急ぎで操作に掛かる.
5人そろったところで円盤に乗り,船から脱出した.円盤は司令室の上に止まり,5人は,屋上に降りた.乗り捨てた船は近くの砂丘に不時着した.
5人は使い魔を出し,シェイドは扉目掛けて岩の塊を飛ばす.ドアの向こう側から何者かが吹き飛ばし,ドアと岩が砕け散る.
「ペギーめ,敵を案内するとは…」
「馬鹿な奴らだ.敵陣の真ん中に飛び込むとはねえ」
ジロラモとベルトランが使い魔を従えて姿を現す.炎に包まれた人の像,厳密には像とそれに沿った人の姿をした炎と,鱗が無くテカテカと光る体,鋭利な牙と天使の羽のようなヒレが2枚,胴に刺々しい大きなヒレを6枚持つ魚のようなものだ.
「お前達なんて俺1人で十分,早いとこ大将を呼ぶことだ」
シェイドは杖の先から2つの輪を飛ばし,2体を拘束した.ジュードはエルサにアイコンタクトを取り,4人は横を走り抜けた.
「こんなもの,その気になればいつでも外せる.エンオ,やれ」
炎が一段と強くなると輪はボロボロになり,地に崩れ落ちた.
「ベルトラン,手伝ってやろうか?」
「不要だ」
「手伝ってもらいなよ,できないんだろ?」
「甘く見るなよ,ダークネス,やれ」
エンオは熱波をシェイド目掛けて噴出す.ダークネスは体を捻り,輪に負荷を掛けて破壊する.
シェイドは竜巻を起こして熱波を防ぎ,氷をDの字状に全体に纏った杖でダークネスの体当たりを弾く.
「2人いるんだから背面に回りこむ位できるよね?バカじゃあるまいし」
「何?」
「余裕ぶって負けたら恥ずかしくないのか,ジュード?」
「恥ずかしい?恥ずかしいっていうのは,俺に負けた後になってから煽るお前たちの姿のことか?」
「上等だ!」
ダークネスは竜巻の中心を突き抜けて跳び.シェイドに噛み付こうとする.が,シェイドは後ろに跳び,かわしたところにダークネスの頭上に落石を呼び出す.しかし,ダークネスは岩をものともせず,岩は表面を滑り落ち,ヒレですれ違いざまに切り裂こうとする.シェイドは浮き,切り裂き攻撃を杖で受けて吹っ飛ぶ.
エンオは巨大な火の玉を圧縮し,眩い光を放つ火の矢を作りボウガンで飛ばす.シェイド目掛けて飛んだ矢は空中で爆発し,あたりを黒煙が覆った.
「ダークネス,念のためだ.撃て!」
ヒレの棘の先に電気をため,口を開く.直後に投げ返された炎の矢がダークネス内部に投げ込まれ燃え上がる.
黒煙は蛇のように動き,エンオに向かって宙を進む.
「エンオ,弾幕を張れ」
放射状の炎が煙の蛇の方角へ放たれる.煙は炎に押されて追いやられる.
エンオの背後上空から杖に風を斧槍状に纏ったシェイドが襲い掛かる.エンオは振り向きつつ,炎の剣を出して迎撃する.突きを受け,壁まで転がる.シェイドは槍を右手で持ち,着地後に左手で氷のクナイを3本投げつけ,ビリヤードの構えで前傾姿勢で踏み込んむ.
シェイドは右足を踏み込み,槍を突き刺す.エンオは炎の左手に力をこめ,風の槍を握り潰す.シェイドは風の魔法を解き,左の踵を軸にして反発力で回転し,杖の裏でエンオを突き刺す.エンオは杖を掴み,シェイドごと燃やそうとするが,力尽き,ジロラモの旨の羽バッジに戻った.ほぼ同時に蒲焼になっていたダークネスもバッジに戻った.
ジュードは腕時計をちらりと見る.まもなくしてマイがジュードの前に走って来た.
「ジュード,まだシェイドは戦える?」
「一応は」
「少し手伝って.ナイト,こっちへ」
霧が階段を上り,屋上に着き,マイの前に集まった.ナイトは霧になる能力を持つ.跡をつけて竜が上ってくる.
「ブループランは?」
「問題ない」
「さすがはマイ.頼りになるぜ」
「でもこっちはちょっと辛いかな…」
竜は屋上への入り口から飛び出した後,羽を広げ,周囲の魔力を吸って巨大化した.
穴の向こうからからギルベルトが姿を現す.
「やあ,やっと大将のお出ましか.適当にあしらって帰りたいけどね」
「敵陣中央に飛び込んで逃げられるとでも思ってるのか?」
「敵陣ったってβの力を持つのは何人いるかな?」
ナイトは竜の背後に現れ,左翼を切りつける.
「ドラコにはその程度の攻撃など効かない.つまり…」
ドラコはシェイドに向かって跳び,爪で襲い掛かる.シェイドのいた跡には霧が残った.
「(逆だ.こっちが囮だったか…)」
ドラコは背後からの石化光線で両翼が石化する.翼を動かすとすぐに石が砕け,石化が解けた.尻尾でシェイドを叩き落とし,霧目掛けて炎を吐いた.ナイトは人型に戻ると剣を振り,衝撃波で炎の直撃を避け,上空に脱出した.
「(まずい,シェイドは限界が近い)」
「(ギルベルトは単調な指示しかしない,しかし勝とうとも逃げ切ろうとも考えず,というか何も考えず,ただ違和感を読み取ることが全てで隙がない.挑発は読み取りやすくなり逆効果.ドラコは攻撃力も防御力も瞬発力も高い正面突破が不可能な使い魔.ジュードの考えを読んで上手く囮にならなければ勝ち目はない)」
ドラコは腰を落とし羽ばたく.ナイトはシェイドの前に立ち,剣を構える.ドラコはナイトの動きに合わせて正面を向ける.風でシェイドたちは動けない.翼を後ろに強く押すと,シェイド目掛けて跳躍する.ナイトは剣を右手で持ち,左手で刃の腹を押さえつつドラコの牙に当て右にそらす.直後に体当たりで吹っ飛ぶ.姿勢を低くしたシェイドの上をドラコが通り過ぎ,尻尾を杖で受け流し,上半身を回転させ杖の先から尖った岩を飛ばす.岩は尻尾で弾かれシェイドの近くに落下した.
「また避けられたか…」
シェイドは泡に身を包み,ドラコはシェイドに上からダイブした.シェイドは衝撃で転がり,ドラコの足元から魔法陣が現れ,12の影の手により押さえつけられた.
泡が弾けると同時にシェイドはバッジに戻った.
「倒したのに消えない….なぜだ?」
「そういう仕組みだからさ」
「そういうことにしておこう.ドラコ,破れ」
ヴィヴィが走ってきた.
「終わったか?」
ヴィヴィは頷く.
「よし,すぐに脱出だ」
透明になり宙に隠れていた円盤が姿を現す.ヴィヴィはナインを呼び出す.
「2人は?」
「すぐに来るはず…」
ナイトはバッジに戻った.
ナインの額飾りが光り,ジュードとマイはジャンプして円盤に乗り込んだ.ジュードとマイはそれぞれ運転と目くらましの準備に掛かる.
ヴィヴィとジェシカが乗り込み,エルサが2人の乗り込みを確認した後に乗り込み,ホーリーをバッジに戻した.
円盤の周囲に煙を撒いた後,発進した.
ドラコは魔法陣を破り,炎を吐くが,円盤に届かなかった.
円盤の中,一息ついたところでジュードが口を開く.
「データを抜いたのは相手に知られたか?」
「知られてはいないと思う.そうは見えてなかったとは思う」
「そうか.データを詳しく見るのは後でするとして,何か気になることはあったか?」
「えっ…」
ヴィヴィは目をぱちぱちさせる.緊張が解けた所で思いの外,返しが早くて質問が聞き取れなかったのだ.
「何か気になることあった?」
「ん…,新兵器を作ってて,熱が出るからその冷却で地下水を大量にくみ上げているってこと…」
「新兵器か…,なんだろう.まあ後で調べよう.誰か紅茶を一杯くれ」
ジュードは横の箱を指差した.ジェシカはガラスの容器からカップに注ぎ,ジュードの前に置いた.
「はい,どうぞ」
「うん,ありがとう」
ジュードはそれを飲み,運転を続けた.
「あれ,お菓子は持ってきてないの?」
エルサは箱を覗いてぼやく.
「紅茶とコーヒーと水だけ,あと角砂糖」
マイはカバーをどけて見せる.
「非常食なら後ろの棚にあるけど」
「いや,そんなに重いのはいいや.軽食なら欲しいけど,無いなら別にいいや」
エルサは紅茶をカップに注ぎソファに座って飲む.
ジェシカはソファに横になり,ヴィヴィは虚空を見ている.
CG基地,司令室ではギルベルトが自分の席に座り,ヴァラン,ジロラモ,ベルトランが机の前に立っている.
「逃してしまったが,取られたものはあるか?」
「いえ,ジュードはずっと屋上に,残りの4人が研究室に向かうところを長官と私で阻止しましたから.長官が上に向かった後も3人の進入は阻止しました」
「では目的が完全に達成した訳ではないが旗色が悪くなって逃げたということか?そんな感じはしなかったが…」
「ペギーの送ったパーツを取っただけですね.わざわざここで取らずとも搬送中に取ればよいものを….下からだけでなく上からも来るということをやってみせ,次からの防御力を分散させる目的では?それなら脅かすだけで作戦成功ですから」
「部下の報告では何も取られたものはないとのことです.ただ,ジュードは時計を1度見たので何か時間を気にするようなことをしていたのでは?」
「これ以上考えるより,情報を集めてからの方が効率が良いかと」
「そうだな.ではまたあと…」
基地が揺れ,斜めに倒れていく.ペンや置物が机の上を転がり,地面に落ちる.天井がきしみ,屑がぽろぽろ落ちてくる.
「沈んでいる?まずい,崩れるぞ!」
ギルベルトは通信機の全館放送のスイッチを押し,マイクを手に取った.
「全員外へ脱出しろ!」
脱出用の滑り台やパラシュートを使い全員外へ脱出した.斜めに沈み真ん中付近で折れた基地が残った.
「これはガーディアンズの仕業か…」
「いえ長官,これはおそらく地下水のくみ上げすぎによる地盤沈下です」
「……」
「だから私はもっと詳しく調べるべきだといったのに…」
ベルトランはしゃがんで石ころを指先で弾きながら嘆く.ギルベルトはそんなこと言われたかと記憶を探る.
「(調べるべきと言われた→ガーディアンズの対応に追われて有耶無耶になる→かといって権力移譲できる奴がいない→つまりガーディアンズのせい)絶対に許さないぞ,ガーディアンズ!」
ギルベルトの決意をよそに,ベルトランは呆然と飛ぶ烏を眺めた.