導入編
三方に海を臨む切り立った崖,その上に基地がある.崖の上には砲台が並び,その間を舗装された床があり,内陸の方にコンクリートの塔がある.塔の後ろから台場まで深い堀があり,その前に鉄網がある.その他,塔と比べると小さなコンクリートの建物がいくつかある.
周囲を一羽の烏が飛んでいた.その烏は羽の外は輝く黒色で,内の多くを光沢のある青色で占めていた.烏は基地の上からゆったりと空を舞い,鉄網の上に留まり人々の動きを眺めていたが,人が近づくと飛んで逃げていってしまった.
その山荘は基地を見下ろす山の中にあり,5人の若者がベランダに出て,くつろいでいた.
「コバルトが戻って来た」
おっとりした喋りの女性が気づき,彼らのリーダーに伝える.先ほどのカラスは1人の青年の椅子に留まる.
「ご苦労.早速映してくれ」
烏は羽を広げて鳴き声をあげると,ジャンプして机に飛び乗った.烏を中心に半透明な基地が立体的に映る.所々に赤い光が点滅しており,コメントも添えられている.
それを見て青年が薄ら笑いをする.
「今日こそ奴らも最後ね.ねえ,ジュード?」
「ん?ああ….いや,俺達の目的は奴らを壊滅させることじゃない.用が済んだらとっとと引き上げだ」
「ああ,そうだったわね.残念」
4人は作戦を練った.
基地の前の橋では兵士が見張っていた.
「なんだあれは?」
車が橋へ向かって一直線に走る.窓から光る物体が飛び出し,橋の歯車部前で人の姿になった.表は深い緑,裏は星空をあしらったローブを纏い,頭からは同色の布を被り,鼻の下から胸の上あたりまでのみ肌が覗く.布の上からは黒水晶をはめた額当てがある.手には1.5メートルほどの杖を持ち,左右の腕に銀の腕輪をはめている.
杖を振り,橋の歯車部を壊すと再び光となって車に戻った.
「橋が閉まらない!」
「ちいっ,渡りきるまでに撃ち殺してしまえ」
光線銃が車めがけて放たれる.光線が当たろうと,車はびくともせずに走り続ける.
今度は天馬が現れ,羽で風を巻き起こし,周囲を吹き飛ばした.車をそこに止めると,ジュードたちは車から降りた.
「よし,ジェシカとマイはここに残って帰りの足の防御だ.エルサとヴィヴィは俺に続け」
4人は首を縦に振り,一同は走り出した.
この襲撃の報告は勿論司令室にも届いていた.
「敵は2手にわかれている.我々も2手に分かれて奴らを片付ける.ベルトラン,お前はここに残って監視を続けろ.何かあったら連絡をよこせ」
ギルベルトが部下に指示を出す.
「私がですか?嫌です」
「奴らの前にお前を片付けてもいいんだぞ」
「いえ,その…私は皆さんと一緒に戦おうと…了解しました」
「では,そうだな…,ヴァラン,グンナー,お前達は門の前にいる奴らの相手をして来い.ジュールは私と来い.深く侵入した奴らは我々が片付ける」
「了解」
各々は部屋から走り出して行った.
基地内部のある部屋.コーヒーサーバーは電源が切ってあり,蛇口のそばにはいくつかの逆さにつられたコップと水の張ったカップがある.部屋の中央にはソファとテーブルがくたびれた様子で置いてある.
そこへジュード,エルサ,ヴィヴィが壁を壊して入ってきた.それぞれ術者らしき者,槍を持った人魚,周囲に火の玉の浮かぶ狐を従えている.
「シェイド,穴を開けろ」
ジュードは先ほどの術師らしき者に命じてテーブルの下の床を破壊させた.人魚のやりから光が闇を照らすと,倉庫らしきものが床穴から覗いた.
「やった!」
「きっとここだ」
「シェイド,一旦戻ってくれ」
ジュードがそう言うとシェイドは光となってベストについている真っ黒のバッジに吸い込まれた.シェイドが戻るとバッジはプレアデス星団を浮かべた.
「コバルト,出て来い」
ジュードの掛け声に応じて,白地に黒と青の烏を象った模様からコバルトが飛び出し,バッジは真っ白になった.
「コバルト,探索開始だ.目標物は例の黒の箱」
ジュードたちは探索を始めた.
ジュードたちは目標のものを見つけた.
「あった!これだ!」
引き出しを開けてコバルトが指した先に目標物を見つけた.
「とっとと帰りましょう.この部屋は気に入らない」
「どうしたの?エルサがそんなことを言うなんて.てっきり,CGの連中を云々かと思ったのに」
「あなたは何も感じないの?ここにあるのは妙な感じがする」
ジュードとヴィヴィは首をかしげた.
「いいことに気づいたな小娘.だが少し遅い」
部屋の上から声が聞こえると,竜の首が天井の穴から出て,暴れ,天井を崩す.
「ええと…,誰だ?顔が見えないと分からないな.ああ,悪い,見ても思い出せないだろうから見せなくたっていいぜ.…おっと」
コバルトは竜の顔の周囲を回り,撹乱する.
「ここはまずい,崩れるぞ!」
3人はドアに向かった.
「ホーリー,あの扉を吹っ飛ばして」
人魚の槍の先から雷が扉めがけて空を泳ぐように飛び,扉は壊れ,廊下側に居たジュールは吹っ飛んで気を失った.
「こいつ!」
「よせエルサ.今はそんなことをしている場合じゃない」
「チッ,分かったよ…」
「コバルト,戻れ」
コバルトは光となってバッジに戻った.
ジュードたちが走り去った後に,ギルベルトが降りてきた.
「ジュールはどうしたんだ?」
ジュールは気を失っている.
「この間抜けめ!」
ギルベルトはジュールを脇に抱えて上に昇った.
門付近では戦いが行われている.全身を細身の鎧で覆った幽霊の騎士,虹色の羽を持つ天馬がCGの武装兵を吹き飛ばしていた.
「ナイト,あの光線をあの塔の端に当てて」
マイが指示すると幽霊の騎士はCGの兵が放つ光線を盾で弾き飛ばして塔の端に当てる.端は削られ,太陽の光がマイとジェシカを照らす.
「ちょっと待った!侵入者ども,お前の相手は私達だ!」
ヴァランとグンナーがマイとジェシカの前に現れた.
「お前達は下がっていろ.βの力を持つ者に,そんな武器効かない」
「まず私が相手をしよう.ヴァラン,あいつらへの指示は任せた」
ヴァランは首を縦に振る.
「出て来い,シラーウィッチ」
グンナーの呼びかけに応じて羽バッジから魔女が飛び出した.ブカブカの白いローブを纏い,腰に桃色の布を2重に巻き,後ろで垂れたリボン結びをしている.大きな濃い青色の魔女帽を被り,黒いセミロングの髪が風に揺れる.帽子のつばの影から金色の目が輝いて見える.右手には小さな滑らかな流水模様の木の杖が握られている.
「シラー,奴らを潰せ」
シラーの杖から雷がジェシカ目掛けて飛ぶ.ナイトが一瞬霧になると,ジェシカの前に現れ,右手の剣で雷を中心から右斜め前へ弾き飛ばし,その回転の勢いに身を任せ,左手の剣をシラー目掛けて投げた.シラーは首を右へ傾けて剣をかわし,右肘を突き出し杖を左胸に近づけて次の魔法の構えを取る.シラーの背後から剣が軌道を変えてナイトの方へ戻り,シラーは両手を振って上半身を前に倒しつつ前に踏み込む,ナイトは霧になってシラーに接近すると空中で左手の剣をつかんで縦と横から合わせて切りかかる.シラーは杖の先から透明な壁を出して防ぐものの,地上にたたきつけられ,壁を傾けて剣を滑らせた瞬間に体を右回転させて脱出し,杖の先から火炎球を飛ばして後退した,
その間,ヴァランは部下に指示を出し,羽バッジから金色の木を出した.表面がつるつるの金で覆われており,木とは思えない異常なスピードで枝や根を動かし,伸ばし,分岐させ,広がっていく.
「ウィン,奴らを吹き飛ばして」
天馬は翼を広げ,突風を起こす.が,シラーの起こした竜巻によってかき消された.シラーの背後の霧からナイトが出現し,右手の剣を突き刺そうとしたが,足元から突き出す根の気配を察知し,霧となって消えた.ナイトはテンポを崩さない程度に枝や根を切る.シラーは出現予測ポイントに雷撃を放つ.
「まるで2対1だな.情けないなァ」
「ああ,まったく」
「「ハハハハ」」
「……」
マイとジェシカは全く気にしていない.
「嫌味まで味気ない男ね」
「いつものことじゃない.小手技ばかりだし」
「何か面白いものはないの?」
「ふふん,望みとやらば見せてやろう.やれ,ゴールド」
黄金の木は周囲の魔力を吸い込み始める.引力が働き,石が転がっていく.ナイトはシラーを右下から左上へ斬りつけ,左の剣で斬りつけるように見せかけて殴りつける.回避のタイミングを見誤ったシラーは後ろに飛び,ゴールドの引力に捕まりシラーは動けなくなった.ウィンは羽を広げてビームを飛ばす.シラーに命中し,魔女はバラバラとなって光になり,羽バッジに戻っていった.
「あっ…」
コンクリートで舗装された蓋が開き,その中から槍がヴァラン目掛けて飛ぶ.ヴァランはそれをかわすが,かすった槍は服をねじ込みヴァランを壁に突きつけた.
「無事だったか?」
ジュードたちが地下から出ると,蓋を破壊し,瓦礫で通路をふさいだ.
「こちらは無事.そっちは?」
「ギルベルトが追ってきたが,今頃埋まっているだろうよ」
「それで,例のものは?」
「これだ」
ジュードは箱を見せた.
「長居は無用だ.帰ろう」
ジュードは頭を縦に振ると,車を指差し,仲間が乗ったのを確認して車に乗り込んだ.間もなくして瓦礫を吹き飛ばして,ギルベルトと竜が飛び出した.竜の息吹でホーリーは光になってバッジに戻り,ヴァランは壁から離れた.
「まずい.急いで!」
ヴィヴィは車を動かす.門前はバリケードが作られていた.
「なあ帰りの通過証はあるか?」
「そんなこともあろうかと,はい,これ」
マイはロケット弾を足元から持ち上げてジュードに見せる.
「私にやらせて」
エルサはそれを受け取ると天井を開いてバリケードにロケット弾を打ち込む.バリケードは破壊され,ジュードたちは撤退した.
ヴァランは逃げたジュードたちを見つけ,石を蹴り飛ばす.
「おのれ,ガーディアン共め…,この次こそは…」
ジュードたちは地下道を通って湖の底にある基地へ帰還した.
「博士,魔法銃のパーツを取って帰りましたよ」
「ご苦労.早速見せてくれ」
ジュードは博士に箱の蓋を開けて赤い石を見せた.
「よし,早速実験に取り掛かろう」
博士とジュードたちは大実験室前に着いた.実験室の大きな窓の付いたガラス越しに内部の大きな機械が見える.機械は6脚の足で支えられながら天井から吊り下げられており,部屋の端から延びるパイプが機械のいたるところに繋がっている.周囲の机の上にはパソコンやコピー用紙,バインダーなどが於かれている.実験室内には2人おり,2人で機械の調整をしている.
「君たちは外で待っていてくれ.結果が出たら教えるよ」
「分かりました.ではガーディアンズ,退散」
解散後,ホーリーは湖の中を泳ぎ回り遊んでいる.
準備を終え,実験が開始された.大型機械は低いうなり声を上げて,先端から光や熱を出し石の反応を調べる.ジュードは実験室前の長椅子に腰を下ろし,コバルトを手前の台に止まらせて手帳サイズのノートを読んでいた.
実験は何の問題もなく進むと思われた.しかしその目論見は研究員の一人の一言と共に崩れ去る.
「博士,これは偽物です!爆発します!」
「皆隠れろ!」
基地を揺らす揺れとともに爆風と粉塵がガラスを覆う.コバルトはビームで扉を壊し,瓦礫をどけ,博士と研究員の通路を開いた.研究室内はスプリンクラーにより,水が撒かれている.
「くぅ…偽物をつかまされたか…」
事の起こりは3日前.街の一角にある”ワクワクパーク(略・ワクワク)”という店のできごと.勘違いしそうな店名であるが,探偵業の店である.高そうなコートを来た1人の老人がワクワクを訪ねた.
「ようこそ,ワクワクパークへ.私は店主のヴィンセント」
「ここは調査をやってもらえるんですね?」
「ええ,そのことを知られたくなければ秘密裏に行えます」
「早速調査の依頼をしたいのだが…」
「では,こちらへどうぞ.あそこなら外には漏れません」
2人は奥の個室へ入った.2人は自己紹介をし,老人は同意書に目を通してサインをした.
「では,本題に入りましょう.君は魔法銃,魔銃,魔導銃,αの遺産,αの銃…と呼び方はいくつかあるが,聞いたことはありますか?」
「いいえ.それがどうかしたのですか?」
「その前にもう一つ.CGという組織は?」
「それなら少しだけ知っています.世界中で何かを探している武装組織ですね.何かまでは知りませんが,察するところ,その魔法銃とかいうものに関連するものでしょうか」
「左様.彼らにはスポンサーが多く居ます.私も元はその1人でした」
「元は…?」
「今は違います.最初期の組織は良かった.しかし今の彼らの思想と私は相容れないのです」
「ちょっと待ってください.そう簡単にやめられるものなのですか?」
「あなたが心配しているのは,私が暗殺されるのではないか,ということですね.安心こそできませんが,可能性は低いでしょう」
「それはどうしてです?」
「すみません,今は言えません」
「…わかりました.無理に聞くことはやめましょう」
「魔銃について簡単に説明しましょう」
「ああ,ちょっと待って下さい.依頼で来られたのですよね?」
「依頼は後で言いますからご安心を.必要なあれは,宇宙人αの残したもので,銃の形態をしているのはαが気に入ったからで,本来は姿どころか存在すら不定の代物です.魔銃は想像を現実にする媒介物として使われました.しかし,地球人には使いこなせず,また,αも新しい使い方が思いつけなかったので,機能を切り分けました.『何でもできるが,何もできない』から『制限下で可能なことができる』に変わりました.切り分けられた方が通称パーツと呼ばれるものです」
「ということは完全体になればまた…」
「何でもできるようになります.しかも今度はあらゆる切り口から使い方を考察可能です.βの力もあるのですが,また後にしましょう」
老人はお茶を飲み,一息ついた.
「思想が異なるといいましたね.最初は,力を行使してでも,危険な魔銃を管理下に置き,世界の脅威を無くすことを目的としていました.これには私も同調していました.しかし,先代のトップとその一派は魔銃を独占し,我々スポンサーに脅しをかけるだけでなく,世界征服を目指して攻撃を始めました.そして,反対派をあらゆる手段で潰し,危険を察知したり嫌気が差して大勢の人が逃げ出しました.内部で大きな戦いが起きた際,1人は魔銃の本体といくつかのパーツを持ち出しガーディアンズを組織,1人はパーツを持ち出し,彼の恩師の下へ戻りSCとSRを組織,1人は当時のコネで死の商人に協力して騒ぎを引き起こす扇動者となっています.CG内部については,海外から帰国した現在のトップ一派が前勢力を一掃し,今の状態になりました.彼らは魔銃の隠匿と有効利用を目標としています.それでは駄目なのです」
「脅威の排除ではないからですか」
「調理場を思い浮かべてみてください.そこでは火も刃物も使われています.消毒や掃除も必要です.そんな危険な場所では,走り回る人や踊る人は居ませんし,何かを運ぶ時は周囲に存在を伝えたり,周囲を良く見て動きます.つまり,ルールがあるのです.そこに居る人たちは危険性を考慮し,行動できます.魔銃の話に戻すと,アレを使うにはこの世界では,まだ危険性がわかっておらず,ルールも決まってません.奪い合いなどしていたら世界の終わりです.調理場で例えるなら足を引っ掛けるようなものです.さらに,隠匿するだけならいいものの,隠匿した上での有効活用というのは危険が大きすぎます.阻止しなければならないのです」
「失礼ですが,それを言う場所はこのナラの木の机と白熱灯の部屋ではなく,CGの評議会ではないのですか?」
「無理でした」
「そうですか」
「それで,あなたに依頼するのは,魔銃の封印です」
「封じるより破壊の方が楽では?もし将来,あなたの言うような魔銃が使える条件を満たした世界になるのなら,それと同時に魔銃と同じことができるくらいの文明レベルになっていると思いますが」
「破壊できるならそれでも構いませんよ.できるものなら…」
「破壊できないのですか?」
「相当な耐久性です.ただ,破壊しようとして試したものは居ないので,やってみる価値はありますね.しかし,もしかしたら…」
「…?」
「本を踏んだり,墓に落書きしようとしないのと同様の力があるのかもしれませね.尤も,騎士道に殉じる者は条件を満たせば迷い無く剣を振り下ろすし,宝石の魅力を感じない人は宝石を躊躇無く投げ捨てることもできますがね」
「いいでしょう.望むところです」
「先ほど少し触れたβの話をしましょう.お察しの通り,宇宙人βの遺産で,適合する人間は決められた絵や音などを触媒として姿を想像するだけで使い魔を呼び出し,使役できます.とはいえ,考えただけで出てきたら困るので,使用者は制約を自らに課します.名前を呼んだら出てくる,パスワードに応じて出る,特定の動きに反応して出てくる,などのように.αの遺産と惹かれあう力であり,また,βの力の所持者はαかβの力をぶつけないと効き目がありません」
「つまり,先に挙げた組織に対抗するならβの力を持っていないといけないということですね」
「そう,そしてあなたはその力を持っている.私の仕事の部下がそれを見ている」
「はて,何のことでしょう?」
「先月の依頼主にブラックという人がいたはず.あれは私の部下です」
「(黙っていろと言ったのに…)気づいてたのですか….なら仕方ありませんね」
「この依頼を受けていただけますか?」
「ここまで聞いた以上,断る気はありません.私にお任せください」
「ではお願いします.βの力のない私は戦うことができず,ほとんどあなたに任せてしまい申し訳ない.必要なものがあったら言ってください.可能であれば用意します」
「ありがとうございます.ではそのときは連絡します」
ヴィンセントは助手のダリアを電話で呼び,合流したダリアとCGの基地へ向かった.
「調べるには一番多くを知っているであろうガーディアンズからが良い.で,魔銃パーツの港ことCGの基地の前には彼らの偵察用の拠点があるはずだ」
「それを探るためには基地の中から周囲を見渡した方がいいでしょうね」
「その通りだよ助手君.とはいえ,使い魔を使う彼らにとっては,自分達が直接見える距離でなくとも良いということも忘れてはいけない」
「何にせよ,内部に入らないことにはね.許可証を取っておいたわ.これ使っても入れない場所はあるけど」
「素晴らしい.よし,ささっと片付けてしまおう」
その頃CG基地では本日2組目の侵略者の相手をしていた.
「オーギュスト,貴様を生かしておいたのが間違いだった!」
黒い長髪の男は下を向き,微笑すると右手親指で耳の後ろの眼帯の紐を軽く弾きながら頭を上げる.
「そんなに評価されたら嬉しくなるじゃないか.じゃあもっとポイント稼ぎでもしようか」
オーギュストの前に浮かぶ巨大な箱.剥がれたパネルからは金色の爪,牙,尻尾が覗いている.
「2人ともやめてください」
使い魔同士が争う中,ヴァランがギルベルトとオーギュストの仲裁に入る.
「長官,少し待っていてください.私が説得しますから」
「…無駄だと分かるだけだ」
ギルベルトは竜を手前に退かせた.
「オーギュスト,ここにはもう先代の長官はいない.君と私たちが戦う理由なんてないんだ」
「…そうか,分かってないんだな.あんたの上司は分かっているようだが」
「君はきっと勘違いしている」
「1から説明しないといけないのか?面倒だな…」
オーギュストは「もう説得はいいだろう?」と目線をギルベルトに向けた.ヴァランは2人の間に入って遮る.
「はあ…,俺がこの組織を抜けたのは,先代に殺されかけたからとか,仲間を殺されたからとかではない.この組織自体が馬鹿らしくなったからだ.世界を壊さないようにだなんて馬鹿らしい.アレの真の役割は破壊と混乱だ.本人にその気がなくとも,世界の意思はそれだ」
「君に魔が差しただけだ.落ち着いて考え直してくれ」
「ならそれを天命と呼ぼう.神の加護を得られた証明でもある」
ヴァランの顔に諦めという影が現れ始めた.
「ありがとよヴァラン,おかげで時間が稼げた」
オーギュストは使い魔を宙に上げた.それと同時に隠れていた帯が姿を表す.帯は地中に穴を開けており,するすると巻き取られていく.
ギルベルトの目配せに応じて竜は角から大箱目掛けて光線を飛ばす.帯の先が地上に現れ,コンクリートの床の欠片がばら撒かれる.光線は欠片を溶かし,煙が周囲を覆う.竜が羽ばたき,煙を払うとオーギュストはもう居なかった.
後にはボロボロの基地を抜ける乾いた風の音がするのみ.
ヴィンセントとダリアは基地の前に着いた.
「正面に回らないと駄目かな?」
ダリアはヴィンセントの目線を追って右の先を見た.正面は遥か彼方にある.
「あの穴からでいいんじゃない?」
2人は正面の壁に空いた穴から中へ入った.周囲には人がおらず,瓦礫が散らばり,部屋の壁に穴があいている.2人はその部屋に入った.
「これ何かしら?」
ダリアは鍵の掛かった小さな箱を拾い上げた.
「危ないから不用意に触るな」
ヴィンセントが言い終わるか終わらないかの内に,ダリアは鍵を壊して開けた.
「これは…おそらく魔銃のパーツ.ちょうどいい,これを餌にしよう.作戦変更だ.これを持って出よう」
2人は車に戻り,廃ビルに向かった.
廃ビルに着いた2人は車から降りた.それを影から見ている集団があった.,
ショッピングモールから出てくる2人がいた.1人は若い女性,もう1人は少年で,大量に買い込んだ食料品を持っている.
「引越す前は不安だったけど,実際に歩いてみるといいところね」
「僕からすればここは平和すぎるね.もっと闇とか混沌とかそういう町がいい」
「フフ…」
公園前を歩く2人の前をヴィンセントとダリアが走り抜けていった.
「ヴィンス…?」
女性は右手で風で流れた黒い髪を後ろに払い,大きく開いたオリーブ色の目でヴィンセントの後を追った.曲がり角の先にヴィンセントは消えた.
「どうしたの?」
「……」
「アキュリス?」
2人はこちらへ向かって走る人々の気配を感じ,反転した.
呼吸の合った走りをする人々が横を通っていった.
「追われているのかな?」
少年が尋ねる.
「そのようね」
アキュリスは気のない返事をする.
「さっきの人は知り合い?」
「ええ.…….その話はまた今度ね」
「助けに行く?」
「どうして?」
「どうしてって…」
「その必要はないわ.一旦帰って荷物を置いてから探そ.本人の後を追うのじゃ見つからない気がする.網を張り巡らさなければ見つけられない.だってヴィンスだもの」
2人は大きな庭のある屋敷に入っていった.
ヴィンセントとダリアは橋の両端からCGの下っ端に挟まれた.
「さあ,それを返せ」
CGの兵士が陣形を取りながら近づく.素手の肉弾戦が始まった.
ヴィンセントは攻撃を捌きながら退路に回ろうとするが,回り込まれる.
「やめろ!本当に殺すぞ!」
「こいつ!」
「あっ…」
ぽちゃん,
CG兵のタックルを受けてヴィンセントは突き飛ばされ,手に持っていた箱が川に落ちる.箱が水流に流されていく.
「飛び込め!」
CG兵は全員急流に飛び込み,箱を探しに向かった.それを追うようにヴィンセントとダリアも飛び込んだ.
駅の北口から先に歩行者用のトンネルがあり上は車が通っている.その奥に商業地区が広がっている.地区全域がラドバーン式になっており,内側には車が入れず,店の外側(車道側)に駐車場がある.大通りの両端は大きな建物が並び,中央列には天を衝かんほどのブナやエノキが悠々と枝を伸ばし,緑陰を作っている.根元にはアジュガ,クリムゾンクローバー,ヘアリーベッチ,カモミールが郡生している.これらの植えたであろう草以外にも草も少しある.木の幹には,クレマチスやトケイソウが巻きついており,白い花を咲かせている.
大通りは直線でできており機能的で整然とした印象があり,そこから離れたブロックにある小道は様々な大きさの店や植えられた木によって曲線の道を作り出し,人目から離れた落ち着きがある.
この地区は9つのブロックから構成され,東よりの2つのブロックの中を川が流れている.
ジュードとエルサはエアコンとパソコン修理の部品を買いに商業地区の歩道を歩いていた.
「そういえばエリオットに頼まれたんだ.エルサから漫画を取り返してくれって」
「なあに,お兄ちゃんは妹が怖くてジュードに頼んだって訳?」
「いや,中々返してくれないし,だからといって部屋にも入れてくれないからだと…」
「返す気はあるんだけどね,忘れちゃって.私が部屋に居るときは,お兄ちゃんは仕事中,私が居ない時はお兄ちゃんが休憩中ってことが多いのも理由としてあるかも」
「ああ,それで俺に頼んだわけだ」
「帰ったらね.もし忘れてたら教えて」
「俺が忘れてなければ.ん?」
2人は川の上でキャッチボールをする集団を見つけた.
「あれは!」
投げているのは,先ほど狙っていた魔銃のパーツを入れた箱だ.βの力を持つ者が多く居ることで,反応したパーツが微かにオーラを放っている.
ヴィンセントがキャッチを阻止して,再び箱は川の中を流れる.
「よし,ホーリーを出せ.取ってくるんだ」
「いえっさ」
エルサが青色に人魚の模様の描かれたバッジからホーリーを出し,バッジは真っ青になった.
「手に入れたらルート11を通って一旦戻ろう.念のため…,シェイド,出て来い」
シェイドがバッジから飛び出した.
「シェイド,ホーリーが戻ってきたら逃げる.追跡できないように細工を頼む」
ホーリーは水にもぐるとCG兵たちを突き飛ばして箱を掴み,ジュードたちの下へ戻って来た.ジュードはそれを受け取り,箱を開けて中身を見た.
「今度こそ本物だといいがな」
水中から銀色の狼が飛び出し箱を狙う.シェイドは杖を振り回し,狼を弾き飛ばした.
「何だこいつは?初めて見る使い魔だが…」
水中からもう一体,力強い羽と尻尾,大きく沿った角を持つ人型の使い魔が飛び出し,シェイドの起こした火炎弾を大きな爪で切り裂いた.
「君らがガーディアンか?」
水中からヴィンセントとダリアが顔を出し,岸に向かって泳ぐ.
「そいつを…ゴホッ…持っていれば…ゲホッ…会えると思ったぞ」
「CGの仲間ではなさそうね」
エルサはジュードに近づいて耳元で囁く.
「俺達に用があるのか,どうして?」
ヴィンセントは地上に上がると腹の前のシャツを絞り,水を落とす.
「魔銃を追う者として,一番詳しい君らに聞きたいからだ」
「教える気はない」
シェイドが杖を振ると,川の水が渦を作り,ジュードたちとヴィンセントたちの間に水の壁を作った.
「逃げるぞ」
「ディヴィ,あの魔術師を倒せ」
水の壁を突き破り,シェイドが避ける間もなく突き飛ばした.壁が消え水しぶきが上がった.
「倒さないと帰してくれそうにないな」
「バーフ,あの人魚に噛みつけ」
狼は跳躍する隙を伺いながら,ホーリーとの距離を詰める.
「シェイド,そいつを投げるんだ」
シェイドは光の羽を出し,杖の先でディヴィの顎の下から打ち上げ,跳躍して宙で縦に一回転する.杖をやや後ろに構え,杖の先から透明な腕を出してディヴィを掴み,今度は横回転をしてホーリーに向かって投げる.ホーリーは横目でそれをかわし,槍を回してディヴィの爪攻撃を弾く.ディヴィは転がり落ち,前転から跳ね起きて体勢を立て直すと,強く踏み込み,ホーリーに貫手を刺そうとする.が,ホーリーは宙を泳ぎそれをかわし,ディヴィの手は地面に突き刺さる.ホーリーは槍を回して上下入れ替え,先端から電撃を出してディヴィに浴びせをバッジに帰還させた.
「クッ…」
ダリアが目を離した隙にバーフの足元から炎が現れ包み込む.バーフは死角からホーリー目掛けて怪音波を出し,ホーリーに直撃させ,バッジに帰還させた.直後にバーフは燃えつき,バッジに帰還した.
「ディヴィはやられたが,俺にはまだ使い魔が居る」
「脱出用に取っておくんだな」
4人の横にCGの増援が駆けつけた.シェイドは閃光弾を打ち上げ,ジュードとエルサはその隙に逃げ出した.
「今回は勝てなかったが,次は勝つ.俺達も逃げるぞ」
ヴィンセントとダリアも逃げ出し,その場には戦いの痕跡が残った.
「悪い奴から俺達が守り抜くんだ」
ジュードは研究所の降りるエレベーターの中で箱を見てつぶやいた.エルサは無言で頷く.




