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12話

 廃墟の町.上流域の水門が壊れた後,町ごと放棄してできた跡地.川は大きく高低差も小さいので浸水までは2週間の猶予があり,その間に住人は全員避難した.その後は,復旧するよりも新しい土地に町を作った方が安上がりなので,そのまま残った.今ではマフィアの取引の場所に使われているとか不法滞在者が隠れているとかの噂がある.ガーディアンズはその廃墟の町中を歩いている.

「不気味な場所ね,早く帰りたい」

 マイはガラスの割れた病院跡地を見てぼやく.

「(でも皆と一緒なら安心)」

 ジェシカはマイを見て内心で反論する.

「分かっているさ.でも何もせずに帰るべき,というほどの危険地域でもない」

 ジュードはコンパスを右手に持ち,4人を引き連れている.コンパスの針は魔銃のパーツでできており,片方の先は音叉のような形になっている.針のほぼ中心に円状の穴があり,円錐の上に乗せてコンパスにしている.

「……」


 昨日の研究所.博士が5人を研究室に集める.

「よし,揃ったな.頼みたいことがあるんだ.こいつを見てくれ」

 博士は魔銃のパーツのついたコンパスと,パソコンの画面を見せる.画面には複数の波が動いている.

「どう見ればいいのか分かりません」

「こいつはどうやら共鳴波を出しているようだ.何に共鳴しているのかは分からないが,おそらくパーツに関するものだろう.この中でピンク色のものが,共鳴対象だ.この水色の波がこのパーツから出ている波,黄色と緑色は場所を割り出すために作ったものだから,君らは気にしなくていい」

「場所を割り出す?どうやって?」

「簡単に言うと他のパーツを使ってモデルを作り,それを数式に当てはめて拡張して割り出す.これがその場所だ」

 博士は画面に地図を表示した.等高線のように3重に線で囲まれている.

「君たちにはこの中から発信源を探して貰いたい.道具はこのコンパスとそこのタブレットを使ってくれ.針を指で動かして,元に戻ろうとしたところで,波の様子を見る.一度波が乱れるが,すぐに戻る.波が乱れるたびにリセットされる習性がある.右下に数字があるだろう?これは場所によって変動する.リセットして1に近づく場所を目指すんだ.ちなみに,ここは0.0056となっているが,地上だと0.0071となる.波が安定したら数値が安定する.その間は可能な限り動かしてはならない」

「分かりました.では早速調べてきます」

「いや,時間が掛かりそうだ.明日にしよう」

「このパーツは何かを作る能力ではなく,集める能力を持っているんだと思う」

「エリオ君はそう言うが,実際まだ分からんよ.行き方を調べるのは君たちに任せる.何か質問はあるかな?」

「いえ,今のとことはありません」

「では解散.よろしく頼むよ」


 再び廃墟の町.

「よし,手分けして探そう.早く終わらせる」

「どう分ける?」

「俺とジェシカ,マイとエルサとヴィヴィでどうだ?」

「いいよ,それで行こう.それらしいものを見つけたら連絡して,その機械で確かめて貰えばいいよね?」

「ああ.こいつが無いと調べられないからな」

「ジュードに持っていてもらうのが安心」

「どうも.それじゃあ俺達はこっちへ」

「私達はこっちね」

 2組に分かれて歩き始めた.

 ジェシカの歩きが遅くなる.

「どうした?何か見つけたか?」

「…あ,あの…,2人っきりだからお兄ちゃんって呼んでいい?」

「えっ」

「エルサもヴィヴィも兄が居て,マイは兄弟居ないけど,家族がいるから…,その…」

「ああ,理由なんて要らないよ.急だから驚いただけ.呼んでいいよ」

「やった!改めてよろしくねお兄ちゃん」

 2人は歩き続け,ジュードは小さい生き物が物陰から走っていくのを見つけた.ゆっくり歩み寄って見ると黒猫がそこに居た.ジュードは頬を緩めて右手の人差し指で黒猫の首の下から撫でる.

「フフフ…」

 ジュードは手を滑らせて魔銃のパーツを落とす.猫は驚いて,それを加えて走っていった.

「あっ,待て!」

 猫はパーツを運び,小さな社へ運ぶ.パーツから黒い泡がぶくぶくと噴出し,パーツを核に姿が形成される.姿はジェシカに似た姿になり,ゆっくりと目を開ける.視界の端から青年が走ってくるのが見える.

「君は…?いや,それより,ここに音叉のようなものを持った猫が来なかったか?」

「猫ならそこに…」

 女の子は猫を指差し,ジュードが猫の方を向くと,女の子は腰を曲げてジュードの視線の先に来るように顔を運び,左手で髪を後ろに押さえつつ上目遣いでジュードを見る.

「…?」

「目を覚ましてお兄ちゃん.私の本当のお兄ちゃん」

「何…」

 ジュードは催眠術を受けてよろよろと後ずさりする.

 ジェシカが遅れて走ってくる.

「お兄ちゃん,見つかった?」

 ジュードは声に反応して振り向く.

「俺に訊いたのか?…すまない,君は誰だ?」

「忘れちゃったの?私だよ,ジェシカだよ」

「ジェシカ…?ああ,あの駅前のアクアリウム店の店長の娘さんか.確か大学生だっけ?」

「違う!」

 ジェシカの気迫に押されてジュードは怯む.ジェシカはジュードの奥に居る女を睨む.

「あなたが何かしたの?」

「なあにこの人,お兄ちゃん知り合い?」

「いや,分からない…」

「お兄ちゃん…?」

 女の子はジュードの後ろに隠れる.

「すまない,思い出せないんだ.もう少しヒントをくれないか?俺とどこであったことがある?」

「本当に…忘れてしまったの…?」

 ジェシカは目を見開く.女の子はジュードの後ろで左手人差し指で目の下を引っ張り,舌を出して挑発する.ジェシカが腕を掴もうと手を伸ばすが,ジュードに阻まれる.

「やめろ,妹に何する気だ」

「妹…?ねえ,何言ってるのお兄ちゃん」

「君こそ何を言っているんだ.うん?」

 女の子はジュードの服の裾を引っ張り,ジュードは屈んで耳を傾ける.女の子はジュードに何かを耳打ちする.

「君には悪いが,後にしてくれ.これから用事があるんだ」

 ジュードと女の子と猫は建物を出て,森の中へ入って行った.

 義妹vs偽妹の珍しい戦いは偽の勝ちに終わった.


 鬱蒼とした森の奥には湖があり,その周辺には木が無く明るく開けていた.

 ジュードと偽妹は湖の横に腰掛けて話始める.

「ほら,こうやって使い魔を召喚するんだ.やってごらん」

 ジュードは左手の平を上に向けて魔法陣を呼び出し,自分の周囲に小さな竜や真っ白な梟,宙を泳ぐ海蛇を呼び出す.ジュードと偽妹の周囲に使い魔たちが悠々と動き回る.

 偽妹もやってみるが,上手くできない.

「違う違う.使い魔は自ら作り出すか,契約するかしなければ呼び出せない.このカード群に書かれているのを呼ばないと駄目だ」

 ジュードは右手に持っているリングで綴られたカード群を見せる.

「魔法陣の書き方も変だな,忘れちゃったの?」

「ごめんなさい.中々覚えられなくて」

 偽妹はジュードの目を見た後,恥ずかしそうに俯く.

「ん…何だ,このバッジ.こいつにも使い魔が…」

 ジュードは自分の上着に付いているバッジを取り外してまじまじと見る.白地に黒と青で烏の模様が書き込まれている.

「(かなり強力だ.あの3体と同時に呼び出すのは無理だな)戻れ,使い魔たち」

 ジュードはカードを掲げて3体をカードに戻す.カードに紋章が浮かび上がる.

「出て来い.……?」

 名前が思い出せない.ジュードはバッジの裏を見る.cobaltと書かれている.

「出て来い,コバルト」

 バッジから烏が飛び出し,羽を広げて鳴く.

「うっ…」

「どうしたのお兄ちゃん?」

「うぅ…思い出した.ありがとうコバルト.そしてここに…」

 ジュードは左の首の下あたりにあるバッジを右手の親指,人差し指,中指で触れる.

「俺の最強の使い魔,シェイドがいる」

 偽妹は雰囲気が変わったのを察知して後ずさりして起き上がる.

「妙な真似をしてくれたな.さあ,どうしてくれようか」

 偽妹は目から催眠波を出す.

「無駄だ,同じ手は食らわない」

 ジュードは偽妹の左腕を掴んで上に挙げる.猫が飛び掛り,ジュードは手を離す.その隙に偽妹と猫は逃げ出す.

「お兄ちゃん,目を覚まして!」

 木の茂みからジェシカが出てきた.

「ああ,ジェシカか.さっきはすまなかった.俺はもう元に戻った」

「えっ本当?じゃあ1+1は?」

「2」

「母集団が1つで母分散が分かっているとき,母平均を検定するために使う統計量の分布は?」

「正規分布,いや標準正規分布か」

「正規分布の歪度は?」

「0」

「私のこと好き?」

「大好きだよジェシカ」

「やった!元に戻ったのね」

「悪い夢を見たと思って探索に戻ろう.しかしその前に,パーツを取り戻さないと…」

「あの猫がまだ持ってるかな?」

「いや,持ってなさそうだった.どっかに埋めたのかな?来た道を戻ろう」

 直後に2人は木々の向こう側から強烈なプレッシャーを感じる.黒い霧が渦上に巻き起こり,金色に輝く王冠を頭に載せ,背中に黒い羽の生えた黒髪の女性が霧の隙間から姿を現す.細身の剣を持った右腕を振って霧を吹き飛ばし,ジュードたちに目を向ける.

「出て来いシェイド」

「出て来てウィン」

 2人はバッジから使い魔を呼び出す.

「君は誰だ?」

「……」

「やはり言葉が通じる相手ではない,行けシェイド!」

 シェイドは右手で杖を持ち,後ろから前へ突き出して杖の先から黒い雷を出す.相手は翼を少し動かすと雷は捻じ曲がって地面に落ちた.

「彼女の名は…そうだな,ノイズとでも呼ぼうか」

 2人の前に黒猫が現れて喋り始める.

「何?知り合いか?」

「いや,僕の作った使い魔だよ.ジュード,君を迎えに来たんだ.君はここで神殿の守護者となって僕と共に暮らすんだ」

「何を言っている?」

「フフフ,もうすぐ分かるよ.行けノイズ,奴らを叩き潰すんだ」

「シェイド,一度下がれ.ジェシカ,援護を頼む」

「うん,ウィン,近接技で迎え撃て」

 ノイズは羽と足を使って跳躍し,肘を引いて右手の剣を構えてウィン目掛けて跳びこむ.ウィンの鬣が逆立ち,前足を上げて蹴りをいれる.しかしノイズは羽を使って左に体を倒してかわし,下から上へ剣を突き上げてウィンを貫き,剣の先から電撃が流れる.ウィンはダメージを受けてバッジに戻る.

 ノイズは剣を振って肘を引き,シェイドの方を向く.シェイドは両手を突き出して右手は杖を掴み,左手は杖の後ろで広げる.杖の先から氷弾が渦を描くように発射され,ノイズに向けて飛ぶ.ノイズは剣を振ろうとするが,腕が石化し動かず,氷弾を全身に食らう.氷は突き刺さった場所から互いを引き寄せるように広がりノイズの全身を包む.シェイドは杖からチェーンソー状に動く水を出してノイズに向かって跳び突きを仕掛ける.ノイズは左腕で氷の一部を砕いて手を伸ばしシェイドを掴もうとするが,シェイドは杖を地面に立てて体を倒してかわすと右に移動しつつ体を左回転して,巻き込むように杖を回してノイズの左腕を切る.地面に這った姿勢のまま,杖を左手で持ち,ノイズの左脇へ水の刃を刺し貫く.ノイズは黒い霧となって消え,魔銃のパーツが地面に落ちる.

「ウィンはやられたけど,置き土産の石化が役立って良かった」

「お疲れ,戻れシェイド」

 シェイドはバッジに戻る.ジュードはパーツを拾い上げてポケットに入れる.

「あなたは一体誰?」

「僕は…ここにある神殿の守護者.だけど,もうお終いみたいだ」

「なんだと?」

「僕は長いことこの地で封印を守ってきた.…人が居なくなってからは心に穴が空いたようだった.しかし君たちが来て,戦うことができて満足したよ.さようなら」

 黒猫は体が溶け始める.

「待て!封印とは何だ?」

「文明の破壊者の一端.君らはそれを探りに来たんじゃないのか?その部品はそいつを倒すための道具だろう?」

「えっ….詳しく話せ」

「それは…」

 黒猫は溶けて消えた.黒い液体が地面に吸い込まれる.

「何だったの?」

「神殿があるみたいだ.そこに行こう」

 森の奥に小さな社がある.ジュードとジェシカはそこに着いた.扉を動かすと天井と3方の壁を石の壁に囲まれた部屋があり,中央に石棺のようなものがある.

「パーツの反応もここのようだ.3人を呼んでくれ」

「了解」

 ジュードはタブレットとパーツで反応を見てジェシカに指示を出す.ジェシカは無線で3人を呼ぶ.

 エルサ,マイ,ヴィヴィがジュードとジェシカの居る場所へやってきた.

「ここから反応が出ている」

「じゃあ開けてみる?」

「ちょっと待った.ここに来る前に文明の破壊者の封印の神殿の守護者を名乗る猫にちょっかいを掛けられた.下手に開けると危険かもしれない」

「文明の破壊者?」

「そうだよマイちゃん」

「?」

「写真を取ってデータを送ればいいの?」

「その通りさプリンセス.でもその前にその旨を博士達に伝えてからね」

「?」

「どうかした?」

「なんかジュードの様子どことなく変じゃない?」

「頭でも打った?」

「え,以前と同じじゃないの?」

「…?」

 ジェシカとヴィヴィは変化がないと考えている.

「うーん…洗脳されてそれで,解けた後ハイになっているのかも」

「洗脳のダメージが残っているかもしれない.後は私達に任せて大人しくしていて」

「ジュード,その前に1つだけ.文明の破壊者について何を聞いたの?」

「何も.ただ名前だけ.何か知っているのかマイ?」

「いや,物騒な名前してるから何かあるのかと思って」

「そうか,じゃあ後は頼んだ.俺はそこで見てるから」

 4人は部屋の中をできる調査をして,博士達に伝えた.後日,博士達が調査に来るまで開けないことにした.

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