A級って面倒だな
お待たせしました。
朝から俺は、大量の書類、お祝いのメッセージ、それに仕事の依頼に追われていた。
「艦長、ギルドから手続き申請が届いています」
「なんだ?」
「A級登録手続き、認識票の更新、クルーの再登録手続きです。管理支局まで来てほしいそうです」
「仕事が多い!」
「A級になった以上、仕方ないことかと」
「A級って面倒だな……」
「加えて、ギルド支部からも別件の手続き要請が届いています」
「まだあるのかよ……」
「さらに、ユモトインダストリーからも支店へ顔を出してほしいとの連絡が来ています」
「あー! もうA級やめてやろうか!」
「書類処理はサブ端末で並行します。艦長は、管理支局、ギルド支部、ユモトインダストリーの順で回ります。出発準備を」
「最初から手伝ってくれよ……」
「私も依頼整理でメモリの80%を使用中です。なお、A級艦長として外聞がありますので、それなりの格好でお願いします。出発は10分後です」
アイカに急かされ、俺は渋々ステーションへ向かうのだった。
――星間海賊ギルド、マリア・クレスト宙域管理支局――
先日審査で訪れたそこは、どこか前と違う雰囲気だ。
「お待ちしておりました。コウキ艦長」
受付の対応も前回より明らかに固い。声色も姿勢も、俺を“客”じゃなく“上位登録者”として扱っている感じがした。
「A級昇格おめでとうございます。これより登録手続きを開始させていただきます」
そう言ってあれやこれやと手続きを済ませ、終いには「今後ともよろしくお願いいたします」と丁寧に90度のお辞儀。
「なあ、なんかめちゃくちゃ丁寧なんだが……」
「A級ともなれば当然かと」
「俺、慣れる気がしない」
「慣れてください。次はギルド支部ですよ」
「あー、行きたくねえ……」
「A級艦長が“行きたくねえ”を連発するのは、外聞的にあまりよろしくありません」
「勘弁してくれ……」
――星間海賊ギルド、マリア・クレスト支部――
「お待ちしておりました。コウキ艦長。A級昇格、おめでとうございます」
受付がそう言った瞬間、ざわついていた支部の空気が、目に見えて変わった。
「A級? あいつが?」
「まだ若いよな……」
「私、声かけてみようかな……」
「A級の艦長には専用窓口が割り当てられます。今後はそちらをお使いください。専任の担当も付きますので、続きは彼女に」
そう言って紹介されたのは、かなりの美人さん。
「コウキ艦長専任担当のエイカです。今後は私がすべての業務を担当させていただきます。よろしくお願いします」
また丁寧に一礼される。
「いや、そこまでかしこまらなくても……」
「A級艦長には専任担当が付きます。依頼調整、手続き、緊急案件の窓口は、今後すべて私が担当します」
専任だという彼女は、どこか妙に距離が近い。
「はあ……」
「それでは、説明させていただきます――」
長い説明の後、俺は専用ラウンジとやらで深くため息をついた。
「ふぅ……疲れた」
「まだユモトインダストリーが残っていますよ」
「分かってる。でも、いろいろ変わりすぎて疲れた……」
「しばらくすれば落ち着きます。頑張ってください、艦長」
「A級ってさ、もう少し華々しいもんだと思ってたけど、事務作業が多すぎる……」
「あと少しです。行きますよ、艦長」
そう言ってアイカが俺の手を引く。
ギルドを出ようとすると、声をかけられた。
「あの、ヘッジホッグのコウキ艦長ですよね?」
「え? あー、そうだけど」
「自分、C級のナガセって言います。その、握手してください!」
「へ?」
「メルセデス戦の話、聞きました! 若くしてA級まで上り詰めたコウキ艦長、俺たち新人の憧れなんです!」
「あー、うん。ありがとう」
握手を返しながら、妙にむず痒い気分になった。
そういう目で見られる側になるなんて、少し前の俺は想像もしていなかった。
「ありがとうございます! 応援しています。これからも頑張ってください!」
そう言って彼は去っていった。
「俺、有名人?」
「そうですね。新しいA級の艦長。話題性は十分かと」
「慣れる気がしない……」
「慣れてください」
こうして俺はギルド支部を後にした。
だが、本当に面倒なのは、ここから先だった。
――ユモトインダストリー、マリア・クレスト支社――
「デカいな」
俺は目の前に建つ建物を見上げた。
スクラップ11にあった店舗とは規模がまるで違う。
正面にはユモトインダストリーのロゴが大きく掲げられ、建物の横には大型艦がそのまま入れそうな整備ドックまで併設されている。
「マリア・クレスト宙域の主要支社ですから」
「スクラップ11の店とはえらい違いだな……」
「市場規模が違います」
「あそこに支店があったのも不思議だがな」
「スクラップ11の支店でしたら、先日閉鎖となったそうです。売り上げが芳しくないとのことで」
「だろうな……客も少なかったし」
俺たちは自動ドアを抜け、中へ入る。
また受付で長々と説明されるのかと思うと、それだけで気が重い。
「ヘッジホッグ艦長、コウキ様ですね。お待ちしておりました」
あー、空気がピリッとしてる。
「A級昇格、誠におめでとうございます」
「どうも……」
今日は何度この言葉を聞いただろう。
受付の女性が端末を確認する。
「担当の者を呼んでおりますので、少々お待ちください」
「担当?」
俺が首を傾げた、その時だった。
「コウキさん、お待たせしました」
聞き覚えのある声に、俺は振り返る。
「……マイ?」
そこにいたのは、スクラップ11でヘッジホッグを購入した時に世話になった……世話になったか? ユモトの営業、マイだった。
「お久しぶりです。コウキさん」
「なんでここに?」
「スクラップ11支店が閉鎖になったので、こちらに異動です。少し前にこちらへ」
「栄転……になるのか?」
「そうですね。おかげさまで」
そう言って、マイはにっこり笑った。
「……なんで俺を見る?」
「誰のおかげだと思ってるんです?」
「俺?」
「正確にはコウキさんとヘッジホッグですね」
マイが俺の前まで来る。
「あの不良在庫……もとい改F型、コウキさんが活躍してくれたおかげで、そこそこ捌けまして。辺境惑星じゃなく、まともな文明惑星に戻ってこれました。入社してすぐスクラップ11に飛ばされた時はどうなるかと思いましたが、おかげさまで」
「よくあそこに支店作ろうと思ったよな……」
「おかげでコウキさんと会えたので。十分回収できたそうです」
「そんなにか?」
「A級とつながりがあるって、かなりのメリットなんですよ?」
「そんなもんか」
「早いですねぇ。あれを買っていった男の子が、帝国軍と共同作戦をして、今じゃA級艦長ですよ?」
「そう言われると、確かにあっという間だったな……」
「おかげさまで、スクラップ11支店閉鎖と共にマリア・クレスト宙域まで来ることができました」
「よかったじゃないか」
「ですから、ありがとうございます」
「俺は何かしたってわけでもないけどな」
「活躍してくれるお客様は、営業にとって最高のお客様ですよ。ちゃんとスポンサーロゴ入れてくれますし」
「そういや武装のロゴ、そのままだったな……」
「しかも帝国軍が公開してる共同作戦映像にも、ばっちり映ってますからね。広告費に換算したら結構な額ですよ」
「それで、今日はスポンサー契約についてお話があるんです」
「契約?」
「はい。A級になったので、契約を見直したいと上の方が言っていまして」
「見直し?」
「はい。今までは少し見込みのある艦長に唾つけとく、程度の契約でしたが、今回はさらに上の契約をしてもらいたいと」
「面倒そうだな……」
「支社長が直接お話ししたいと」
「帰っていい?」
「駄目です」
……まだ帰れなさそうだ。
次回もお楽しみに。




