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超最弱!? 防御魔法の使い方  作者: カンタロウ
3章 怪力の巨人――スノータイタン
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3-7.茶色の絶望

 まず先陣を切ったのは、前線を張っている15名のC班だ。雪に足とられながらも、勇敢に攻めて行った。

 ケンイチを含む残りの班員たちは後方で待機しており、次の合図で向かうと決まっている。




「…………」



 奥のほうで戦っている悲惨の声が聞こえる。どうやら、冒険者たちは押されているらしい――合図をする男(ソルとは全く別な人。髭面が特徴的)が手を上げて、前に突き出した。



「かかれー!!」



 残りの冒険者が一堂に走り、スノータイタンと対峙する。

 ケンイチたちも冒険者に埋もれながら、全速力で走った。しかし、ただ走っているわけではない。前にはリーベとエリスがいて、少し前にはハンドックがいる。これはケンイチが考えた作戦である――というよりも、力の無さからそうなるだろうと予見したことなのだが。



「…………」


 冒険者たちの悲痛な叫び声と共に、獣の声が共鳴する。冒険者にのまれて見えないが、血で血を洗う惨状が起きているのは想像できた。


 しかし、実際に出てみるとわかるが、やっぱり怖い。ワイバーンの時からずっと感じていたが、魔物と戦うのは本当に恐ろしいことだ。リーベが剣を握れなくなるのも理解できる。

 まぁだからと言って、逃げてはいけない責任と冒険者としてのルールによってこの場から離れられないのだが。



 ――ほんと、法律は厳しいよ。



 16歳少年、社会の厳しさを知る。

 さて、そんな彼を差し置いて、前進を続ける1人の少女と女性は、交互に目線を送った。



「リーベ。オレに合わせろ」



 エリスはスノータイタンを視界に入れたのか、スピードを上げて、ジグザグに地面を蹴る。



「わかってるわよ」


 リーベも続いて、一直線に足を進める。

 ハンドックも「さて、やりますか」と独り言を呟いて、遠ざかっていく。



 俺がついてこれねぇ――と思ったが、ケンイチもまぁまぁなスピードで前線へと近付いていた。



「こんな早かったっけ」


 ゴブリンの時を思い出せばわかる。あの頃よりもスピードが出ていた。どうやら、数々の戦闘によって成長していたらしい。ゲームで言う所のレベルアップと言った感じか。まぁなんにせよ、成長しているのは『好都合』。このまま突っ走って、彼女たちのアシストをしなければならないのだから。


 左手に握りしめた羽を落とさないようしっかりと力を込め、腕を振る。

 


「…………」


 人の波を抜けると今度は、うずくまる冒険者と魔物も含めた死体の数々。考えればわかる通り、スノータイタンに敗北した結果、帰らぬ人と致命傷で生き残った人で分かれたようだ。



「俺がもっと強ければ」


 転生したのに、なぜ弱い能力しか手に入らなかったのか――世界はあまりにも残酷すぎた。

 


「エリス。見えそうか」


 ハンドックが前方へと声をかける。


「あぁばっちりだ。もうすぐ鉢会うぜ」


 もうそんな距離か――意外とあっという間だった。



「僕たちもスピードを上げよう。ケンイチ君ついてこれるかい?」


「ちょっと無理かもしんないです」



 力は上がっても、それはまだ少しだ。1から2に上がっただけで、弱いことに変わりない。

 リーダーなのに、情けなく思えた。

 まだ力が不足しているケンイチに対して彼は責めようとせず、「それならば」と新しい提案を用意してくれた。



「僕が担いであげよう」


 断ろうと考えたが、このままじゃ間に合わない。恥ずかしいけど、仕方がない。諦めて乗る必要があった。




「お願いします」



 ケンイチの言葉を聞いた瞬間、肋骨あたりに手を伸ばし、持ち上げる。それはまるで赤子を抱きかかえる親のようで、16歳の少年は高くなった視点に懐かしさを覚えた。

 自分にもこんな時期があったんだろうなぁー―と、一瞬だけ和んだあと、その先へと視線を送る。


 冒険者とスノータイタンが熾烈の戦いを繰り広げる中へと、リーベとエリスが入って行った。どうやら、彼女たちは戦いを始めるらしい。自分たちも急ぐ必要があった。



「さて、走るよ」


 ハンドックの肩に尻をつけたケンイチを抑えつつ、ハンドックは走った。視界は揺れ、少し気を抜けば後方へと倒れそうになる。なんとか立て直そうとするも、気付けば体の重心が後ろに向いている。


「ハンドックさん。許して」


 ケンイチは、彼の頭を支えにして体制を崩さないよう抑え込んだ。


「全然、問題ないさ」



 わーはっはっはっ、と大きな笑い声をあげてもペースは崩れることなく、突っ走る。それは自分が走っているのよりも明らかに早く、周りの雪原が一瞬にして姿を変えて行った。

 思ってはダメなのはわかっている。しかし、どうしても思ってしまう。



 ――あっ、楽しいかも。


 と。



「リーベたちに近づいてきたさ」


 彼女たちは気付かれることなくスノータイタンの背後に周り、鋭い刃物で息の根を止めて行った。



 そんな光景を見ている冒険者たちは、鮮血に染まった雪原の上で足踏みを始めている。愛してやまないであろう仕事道具を下に向け、目はどんよりと生気を失い、迫りくる魔物を前にして戦いを放棄するかのごとく動こうとしない。


 絶望――彼らの状況にピッタリにあった言葉である。


 それは無理もない話で、スノータイタンの数は減っているように見えない。むしろまた増え始めており、いつ終わるのかわからない戦いに身をビクビクと震わせ、まるで子供のように縮めようとしてる。


 そうなったのも全て環境だ。カルラ村ラビが存在している所はグレートウォールで変わりはない。つまり、雪による足の悪さと過酷な寒さによって体力を消耗してしまったばかりに、戦えなくなっていたのだ。



「どうやって戦えと言うんだ」



 と、嘆くものまで現れる始末。

 まだ戦いは始まったばかり――それは間違えないのだが、はやくて数十秒、遅くて1分の死闘を死ぬまで何回も何回も何回も続けていると、いつしか狂気へと苛まれ、例え始まって数分しか経っていなかったとしても、それは無限の時間へと錯覚させるには十分だ。



「疲弊してるな」



 魔物狩りのプロであったとしても、この過酷な状況は耐えられない――ケンイチは、泣き崩れた1人の女冒険者を見て、苦い気持ちになる。




「ボケッとするな。戦え!!」



 我らの班長ソルの声が響き渡る。彼の存在を探すと、第一線を張って勇猛果敢にブレードと呼ばれるショートソードよりも少し大きめの剣を振って、スノータイタンを真っ二つに切っていた。

 どうやら彼はずっと一人で戦っているらしく、足元には切断された死体と黒くなった死体の2つで埋め尽くされている。



「…………」



 そうは言っても、と言った表情で暗くなった冒険者たち。本場の兵士であればこの状況でも戦えるよう訓練されているのだが、冒険者はただの一般人どまり。どれだけ魔物を狩っても心は鍛えられていなかった。


 ここまでかもなぁ――そう諦めていたが、何名かの冒険者は武器を手にソルの隣を並んで戦っているし、数名は立ち上がろうとしている。



 全員が全員、絶望しているわけじゃない。自分が指標とする誰かが戦うのなら、頼れるリーダーがいるのならば戦おうと志した冒険者たちは怯えていても、逃げようとしない。

…………まぁそうは言っても、このまま戦い続けたらいつしかこっち側が全滅するだろう。雪で戦い慣れている魔物だ。こっちが不利なのは変わりなし。



「どうにかするべきなんだが…………」



 ――援軍がくれば、話は変わる。でも、望めるのか?



「このままリーベのところまで向かうけどいい?」


「それは、大丈夫です。行って下さい」


「おーけー」



 ハンドックの肩に乗ったまま考えるケンイチ。しかし、あまりにも状況が悪いし、思いつく作戦が無い。

 どうすれば、どうすれば――いつしか、2人の背中が近くなっていた。

 思考は後回しだ。彼女たちのサポートが先だろう。


 ハンドックは、ケンイチを下ろし、先に向かう。



「やっと来たか、ハンドック。おせぇぞ」


「すまない」



 エリスと彼がグータッチをした所スノータイタンが、自分たちの存在に気付いた――いや、元々気付いていたはずだ。しかし、あまりにも早いスピードで2人が動くものだから、意識から除外されていたのだろう。

 それが今、足が止まったことでやっとターゲットにされた――と言ったところか。



「じゃあ、ボクの出番としようか」



 ハンドックは拳をポキポキと鳴らし、3体に固まったスノータイタンと対峙する。彼は。挑発するように手をクイクイと動かした。



「ウゴォー」



 スノータイタンが両手を上に向けて、怒りを表す。


「…………」



 ハンドックの口角が上がった。その瞬間、彼は地面に拳を叩きつける。地面がグラグラと揺れ、雪が振動によって左右へと逃げる。

 スノータイタンは震える地面の上で立てなくなり、尻もちをついた。



「シューティングスター!!」



 ハンドックが時間を少しの間稼いでくれたおかげで、魔法が溜まったエリス。彼女は手に持っていた3つの石を魔物の脳天へ向かって投げた。



「いまだ!」



それに合わせるかのように、ケンイチはグリフォンの羽を握った左手を振り下ろした。羽によって生まれた大きな風は雪を上昇させ、飛んでいた石を光の速度へと変える。

 舞い上がった雪が良いカモフラージュとなり、石の姿が消えてしまった。



「…………」



スノータイタンは見えなくなったそれを探すように、首へと力を込めた――その刹那、眉間に大きな穴が開き、赤い液体を垂れ流したまま絶命してしまう。


 まさにまばたきのような一瞬で死体へと変わったスノータイタンたち。標的を失った石は止まることを知らずそのまま突き進み、数体のスノータイタンの脚を撃ちぬいた後に、落ちて行った。


 自分で言うのもなんだが、まぁまぁ上手く行った――うずくまるスノータイタンを狩っていく冒険者を見て、安堵する。

 でも次は上手く行かない事を知っている。ケンイチは、リーベへと体を向けた。



「炎魔法って使えるか?」



 彼女は、首を横に振る。


「できないわ」


「えっなぜ!?」


 ソルの周りに焼けた死体があったはずだ。あれは、なんだったんだ。



「ランク的にね。アタシの炎魔法はまだ強く無いから、この寒さの中だと難しいわ。出ても威力は弱いかも」


「となると………」



 ソルはランクが高いってことになるのだろうか――彼が炎魔法を出している所は見えていないからわからないが、仮設を立てるとそうなる。


 

「それじゃあ作戦は、変更かな」


 ケンイチは、ショートソードを鞘から取り出し、構える。


「こっからは、ノープランで行くぜ」


 潰れてしまったのだから、仕方がない。

 でも、できないことはないはずだ。だって、皆強いのだから

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