エルフの料理
マルチェリテが、おだやかに微笑む。
「味付けは特製のスパイス、塩は使っていません。そして内臓はあくまで漬けたペーストのみ、風味付けに留めることで、後を引く食べ応えを実現させました」
吉仲がもう一口食べる。食べるほどに空腹感が増すような感覚に陥る。
「……ナーサ、この料理にはじめて会った時にもらった胃薬の薬草入ってないか?」
「えぇ?そこまで分からないわよぉ……胃薬ねぇ?主にリプロアスタとウルソだけどぉ、どう?マルチェちゃん?」
「ナーサの薬みたいなミントの味なんてせんがのう」
マルチェリテは驚いた顔になり、すぐに微笑む。
「さすが吉仲さんですね、味付けのスパイスは脂肪の分解を助けるよう特別に調合しています」
エルフは小さな子供の頃から薬草術を学ぶ。
病気や怪我を癒すだけでなく、健康のためのハーブティ、気分を入れ替えるアロマ、防虫や狩猟の際の毒物などありとあらゆることに使える。
そして彼らのほとんどは料理に使うことを考えないが、料理に使えばそれはスパイスの調合となる。
その知識だけで大きなアドバンテージだ。
ガッツリした料理の旨味は、ほとんどが糖分と塩分、そして脂だ。
味に飽きる原因もまた、単調な糖と塩と脂の味にある。
これらは生命の維持に関わるため本能に訴えかけ、強烈な旨味をもたらす。しかし、単調なために舌や脳が慣れるのも早く、満腹感をもたらしやすいため、飽きやすいのだ。
今回の料理では糖や塩はほぼ使われておらず、脂の味だけで引き出されている。
つまり、エルフの薬草術で培われた知識で脂肪の分解を助ければ、それだけ長く食べられるのだ。
同じことは塩気の強いしょっぱい料理と、塩分の排出を促すカリウムが多量に含まれたトマトジュースを飲むことでも起こる。
「なるほどね……すぐ飽きそうな味なのに食べられるのは、お得意のスパイスが効いてるってわけね」
「人形の……エルフの料理がここまで美味いとはのう……」
「はい!……私は、エルフの知識を料理に応用することで、エルフの美味しい料理を打ち立てていきたいんです!」
魔傀儡も、ひいては魔法道具すらも、大元はエルフの魔法細工の技術だ。
人類の魔法技術に森の民が残した影響はとても大きい。
道具に魔法を付与するエンチャント細工から発展し、短命種の人類でもたくさん作れる魔法道具と、長命種でなければ極められない魔傀儡に分岐した。
人類の魔傀儡師は、世代交代を繰り返し技術の追求を行う職人一族か、アンデッドの呪法を用いて不死者に近づいた偏執狂くらいしかいない。
他の魔術のように学ぶのは難しく、追求するには文字通り生涯を捧げる必要があるのだ。
リヨリの目が輝いた。
「世界には面白い料理も調理法も山ほどあるってお父さんが言ってたけど、本当だね」
「ふふ、本当のエルフの料理を食べて、二度びっくりするかもしれませんけどね」
マルチェリテがはにかんだ。




